3-13 復讐は濃茶色
準備完了!いつでも行けます!(カミル・ゴードン)
「はぁ、は、ぁはぁ……!!何で!何でぇぇ!!」
走るアミゴの足元で何か弾けた。
路地に隠れても飛んでくるモノの勢いは全く衰えることは無く、それどころかその量は増し続けて彼に襲い掛かる。
幸運にも最初の数発以外にまともに当たることは無く、飛んでくるモノは石畳や路地の壁で弾けることが多かったがそれでも飛沫は彼に降りかかる、茶色い色をしたソレはなんとなく臭い気がした。
というか臭い。どこかで嗅いだ事のある匂いだ。
「糞!クソ!くそぉぉぉ!!」
叫びながら次々と飛んでくるソレを躱すように路地を走り続けるが、茶色い物体は追尾するように飛び彼を狙い打つ。
先ほどなど上空を通り過ぎるかと思ったら路地の上で“カクンッ”と直角に曲がり自分に向かってきた。
まったく意味が分からない。
どういう理屈でこの茶色いモノは自分を狙い打ちしているのだ? いや、いくらアミゴの頭が足りないからといっても二つ名の能力だろうと言う事は分かっているのだが。
彼には自分が狙われる理由が分からないのだ。
自分は誰かに恨まれるような人生は送っていない。誰にも迷惑どころか感謝されるように努めてきた。少なくともこんな形で闇討ちされるようなことはしていない。
彼は心の底からそう思っているのだ。
所詮、虐めた側の認識などその程度だ。
だが、虐められた側の認識は違う。
ほとんどの者は生涯恨み続けるだろう、思い出したくもない記憶として封印するかもしれない、トラウマとなって生き方に狂いが生まれるかもしれない。
しかし彼は今までそれが悪い事だと自覚できる状況に居なかった、それも不運だったのかもしれない。
望めば手に入る、頼めばやってくれる、泣けばうまくいく。
誰からも怖がられ、誰かに殴られたこともなく、誰もが彼に従った。
そしてそれが彼自身の力ではないことをうまく理解していないまま、彼は大人になった。
だからこれはある意味必然だったのかもしれない。
自らのテリトリー以外、外からの人間に彼がにらまれたのは。
小さな国の小さな王子様が、小さな国の力を恐れない者ににらまれたのは。
そして彼は、アミゴ・ルルオロは、今までの人生で行った事のツケを払わされるように転落していくこととなる。
最初はゆっくりと、最後は……。
◇
「はぁっ……はぁ……ふう……」
グネグネと路地を曲がり3面が高い壁に囲まれた袋小路に彼に腰を下ろした。
飛来する物体は玉切れなのか現在は飛んできていない。もしかしたらこの高い壁が弾いているのかもしれないが。
とは言え、子供の頃街を走り回ったのは幸いだったかもしれない。
路地自体はかなり形を変えていたが、石畳の走り方は体が覚えていた。
過去の自分の行いに感謝しつつ彼は体に付いた茶色の物体を払い落そうする。
直接食らったのは最初の数発とは言え飛沫は体を捕らえており、全身にそれこそ顔や頭にも茶色の粒のような模様が点々とついていた。
が、ここで彼はハタと気付いた。
というかその匂いの正体に気づいた。
それは……
「ぎゃああああ!コレ!う〇こじゃないか~~!」
掻きむしるように激しく体に付いた茶色を落とそうとアミゴは暴れる。が、悲しいかな、最初の被弾からすでに5分ほど経過していることと自ら走り回り全身に風を受けた事もあり完全に乾きっており、体に服に染み込んでいる。
「ああああぁ!?あぁ?ぁああぁああ?!あああぁぁああ??!あああぁあ!」
悲鳴、絶叫、慟哭
そう言った言葉が似合いすぎる叫びは袋小路に木霊する。
オシャレを重視する彼の全身コーディネートは街民の年収に匹敵するほどの値段であり、元々の彼の他人とは違うセンスも相まって他には売っていない、特別に職人に作らせたいわゆる一点物である。
つまりもう同じものは手に入らない。
彼の家の力なら同じようなものを作らせることは可能だが、全く同じものはあり得ない。
