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二つ名転生  作者: 薪村 尚也
1章 墜落少年
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1-2 ヒノキ風呂とズレ

落ちてきた奴は俺と大して変わらない歳の奴だったが、なんとなくいやな予感がする(ツバメ・クイート)

拝啓

お父様お母様お元気ですか、兄と同じように先立つ親不孝をお許しください。

何でこんなことになったのかは分かりませんが確実に言えることは息子を殺したのは面識のない白髪のガキでしたよ。

そんなことよりあなたの息子は幸運に恵まれているようです。その証拠に今日あったばかりの人の家でヒノキ風呂に入っています。まあヒノキ風呂なんて入ったことはありませんが家の人が言っていたので多分ヒノキ風呂なんでしょう、所々にキノコが生えていますが見なかったことにします。木のいい香りがして温度もちょうどいいです。

どうしてこんなことになっ「オラァ!さっさと出ろ!後で俺も入るんだからな!」

…どうしてこんなことになったかというと。



「着きましたよアキラさん」

「はぁ…はぁ…はぁ…、あっそっか…着いたか…」

「お前足遅いな?」


走るサクラたちに追いつくために走ったがだんだんとおいて行かれ結局最後になってしまった。

500mくらい走ったが女の子のサクラすら息がほとんど乱れていない、運動はクラス対抗リレーの選手の補欠候補になるくらいの足はあるので自信はあったのだが、女の子にしかも可憐な美少女に負けたのが地味にきつい、心が折れそうだ。

着いたのは見上げると首が痛くなりそうな巨大な門の前、木できているようだが大きさが異常だ、近すぎてわからないが20mは軽くあるだろう。ガン〇ムが18mだったはずなのでそれより大きい、どんな建築技術でできているか気になる。


「門から少し行ったところで一番大きいのがうちなので頑張りましょう!」

「あ…うん…そうだね……」

「スタミナもないな」


両サイドから天使と悪魔みたいだなこの二人、酸素の回らない頭で考えながら歩き出す。とにかくうん…堆肥で汚れた服におさらばするために、門をくぐる二人についていく。

門の内側は大きく開けた空間が広がっていた、予想以上に広い。

一つの大きな通りの両側に多くの家が建っているようでそのすべてがログハウスのような木造建築で石細工の家が一軒も見当たらないのがなかなか面白い。あちこちから上がっている煙は鍛冶かな?それとも家事?もしかして火事?サクラに聞くと「そんなに鍛冶師はいませんよ」と笑いながら返してくれた。そりゃそうだ。ツバメが何か言った気がしたが聞き流す、イケメンは敵だ。

