2-19 レオン・ハザード攻略戦Ⅴ
〈お知らせ〉
更新時間を12時間遅らせることにしました。
今までの時間だとどうしても調整が出来なくなってきたのです。
更新自体は今のところ月水金日の週4で行きます。
少なくとも2章が終わるまではこの調子です。
俺はまだ湖に飛び込んでいない。
この事実は決着がまだついていない事を表す。
レオンと俺の距離は約5m
俺と湖の距離は約7m
一見そんなに差はなく思えるが実際はだいぶ違う。
俺はこの距離を詰めるのに1秒はかかるけど、レオンは一瞬でこの距離を詰められるのだ。
間にクリスがいるのでまだ希望があるが、俺だけならこの時点で詰んでいる。
いや、そもそもレオンとの勝負自体が東村のみんなのおかげで成り立っているのだ。
今回の勝負で勝ったのならそれはみんなの勝利である。
ならば、なぜ俺はこんな愚行を犯したのか。なぜ湖にさっさと飛び込まなかったのか。なぜみんなの勝利を潰してまでレオンの前に出たのか。
簡単だ、今回はみんなのおかげで成り立っているからだ。
ソレジャアイミガナイ
作戦を立てながら心のどこかで気づいていた、恐らくこの手段で勝ったところでレオンは納得しない可能性がある。いやしないだろう。
結局のところ、レオン・ハザードの求める強さの基準は“群”ではない、“個”である。
つまりレオンが欲しがっているのは決着だ。力比べだ。上下関係の構築だ。
その基準で行くなら“俺達”が100回勝とうが1000回勝とうが意味は無いのだ。
最後に勝つのは“群”でなく“個”でなくてはならない。
だからこそ、俺は作戦のすべてを犠牲にしてレオンの前に立った。
完全な実力勝負、一瞬で終わる戦いに明確な有利不利は無い。
“並”以上“上”以下が世界最強と戦うにはこのくらいの御膳立てが必要だったのだ。
俺はハルマのように強くはない、凍夜のように完璧な戦術は思いつかない、花梨のようにただそこにいるだけなど出来ない。
ベンジャミンのように前に飛び出せない。
クリスのように怒り狂う事もない。
ペドロのように土木工事の知識もない。
ダニエルのように百発百中でもない。
凡人の俺にできるのはせいぜい命を懸ける事くらいだ。
だからこそ、俺でなくてはいけないのだ。
命を懸けるのは価値が無いものの特権なのだ。
「さあ、俺が湖に飛び込まなかった訳は分かったか。ならこの馬鹿馬鹿しい遊びも決着と行こうか!」
俺の説明を黙って聞き、それが終わると同時にレオンは座っていた岩から降りた。
クリスが身構えるが、取り越し苦労だろう。
コイツが欲しいのは堂々とした完全な決着だ。
自分からそれを捨てるとは思えない。
そして降り立ったまま動かないレオンは突然大声で叫ぶように語りだした。
「俺は20年この世界で生きてきた!
今まで俺と対等に話したものは居なかった!
母は俺の心配ばかりした!
父はそもそも顔も見たことが無い!
そしてそれ以外はすべて蹂躙する雑魚でしかなかった!
それも……今日終わるのか?」
「ああ、約束しよう。この勝負が終われば、俺が勝とうが負けようがお前には“対等”ができる!」
『たとえ俺が死んだとしても』
その言葉は付け加えなかった。
ほら、アレだ、こういう時は野暮ってもんだろ?
◇
石をぶん投げてから1時間。
ようやくここまで来た。
この勝負を成立させるにはレオンが湖に背を向けたまま俺と向かい合う必要があった。
勝負は一瞬、俺が躱すか、レオンが掴むか。
負ければもう一回転生だ。
俺の持論だがこういうのは一回だからいいのだ、最初の一回だからテンションが上がるのだ。
何度も何度も繰り返すのは肉体的にも心情的にもごめん被る。
だが勝てるなら……。
「勝負だ、レオン・ハザード」
「おう」
そう言いつつ互いに動かない。
そりゃそうだ、『先に動いたら負ける!』なんて言わないが相手の出方を見た方が有利なのは間違いないのだから。
しかしあまり長引かせると逆に先に動いた方が有利になるの面倒なところ。
分かっているのか不明だが、ジリジリと距離を詰めてくるレオンに俺は体を横にずらしながら距離を取る。
一気に動かれると負ける。
かといってハンパな動きでは捕まる。
ジレンマってやつかね?
