1-4 解体と親友の名前
死んだハズの親友は人間やめてました(アキラトコバ)
イノシシ…イノシシ科の一種で犬と同じくらいの敏感な鼻を持つ神経質な動物、猪突猛進や猪武者の語源にもなった昔から人間に関りが深い動物、日本に分布する二ホンイノシシは体長110~170㎝くらいで重さはおよそ90~180㎏
なのだが……俺の目の前に横たわっているのは明らかに5mは超えてるんだよなー、なんだこれ化け物じゃん、5mって言ったらゾウじゃん、えーこいつこれ仕留めたのー、マジでー、うそだー、いや待て大人数で仕留めたという可能性は?というかその方が現実的だよね!
「ハルマ!このイノシシ何人がかりで仕留めたんだ?」
「俺一人で仕留めた」
はい終わりー、俺の友達は人間じゃなくなってましたー、残念!
いや何か武器、そうだ銃とか使ったんじゃ。
「ちなみにこの拳一つで仕留めた」
はいはい終わり終わりー、俺の親友は人間どころか化け物になってましたー、残念!無念!
まぁなんとなく分かってたけどね、そういう傷が見当たらんからそんな気はしてた、まったく何発殴ったらこんな化け物仕留められるんだか。
「脳天に正拳突き一発だ」
はいはいはい終わり終わり終わり、俺の生涯の友は化け物でもなく……なんだろ?何になったんだろ?よくわかんないや?残念!無念!また来年!
「ハルマ、お前ホントにハルマか?実はハルマの皮をかぶった化け物だったりしない?」
「ひどい言われようだ!」
はぁ脳天一発ね、天才様は俺の想像をはるかに超えて強くなってるようで、こいつ元の世界に連れってたらオリンピックとかW杯とかぶっちぎり金メダルじゃねーの?元々空手とか柔道とか中国拳法、テコンドー、ボクシング、キックボクシング、変わり種だとコマンドサンボとかその他色々最大重複で12種類(どこで時間取ってたんだか)を渡り歩いていて町中の格闘技道場が欲しがるくらいの才能を発揮していた。
特に空手では中学性の時の全国大会で2位、1位と連続で表彰台に上がってオリンピック候補生と全国紙に乗るような奴だ。
こっちの世界でもその才能はいかんなく発揮されているようだ。
「というわけで今からこれバラすからバラし終えるまでに答えとけよ」
「答え?」
「俺の二つ名な当てたら一番いい肉だって言ったろ、ツバメ手伝え」
「うぃーす」
「道具取ってきますね」
ハルマの声に二人が答える、驚きはあっても動揺はないようでテキパキと動き出した
ツバメはハルマともに庭に降りて腕まくり……あいつさっき風路入ったの忘れてるな?やっぱバカだ。
サクラは奥に引っ込んだ後厚手の布に包まれた物を持った来た、それをハルマに渡すと俺の隣にちょこんと座る、美少女は何でも絵になるな。でも男衆の目線が怖い、なんで俺の隣に座ったの?
