2-EX3 新世界歴999年 12月10日 帝国の事情
雨か……。(メラトリヲ)
その日は雨が降っていた。
窓からのぞく外の景色は雨だれを受け静かに濡れていく。
「メラトリヲ様、お時間です」
後ろからの女性の言葉で我に返る。
振り返ると見慣れた顔の侍女が扉の前に待機していた。
「悪いな、気づかなかった」
「問題ございません。それよりも服の支度を私が」
「いい、いい、自分で出来る」
この侍女は基本無表情で分かりづらいが、どうやら惚れられているらしくことあるごとに私の体に触ろうとしてくる。
「(別に美人だから悪い気はしないのだが、もうちょっと歳の近い相手に惚れてくれればいいものを……)」
流石にかなりの年の差があるので子供ないし、近所の子供くらいにしか感じられない。
まあ、実際はもっと離れているのだが。
着替えのシャツに袖を通しつつ今日の予定を聞いておく。
控えはもっているが連絡の齟齬が無いか確認を行うための日課である。
幸い今日も予定に違いは無かった。
◇
「行くぞ」
「ハイ」
彼女を付き従えて城内を歩いていく
長年親しんだ城は子供の時よりもきれいになっていて少しだけ寂しく思うところだ
石作りであったせいか約800年壊れることが無かった、と言われているほど頑丈なので放置していたら、最近になって限界が来たらしく少し前に渡り廊下の一つが落ちるという被害が出た
幸いというかなんというか、その事故に巻き込まれたのは彼の親友と言える男だけで、そいつに関しては俗にいう“殺しても死なないタイプ”だったことが救いだろう
地上30mの高さに設置された石作りの渡り廊下20m分と共に墜落しても無傷の男である
酒が入っていたせいで落ちた事にも気づかずにそのまま崩れた渡り廊下に埋まりながら地面で寝ていたような神経に針金どころか超合金が通っている男である
(ちなみに誰にも言っていないがメラトリヲはヤツが酔った勢いで落としたと考えている)
しかし被害者自体出なかったものの『皇帝の城が崩れるなど諸国に顔向けできん!』と補修工事を急ピッチで行われ、完成したのがこの通路である
『帝国の強さを象徴する廊下にせよ!』と皇帝のお達しが出ており、通常の国家予算から出る修繕費とは関係なく大量の予算をつぎ込まれ完成した渡り廊下は、思わずため息が出るような世界でも有数の見事な造りである
が、そもそもここは城の裏に作られた廊下なので外から普通見えないし、何よりここから先は帝国軍に所属する者のプライベートスペースであり他国の使者を通す可能性も無い
完全に無駄な予算であった
いや作り直すだけならもっと予算が少なくてよかった
しかしそれに気づいたときはすでに工事は中盤に差し掛かっており、待ったをかけられる状態ではなかったのだ
自分の小遣いからも予算を出していた皇帝は頭を抱えていた
「フフッ」
「どうなさいました」
「イヤなんでも無い」
友のバカバカしい姿を思い出しクスリと笑う
目的地に近づいた
目的地は皇帝の間と呼ばれる場所
その前には屈強な扉番を両サイドに置いた10mを超える扉、金やら赤やらで装飾過多と思えるほど煌びやかではあるが、現在は閉じられている
というかこの扉が開くことはめったにない
こんなにでかい扉を開け閉めするより、隣にある普通のドアから通ればよいのだ
ここが開かれるのはそれこそ他の国からの使者をもてなすとか、そう言う特別な日のみである
しかし開かれたときはそ空間との調和が素晴らしくこの光景は使者の間でも有名であった
そして今日はこの扉は開かれるのだ
それは今日という日が特別であるという証明でもある
◇
「遅いぞ」
「すまん」
既に皇帝の間にはほとんどの人数が集まっていた
今日この場に呼ばれたのは選ばれし11名
彼らは真っ赤な絨毯を引いた道の両側に交互に並び立つ、その先にあるのは一つの玉座
玉座の主はまだいない
帝国では会議等は基本的に階級の低い順に部屋に入る
今回はメラトリヲが最後から三番目
そしてこれから呼ばれるのは本日の主役である
「戦格勝利者ハイル・ドリーム様ご入場!!」
扉番の叫ぶような大声が扉の外から響くと共に先ほどの扉が開かれるが、遅い
巨大な扉は開くだけでも大作業であるがそれを差し引いても異常なほど開きが遅い
当たり前だ、少しでも傷をつけると彼ら扉番の年収など軽く吹き飛ぶ
それ以前に式典の進行に支障が出ると首が吹き飛ぶ、かもしれない
皇帝はそんなヒマな事はしないだろうが、皇帝の本当の性格を知る者は帝国では極めて少ない
よって異常なほど恐れられ、行う方はまさしく命懸けの作業である
ゴゴゴゴゴゴゴ
音共に光が差し始めた
扉の向こう側に立つのは帝国独自の格付け、“戦格”と呼ばれる戦いを勝ち抜いた強者
簡単な話、向こう側からこちら側に来ることが許された強者
それだけで各国は理解するだろう
