1-EX1 4月8日 ハルマの狩猟日和
親父は終わったそろそろ着いたころかな?(ツバメ・クイート)
それはまだ少しだけ肌寒く、小鳥の声が気持ちいい穏やかな朝だった。
少し前までは、
「クマだー!クマ出たぞー!」
村人の叫びが村中にこだまする。
叫ぶ村人の後ろには、つい先ほど壊された柵とその柵を壊した張本人がいた。
飢えた瞳で逃げ出す村人の後ろ姿を見るクマは数瞬のうちに追いつくと、村人にその腕を振り下ろした。
◆
「それが昨日の朝の事です」
そう言うと村人は一息つく。
現在、村人ともう一人を乗せた馬車はその村を目指し走っていた。
「で?その後どうなったんだ?」
話を聞いていた人物は話の続きを促すと、村人は続きを語りだした
「はい、そのクマを見つけた後、討伐隊を組むことになりまして……
◆
「おい、聞いたか。村の端の方のジョージのじいちゃんがやられたらしい」
「おいおい端の方のジョージは子供ころに干し柿もらった恩があるんだぞ」
「俺も俺も、あんな良い爺を殺しちまうなんて今回の相手はトンでもねえ奴だな」
「でも、中央のジョージの方は難しい顔しておっかないイメージしかないんだよな」
「わかるわかる」
人が亡くなっている状況でする会話ではないような気がするが、彼らは気にせずと言った感じで会話を続けた。
そんな彼らは腰に剣を何本かぶら下げ、弓を持ち、矢筒を背負っていた。
見た目から分かるように彼らは猟師である。
あまりこちらの世界では見ることのない装備だが、銃などの火薬兵器が発達していないこの世界ではこちらの方が普通である。
彼ら向かうのはもちろん今回村内に入り込んだクマの討伐、すでに数人の犠牲者と被害者が出ている。
即急な対応が求められ、時間帯が朝方だったのでまだ狩りに出ていなかった村の猟師たちが集められたのだ。
「父さん頑張ってー」
「あなたー気を付けてー」
「おーう任せろ!」
そんな会話が交わされ、彼らは意気揚々とクマ退治に向かい……一人を残して全滅した。
村の中でも歴戦の猟師や、引退したが“村の内部でなら!”と腰を上げた老兵などもいたが一人を残して皆死んでしまった。
◆
「結局何人死んだんだよ?」
「13人…です。14人中13人が犠牲となりました。残った一人も顔に一撃食らって片目を失明していました」
「ほーう、その生き残ったやつに話が聞きたいな」
「すいません……帰ってくるまでにかなりの血を流して、私が村を出た時には意識不明だったので話を聞くのは難しいかと……」
「そうか……まあ別にお前さんが謝ることじゃないな。とは言え10人以上が犠牲になってるって事は“達人級”は確定かな」
「はい、村長もそう判断されて貴方に依頼することなったんです。ハルマさん」
村人の体面いた人物は“任せろ”と言った様にうなずく、それを見た村人は安堵したのか“ホー”と息を吐いた。
うなずいたのは、
ハルマ・クイート 35歳 職業:農家兼猟師
ここら一帯で最も強い男である。
◇
馬車はスピードを緩め村の門をくぐった、この村には数度しか来たことのないハルマは村人に先導されながら村を歩く。
ハルマは歩きながら違和感に気づいた。
「異様に静かだな?」
「えっ!」
村人は気づいていなかったのか驚きの声を上げる
「そう言えば確かにそんな気が……」
「チッもしかして猟師がつけられたか?」
「そんな!だとしたら村のみんなは!」
「落ち着け、まだそうと決まった訳じゃ無い。さっさと移動するぞ」
「はい……」
不安に押しつぶされそうなのか、村人は落ち着きがない。
しかしハルマは冷静に周りを警戒していた。
その時だった、
「ハルマ殿!お待ちしていました!」
「おわぁ!」
「おうどうした村長さん、俺脅かそうとしてなんになる」
「おや?そんなことはしていませんが?」
「ソンチョー!ぶじだったんですねー!」
「無事?」
どうやら話が食い違っているようだ。
………
…………
………………
「つまりお前は私たちがクマに皆殺しにされたとおもったのか?」
「だってハルマさんが!」
「俺は猟師がつけられたって事しか言ってないぞ」
「そんなことでお前は人を死んだことにしたのか!」
「ええぇぇー!」
村長との接触との後連れられたのは村の大きな建物、本来は集会場として使われ、今回のような場合は村人全員がここに集まることになっている。
話を聞かれたのかクスクスと笑われて顔を真っ赤にしている村人は、ハルマを呼びに来た彼だ。
「まあ、俺は最初から知ってたけどね」
「じゃあなんであんな事を言ったんですか!」
「緊張解れただろ」
「そんなぁー!」
村が静かなのは当然である、全員集会場に集まり家には誰もいないのだから。
ひとしきり笑ったところでハルマが真剣な顔をする。
「さて、少し笑顔が戻ったところで、村長本題だ」
「……はい、今回のお支払いは村のお金を集めて金貨20枚を工面しました。これで死んでいった者の仇を取ってください」
