2-EX1 新世界歴998年 10月22日 王都の夜
こんな仕事何で受けたんスかねぇ?(???)
金払いが良いからですよ(???)
王国中央部
王都アーサー
王国の首都であり全世界に響く巨大都市
住民の数は把握しているだけで1億人を超え、スラムの連中や戸籍の無い裏側の人間を合わせるとさらに2割増えると噂されるマンモス都市
もちろんそれだけの人が住んでいるのだ、都市自体もまた大きい
五大世界の首都では2位の帝国を二倍近い大差で引き離し、面積、人口共に全世界最大
人間の作った都市としては後にも先にもここ以上は存在しないとされる場所だ
そんな王都の一角
王都でもとびきりの高級酒場で一人の男が吠えた
「アイツはウチに何の恨みがあるんだ!!」
キレながらグラスを机に叩きつけその音で周りの客の視線を集めるが男は気にしない
そして周りの客も男の姿を確認するとすぐに視線を逸らす
もし彼に絡まれると非常に厄介なのだ
「だから嫌だったんだ、君と飲むと周りの視線が痛い」
「うるせぇ!全部アイツが悪いんだ!アイツのせいでウチの評判はダダ下がりだ!!」
「ああもう高い酒がもったいない。それ一本でどれだけすると思ってるんだい」
「知るか!どうせ俺の金だ!」
酒に酔い管を撒く彼の名前はフルア・オービレ
王国の軍隊派貴族の重鎮、ブルラ・オービレの孫息子
そして勇者のパーティーの一人『fighter』のギフトを持つ者でもある
そのフルアを介抱する彼はケンシン・タケダ
こちらも王国軍隊派貴族、タケダ一門の次期当主
彼の勇者のパーティーの一人で『fencer』のギフトを有している
この二人は元々同じ軍隊派閥の次期当主を預かる身として小さいころから同じ時を長く時を過ごしてきた、簡単に言うならば幼馴染である(『男同士の幼馴染に何の意味がある!』とアキラは言いそうだ)
そんな仲の二人だからこそこうして他のパーティーメンバーを交えずに飲むことがあるのだが、最終的にはフルアの愚痴を聞いて解散となることが多い
しかし今日の愚痴は一段と酷い
たった一人の人間に向けての愚痴などフルアの性格上なかなか珍しい
「そんなに気に入らないかい?あの人が」
「……武人としては尊敬しかできないが…、それでもやりすぎだろ」
ひとしきり叫んだので少しは落ち着いたのかポツポツと語りだすフルア
今回の話の中心にいるのは”ある人物”である
「しかしホントに凄いよね。この短い期間に西の裏組織を三つも壊滅させるとは」
「どれもこれも小型か中型だ、西では大きくても王国全体基準で考えたらそのくらいだろ」
王国西部は元々争いの少なく平和な地域である、だから悪人の芽も育ちにくいが
だからといって……
「潰せるのかい?君はたった一人で」
「……無理」
「だろうね」
裏組織とは日陰に入っているから裏組織なのだ、それを短い期間で見つけ出し陽の元にさらすのはかなりの手間がかかる
それこそ今代の勇者ポープであろうとそう易々とは出来ないだろう
フルアはバカではあるが貴族としてそれなりに教養を受けた身である、特に軍や兵などに関しては少しはマシなはずだ、だからこそ、それが自分には不可能だと知っている
しかし
「テメェはどっちの味方だ!」
幼馴染の意地悪な口調にはキレる
しかしケンシンは飄々とした表情で答える
「しいて言うなら正義の味方かな?」
「がーーやめろっ!アイツみたいな事は言うな!鳥肌が立つ」
「そうだね、確かにそれは同感だよ」
二人とも同じ人物を思い浮かべているのだろう
同じ勇者のパーティーの一人で、もう一人の幼馴染、正義感ではあるのだが……いろいろ度が過ぎている彼を
「まあ落ち着いたようで良かったよ。それでどうする、別の店で飲みなおすか?それとも家に帰る?僕はもう少し飲むので帰りは一人で帰ってくれよ」
「……もう少しここで飲んでく」
「今度は静かにね」
そう言って二人は座りなおしグラスを傾けようとすると
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
酒場に不愉快な声が響いた
声の方向に視線を向けるとそこにはニヤニヤと気持悪い笑顔を顔に張り付けた男が一人
「『拳聖』、『拳聖』!!見つけたぜえ、ここで死んでくれや!!」
「あ?」
男は体を大きく反らすとフルアの前に飛んだ
次の瞬間フルアの顔面に拳が入り吹き飛ばされる!