ハルマはサクラからもらった布を地面に広げ、キラリと光る幅広の刃物を取り出した。それ持ったままでその目線はやめてくださいお父さん。
「誰がお義父さんだ!ゴラァ!」
ハンパに心を読むな、間違ってるし。命の危機を感じるので話題を変える。
「その刃物……肉切り包丁?みたいなのは名のある武器とかだったりしない?」
「しない、『名剣』は存在するけどな」
「おぉ!あるのか!それはあれかディランダルとかバルムンクとか童子切とか、テンション上がる系か!」
「違う違うそんな感じじゃない、もっと簡単だ『二つ名が宿った剣』略して『名剣』だ、まあ剣以外にも宿るけど比率は剣が圧倒的に多いから大体『名剣』って呼ばれるけどな」
「ほほう」
「嬉しそうだな」
「なんとなく分らんか?」
「まぁ分かるけど」
「親父やるならとっととやろうぜ、日が暮れるぞ」
「おう悪い」
なかなか動かないハルマに業を煮やしたのかツバメが急かした、チッ、もうちょっと引き伸ばすつまりだったのに。
しかし名剣ね、ハルマ忙しそうだしサクラに聞くか。
「サクラ、有名な『名剣』ってどんなの知ってる?」
「そうですね、2代目勇者様が使われた『牙獣』、3代目勇者様が使われた『金剛』、4代目勇者様の『光刃』とかですかね?最後のは『名槍』ですが」
「フーン、能力がなんとなく想像しやすいな」
「えぇ『名剣』になるのは二文字だけですから」
二文字?勇者も気になるけど、ハルマの名前あてにはこっちの方が重要かもしれない
「二つ名は二文字とか種類があるのか?」
「そういえば言ってませんでしたね、はい有ります。簡単に説明すると………。」
サクラからの説明で二つ名は4段階3性質の計12種類あることが分かった
要約すると
段階 一文字……ギフトを渡せる特殊な二つ名、数は少ない
二文字……一番獲得数が多い二つ名、全体の7割くらい
三文字……二番目に獲得数が多い、二文字から進化したりする
四文字……三文字から進化しか確認されていない、強力な物しかない
性質 正……能力は強力でデメリットは少ない、全体の1割5分
負……能力は強力でデメリットは大きい、全体の2割5分
零………能力は弱いがデメリットは少ない、全体の6割
二つ名は上の段階に上がる【進化】だけでなく、同じ段階で能力や種類が変わる【変質】や、複数の二つ名が一つに統合する【合併】なるものもあるらしい、がどれも珍しいのであまり覚えなくていいらしい。
正と負が少ないのはそもそもこの二つの種類は感情の激化が二つ名取得の条件に入っていることが多いらしく正より負が多いのは、人間負の感情の方が爆発させやすいからだそうだ。
あれだね、どんな世界でも悪いやつが強いのは一緒らしい、世知辛い。
逆に零は現象とか技術とかをつかさどるらしい、正負と比べると派手じゃないとか。
そんな会話を楽しいでいると“ヒュー”と何かが跳んできて頭に当たる、ちょっとべたっとした固いそれは……
「血まみれの骨片……」
怖!!
飛んできた方向には解体途中で腕が血まみれのツバメ、こっちも怖いな
「お兄ちゃん何投げてるの!」
「ナンノコトカナ」
「俺も見てたぞ、何してるんだツバメ」
「お父さんも同じように振りかぶってたでしょ!後ろに隠した手を出しなさい!」
「ナンノコトダ」
ハルマも同じことをしようとしていたらしい
気に入らないからって手近のもの投げるとはこいつらガキか?
ツバメはともかくハルマは35だろ?もうちょい堪え性を鍛えろよ、堪え性は鍛えるっていうかしらんけど。
「ところでハルマ、お前の二つ名って種類と段階はどこへん?」
「教えない」
「じゃサクラ教え「『二文字』で『零』だ!サクラとしゃべるな!」
「あー!バカ、何勝手に教えてんだバカ息子!」バキッ!
「ゴバッ!!」
思わぬところからの援護射撃
寄りによって一番多い種類か、面倒だな。
「ハルマその二つ名取った時はいつくらい?どんな状況だった?」
「これ答えないとサクラと話すよなお前?」
「その素振りだけでそこで伸びてる奴はしゃべるだろ?ていうか大丈夫かそいつ」
この父親、遠慮なく息子をぶん殴って気絶させやがった。
見た目よりも筋肉ついて重いであろう細マッチョのツバメを一撃だ。ゾウみたいなイノシシ一撃で仕留めてるレベルだからあり得ないわけじゃないけど、だからって手加減なしはやりすぎでは?