「おう、任せろ」
そう言うとハルマは集会場を出た。しかし少し歩いて足を止める
「あっ、何処に出たか聞くの忘れた……」
◇
ハルマはあの後戻るか戻らないか5分ほど迷った後、集会場に戻りクマの出現場所を聞きだし、出現場所に向かう。
「チッ!『聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥』って言うけどあれは違うな、一生分の恥をかいた気分だ。チッ!」
ことわざを作った人間に苛立ちながら舌を鳴らす。
ズンズンと肩を上下させながら歩いていたがその歩みがいきなり止まった。
「おう、そっちから来てくれるとは都合がいいな」
ハルマの目の前には村人を惨殺したとみられるクマがいた。
◇
腹が減った
クマはそう考えながら柵を壊した。
柵は大きく頑丈そうだったが脆くなっていたのか根っこから折れた。
中にいたのはとても弱い生物、すぐに逃げだしたがものすごく遅かった。
前足で引っ掻くと悲鳴を上げて動かなくなった。
悲鳴を上げられると他のヤツが逃げるのですぐに黙らしたが、それでもほかのヤツは著しく見なくなった。
少しすると引っ掻くのと飛んでくるのを持ったヤツらが来た。
ビックリしたが、ビックリしただけ、こいつらはバラバラに動き回って捕まえづらかったが、一匹一匹は弱かった。
狩りに夢中になっているうちにみんな死んでしまった。
夜が来たのでそいつらを食べたら腹は膨れた。しかし朝になるとまた腹が減ってきた。
仕方ないので多くの匂いがする方へ向かっていると、一匹だけのヤツがいた。
一匹だけなら捕まえやすい
そう思ったのだろうクマはハルマを一目見ると駆け寄った。
普通のクマは自動車と並走するほどの速度を出す、生物として優れているこの世界のクマならばさらに早い。
一瞬で距離を詰めその巨体で押し倒そうととびかかると、天地がひっくり返った。
ズンッ!!
と音が鳴り地面に背中から倒れているクマはなぜ自分が倒れているのか理解ができなかった。
そこに上から声がかかる。
「あれだな。『銃を撃つ覚悟が無いやつは銃持つな』みたいなもんだな。違うか?ま、食われる覚悟も無く食ってたわけじゃ無いだろう?じゃあな」
そんな軽い言葉、クマは言葉を理解が出来なかったがそれでもコイツが自分を恐れていないことは分かった。
そのことを分かったと同時に放たれた拳はクマには見えなかった。
◇
ハルマはクマの頭から血まみれの拳を引き抜く。
その拳はクマの頭部を打ちぬき陥没していた。
話は少し変わるがこの世界には大まかに五つ地方が存在する。
王宮のある首都が属する、中央
蛮族たちが支配する森、南方
山脈を越えた先にある半独立地方、東方
呪われた地として人が寄り付かない、北方
比較的穏やかで商売の盛んな、西方
そして、そもそも人が住んでいない北方は除くが、どの地方にも最強と呼ばれる強者が存在する。
中央には先代勇者『完璧』ラスト
南方には蛮族の王『野蛮人』ガッド
東方には都市の長『熱視線』レッドアイ
そして西方、
現時点で武の技術だけなら全世界五指に入る武人、ハルマ・クイート
そんな存在がクマごときに遅れをとるはずもなく、村民14人を殺害した人食い熊はあっけなく討伐された。
◇
「ホントによろしいのですか?」
「何度も言ってるだろ。今回の報酬はいらないって」
すでに何度も繰り返した話をする
「ですがそれでは我々の気がすみません!」
「……がー!じゃああれだ!今回の報酬は死んだ奴の香典に置いていく!それなら文句ないだろ!」
「ですが……」
「ですがですがうるさい!俺は帰るぞ、じゃあな!」
「あ!ハルマ殿!」
そう言い放ってハルマは集会場を出る。
すると後ろから
「オイみんなハルマ殿を止めろ!このままでは報酬を受け取らずに行ってしまう!」
「「何だって!」」
そしてそのままハルマは村の門まで追いかけっこをすることになった。
「おーい!まってくれー!」
「待たん!」
「お待ちになってー!」
「お待ちにならん!」
門まで走り切り村人の大半を引き離すと、回り込まれたのか門の前で子供たちが立ちふさがる。
「まてー!」
「とまれー!」
「くそ、いらんと言ってんのにあの村長は強情だな」
そう言うとハルマは子供たちを“ぴょーん”と飛び越え、また走り出す。
振り返ると門であきらめたのか村人たちがワラワラと集まって叫んでいる。
「おーい!仇を取ってくれてありがとー!」
「お父さんの仇を取ってくれてありがとー!」
「ありがとー!」
「村を救ってくれてありがとー!」
その言葉を背中に受けつつ走るハルマは頬を緩めた。
3分ほど走ったハルマはふと気づいた、
「しまった馬車で来たんだった!」
遅れてしまい申し訳ありません!
明日の幕間はちゃんといつもの時間に出せるようにしますので。
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