3-12 優雅なる朝
さっ!楽しんでいこう!(アキラ・トコバ)
ピピピチ ピチピチピチチ
小鳥の鳴き声で目を覚ますという、どこか劇のワンシーンような事でアミゴ・ルルオロは目を覚ました。
ムクリとベッドから起き上がり布団を跳ねのけ髪型を整えるために洗面所に向かう。
本来なら彼ほどの身分ならば髪の世話など自分で行わなくても使用人がやってくれるのだが、アミゴは髪型、ヘアスタイルを何よりも大事にしていた。
彼は髪の色を毎日のように変える、一昨日は黄緑色、昨日は青色、ならば今日は赤色にしようと思い立ち染料に手を伸ばしそれを髪に掛ける。鏡では見えない場所に正確に染料を掛けることが出来るのは毎日の習慣で動きが染みついているからだ。
真っ赤でドロリとした液体は特殊な染料ですぐに髪の色を変えることのできる、工業製品が発達していないこの世界では染料はすべて自然物である。もちろん高価なのだが、そんな染料を毎日のように使う事で彼の財力の凄まじさが分かるだろう。(正しくは彼の“家”の財力だが)
高級染料が髪型の後ろ半分の昨日変えたばかりの青色の髪を染めていく。
それから数分後、アミゴの髪色は前半分が金、そして後ろ半分が真っ赤になっていた。
クルリと鏡の前で回り後ろ髪を確認した彼は満足そうに鼻を鳴らした。
◇
真っ白なシーツを掛けたテーブルに煌びやかな料理が並ぶ。
料理の見た目に比例して使われている食材も一つ一つが高級品。
一個で平民の日収に相当する卵や一年で収穫できる時期が非常に短い野菜など、朝食なので品数自体は少ないが料理すべてにかかった値段は平民の日収どころか月収にすら届くだろう。
もちろん食材に負けないように料理人も超一流、つまり王都の一等地で金持ち相手に料理を出せる、そんな腕前の者である。
最高級の食材と最高レベルの料理人によってその皿の上の料理は全く誇張無しに輝いて見える。これと同じものを食べようと思ったらいくらかかるのだろう?きっと平民の月収の何倍もかかるのだろう。
そんな至高の料理の輝きを上から塗りつぶすように“ベチャリ”と白いものが掛けられた。
それは数多くの罪人を作ってきた禁断の果実………日本語でマヨネーズに近いものである。
彼は嬉々として瓶からスプーンですくい次々マヨネーズを掛け続ける、その様子はむしろ乗せているという方が近いかもしれない。
これだけ乗せるのはもちろん味を調整するためではないだろう、少なくともこれだけ乗ってしまえば元の味も何も無い。
………別に食べるのは掛けた本人なので食べきれば文句はないが、最高級食材に最高級のシェフが手掛けたこの料理にそれはどうだろう?と思ってしまうものだ。
それでも彼はやる。
それが芸術的ともいえる料理に躊躇もなく、彼にとって最高級の料理ですら食べ飽きたものなのだ。
◇
一面真っ白になった料理を口に運びながら、
「パッパ~。この前の話どうなった~~?」
「うん? アミゴ君に酷いことしたヤツの事かい?」
「そうそう、奴らのせいで俺の顔まだ痛いんだよ~。まあ、そのおかげで昨日は仕事を休めたんだけど~。それはそれとしてカミルともう一人の野郎~!」
「ああ、アミゴ君を虐める奴なんて言語道断だ。パッパに任せなさい、昨日のうちに連絡を入れていたから今日中向こうから連絡が入るからそこで契約を結んで、そして明日にはもう一度連絡が入るのさ『そいつら捕まえました』ってね!」
「すげ~」
気の抜けた言葉と共に気の抜けた拍手が部屋に響く。
そんな息子の様子を見てなぜか父親は得意げになっているようだ。
「ああ、凄いだろう。これが代々受け継いできたパッパの権力のなせる技で、後々アミゴ君が継いでいくものなんだよ」
「うお~!すげ~!」
「そうだろうそうだろう」
得意げな父親とそれをキラキラした目で見つめる息子。
文字で書くだけなら絵になっているのだが、正しい構図は異常な髪型で20過ぎのニイチャンが受けついだ権力を食い物している父親に憧れるだけである。
「ところでアミゴ君、そろそろ仕事に行かなくては? まあ別に行かなくてもいいけど」
「お~そうだったそうだった。じゃあパッパ行ってくるよ~」
「本当に行くのかい! 偉い! 成長したんだね!」
「そんなに褒めないでよ~~」
