3-7 白球 転生者 あと書類整理
役場か……行きたくないな……(カミル)
その日テティスの街は騒がしかった。いや厳密に言えば昨日だって十分騒がしかったのだが、昨日のそれとは次元が違ったと言う事だ。
未開拓の土地で1000人単位の人間が見つかった。
◇
この世界では『人降り』という現象が起きる。
空から星が降るように、まさしく人が降るのだ。
人降りは『白球』と言われる物によって行われる。厳密には白球を“物”として言っていいのか分からないが今は置いておこう。
それは俗に、異世界転生と呼ばれるもの。
死を感じず、死を考えず、死を知らず、死んだ者に与えられるボーナスステージ。
白球という絶対安全機構に包まれ天高くから人が降るのだ。
白球に包まれて降りてくる人間は総じて別の世界線からやってくる人間で、彼らは一つの世界からやってくるがその時間軸はねじ曲がり10倍の速度で歩む、そして彼らもその影響を受け10倍の時間で年を進むのだ。
こちら側に来る彼らは自らが幸運だと気付くものは少ない。
何せ自らの死を知らないのだから、突然目を覚ましたら見たことの無い場所に横たわっているの状況を理解しきる方が難しいだろう。
だがそう考える事が出来る事もまた幸運なのだが。
ここで少し脱線して白球の話をしよう。
白球とは人降りの中枢を担う機構である。
その存在が確認されたのは1000年前、神代と言われる数多くの神々が存在した時代がちょうど終わった年である。
白球はどこまでも落ちて確実に安全に中の人間を地面に届ける。
それを止めることのできる者は存在せず、どんな力自慢も、どれほど硬い鎧も、ありとあらゆる二つ名も、まるで意味をなさず“グシャリ”と潰され命を落とした。
しかし白球には弱点というのか欠陥という方が正しい点が存在する。
それは地面に降ろした後の事は全く保証していないという点だ。
通常の地面にもしくは街中に降りることが出来た者は幸運である。
それ以外だと、例えば木々の生い茂るジャングルの奥地だとか、四方見渡しても砂しかない砂漠のど真ん中だとか、血に飢えて数日何も食べていない肉食獣目の前だとか、生存できる確率が限りなく低い場所に落ちることがあるのだ。
それだけではない、むしろそれでも生きてこちら側に来ることが出来ただけマシだろう。
地面に降りるまで絶対に落ち続ける白球は、もっと酷い所、例えば海に落ちて海底に連れていかれる場合もある、浅瀬ならいいがそれが深海だとしたら……考えたくもないだろう。
他に時たまにではあるが、活火山の火口に落ちる時もある、その場合誰も確認したことが無いのでどうなるかは不明だが、そうやって落ちて火口から這い出てきた人間はいない。(這い出てきた場合それを人間と称していいのかは不明だが)
つまり“見たことの無い世界に落とされて不安で胸いっぱい”程度なら、間違いなく幸運なのだ。
話を戻して人降りの起源について。
現在バベル神国を治める神々はこう発言している、『人降りとは命の救済である』『人降りとは世界の邂逅である』『人降りとは文化を促すものである』と、事実人降りによって現れる者は元の世界で死んでいた、世界を渡って現れた、そして未知の文化を有していた。
科学なる概念はこちら側の世界に革命をもたらした。
野球やサッカーと言われるスポーツは大流行した。
食べ物に対する調理方法一つで味は劇的に変わった。
まさしく神々の言う事は正しかった。
しかし彼らは総じて寿命が短く5年もしたら死んでしまう人間が多かった。
所詮ボーナスステージ、短いタイムリミットは彼らを離さなかった。
ほとんどの人間が絶望した、そんな時、彼らの中にこちら側と同じように年を取る者が現れた。
その者は二つ名を獲得していた。
…
……
………
それから1000年生き残る方法が確立され、彼らは全世界に馴染み現在ではその姿を見かけない日の方が少ないほどだ。
そしてそんな彼らはいつの間にかこう言われるようになった、
新たな世界で生きるチャンスを獲得した者、
世界を“転”じて“生”きる“者”、
略して『転生者』と。
◇
長々と人降りの話をしたが今回の件は人降りとは全く関係が無い。
少なくとも事の発端以外は。
今回の騒動が発覚したのは人降りである。
陽が落ちる少し前、空から輝く白球が荒野に向かって落ちた。もうすぐ夜と言う事もあり危険であったため転生者の回収は翌日の朝に持ち越されることになった。
それだけならたまにある光景なのだが、その落ちたはずの転生者を保護するために向かった街民は荒野の真ん中でとんでもないものを発見する。
1000人以上の人間がテントを張って生活していたのだ。
つい先日まで何もなかった場所に集落が存在していることに驚いた街民はすぐさまテティスにとんぼ返りし、身の安全のため街の兵士や交渉役に役場の職員を連れて彼らにコンタクトを取った。
彼らの代表を名乗る褐色の肌をした美丈夫は『自分たちは空間の裂け目に取り込まれどこかの孤島に暮らしていたが、最近その孤島に空間の裂け目が出来たのでソレを通ってこの場所に来た』と説明。
その説明には不自然な点はあったが無視できる程度の物なのでそのまま承諾され彼らは難民としてテティスの街に迎えられることとなった。
◇
「で、今に至ると」
「前半は白球の下りは全く関係なかったですね」
「前半というか7割くらい関係なかったな」
俺たちは現在、荒野を歩きながらテティスの街を目指している。
昨日も通った道だが相変わらず何もないな。
どこまでも続く広い平原、と言えば聞こえはいいが実際は乾燥した地面が延々と続く虚しい土地だ。
普通荒野ならサボテンくらい生えてそうだがそれすら生えていない、生えているのは細々とした草…それも色が枯れた明らかに元気のない植物だけというある意味地獄のような状況だ。
この光景を見て人間が思う事は最終的には『無味』だろうな。
どんな評論家でもこの土地を好意的に評価できないだろう。俺なら『延々と味の無いガムを噛んでいる感じ』とでも称すかな?