互いの距離が変わらないまま俺たちは湖に対して平行になっていた。
ああ、息が荒い。
こうしてにらみ合ったまますでに1分ほど。
体内時計には自信があるがそれでもこの1分は何十倍にも感じる。
死を意識せず死んだものがこの世界に転生するのなら。
俺はきっと初めて死を意識した。
怪腕の前に立つよりも、1000mダイブよりも、間違いなく。
一気に横に飛ぶか、それともフェイントでも掛けるか、俺の考えは幾度となくループする。
そしてそれは突然だった。
視界の端、水面が揺れ、湖の真ん中で、魚が跳ねた。
ピチャン
音と共に場が決壊した。
◇
ドオォォン!!
きっとそんな音がしたんだろう。
あの瞬間きっとレオンは音よりも早かった。
右手を伸ばし、タッチなのかタックルなのか分からない姿勢で飛んでくる。
避けるか、走るか、もう迷わなかった。
俺は湖に走った。
距離は変わらず7m。
人生で一番の速度で走っただろう。
そして間一髪レオンの腕をすり抜けた!
よっしゃ!後はこのまま走るだけ!
一歩二歩と足を進める
だが……
「ガアアアァァ!!」
ザァッ!
躱した瞬間後ろから恐ろしい声と共に地面が削れる音がした。
振り返ないが俺には上から見えている。
バカげた速度で飛んだと思ったら今度はそれを右足だけで方向を変えやがった!
普通スジとか痛めるよね?
しかしレオンには関係ないようだ。
レオンは空ぶった右腕を鞭のようにしならせ俺に迫る。
左腕を広げ逃げ場を無くす。
斜めに飛ぶ?
無理!
追いつかれる!
畜生上等だ!体育で陸上を選択していた俺の三段飛びを見せてやる!やったことないけど!
三歩目をより強く踏みしめ力の限り飛ぶ。
それと同時にレオンの頭が俺にぶつかり
「ぐわぁーー!!」
「ガァァァァ!!」
そのままの勢いで俺たちは
ドッッッボォォォン!
湖に落ちた
◇
“ザバァ”と言う音と共にレオンが立ち上がり湖から顔を出す
アキラはまだ出てこない
「勝負は!?」
「いや引き分けでしょう、こんなの」
「えー!!?」
クリスの判定にレオンにが盛大に不満の声を漏らす
「一緒になって水に落っこちたんですから引き分けですよ」
「だがそれよりも早く俺はこいつを捕まえ……あれ?どうした?」
「アキラさん?」
水に首まで浸かったまま話すアキラは一言だけ言った。
「ココちょっと深い、助け(ブクブクブク)」
「うわぁ!大丈夫ですか!レオン!」
「お、おう!任せろ!」
ザバァ
簡単な話、身長180㎝のレオンが顔しか出せないならそれより10㎝小さいアキラは顔まで水に浸かっていることになるという事
レオンが“首根っこを掴み持ち上げる”という荒事を行わなければ今もアキラは湖に浸かったままだっただろう、だが問題は……
「ふう助かっ……ってない!首が!首が閉まる!」
「レオン投げて!今すぐ陸に投げて!」
「おう!」
ザバァ!
