1-1 墜落場所は畑
おはようお母さん、今日もいいお天気で私もお兄ちゃんも元気です、お父さんはお仕事に行っていませんがお父さんなので多分元気でしょう。今日も一日見守っていてください(サクラ・クイート)
ギ…ギギ…ギイイィィ
巨大な木製の門が木と木のこすれる音を立てる、門の周りには出ようとする人と入ってきた人が出す音や挨拶の声が聞こえる
そんな音を聞きながら少年は軽い足取りで人通りのある道を歩く
そんな少年に話しかける老人が一人
「おーツバメ!朝は相変わらず早いな」
「おーマイケルの爺か、今朝は堆肥をまいてきたところだ、それより最近会わなかったから逝ったのかと思ったがまだいたのか」
「ふざけろクソガキ!あと1年くらいはもつ!それよりサクラちゃんが俺に何か言ってなかったか?会いたいとか、告白したいとか、結婚したいとか」
「てめえまだそんなこと言ってんのか!!あと1年しか持たねんだろ!!大体歳の差考えろやクソ爺!!」
朝から大声で喧嘩二人に近くの家から恰幅の良い女性が柵越しに話しかける
「ツバメちゃんおかえり。うちの人さぼってなかったかい?」
「おう、おばちゃんただいま。おっちゃんなら元気に酒飲みながら門番やってたよ」
「あの大バカ野郎!!!」
怒声とともにその体型からはおよそ考えられない速度で柵を飛び越え人々の間をすり抜け閉じかけた門に向かうおばちゃん
あの速度なら門が閉まる前に門にたどり着くだろう
「さよならおっちゃん」
「いい人だったな、じゃあサクラちゃんによろしく」
「うん、絶対言わねー」
少年と老人は門に向かって軽く合掌、冥福を祈った少年と老人は別れ歩き出す
「あー今日も良い日だ。」
小鳥は鳴き、草に付いた朝露がきらりと光る、日の光が薄い雲を通り地面を照らす
その平和の象徴のような独り言に一軒の家の庭で洗濯物を干している少女が反応する
「あ、お兄ちゃんお帰りなさい。畑なにか変わったことはなかった?」
「おう、ただいまサクラ、そんな毎日変化はないだろ」
「だめだよ病気とかあるんだからしっかり見ておかないと。で、何もなかった?」
「まあ変化はそこまでなかったよ、大根がちょっと伸びてたくらい」
「そっか、じゃあ大丈夫かな」
「なんだ?気になることでもあるならもう一回見に行くぞ?」
「ううん今日はちょっと何かありそうだと思ったから、だから気になっただけ」
「よし!サクラの予感ならもう一回見に行こう」
「本当にいいかの!この予感、時々外れるんだし気にしないで」
「いや、だけd「本当にいいから!!」そ、そうか、ならいいか」
「そういいの。さ、体でも拭い来なさい……れ?」
兄妹の攻防(?)が終わり妹が兄を家に押し込もうとしたその時、空の一角で小さく強く光が輝く、明らかに陽光とは違う白い光は一瞬で消え、後の空には真っ白な球体浮かんでいた、と思った瞬間球体は急降下を始める
あっけにとられた周りの人々が光と球体に対して反応しだしたころ、兄妹は…
「…うちの畑の方だ」
「…うん」
「…当たったな予感」
「…うん」
「…相変わらずいきなりだな『アレ』は」
「…うん」
「じゃ、畑いってくる」
「あ、私も行く」
「え、なんでだ?」
「えっと…そうした方が良い……と、思う」
「あー分かった、準備してこい」
「うん」
家の中に妹が入っていくのを確認した少年は球体が落ちていった方向に目をやり言葉をつぶやく
「親父がいない時に限ってだな、えーとなんていうんだっけ?『鬼が出るか蛇が出るか』かな?」
◇
ザワザワザ……ザワザワザ……
木のこすれる音で目が覚めた。
俺はどうなったんだ?
「ぁ…いた………いち……」
「……やっぱう………今朝ま………っかりなのになー」
だんだんと意識が覚醒してきたら近くで声が聞こえる。
耳を傾け見ると男女の会話が聞こえてきた。
「ねえ、この人どうしよう?」
「どうするもこうするもどかさねーと。」
「そうじゃなくて、うちに連れていく?外に放置は流石にかわいそうだよ。」
「んー、でも放置しても文句言われんしなぁ。」
よく分からないがたぶん俺のことを話しているんだと思う。外に放置とかヤバイことが聞こえる。さすがにそれは嫌なので覚醒!