個で大軍以上の戦力が現れたと
皇帝の帝国の戦力はさらに磨かれたと
そして扉が完全に開かれ、そこには一人の少年兵が立っていた
◇
着込んでいる服は高級品で帝国を象徴する品の良い赤が使われるが、それだけに服に切られている印象が強い
腰に差した剣はキラキラと宝石が飾られており見る者を魅了する宝剣と言われるもので、飾りであると見抜かれる
堂々とした態度は間違いなく虚勢である、実際踏み出そうとした足が震えていることにこちら側の人間は気づいた
当たり前だ。この場に居る人間のほとんどが彼を威圧しているのだから
たとえ“戦格”を突破したとしてもこちら側にいる人間とは立っている時間が違う
帝国の最上位者に威圧され何も感じないのは逆にバカだろう
だからこそそんな態度には見て見ぬふりをしてやるのが大人というもの、メラトリヲは可哀そうに思いながら彼の心の冥福を祈った
◇
帝国最高戦力位格付、誰が略したか“戦格”
強者を優遇する帝国が定めた最上位試練であり、突破者は帝国建国当初から数えても20数名ほど
逆に突破したならそれは人類最高峰の戦力であることの証明であり
帝国史に永遠に刻まれることが約束されている
現在存命の突破者は11人
全員が災害級に到達しており
特に道の最奥、皇帝の玉座に最も近い場所に立つ二人はボウコ帝国建国以前から皇帝に仕える化け物中の化け物であり、噂では天災級に到達しているとされる
その間をこれから少年は歩く
周りから威圧されながら
どう考えても地獄である
しかし歩き出した手前足を止めることは出来ない
出来るだけ素早く通り過ぎようとしている少年には気の毒だが儀式的な意味合いで行わなければならないことがある
それは
「皇帝第11の剣!『選抜者』ラビオリ・トーナ!貴君の突破を祝福する!」
「ヒィ!」
少年が前を通ろうとするといきなり大声を上げる突破者
自らの二つ名を宣言し、一瞬で抜いた剣を頭上に高らかに掲げる
対する少年は明らかに驚き『選抜者』を見つめている
その瞬間空気が弛緩する
誰も声こそ出さないが、口元はピクピクと動いているものが大半だ
これが儀式、今いる突破者は武力の象徴である剣を掲げ新たな突破者を祝福しなければならないのだ
威圧をくらいおずおずと一歩一歩進む新参は十中八九ここでビクつく、ほとんど全員が通った道なのである意味通過儀礼
そして“戦格”突破順に奥から並ぶので必然的に新参に一番に声をかけるのはその一つ前に突破した者である
つまり一つ前に恥をかいた者
この通過儀礼はその者を慰めるものであり、いつの間にか誰からともなく始まった
むしろ彼はまだマシな方で、一度どちらとは言わないが漏らした奴がおり、会場非常に残念な匂いに包まれたことがある
逆に最初のコレが終われば後は予定調和であり
新参が前を通ると古参が剣を掲げ祝福する
これを人数分繰り返す
威圧はすでに解かれ安心したように歩く少年
しかしに最後の最後で、最後の試練が待ち受けている
「皇帝第2の剣 『不変』ガラハッド・リリエンタール 貴君の突破を祝福する」
「皇帝第1の剣 『不死鳥』メラトリヲ・ハザード 貴君の突破を祝福する」
ゴウゥ!
と音がした気がする
玉座の前、最後の二人、落ち着きのある声で祝福をする者は明らかに桁が違う
「へ、ひっ」
少年が奇妙な声を上げるがこれもある意味通過儀礼
帝国の真の強者がその力を示すのだ
戦格
それはある意味死んだ制度
突破するものは誰もが頂点を目指している
しかし突破して歩き出しここでハタと気づくのだ
「(勝てるわけないだろっ!)」
今日も今日とて帝国は絶対強者によって成り立っている
◇
「それでどうだ。計画は順調なのか」
「見つかればすぐにでも、なんだがな」
「200年も探して見つからないんだ、そう易々と見つからんだろ」
帝国の城の奥の奥、皇帝の私室にて
会話をするのは皇帝とその忠臣にして親友二人
会話は何らかの計画について
「ホント見つからんな~、そろそろ暴れたいんだが」
「なら王国に行ってみるか?」
「はぁ?何言ってだ?あんな平和ボケした国に興味ねーよ」
「ところがどっこい面白い情報がある」
そう言って口に手をそえ前にかがむ
釣られて耳を出す二人
「(実はな……龍国のスドラ4世が王国に旅立ったという情報があるんだよ)」
「何だそれ、詳しく聞かせろよ」
「代替わりの前にグドラ3世に挨拶ってのが建前で、実は何か裏があるんじゃないかって話」
「信じられんな。スドラ4世は次の天竜の長、それを外に出して何になる?」
「それが何かって話。というわけでガラハッド行ってみる?運が良ければ竜とスパーリングだぜ」
「任せろ」
そう言って悪い顔で笑う親友たちにメラトリヲは苦笑した
メラトリヲの“オ”は“ヲ”で合ってます
特に意味は無いですがそっちのほう格好いい気がしません?
次回は月曜日