色も、驚きも、何もない。本当に酷い土地である。
そのくせ街まで3時間弱という行軍を強いられるのだ。
だんだんと大きくなるテティスが無かったら俺はとっくに地面に転がって駄々こねてる。
「ところで、アキラさんは街に着いたらどうしますか?」
「どうするもこうするも役所に拘束されるのでは?」
「それは代表として前に出たガラさんが引き受けてくれるそうです。付き添いでデニムさんも。後、一応ベンジャミンさんも。だから今日一日は自由時間ですよ」
「それなら昨日と同じテティスの街の探索でもしてみるかな」
「お供します!」
「ん、じゃあよろしく」
「(やった! 二人きりでデート!)」
サクラが詳細不明だがはしゃいでいる。可愛い。
さて街の案内は住んでたカミル辺りにでも頼むかね。
◇
しかし結果的にテティス探索は出来なかった。
役所での難民登録で名前や元の出身地はもちろんの事、二つ名の有無、家族構成、生年月日など面倒な質問をこなしているうちにいつの間にか夕方になってしまったからだ。
サクラはものすごくがっかりしていたので、『自由時間が手に入ったらみんなでまた街探索しような』って言ったらなぜか頬を膨らましていた。
何が気に入らなかったのだろう?
でも頬を膨らましている姿は可愛かったです。
「グワー! 終わった!」
「役所の方々が食事をふるまってくれるようなので役場の裏の広場に集合だそうです。僕は会場の方を手伝うので、アキラさんは後から来る人に伝えておいてください。」
「あいあい~」
初期に初めたおかげで一番初めに書類整理を終わらせた俺は割り振られた休憩室でクリスの言葉を適当にかえす。
俺の隣には馴れない書類作成という仕事を行ったベンジャミンと、書類という概念自体無いレオンが真っ白に燃え尽きていた。
レオンはともかくベンジャミンはもう少し頑張れよ。
そう思ったが、後から部屋に入ってきたり隣の休憩室に割り振られた野郎どもは、軒並み真っ白に燃え尽きていたのでこんなもんだと無理やり納得することにする。
例外はデニム爺さんとガラとクリス。
デニム爺さんは以外でも何でもないし、クリスは箱庭で薬草やらを研究していたこともあり元々地頭が良かったのだろうが、ガラの出身は紛争か戦争地域では?そう思い聞くと『こっちで覚えた』とのこと。
ガラも地頭が良い系統らしい。
女性陣もぐったりとしているが、こちらは野郎どもと違って体力的なものが原因だろう。
むしろ野郎どもはメシと聞くや否や、先ほどまでの態度とは打って変わって広場に元気よく駆けていく体力があったので、真っ白に燃え尽きたのは精神的なものが大きかったのだろう。
そして走り去る野郎どもの後姿を見送りながら(先頭は二つ名の通りベンジャミンが行った)残った本当に体力の無いモヤシを起こし、時に引きずりながら、広場に向かう。
その途中であいつに会った。
「何やってんだカミル?」
「あ、アキラさん……」
役場の廊下で一人たたずむカミルはなぜか暗い顔をしていた。
「どうしたカミル? 飯行かないのか?」
「ええと、その、お腹へってなくて……」
「あっそ、まあ無理やり食べても体に悪いし良いんじゃない? でも顔は出せよ、どこ行ったか分からんと面倒だからな」
「ハイ………」
そう言って俺はカミルの前を通り過ぎようとすると、静かな廊下に場違いな大声が響いた。
「あっれ~~?カミルじゃ~~ん」
声のした方を見るとそこには、役場の職員らしき男が立っていた。
カミルの過去編に突入したりしなかったり。
でも安心してください、多分一話で終わりますから。
次回は水曜日更新予定
カミル過去編で週4更新はお終いかな?