ガラガラガッシャン!!
客が悲鳴を上げ、ウエイターは客の前に出る、ここは王都屈指の高級酒場
荒事専門のスタッフも在住しているが、
「動かんでいいぞウエイター、というかお前じゃ勝てん」
今回の被害者が声をかける
一撃をくらい机や椅子に突っ込んだフルアがむくりと起き上がり加害者に問いかける
「なんの恨みがある?親父絡みか?」
「そうだ!お前の親父に俺の姉は……あれ?姉?そう言えば俺には姉がいたのか?いやどうでもいい……死ねぇぇ!!」
そう言って錯乱したまま拳を振りかぶる男、その動きは常人の物では無い
しかし相手が悪い……
「じゃま」
「ぎゃぶゅ!」
男の動きに合わせて膝蹴りを放ったフルア
まさしく一蹴された男は蹴りの勢いのまま空を飛び酒場の壁に激突した
一撃で気絶したのか、そのままズルズルと壁をずり落ちていく
戦闘とは言えないモノを終わらせたフルアにケンシンが近づく
「君はいつもいつも相手の初撃を食らいに行くのはなんでだい?」
「一撃食らえば相手のだいたいの強さが測れるからな、それに今回は親父の事もあるしよ……」
「“一発殴られた”かい?君はその癖のせいでいつか命を落としそうだな。それにしても先代『拳聖』の負の遺産は相変わらず健在か」
「それは正しくねぇだろ。親父は『拳聖』を継げなかった」
「そうだった、失敬」
二つ名
それはこの世界に根付いた未知のシステム
魂の力を使うことで異能を発揮するソレは、神の降臨後の世紀、“新世界歴”と呼ばれる歴史と共に出現したとされる
そんな数々の二つ名の中でもひと際異彩を放つモノがある
それは“継承名”
全世界で21種類しか見つかっていないそれは限られた血縁者にのみ発現する二つ名
この二つ名を貴族として複数囲い込むことで王国の守りは万全となっている
ここまで語ればお気づきになるかもしれない
フルア・オービレ
ケンシン・タケダ
彼らは次代の軍系貴族の当主だけでなくこの“継承名”を継ぐものである
そして先代『拳聖』の負の遺産とは、その地位にかまけて派手に暴れまくった馬鹿がいたと言う事である。
それがフルアの父、フルラ・オービレである
フルラ・オービレは天才と呼ばれる人材であり、ありとあらゆる体術をほとんど努力も無しに体得していった、その力は『拳聖』の名を継げば歴代最強だったはずだ
しかし彼は増長した
父親のブルラ・オービレが軍事は軍事でも最前線に出るタイプではなく軍師として後ろから支援することに特化しており、荒事は比較的得意としなかった事もいけなかったのかもしれない
毎日のように街で暴れまわり、暴力、略奪、強姦、と非道の限りを尽くしていた
そしてその蛮行を止めたのが他でもない“あの男”である
「錯乱してるとこを見るとどうやら『悪』に魅せられたようだね」
「くそっ!ここ最近はこんなのばっかだ」
最近土星の大型都市を騒がす無差別テロ事件
戦闘力の高い実行犯が都市のあちこちで暴れまわるだけなのだが
問題は実行犯全員が錯乱しており、捕らえたとしても自分自身の行った事を覚えていないこと
最近の記憶すら曖昧で、唯一錯乱したまま記憶を維持していた『怪腕』のグローブは捕らえられた次の朝、独房で毒殺されていた
だが『怪腕』の証言により『悪』の出現は表に出てきた
皮肉にも『怪腕』が殺されたことで証言の信ぴょう性が上がった形だ