「大丈夫だ、この程度で死ぬような鍛え方はしてないから」
「基準が生き死にの時点であり得ないんだよなー、それともこれがこの世界では普通?」
「いいえ、うちが異常なだけです」
「あ、やっぱりそうなんだ」
相変わらず天才様はどういう視点で生きているかがわからん
「はぁ、もうお前喋るのめんどくさいからこっちにこい、バラすの手伝え」
「えー俺素人だよ?」
「知るか、見て覚えろ」
「理論が体育会系!」
「お父さん!流石にひどいよ!」
初めて解体作業を見た素人に何も教えず手伝えと言う父親の無茶ぶりにサクラがかみつくのだが…
「大丈夫だ、できるだろつーかやれ器用貧乏」
「無茶ぶりだなー」
出来るかなー、まあやるけどね、やった方が話早そうだし。
「アキラさん!お父さんのバカに付き合わないでください!つけあがります!」
「娘からの言葉が胸に刺さる、どうしよう死にそうだ」
「大丈夫サクラ、おれ器用貧乏だから」
優しいサクラは心配してくれるが現代日本ではほとんどお目にかかれないスキルだ
これも経験として知っておきたい
そもそも言われなくても頃合いをみて手伝うつもりだったしな、遺体を見なきゃ殺害方法が分からないし。
靴を取ってきて庭に降り内心で『ツバメを笑えないな』なんて思っているとハルマが隣に来てにやりと笑った
「くそ度胸は変わらんようでほっとしたぞダチ公」
「2年くらいで人間変わらんよ、お前はだいぶ変わったけど」
「ワハハ、そりゃこっちじゃ20年だからな」
カラカラと笑う親友は刃物の持ち手を向けて渡してくる。
受け取りやすい、小学校のころハサミ振り回してたやつとは大違いだ、成長したな。
「んじゃ手伝いやりますか!」
「おう!調理開始だ!」
先ほどまでツバメが行っていたことをぎこちなくだがトレースする、刃物が悪いのか、俺の腕が悪いのか、それとも両方か肉の切断面はギタギタだがそれっぽいことはできた。
ハルマの方はどこを切ったら良いのか分かっているようで迷いなくズバズバ切っていく、俺はそれに引っ張られるように必死に手を動かした
そして日が暮れようとするころ……。
「終わったーーー!」
「いつもの倍くらい時間かかったな」
「それくらいはかんべんしてくれー」
手も借り物の服も血まみれでグロゲー並みのスプラッタというひどい状態だが俺はやり切った!
「アキラさんすごいです!お父さんは村でも一番の解体速度でほとんどついていける人がいないのに!本当にすごいです!」
「はっはっはそうだろうそうだろう、器用貧乏なめんなよ」
「はい!正直もっとひどいと思っていました!」
おう、美少女にストレートに期待してなかったって言われるとくるね。
「で、どうだ俺の二つ名は分かったか?」
「おおそれな、なんとなくだけど片鱗的なのはつかめたよ」
「え、マジで」
今回のイノシシ解体中に不自然だと思ったことがある、それはあまりにも外傷が少ないことだ。
無いと言ってもいいくらいで、こいつが殴ったとされる脳天にすらほとんど傷が無かった。
しかし解体作業中に言葉通りの意味でイノシシの頭をのぞいてみると脳みそが有ったと思われる部分がぐちゃぐちゃになっていた。
そしてこいつは数々の格闘技を渡り歩いてきた男でその中には中国拳法も含まれていた。
中国拳法で有名な打撃で衝撃を肉体の内側に伝える八卦掌の浸透勁というものがある、もしそれをこいつが極めて世界に認められるくらいまで発展させることが出来たなら?普通は無理だが天才様なら可能性は十二分にある…と思う。
つまりこいつの二つ名は…
「『振動』とかそういう系統、それがお前の二つ名だ」
二つ名の能力が限定的なら内部に衝撃を伝え爆発させることでイノシシを殺せるのはこの系統くらいだろう。
俺の自信満々の答えに二人とも固まっている
これだけで俺は答えが正しかったのを確信した
そして緊張が解けたのかサクラが戸惑い気味に俺に言った
「ごめんなさいアキラさん、全然違います」
アレ?
考えてたよりもずっと長くなってます、小説書くのって難しい。
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