そもそも“他人と違うたった一人の個性”を掲げる彼のファッションセンスは、同じものなど言語道断。
簡単に言うなら、『コレが気に入っており、コレ以外は似た物でも認めない』といったところだろうか。
たとえそのセンスが全く他人とは違っていても、オシャレに関しては全く手を抜かないアミゴである。
彼は今『もう手に入らない服を汚して死にたい』という気持ちと『服を汚した人間を必ず殺してやる』という気持ちで渦巻いていた。
だから気づかなかった。
至極かんたんなその仕掛けに。
◇
「殺す、絶対に殺す」
口調が変わるほどのショックを受けるも立ち上がり、袋小路から出ていこうとするアミゴ。
そして袋小路を抜けた瞬間、久しく飛んでこなかった茶色い物体が飛んできて彼の足元で弾けた。
「ひゃあ!」
つい先ほどの覚悟は何処へやら。
子どものような声で飛びのき、へっぴり腰になるアミゴ。
そのまま後退りを行い、袋小路に帰還。
「うう、臭いよ~。汚いよ~。パッパ~」
情けない泣き言を言いながら袋小路の隅の方で小さくなった。
だが、だれも袋小路が安全だとは言っていない。
ヒューー ヒューー ヒューー
風切音を立てながら飛来したソレは油断をしていたアミゴの頭に降り注ぐ。
「ひぃ! なんで何で! ここは安全じゃないのかよ!」
そう言いながら彼はやっと袋小路から飛び出した。
ドドドドドドドドドッッッッッッ!!!
夢中で走るアミゴ。
しかしそれをあざ笑うように降り注ぐ茶色。
徐々に追いつく彼に追いつこうとする弾丸は、先ほどまでは本気ではなかったのか、その弾幕はまるで雨の様である。
“ひぃ! ひいぃ!”と悲鳴を上げながら路地を走り回る。
しかし必死の抵抗も虚しく徐々に体は茶色に染まっていく。
アミゴは生涯で始めてといっていいほどの絶望を感じた。
路地を駆け抜け、後ろからまるで茶色い壁の様に迫ってくる弾幕を躱し、それでも弾けた飛沫が背中に当たり。
理解不能の攻撃を受け続けて約20分ほど、袋小路を抜けて5分ほど、子供の頃とは違いすでに足に限界を感じ始めるアミゴ。
そんな彼の前に立ちふさがるように、初めて人が現れた。
それは……
「また会えたね。アミゴ君」
「カミル?」
◇
なぜカミルがいるのか?
それは全く分からないがここで会えたのならだれでもいい。
「おい! カミル! 助けろ!」
そう言って命じるのは子供の頃からの癖。だが、それが通じたのは子供の頃まで……ではないし、何ならつい一昨日に全く変わらない態度を確認している。
「(こいつを盾にして何とか逃げ切る!)」
そんな見え見えの魂胆を見抜けないほどカミルも子供ではないだろう。
しかし今まで受けたいじめに植え付けられた苦手意識はそうそう消えるものではないらしく、助けを求めるアミゴに向かって足を踏み出したのを見てアミゴはほくそ笑んだ。
二人の距離は40m 走れば数瞬のうちに縮まりカミルは盾にされるだろう。
だが、アミゴは知らない。
この数瞬はアミゴにではなくカミルのために用意されたものだと言う事を。
そしてカミルが足を踏み出した時、すでに結末は決まっていたことを。
カミルの踏み出した足取りは真っすぐで迷いの一つもなく僅かな二人の距離を詰める。
アミゴが走り、カミルは歩いた。
1秒後 二人の距離は25mにまで迫っていた。
2秒後 カミルがいきなり地面にうずくまった。
3秒後 アミゴの走る地面が消えた。
「さよならアミゴ君。僕は君が大嫌いだった」
立ち上がったカミル・ゴードンはそう言ってその場を後にした。
沈みゆくアミゴ・ルルオロはそれを眺めるだけだった。
叫ぶことも罵ることも出来ないまま、呆気にとられたまま、濃茶色の地面に飲み込まれて墜落した。
超ギリギリの日曜投稿!
でも不完全なので次の投稿までに加筆します。
次回は月曜日更新!
それと新作準備中。「二つ名転生」が一旦終わる前に出せたらいいな。