存在を知られたことを、知ったのか察したのかは不明だが『悪』は行動を開始
自らの能力を使い、王国のあちこちでゲリラ戦を仕掛けているのだ
「こいつもどうせ覚えてないんだろうな」
「期待は出来ないね。『怪腕』は本当にイレギュラーだったみたいだから」
「あー糞、やっぱり俺らの中から寝ずの番を立てるべきだったな」
「半年も前の事を悔やんでもしょうがない。店主!」
「は、ハイッ!」
ケンシンに突然話しかけられた店主が慌てて返事をする
「今回の騒動の被害額と今日のお客さんの代金はオービレ家に請求してくれて良い。話は通しておく」
「は、ハイッ!」
「オイ!」
いきなり損害を押し付けられたフルアはケンシンにキレる
しかしケンシンは慌てない
「今回の騒動の発端は君の父親だ」
「ウッ!」
「それに君が犯人を吹っ飛ばしたせいで店の損害の半分は君のせいだともいえる」
「ウウッ!」
「最後に君が最初の攻撃を受けなければ被害はもっと少なかったはずだ」
「ウウウッ!」
「これだけ理由があるのに払わないのかい?まあ、市民の税金で生きてる身としては問題を起こした時はさっさと払った方が良いと思うよ」
「ウゥ……」
「納得したかい?じゃあその男を詰め所に連れて行ってね。僕は帰るから」
「ハア?!」
「当たり前だろ?僕はその男に何もされていないし、何もしてない、そんな人間がついてったところで邪魔になるだけだよ」
「いやついてきてくれよ……親友」
「ヤダよ、何で好き好んで面倒ごとに首を突っ込まなきゃいけないんだい?彼じゃあるまいし。それと最後の単語は面倒ごとの時に付けちゃいけないよ。じゃあオヤスミ」
そう言って家路につくケンシン
結局フルアはその後ろ姿を見送ることしか出来なかった
後日談として、今回の騒動で出した被害によってフルラは祖父から轟雷を落とされることになる
◇
静かさが耳に痛いほどの夜
二人の“ケンセイ”を遠くから見る者がいた
そして一人が目につけていた遠見筒を離すと、彼らは話を始めた
「どうですか?」
「まだ全然っスね。澄み切ったとは言わないけどまだまだ染まったとは言い難いっスよ」
「先の長い話ですね」
「ホントっスよ。それにしても何が目的なんスかねウチの“ご主人様”は。“ケンセイ”を堕とせとはこれ如何に?」
「さぁ?どちらにしろ我々は命令に従うだけでしょう」
「社会の歯車かぁ」
「頭に“裏”をつけるのを忘れてますよ」
「アハハ!そりゃそうっスね!」
「陽の下を堂々と歩けない事を嬉しそうに言ってどうするんです……。はぁ、一抜けた」
「じゃあ二抜けた」
「え?ええ?じゃあ三抜――」
「――だめですよ?仕事はちゃんとやらないと」
「我々の沽券にも関わってきますからね。ではよろしく」
「お疲れ様でーす」
「ええ!そりゃないっスよぉ!二人とも待ってぇぇ」
そう言って彼らは夜に溶けるようにその場から消えた
残ったのは最後の言葉の反響だけで、それもすぐに消えた
そこには彼らのいた痕跡は一つも残っていなかった
今回の番外編は本編よりも少しだけ先のお話。
ちなみにアキラが転生したのは4月7日です。
ついに総合評価10Ptにたどりついたぞ!
低い目標をお祝いしよう!
次回は日曜日更新!
感想コメントもらえると嬉しいです。




