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二つ名転生  作者: 薪村 尚也
3章 北方小事
53/111

3-OP

何が起きた?(???)

 その日テティスの街は異様な雰囲気に包まれた、いや、正しくは包まれていたと言った方が正確だが。

 ここ最近テティスの街はおかしい、住民は妙にピリピリとして一日に少なくとも一度は街のどこかで殴り合いの喧嘩が勃発する。

 “少なくとも”と断ったように一度では済まない日も多く今日はすでに二度の喧嘩が起きている。

 だが、これは異常だ。

 先ほどまで朗らかに笑っていた老人たちは今や取っ組み合いのけんかを始めていた、井戸端会議に余念の無かったおば様方は口も利かなくなっている、子供たちはもっとひどくどういうわけか唐突に虐めが始まった。

 目に見える範囲でこれである。ならば街は全体では?……考えたくもないがこの嫌な空気が広がっているだろう。


 原因は分かっている。

 いきなりどこからともなく現れ、元々高まっていたイヤな空気を破裂させた、凶暴なオーラを垂れ流すバカ者の出現だ。ピリピリした空気に生存本能を刺激させるような恐怖を抱かせた存在がいるのだ。

 しかしパンパンに膨れたシャボン玉に石を落とせばシャボン玉は割れるが、水を一滴二滴垂らすだけなら割れないはずだ。

 つまりこの存在がオーラをもっと隠すなりもっと弱めるなりすればここまで大事にはならなかっただろう。(もっともこの存在が最後の一押しになっただけであり、いずれ崩壊するのは目に見えていたので一概に全部この存在が悪いわけではないが…)

 そう言う意味での原因だ。

 まあ、これだけのオーラである、今更消しても残滓を追うことで追跡は容易だろう。

 イヤな空気を作り出している存在の方は今だに掴めていないが今回の件で一気に快方に向かうかもしれない、すでに半年以上潜伏しているのだそろそろ家に帰りたいものだ。


「(王都の守りは問題ないが、あまり長く離れると面倒じゃし)」


 そう思いながら彼はその場を後にした。


 彼が居なくなったことに気づいた者はいなかった。

 単純にそれどころでは無いだけかもしれないが……。


 ◇


 その出現に気づいたのは何人いたのだろう?

 答えは街の住民全員でもあるしわずか数人でも間違いではない。

 それは部屋の半分でライオンと自分を区切る檻のある部屋に閉じ込められた感覚と似ていた。

 “檻があるから安全だと思うがもしかしたら違うかもしれない”