そう言って席を立つアミゴ。
ただ仕事に行くだけの息子をまるで素晴らしいものでも見るような目線で見つめる父親。
何処か喜劇じみた会話の中、テーブルにはマヨネーズが掛かったままの料理が残されたままだった。
◇
アミゴは役場には基本馬車の送り迎えで向かう。
しかし、今日は勝手が違ったようだ。
「え~? 馬車使えないの~?」
「ハイ、誰かが車輪を壊したようで……」
「は~? 別の馬車は~?」
「それらもすべて……」
「つっかえないな~。もういいやお前クビな~」
「なっ! それだけはご容赦を!」
「だめだめ~仕事ができない馬鹿に払う金は無い~」
「ですが! 今回の件は私とは一切関係なく!」
「うるさい~、おい誰かコイツ連れてけ~」
暴れる御者は彼の前から連れ出された。
しかし別に珍しい光景でない、この家では主人一族の気に入らないことがあるとすぐにクビを切られるからだ。
「さてどうするかな~?」
「本日はお休みになられますか?」
この家に仕える執事(2か月前に入ったばかり)が次期当主の機嫌を伺う。
「いや~パッパに行くと言った以上帰るのは恥ずかしいし~」
「では歩かれますか?」
「う~~ん……仕方ない歩いていくか~」
「いってらっしゃいませ」
深々と下げられる執事の頭を横目に役場に向かい歩き出すアミゴ。
ちなみにこの家から役場まで歩いて10分ほどである。
◇
街中を歩くと人々が次々と道をよけた。
この街でアミゴの事を知らない者はいない。
街の権力を牛耳っている一家の出というだけでなく、その奇抜すぎるファッションで一度見てしまえば忘れることなど出来ないからだ。
誰もが逃げ出す危ない一族。それがアミゴ・ルルオロである。
その恐怖にも似た感情の込められた視線を浴びてかれは「やっぱりみんなが見とれてるんだ! 今日は赤にして正解だった!」という非常にズレた思考をしていることなど誰も知らない、というか知る由もない。
そうして歩いていると、道が通行止めになっていた。
「ん? オイ!どういうことだ~!」
「ハイ? どういう事と言われましても?」
「こんなところで工事何てやってんじゃね~よ! 俺が通れないだろ~!」
「イヤイヤそう言われましても、俺らはこれで食っていく者なんでそんなこと言われても困りますよ~」
「ふざけんな~! 俺が誰だか分からないのか~?」
「えーと? 変な格好した兄ちゃん?」
「なんだと~! 俺のファッションセンスが分からないのか~! もういいどけ~!」
「いやどけと言われて退いたら警備員務まらんでしょう」
「俺の邪魔をするな~!」
「そんなこと言われても……」
押し問答10分。
始業時間は過ぎたのでアミゴの遅刻は確定である。
アミゴには全く興味の無い事だが。
◇
「くそ~! あの警備員も後でパッパに行って消してもらおう~!」
そう言って進むのは回り道。
結局、力ずくでも通ろうとして押し負けたアミゴは脇道に入り回り道を向かうことになった。
その道も別に大した回り道ではないのだが、彼は自分が回り道をさせられたという事が気に入らないのだ。
石畳を強く踏み鳴らし、足元の石を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばし視線が上がった拍子にハタと気付く、どういうわけか周りに人が居ない。
「?」
朝の通勤時間を過ぎているとは言っても、もっと人がいなければおかしい。
辺りを見回し、その通りそのものには異変は無い。
ではなぜ?
クルリとその場で回転したときだった、
ヒュー……ベチャ!
アミゴの顔面に何かが飛んできた!
「~~~!!」
声にならない声を上げるアミゴ・ルルオロ。
しかし休ませる間もなく次々と彼を何かが襲う!
「はあああ~~??!?」
訳も分からないアミゴはその場から逃げ出そうと足を動かし近くの路地に駆け込んだ。
◇
「ゲームスタートだ。思う存分虐めてやろう“元”虐めっこ」
「なんて言ってんですか~?」
「なんで聞こえないんだよ!せっかくかっこつけてるのに!」
「こんだけ風が強いと聞こえないよ!」
「答えたってことはきこえてるじゃねーか!」
次回更新はたぶん日曜日!
リアルの事情で時間がズレるかもしれないけど!




