3-14 作戦は無茶色
前回の話に少しだけ加筆しました。(牧村尚也)
「ホントにあんな感じでいいのか?」
「いいですよ。というよりあれ以上近づくと蕁麻疹が出るんです」
「アレルギーが出るほど嫌いなのか……」
「まあ、喋り方キモイからな」
カミルとアミゴ、二人の勝負……ではないな、決着かな? を見ていた俺たちは現在石畳の通路を歩いていた。
俺とダニエルに合流したのは先ほど話に出たカミル・ゴードン。
今回の作戦の立役者にして最大功績者だ。
「それにしても良くこんな作戦思いつきますね」
「ホントホント、頭の中どうなってるか調べた方が良いんじゃないんですか?」
「別に普通だろう? というかこういう作戦は実行出来て意味がある、出来なきゃただの机上の空論だ。意味なんてない」
「またまた! 思いつくだけでもすごいんですよ!」
「思いついても実行しようと思うだけでもすごいでしょう」
俺を持ち上げる発言が二人から飛び出すが、そう言うのはやめてくれ。
俺は一人じゃ何も出来ない弱キャラなんだ。今回の作戦も上手くハマっただけなんだ。それどころか今回の作戦は無茶苦茶な空想論でしかなかったんだ。
それをノリで『こんなこと出来る?』って聞いたら、『頑張れば出来ると思う』『頑張ればできるんじゃね?』『多分それくらいなら出来ます』ってお前らが肯定したからやることになっただけで、ぶっちゃけホントに出来るとは思ってなかったんだ。
俺の本気の謙遜もこいつらの中ではどう捕らえられているのやら。
もし俺の株が爆上げになって、“誰にも思いつかない戦略を思いつく天才軍師”とか思われているのだとしたら胃が痛い。
俺にはそう言う事は出来ないというのに。
むしろ俺の案は笑って流すジョークみたいな物だ。マジにとらないでくれ。
「ところでこの後はどうするんですか?」
「ん? あの大馬鹿に地獄を見せて終わり。まあ、アイツ発狂しそうになってるかもしれないけど」
「確かにアミゴ君はそう言う物とは基本無縁でしたからね。縁があるとしたら子供時代ですけど、彼はそう言う系統は取り巻きにやらせてましたから多分無いでしょうし」
「やっぱアキラさんってスゲー、ここまで読んでたんですか?」
「読んでません」
「またまた~」
「たまたまだ、ほら行くぞカミル、さっさとやれ」
「ハイ」
俺の言葉でカミルは地面にうずくまり、石畳に手をかざした。
するとどうだろう。
地面が動き出し、俺たちの足元が丸く切り取られ、まるでエレベーターの様に地面に向かって動き出した。
「やっぱりお前の能力ってスゲーわ。どうして負けたんだろうな?」
「僕は弱いですよ」
「そう言ってもな、ただの弱い人間が空中に浮かんだ街なんか作れるかよ?」
「ちょっと特別な弱い人間なんですよ」
「それなら、俺は特別でも何でもない弱い人間だ」
「ご謙遜を」
「お前もな」
丸く切り取られた地面が沈みこみ、視線が下がるとその下にはもう一つ地面があった。
石畳の下にもう一つの大地……ではない、大地の上に石畳が浮かんでいたのだ。
俺は改めてカミルを見る。
先ほどの会話は本気で謙遜してるんだろうけど、これだけの能力だ。もう少し自信を持った方が良いんだけどな。
だからって傲慢になりすぎて、無差別に人を攫うところまで行くほど極端じゃなくていいんだけどね。
◆
「では野郎ども、今回の作戦の概要を説明する。今回の作戦は数に任せた人海戦術である。つまりお前たちがどれだけ頑張れるかが重要になる。いいな!」
「おう!!」
俺の呼びかけに頼もしい声が木霊する。
3月1日
帰還3日目の夕方
先ほどの会議から数時間後、野郎どもをふたたび招集。
理由はあのゴミクズ(アミゴ)にどうやって地獄を見せるかについて。
「作戦はこうだ。まずお前たちの誰かが工事をしろ」
「はーーい、初っ端から意味が分かりませーーん!」
「心配するな、これで察せるならそんなのは化け物か天才のどっちかだ。そしてお前たちがそんな存在ではないことなど百も承知だ」
「(また言外に馬鹿って言ってる)」
「今回の作戦は誘い込みだ。こちらの陣地に誘いこみ一気に決着をつける」
「暴力で?」
「違います。というか別に俺は良いけど、クリス他数名がダメだっていうから仕方なく作戦を考えました」
「当たり前でしょう。これ以上の面倒事が起きたら僕は帰りますよ」
「面倒事じゃなくていいなら、プロレスマスクみたいな帽子かぶって、鉄パイプ持って、暗がりで数人がかりで袋にすればいいだけだからな」
「やめてください、そんなバイオレンスな事。しかもバレたらどうなるか分かったものじゃない。僕らがやろうとしてる事は街のまとめ役に喧嘩売る事なんですからね」
「だから誰にもバレないようにこっそり殺します」
「殺しません!」
クリスが怒声を上げるが一応俺だってわかっている。
つまりあのゴミクズが誰にも相談できないようにすればいいんだろ? 楽勝だ。
夢物語を見せてやろう。
「作戦はいつ行うかだが、決行は明日の朝――」
「「「「「――ええぇぇ!」」」」」
声を上げる野郎ども。
テントで叫ぶな、うるさい。
「なんだよ、文句あんのか」
「あります!」