 そんな部屋に居れば誰だってそう思うだろう。

 つまりそう言う事だ。

 このオーラの主は少なくともそう思わせるだけの力を持っている。

 街中の人間の危機察知能力を刺激する獰猛な力を。


「それが街中で喧嘩が起きている原因ネ」

「へー…それでボスは俺に何をさせようってんで?」


 テティスの裏町の一角でおかしな口調の男とその部下の会話

 男はツルツルに髪を剃り上げたスキンヘッド、体つきは小さいが見ている者を威圧するオーラを感じさせる。

 部下に対しての説明を行っている時も能面のように顔つきが変わらず表情から思考が全く読めない。

 部下の方は暗い茶髪をした30代後半の男、服はそれなりに上等だが中身が覇気の欠片もないので打ち消しあって全体的にマイナス点。

 上司に対する態度は明らかにイヤイヤであり、“仕事したくありません!”とその雰囲気で語っていた。


「察しのいいお前が気づかないはずないだロ?行ケ、そして探レ。このオーラの持ち主をナ」

「んな無茶な!俺はそのオーラに気づかなかったんですよ?どうやって探せって言うんですか?」

「それがそうでもないヨ。今回は頭しか取り柄の無いお前でも出来る簡単な仕事ヨ」

「ハイ?」

「簡単な話ヨ。行きたくない、足が進みにくい、危険な気がする。そういう方向に向かうだけヨ。危機察知能力の高いお前とお前の部下を使えば容易ネ」

「あー、カナリヤですか………」

「何の話だヨ?」

「分かんないならいいですよ。はぁやれやれ、じゃ行ってきまーす」


 威勢の良い言葉で部屋を出ていく部下。

 しかしその態度はポケットに手を突っ込みガニ股で歩き手を空中でフラフラさせるという、言葉とは真逆のモノであった。


 部下が出ていき男はツルツルの頭を撫でながらつぶやく。


「本来なら使えるコマなのにネ。残念ながら切れすぎる頭は私の組織には要らないのヨ。ダグラス、君は用済みヨ。まあ、生きて帰って来たら殺すけどネ」


 男は直感している。

 このオーラを放つ存在が自分に匹敵する存在だと。そしてそんなものを用意できる組織は土星に二つだけ。

 王国軍か裏で暗躍する『悪』の組織か。

 どうやって自分のホームであるテティスに潜り込ませたかは不明だが、自分と同じ軍団級(レギオン)を動かせる組織などこのどちらかだ。

 そしてごく簡単な消去法で一つに絞り込める、王国は自分を討ち取る事に全くうま味が無いのである。


 その理由はこの街の立地にある。

 王国最北端のテティスは時たまにではあるが北部の断崖から怪物が現れる。

 その力は十把一絡げの兵士など瞬殺されるほどであり、戦力に表すなら達人級(マスター)上位~軍団級(レギオン)下位。討ち取ろうと思えば最低でも軍団級(レギオン)はほしいだろう。