レオンの掛け声とともに宙を舞うアキラ、水からは脱出は出来たがこの男、レオン・ハザードが根本的に手加減が苦手と言う事を知らない
よって……
「わぁぁ!バカ!」
「おお、飛んだ飛んだ」
アキラは湖のほとりをぶっ飛ばしてそのまま森に落っこちた
◇
“バキバキバキッ!”と小気味いい音がして木々の枝が俺を受け止める。
空中を弧を描くように飛行した俺は森の木々に落ち、転落死を免れることになった。
しかし俺はほんの数秒前は湖に浸かっていたのだ。
水死、窒息死、転落死、と嫌な死因を紙一重で躱し現在木々に囲まれている。
ワケワカラン。
どういう事だよ?
レオンにブン投げたられた事は分かるがそれで転落死一歩手前を走ることになるとは思わなかった。
「馬鹿力め……」
下手に動いたらそのまま墜落してしまいそうなので動けない。
首だけ動かして下を見るとそこそこ高い木に引っかかったようだ。
「アキラさーーん!!」
「おーーうこっちだーー!助けてくれーー!」
聞こえてきたクリスの声に返事を返す。
どうやら俺の真下にいる模様。
「うわぁ高い所に引っかかりましたね」
「そうなんだよ、下手に動くと一気に落ちそうでさぁ。あと枝が刺さって地味にイタイ」
「分かりました、そっちに行きますね」
体のあちこちでじんわりと血がにじんでいる。枝が刺さった結果だろう。
それにしても勝負はどうなるのかね?
少なくとも負けてはいないはずだ、だからと言って勝ったとも断言しづらいけど。
「アキラさん」
「ん?何?」
「勝負の件ですが、最初から相打ち狙いだったりしませんよね?」
何を言い出すんだコイツ?
「悪いが俺にそこまでの戦術は立てられんよ。俺ができるのは作戦だけ」
「戦術と作戦?同じものじゃないんですか?」
「少なくとも俺の中じゃ別物かな。戦術は勝つために犠牲を押さえるもの。作戦は勝つために相手を痛めつけるもの。そんな感じ」
「へー、だからアキラさんは作戦、作戦、って言っていたんですか」
「ああ、相手を弱らせる妨害工作、裏工作はミッションだろ?」
「なるほど、そうかもしれませんね。なら戦術はタクティクスですか」
「多分な。いや俺も又聞きだから確信は持てんけど」
『君は作戦屋だね』
『じゃあお前は戦術家か?』
そう話したのはいつのころだったか。
10年近い昔の記憶はやっぱり思い出しずらい。
昔の事をふと夢想しているといつの間にかクリスが俺の隣にやってきていた。
「これはかなり刺さってますね、一本一本抜くのは骨が折れそうだ」
「痛いのには慣れてるけど、血を流しすぎるのはまずいと思う」
「同感です。では行きますよ」
「え?何する気?」
剣を片手に構えた状態でそんな事言われたら怖いんですが。
「ふっ!」
そんな掛け声と同時に放たれた斬撃を俺はほとんど見ることが出来なかった。
“スパスパスパ”と言う擬音が聞こえそうな勢いで断ち切られた枝、俺に傷一つないとこからクリスの剣技が並みではない事を理解させる。
でも俺このまま落ちるんじゃ?
そう思った瞬間俺の体は重力に引っ張られる。
「おわぁぁ!」
ガサガサと音を立て落ちると、誰かに体を支えられた。
「39」
「なんだそれ?」
意外なことにそれはレオンだった。
◇
「助けてくれるとは負けを認めたか?」
「ふざけんな」
そんなこと言ったらポイっと捨てられた。
ぎゃあ!まだ全身痛いんですが!