「んー?」
目を開けて起き上がる、音でも分かったがどうやら周りは木々が生い茂っているところらしい、声の方を見るとに黒髪の少女と少年がいた。
「あ、目が覚めましたか?お兄さん」
「おぉ!起きてくれたか、助かったよ起きて早々悪いがそこから出た方がお互いのためだと思うんだけど。」
「そこ?」
下に目をやると俺はどうやら畑の畝みたいなところに横になっていたようだ。
「あぁ!すまん畑を踏んでたみたいだな」
「気にすんなお互い様だ」
「お互いさま?」
「あぁ、その畑今朝堆肥撒いたばっかなんだよ」
「堆肥?」
「簡単に言うとうんこだ」
「さっさと言えちくしょう!!」
俺は畑から飛び起き新品の服の背中から土を払うが、すでにシャツが匂う気がする。
「先に言えよ!先に!サイズ小さくなったから買い変えたばっかの新品のシャツなのに」
「気にすんなうんこくらい、どうせアンタの腹の中にも入ってんだろ」
「そんな話してねえ!ううぅなんか匂うよぉ」
「ええっと、よろしければうちで服洗いましょうか?今スグに洗えばすぐに乾きますし、匂いも取れると思いますよ。」
なんと優しい一言。
少女は遠慮がちに提案してくれたが堆肥どころか小学生以来土いじりもろくにしていない現代っ子の俺にはまさしく天からの言葉
「よろしくお願いします!」
「サクラ!」
「いいでしょ別に洗濯くらい、人には親切にしなさいってお父さんも言ってるでしょ」
「だけどn「ハイこの話はおしまいです、さぁ行きましょう、お兄さん」
「ハーイ、よろしくお願いしまーす」
「サクラッ!あーもういいや、アンタ名前は?」
「ん?あぁ名前な、『常葉明』だ『アキラ』でいいよ、よろしくな、お兄ちゃん」
「お兄ちゃんいうな!俺をお兄ちゃん呼び出来るのはサクラだけd「はい、よろしくお願いしますねアキラさん。兄はの名前は『ツバメ』私は『サクラ』です。苗字は『クイート』。サクラ・クイートとツバメ・クイートです」
「あぁよろしくなサクラ、ツバメ」
「てめぇ何サクラを呼び捨てにしてんだ、ぶっとばs「お兄ちゃん帰りましょう。」サクラァァ―――」
そんなやり取りをしながら木々の間に作られた道に向かって歩き出した二人につられるように俺は小走りで追いつく、賑やかな兄妹と知り合いになったものだ、力関係はサクラの方が上でツバメは若干シスコンっぽい。なんだかんだで親切にしてくれるのでこの兄妹は人がいいのだろう。
よくよく見ると二人ともハーフモデルみたいな整った容姿をしている。
サクラは150㎝くらいの身長で儚げな印象を受ける美少女で、将来絶対美人になると確信できる。
ツバメも身長も体格も俺と同じくらいだが半袖から見える腕はかなり鍛えられている、細マッチョという奴だろう。この世界の美意識が変にねじれていなければ二人とも相当モテるだろう。
それはともかく学校の屋上から突き落とされたところから記憶がない、おそらく今話題の異世界転生という奴なのだろうか?一番初めにあったのが人のいい美形兄妹というのはなかなか俺も運がいい、いや屋上から突き落とされてるからなプラスマイナスゼロかな?判断が難しいな?
「アキラさんは何も聞かないんですね」
なんとなく元の世界でどうなったかを思っていると隣を歩くサクラが話しかけてきた。
「聞くって?」
「いえ、“転生者”の方は『ここはどこ』とか『私は何でここにいる』とか聞かれる方が大半なので珍しくて。」
「あぁ、前来た奴はうるさかったな、早口でまくしたててきてこっちの話一つも聞かず挙句『家に帰りたい』といい大人が泣きわめきやがった。」
「大変だったね、結果お父さんが説得して町まで送っていったけど。どうしてるかなあの人?」
「手に職もなさそうだったから野垂れ死にしてなきゃ上等だろ。」
「そうかな?」
「そうだろ!」
ツバメが過激なこと言ってる、ラノベの異世界転生ものみたいに命の軽い世界なんだろうか?生き残れるか不安だ、しかしそれ以上に気になることを二人が言ってた。
「なあ、この世界ってその、“転生者”って多いの?」
「はい、3日一人はどこかに落ちてくるらしいですよ。」
「俺が知ってるだけでも軽く二桁はここ辺に落ちてきてるぞ。」
「マジか」
「マジです」
「マジのマジか」
「マジのマジです」
「マジのマジのマジか」
「マジのマジのマジ「もういいだろ!」
ツバメにさえぎられた、美少女コンテスト優勝も狙える美少女と話していたのに…。いやそれはともかくどんな世界だ、普通こういう世界は100年に1人の選ばれし勇者とかが稀にやってくるのがお約束なんじゃないのか、それが3日に一人って、もはや失笑ものだ。
「この世界ってどれくらいの人間が転生者なんだ?3日に一人なら世界にあふれてしまってもおかしくないと思うんだけど?」
「さあ?」
「いちいち数えるのも面倒だし、勝手に増えて勝手に減るような奴らだから国もザックリした数くらいなら取ってるだろうけど詳しい数は把握してないんじゃね。」
「そんな雑なやり方は国としてどうなの…。」
「いや、そもそも転生者は大体5年くらいしか生きられんから詳しい数とる方が難しいだよ。」
はい?5年?老人が多いのかな?それとも難病の患者さん?そんなバカな。俺はどうなる。
「そんなに短命な人ばかりなのか?」
「短命というか『ズレ』と呼ばれる現象でして、この世界とアキラさんのいた世界は少しずれいるんです、そのせいで…あっ!見えましたよ私たちの村、あの門を入って少しした所が家なのでさっさと服を洗っちゃいましょう」
「サクラ走ると危ないぞ!」
そう言って小走りになるサクラを見ながら『美少女は小走りすら絵になるのか』という感想が出てくる。一緒に走り出したツバメについて感想は特にない。
それにしても気になるところでちょうど村とやらについてしまった、というか村を目指してたんだな、家に行くとしか聞いてなかった。
それより気になることを聞く前に村についてしまったようで巨大な木製の門が見える。サクラの言っていた『ズレ』がなにか気になるが考えていると置いて行かれそうだ。
俺は巨大な木製の門に向かって走るサクラたちに追いつくため走りだした。
これの話を書いてるときに通学路の畑を思い出しました。
大した規模じゃないんですけどね。
1章は毎日更新です。