 しかし現在というかずっとではあるが王国は南方の蛮族との戦争で忙しく、もし軍団級(レギオン)がいるのならそちらに回したいのが本音である。

 そして何よりこの街はそこまで価値が無いのだ。

 産業が特別発達しているわけでも、そこでしか取れない特産品があるわけでもない。

 王国で二番目に出来たとされる考古学的にしか価値が無く、正直王国はこの街を持てあましていたのだ。

 そこに男が滑り込んだ。

 男はその怪物を仕留めるだけの力を持つ。つまりその時たまに現れる怪物を殺すだけで彼の地位は保証されるのだ。


 もちろん王国も、もっと言えば街の住民も、自分が裏で何をやっているかなど百も承知だろう、それでも黙認するだけの力を男は持っていた。

 男の戦力は軍団級(レギオン)上位、普通それだけの戦力が裏の組織に属するなら討伐隊が組まれる可能性は大いにある。

 だが、男は献身的に怪物を殺し続けた。数か月に一度の防衛戦。価値は示し続けていた。

 そして自分の戦力を考えるとわざわざ王国軍が動く可能性は間違いなくゼロである。


 そう考えると残るは裏で蠢く『悪』の組織「バッド」

 自分が邪魔になりついに刺客を送ってきたか、そう男は考えた。


「忌々しいネ。(ウチ)にちょっかいを出しているのは知っていたけどここまで早いとは驚きだヨ」


 王国国民の大部分は気づいていないようだが裏では有名な話だ、“『悪』は動き出している”と。

 行方不明ではあるが既に手配書が出回っていることを考えると王国軍も気付いてはいるだろう。しかし大々的に発表しないのはなぜという疑問が残るが。


「(王国はまだ半信半疑なのかヨ。馬鹿だナ、動き出してからでは遅いだろうニ)」


 蠢く『悪』がただ潜伏してるとは考えにくい。

 つまり何らかの準備を行っていると考えるべきだろう。

 その証拠に2年前、王都で『怪腕』のグローブの組織が消滅した。

 壊滅ではなく、消滅である。

 結局所属組員は行方知らず、その後の『悪』の動きも不明ではあるが男は確信していた。


『悪』が動くときが来るならそれは相手を完璧に叩き潰す算段が付いたと考えるべきだと。


 手元の手配書を握りしめる男、そして吐き捨てるように言った。


「むかつく顔だネ『悪』」


 そう言って黒髪の少年に唾を吐いた。


 ◇


「面倒ですね。どうして私が北に行かなくてはいけないんでしょう」

「何だい兄ちゃん?仕事かい?」

「ええ、運び屋の真似事です」


 テティスの街に向かう馬車にて交わされる会話。

 御者台からの言葉に誠実に返す男はフードを頭から被り顔はうかがい知れないが、間から艶やかな金髪がのぞいている。

 その馬車の荷台には彼以外に誰も乗っていなかったので話しを返したのだ。

 本来この馬車は乗合馬車であり、もっと人が乗っていてもいいはずだが今回は珍しいことに彼一人だけであった。


「仕事とはいえテティスに行かされるのは確かにキツイよな」

「ええ、最近は治安が悪いんでしたっけ?」

「それだけじゃないんだよ。実はな『悪』の組織があるって噂でな、最近は誰も近づかなかくなったんだよ」

「へぇ」

「あ、信じてないだろ」


 渇いた笑みを浮かべる男。

 御者は話が出来たのがうれしいのかご機嫌な様子で続ける。


「そもそも『悪』の似顔絵付き手配書が配られだしたのは1年前だろ?よくよく考えてみるとその少し前からなんだよ、テティスの街がおかしくなったのは。そしてそのころかテティスで見かけない連中が現れだした。だからさ、俺は『悪』が北で、テティスで、動き出してるって思ってんだよ!」

「へぇ、なかなか興味深い意見ですね。つまり現れたのはさしずめ『悪』のシンパですか?」

「そうかもな!」


 ガハハ、と笑いながら御者はピシリと鞭を打った。

 その瞬間男はビクリと体を震わせる。


「どうした?」

「あ、ああ、苦手なんですよ鞭の音が、あんまり叩かないでもらえると嬉しいです」

「おお…そうかい、そいつはすまねぇな………」

「あまり気にしないでください、苦手と言っても生活に支障が出るほどではないので」

「そうかい?」

「ええ、それより今テティスで一番強いのは誰ですか?」

「いきなりなんだいそりゃ?」

「いえ、唐突に気になっただけです。特に意味はありません」

「あっそう、今ってつける意味が分からんけど多分変わらずヨウさんだと思うぜ」

「そうですか……」

「少なくとも俺が前に来た時は世代交代なんて聞いてないぜ?」

「なるほど……参考になりました」

「おう、良いってことよ!」


 御者の言葉を聞きながら男は考える。

 前提として持っている情報と先ほど感じた荒々しいオーラに関して。


「(まず、このオーラがヨウである可能性は低いだろう。ヤツはテティスから出ることは滅多に無いし、出たとしても情報が入ってきていないのはおかしい。

 ではこのオーラの持ち主は誰か?

 一番現実的なのは王国軍の猛者、だがそれをここに配置するか?疑問は大きい

 二番目は在野の猛者、こちらは一応筋が通るが……これほどの力を持つ者がどうして今まで表に出ていなかったのか?疑問が残る)」


 頭を悩ませる彼の悩みを吹き飛ばすように御者が元気に呼びかける。


「おい見ろよ兄ちゃん、テティスの街が見えたぜ!」


 窓から顔を出すと目の前には石造りの巨大な門が見えた。


「すげぇだろ、無茶苦茶古いのにまだしっかり立ってんだよ」

「ええ、歴史を感じます」

「そりゃよかった。俺は何度来てもそんなの感じないけどな!」


 ワハハと笑う御者につられ彼もクスリと笑った。


「(どうせつまらない仕事ですし。同僚の心配をしてもその場に居なければフォローもできません。ならいっそのこと今回の仕事は事慰安旅行として考えたほうが良いですね)」


 まだ見ぬ強者への警戒を解いたわけではない。

 北を治めるヨウへの警戒を解いたわけではない。

 それでも、血なまぐさい世界で生きてきた彼にとって(形だけではあるが)初めての慰安旅行が始まる。


 ◇


 一方その頃

 荒々しいオーラを放ち続ける男は……


「ワハハハハ!なんだそれ!なんだそれ!」

「アキラさん落ち着いてください!」

「くたばれ自称神ィィ!」

「ぎゃあああああ!背中が!腰が!足が!」

「……ここまで暴れられると怒りづらいですね」

「そうかの?わしはとりあえず鼻にマスタード突っ込んでやろうと思っとるよ?」


 爆笑してた。

3章開幕!

最初から自分でもどうかと思うけど次回は説明会

カミルとか箱庭とか

3章詳細は活動報告へどうぞ

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