他愛ない話をしていると周りの家より二周りほど大きい家の前で二人の足が止まった。


「ここが?」

「はい、私たちの家です」

「服洗ったらさっさと出てけ」

「黙れイケメン」

「なんだと!」

「お兄ちゃん褒められてるよ」

「そうかありがと!……いや褒められてないよな?」


こいつ道中でなんとなく気が付いてたけど少しバカだな


「かなり大きな家みたいだけど二人で住んでるの」

「いえ、今は仕事でいませんけど普段はお父さんと3人暮らしです」

「へー、3人暮らしでも大きそうだけどな」


この家、庭付きの一軒家でかなり大きい馬小屋みたいなのも付いていてお父さんが頑張ったことがわかる


「ほらとっとと入れ、そんで服を脱げ」

「ん?俺洗濯の間なに着ればいいの」

「裸でいろよ」

「お兄ちゃん意地悪しないの。そうですね、お風呂でも入りますか?」

「え!いいの?」

「いいですよ。お父さんが特注したヒノキ風呂だそうです」

「じゃあよろしくお願いします!」

「だめだ裸でいろ」

「なんだよ、さっきから俺の裸にやけにこだわるな。俺にそっち系じゃないぞ」

「俺だってそっち系じゃねーわ!!」


俺の頬に手の甲を当てたジェスチャーを正しく理解してくれたみたいだ。


「さっきからお兄ちゃんは何でアキラさんに意地悪するの?」ソウダソウダー

「なんとなくだ。サクラこそ何でこいつの肩を持つんだ」

「お父さんが言っていたでしょ。『情けは人の為ならず』、お父さんはそれで助かったこともあったんだから。私はお父さんの教えを実行してるの。」ジッコウシテルンダー

「なら他意はないんだな?」

「さっき会ったばかりの人に他意なんて起きるわけないでしょう」アタリマエダロー

「さっきから外野うるせー!!」


怒られた。こっちは最悪うん…堆肥臭い服で野宿か、そうじゃないかの瀬戸際なのだ。味方してくれる方に援護射撃するくらい良いと思う。だが言いたい


「俺は外野じゃないよね?」

「むしろ主役ですね」

「だそうだぞ、どうするお兄ちゃん」

「お兄ちゃん言うな!俺が言いたいのはそんなことじゃなくてだな「ジャアドンナコトダヨー」それだーー!!そのワザとらしい合いの手が腹立つんだよ!」

「馬鹿なこと言うな、合いの手はわざといれるものだろ」

「そこじゃねー!!」


うん、こういうタイプは昔から扱いやすくていいね。

この後合いの手論から昔のお偉い人のお偉い言葉に繋げて有耶無耶してやった、俺が風呂に入ることが決まりましたマル


「アキラさんは口が上手ですね」

「そうかな?口論とかはうまいやつがいたしあんまり意識したことないから分らん。まあ、お宅のお兄ちゃんが大したことないのもあるともうけど」

「それもありますね」キコエテンゾー


なんか聞こえたが気のせいだろう

しかしこの家なんというか


「なんというのか……」

「どうしました?」


なんというんだろう、外見は思いっきり外国のログハウスなのに内装はなぜか日本家屋なのだ。うん、外との違和感がすごい。


「この内装はお父さんの趣味?」

「よくわかりましたね、お父さんの故郷に似た作りにしたみたいです」

「へー」


さっきから気づいてたがお父さん日本人説が高まったな。サクラとかツバメとか日本風の名前だし、『情けは人の為ならず』とか日本ことわざだし、ヒノキ風呂もそうだな。

3日に一人来るなら可能性はあるだろう、うまくいけばこっちの世界で生きていく職くらいなら伝手で探してもらえるかもしれない



で、冒頭に戻る

有耶無耶のままに入った風呂だがなかなかいい風呂でした、外で誰かが大声で文句言ってなけりゃ。

とりあえず風呂場の外の大声の主に文句を言う。


「なー、うるさいんだけど」

「だまれ!お前なにサラッと俺より先に風呂入ってんだ!」

「いやさっきの話し合いで決めたじゃん」

「あんな意味わからん理屈の一方的な押し付けのどこが話し合いだ!」

「そういうのはその時言ってください」

「その時っていつだ!」


結局最後までギャンギャン吠えるツバメのせいで肩までゆっくり浸かっているのに全然落ち着けなかった。風呂から上がるとツバメがにらんできたが相手をすると更に疲れそうなので放置する。ちなみに服はツバメから借りた。……最初っからツバメに服貸してもらえばよかったな、やっぱり頭が回ってないな。


風呂場を出るとサクラがお茶を出してくれた、『この子俺より若いのにしっかりしてるな』とか思いながら敷かれた座布団に座る、この家どこまでも日本風だな外側ログハウスだけど。ちょうどサクラと二人っきりになったので聞き損ねた質問の続きを聞いてみよう。


「そうだサクラ、さっき聞きそこねた『ズレ』って何なんだ?」

「あっ、そういえば説明してませんでしたね、じゃあお話します」

「よろしくお願いします」

「別にかしこまらなくてもいいですよ、秘密でも何でもないんですから。ですがアキラさんにはつらい話になるかもしれません」


そういいながらサクラがしてくれたのは衝撃的な内容だった。


「『ズレ』という現象はその名の通り、今私たちがいる『こちら側の世界』とアキラさんがいた『あちら側の世界』の時間のたち方のズレで起きる現象です。簡単に言うと『こちら側の世界』は『あちら側の世界』では10倍ほど時間の流れが速いんです。そのせいなのか転生者と呼ばれる人たちは等しく10倍速く歳をとるんです。一か月で十か月、36日と半日で一年、一年で十年、十年で百年、百歳を超えて生きる人なんてそう多くはないでしょう?それに加えて今まで生きてきた年月に足し算されていくので、平均寿命は分かりませんが60歳から70歳だとすると二十代で来た人でも平均4~5年しか生きることが出来ないんです。」


What?


「えっと…つまり俺はあと5~6年、長くても9年で死ぬってこと?」

「はい、アキラさんが今おいくつか知りませんが普通の転生者が10年生き残ることはほとんどありません。おつらいでしょうがこれがこの世界です」

「なんで?この世界で年を取るのが10倍速いんだ?」

「魂に二つの世界が干渉するからだそうです」

「魂に干渉?」

「この世界に来た転生者の魂には向こうの世界の法則が組み込まれています。その法則がこちらの世界に来るとこちらの世界の法則合わせようと時間を10倍に引き上げるそうです、それだけならいいのですがこちらに来た時点で魂にこちらの法則も組み込まれるので10×10で元の世界の100倍、こちらの世界で10倍の速度になってしまうんです」

「へー」


言葉は帰したが理解はできてない、自分以外の自分が話してる気分だ、ぐるぐる回る頭の中はサクラの放った言葉を何度も反芻している。

『魂』『ズレ』『あちら』『こちら』『10倍』『100倍』『寿命』etc...

そんな状態で約3分、俺が理解したことは『理解はできない』ということ。まあテレビだろうが携帯電話だろうがどういう構造かなんて知らずに使ってたし、何なら政治もよく分らんままだ、きっとこの世界は死んだ人間が来るボーナスステージみたいなものだろう、と折り合いをつけて考えよう。

うん!そう考えるといいな、一回死んだ人間がもう一回頑張る場所だと思えばいい、ボーナスステージだからきっと寿命が短いんだろう。

そうした自己完結に終止符を打つ出来事が起きた。


ドスンッ!


重いものが落ちたような重低音が鳴ったあとドアが開く音がした


「ただいまー」

「あ!お父さんお帰りなさい」

「ツバメは?」

「お風呂です」

「ほう、俺より先に入るとはいい度胸だ……で、そいつ…はぁ?!」

「こちらはついさっき転生してきた「アキラ!」さんで…えっ?」


サクラが俺を紹介している声に父親の声が重なる。

挨拶をと、振り返るとそこには180㎝くらいで多分30代の黒髪のおっさんが一人、身長に見合うがっしりとした体格でガタイがいい、そして……


「おいっ!お前アキラだろっ!常葉明だろっ!!!」

「あぁうん、えっともしかしてハルマか?」

「そうだ!久しぶりだなダチ公!!」


そのおっさんは二年前に死んだはずの親友とそっくりの顔で笑った。


ヒノキ風呂って入ったことないですがいいものなんですかね?

1章は毎日更新です

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