「お前を助けたのは勝負がついて無い状態で死なれると困るからだ」
「ツンデレ乙」
「なんだそのむかつく言葉は?」
「心配すんな、ただの誉め言葉だよ」
“女子に対する”とは言わない。
「それで結局勝負はどうするんですか?」
そう言って木から降りてくるクリス。
今コイツさっきの俺と同じ位置から飛んだよな?化け物め。
まあいいや、
「んー?どうするって俺の勝ちでいいんじゃない?」
「いいわけあるか。何で俺が負けなきゃいけない」
「でもお前負けてもペナルティ無いじゃん」
「は?」
「え?」
「ん?何かおかしい事いったか?」
レオンとの勝負には別に互いの勝利条件と“俺が”負けた時のペナルティしか決めてない。
俺は負けられないがレオンは別に負けても俺たちに協力を強制するわけでもないのだ。
「なんだそれ?」
「そうですよ!レオンを味方につけるのではなかったのでは!」
「味方にはつけるさ、でもそれを強要する関係にはならんだけ」
「わけがわからない」
「コイツバカなんじゃないか?」
「馬鹿に言われたくないな」
「誰が馬鹿だ!」
「ワハハ」
うん、これでいい。
簡単な話だ。
「俺は最初から同じことしか言ってない、俺はお前と遊びに来たんだよ。レオン」
レオンは目を見開いた。
俺は立ち上がる。
正直全身がズキズキと痛み立つだけでキツイのだが今は無視しよう。
大事な場面でどれだけ格好つけれるかが男の価値だ。
「レオン、今日は楽しかったか?」
「別に。死ぬかと思ったこともあった」
「じゃあ本気になれたか?」
「別に。殺そうと思ったこともあった」
「なら、また俺と遊ぶか?」
「……………」
答えを聞かないで俺は手を前に出す。
レオンは少し迷って、俺の手に手を伸ばした。
そして手が触れる瞬間
「アーイ!」
俺は手を上にあげ、レオンの握手を躱した。
レオンの動きがピタッと止まり能面のように無表情になる。
「……………お前嫌い」
「バーカ!ただの握手でそんなに緊張する方が悪い!」
そう言って固まったままのレオンの手に自分の手をぶつけるように握手をする。
「よろしく!」
俺はそう言ってニヤリと笑った。
◇
握手が終わるとアキラはその場に座り込む。
「あぁ緊張が解けると力が入らなくなったぁ。誰か運んで」
「やだ」「やです」
「ケチ!」
そう言うとまた立ち上がるが、すぐにふらりと倒れる。
「すまん、ホントに肩貸して。血が足りない」
「ハイハイ」
そう言ってクリスの肩を借り立ち上がる。
レオンはそれを見ているだけ。
「なんだレオン?お前も肩を貸してくれてかまわんぞ?」
「俺はちょっとやることあるから先行っててくれ」
「おう!じゃあ俺の家集合な!」
「そんな放課後の遊びの約束じゃないんですから……」
その言葉を聞く前にレオンは踵を返して住処に向かって飛び出した。
◇
“仲間を作りなさい、信頼できる仲間を”
仲間って何だ?
“仲間って言うのはね、楽しい時一緒に笑ってくれる人、悲しい時一緒に泣いてくれる人、苦しい時支えてくれる人の事よ”
わかんねぇ
“フフッ、大丈夫よきっと分かる時がくるわ”
俺はバカだからわかんねぇよ
“大丈夫、あなたは優しい子よ。そんなあなたをこの世界が見捨てるもんですか!きっと分かるわ、その時が来たらきっとね”
そう言った夜、母は眠った。
それっきり目を覚まさずに。
たった一人になった日、レオンは暴れまわった。
砕き、割り、叩き、潰し、蹴り、殴り、吠え、そして泣いた。
今も思い出すと悲しくなる。
だから
動き回りたいのはきっと、あの時と同じ理由だと思う。
頬がにやけるのはきっと、しゃくり上げるせいで頬が上がるからだろう。
吠えたくなるのはきっと、自分の中のモノを吐き出したいからだ。
「ガアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ!!」
だからきっと、この頬を流れるモノは母を思い出したからだ。
たった一人だった世界最強は叫びながら森を駆け抜けた。
その声を聴いてその機嫌がすごぶる良いと分かったのは森の動物たちだけだった。
更新時間をいきなり変えてすみません!最近はここで謝ってばかりです。
そして本編はレオン・ハザード攻略戦完結!
最初から書きたかったことが書けたので満足。
次回は金曜日更新予定
2章の山場を越えたのでもしかしたら番外編かも?