「俺達明日から労働者!」
「肉体労働ばっかりだぞ!」
「おお、就職できたのか! おめでとう! そして心配するな、時間はたっぷりある」
「無いです!」
「今から明日の朝って何するか分かんねーけど無理だろ!」
「今6時だから、今すぐ始めても12時間……」
「それって俺たちが休まない設定じゃないか?」
「徹夜明けに肉体労働なんて御免だぞ!」
ブーブーと唸る野郎ども。
まあ、そうだよな。
同じ状況なら俺だって同じこと言うだろうし。
だが今回はそう無茶ではないのだ。
「うるせーな。心配するな、休憩はたっぷりやる。むしろ一日中休ませてやる。だからまず作戦内容を聞け」
「「「「「……………」」」」」
「(頭がおかしくなったのか?)」
「誰だ! 今失礼なこと言ったのは!」
ボソリとつぶやかれた発言にイラっとするが、まあいいや。
「今回はまず道を作る。次に街並みを作る。最後に落とし穴を掘る。やることは以上! 簡単だろ?」
「言葉だけならね!」
「街なんか半日で作れるか!」
「そもそも道だって無理だろ!」
「出来そうなのは落とし穴くらいじゃないか?」
「出来たとしてもやらねーよ」
話聞けってさっき言ったよな。
ぎゃーぎゃーうるさい。
だが、ここで怒鳴って変な反抗心に火を付けるだけだ。だから落ち着こう。誰も場を収めてくれる人がいないから俺が落ち着こう。
その代わり注目は引かせてもらう。
俺は座った椅子の裏に置いたモノを取り出した。
「お前らーー! ちゅ――もーく!」
「ん?」
「なんだ?」
「えい」
軽い掛け声とともに俺は手に持ったキラリと光る鋭利な錐で手首を突き刺した。
「「「「「…………………………???」」」」」
その様子を見ていた奴らの目が見開かれ、少しだけ沈黙。
次の瞬間、俺の手首からドロリと赤い液体が滴り落ちて地面を赤く濡らした。
そして……
「「「「「ぎゃああああああああ!!!」」」」」
会場に野太い悲鳴が響いた。
◆
「なんちゃって、うっそーーー」
「ぎゃああああ!!」
「アキラが自殺した!!」
「リストカッターだ!!」
そう言って俺は手首から突き刺した、正しくはそう見せただけの錐を離した。
が、見ちゃいねーな。
なんだリストカッターって。新しい言葉を作るなよ。
あと別に切ってはいないぞ? 刺したのだ。いや刺してもいないのだが。
「おーい聞――」
「ぎゃああああ!!」
「医者だ!医者を呼べ!」
「早くしろぉぉ!!」
「………聞けぇぇ!馬鹿ども!」
そう言うと俺は拳を天に突き上げた。
もちろん突き刺したように見せた方の手だ。
「オイアキラ無茶するな!」
「そうだ安静にしてろ!」
「医者ーー! 早くーー!」
「うるさい! 黙って良く見ろ馬鹿ども!」
俺の掛け声で手首に視線が集まる。
チャンス到来!
空気が変わらないうちに話を戻すとしよう。
「ただの手品だ! そこまで驚くな!」
そう言って手首をひっくり返し、正面からは見えなかった場所に隠した小袋を見せる。
小袋には穴が開いておりそこから血のような赤い汁が流れだしている。
「小袋の中身は箱庭で捕れた“ミドレラ草モドキ”の汁だ!」
ミドレラ草モドキの汁は血の様にドロリとした赤い汁で見た目だけでは本物かどうか判別がつかない天然の血糊である。
箱庭脱出の時に使用するに当たってレオンに集めてもらった物の余りである。
“大量に要る”と言ったらレオンが集めすぎて余りの方が多い始末である。
俺の断言に膨張し爆発しそうだった空気が一気にしぼんでいく。
その場にへたり込む者まで現れた。
「いきなりなんだよ……」
「驚かせるなよ……」
「心臓が飛び出るかと思ったぞ……」
しぼむ空気は俺の種明かしで弛緩していく。
じゃあもう一つ種明かししようか。
「さてさて、お前ら単純でありがとう。おかげで今回の作戦の一番重要なところの有用性が証明できた」
「作戦?」
「重要?」
「有用?」
インコみたいに言葉を返す野郎ども。
ブーブーとかギャーギャーとか今回のインコとか、動物園かな?
愛すべき馬鹿どもめ! そう言うの大好きだぞ! 扱いやすいからな!
「ああ、もしかしたらイケメンの阿保面が拝めるかもしれんぞ」
「そりゃいいな!」
「ヒャッホウ!」
「イケメンは死ね!」
「できれば酷い死に方で死ね!」
先ほどまでに半狂乱のような空気とは打って変わって、俺の言葉に本当に楽しそうに同調する野郎ども。
嬉々として怨嗟の言葉を吐くあたり、イケメンは全世界共通の男の敵であることは間違いないようだ。
今回の相手は顔はそこそこまあまあだけど、格好で打ち消してさらにマイナスになるタイプだが……別に言わなくてもいいか。言っても言わなくても“顔は”イケメンであることに違いはない。
「さてさてさーて、空気が緩んだところで本題に行こうか。今回の作戦の中核を担う人物を紹介しよう」
右手を大きく仰ぎ、そちらに視線を集めた。
其処には……
「ん? だれだ?」
「見たことないような?」
「見たことあるような?」
「紹介しよう“元”神様のカミル・ゴードン君だ」
その発言に会場はシンッとなった。
また分割投稿。
後で加筆します。
次回は金曜日更新予定




