1-14 『悪』の影
さて仕事の準備でもしますか(???)
重厚な扉を開くと中には4人の人物がいた
勇者とそのパーティーの少女と和装の青年、そして『怪腕』
『怪腕』は椅子に縛り付けられており机の隣の辺の席に勇者、少女と和装の少年はドアの隣に陣取っていた。
かなり物々しい雰囲気だ、できれば回れ右して帰りたい。
「よく来てくれたねアキラ君。席に座ってもらってもいいかな?大丈夫『怪腕』が何かしようとしても僕が瞬殺するから」
勇者が物騒なことを言う。というより勇者はツバメが必死になって倒した『怪腕』を瞬殺できるのか。とんでもねーな。
「座るのはかまわんが俺は何で呼ばれたんだ?」
「面通しだよ、言わなかったかい?」
「それが分からん、何で俺は『怪腕』に合わなけりゃならない」
「先ほども言った通り『怪腕』は冷静沈着な男として名をはせていた。その男がなぜか君に反応し、あまつさえ殺害しようとした。大衆の目の前でね。このことは今まで彼の情報とは大きくかけ離れることだ、だから互いの顔を突き合わせて情報を引き出そうって事だよ」
無茶苦茶な捜査方法だな。俺が嘘ついたらどうすんだ?……それとも嘘が見抜けるとか?そんな二つ名を持っててもおかしくはないよな。
「さあさあ、君達互いに見つめ合っておくれ。何か思いついたことがあった遠慮なく言ってくれ」
そう促されて『怪腕』を見る…………こうして見ても見覚えはない。
そしてそれはあちらも同じようで、『怪腕』も困った顔をしているようだ。
こうして見つめ合ってもらちが明かないのでこちらから質問することにする。
「なあ」
「なんだ」
「なんであんたは俺を襲ったんだ?」
「さあ?」
「はい?」
『怪腕』が言うには俺を襲う明確な理由は無かったとのこと、正しくは何かあった気もするが思い出せないとのことだった。これは『怪腕』が今回の事件について一貫して証言していたことらしい。
理由もなく襲われたこちらとしては非常に迷惑である。
そしてこれで俺がこの場にいる意味は消失した。そもそも呼ばれた理由が『怪腕』らしからぬ行動の原因究明で、本人にも分からないことを究明しようとして狙われた俺が呼んで何かしらの反応が無いか調べるためだったのだが、結局何も分からなかったと言う事で決着した。
しかし俺が席を立とうとしたとき、
「なあ」
「ん?」
『怪腕』の方から話しかけてきたのだ
「なんでお前は俺を恐れなかったんだ?」
「どういうこと?」
「あの場でお前以外にも俺に気づいていたやつはいた、だが全員が俺を無視した。俺を恐れたのかそれとも俺とやってもいいことが無いと見逃したのかは知らんがね。お前だけだ、俺を俺だとはっきりと宣言したのは。なぜ俺を恐れなかった?」
そう言った後つぶやくように“俺は目立つからな”と『怪腕』は言った。
なんと俺以外にも気づいていた人間はいたようだ。というか俺が気づくくらいなんだから他の奴が気づく可能性は全然あったよな。
そう言えばツバメも気付いていたっぽいこといってたし。この世界の人間は犯罪者についてかなり適当らしい。
もしかしたら割に合わないと思っているのかもしれない、『怪腕』の懸賞金も後で見たら金貨30枚とあり、サクラから聞くと大金ではあっても命を懸けるかと言われると微妙な金額らしい。
個が強いとこんな負の面が出るんだね。元の世界ではなかなかお目にかかれない状況だ。
俺が声をかけたのもそんな事情を知らなかっただけだけど、せめて出ていく時くらいかっこつけていこうか!
「いやー人を見た目で判断するなって言われて育っただけだよ」
そう言ってにやりと笑ってやると、その場にいた人間は毒気でも抜かれたのかクスリと笑った気がした。
その時、
「あぁ、そうか………。何で俺がお前に攻撃したのかが分かった気がする」
『怪腕』が言った
「な!本当か!?」
問いかける勇者を無視して『怪腕』は俺を見すえて
「お前は似てるんだな、『悪』に。だから俺はお前に反応したのか」
「あっ『悪』?!バカないるはずがない!」
その言葉に勇者は激しく反応した
◇
『怪腕』の証言でその部屋はおろか、役所そのものが蜂の巣をつついたような騒ぎになり俺は晴れてお役御免となった。
マーチスが玄関まで送ってくれたが“これからすぐに王都に向かうついでだ”と言っていた。どうやら『怪腕』の証言はかなり衝撃的なものだったらしい。
しばらくしたら王宮から宣言的なものが出るから、それまで俺にもあまり今の証言を言いふらしたりしないようにと頼まれた。
そう言われた後、ついでとばかりにツバメの賞金を押し付けられ、数えてみたら少し金貨の量が多い。聞いてみると勇者からの迷惑料込と言われた、多分口止め料的な意味合いもあるのかな?
『悪』ね、そんなに衝撃的なら後でサクラに聞いてみよう。そう思って病院に戻ると、
「お兄ちゃんホントに大丈夫なの?」
「当たり前だろ!お兄ちゃんはあの『怪腕』を倒した男だぞ!」
「……と本人が申していますので、今日はお暇させていただきます」
「いやお嬢さん、お宅のお兄さんはね、肋骨7本骨折と内臓損傷、全身打撲に足なんか筋肉ブチブチでまともに歩けないはずだよ!」
「大ジョーブ!」
「本人がそう言っていますので、それにほら兄は丈夫なことが取り柄みたいなとこがありますので」
「ですが医者としてはね!」
なんだこれ?
どうやらツバメを入院させるか否かで話し合いをしているようだが、なぜか水掛け論みたいになってる。
「あっアキラさん!お手数ですが馬車の準備をしていただいてもよろしいですか?こちらはどうにかしますので」
「それはいいけど、いいのか?ツバメ話聞いた限りかなりの重賞っぽいけど」
「大ジョーブ!」
「大丈夫です、お兄ちゃんは丈夫なのが取り柄ですし、一泊なんてしたらお父さんが心配してしまいます。(あと入院代がバカになりませんし)」
後から聞こえた部分が本音っぽいな
「あっそ、とりあえずがんばれ、これ『怪腕』の賞金な」
「あっありがとうございます!あら?少し多くないですか?」
「多い部分は俺の働き分かな?」
「ありがとうございます!」
そんな周りに花が咲くような笑顔でお礼を言われたら命狙われた甲斐があるってもんだ。美少女の笑顔¥プライスレス
結局俺が病院を後にするまで問答は続いてた
◇
馬車の準備は馬車を預けていた人に教わり終わらせた、春菊はかなり頭のいい馬らしく会ったばかりの俺を覚えていたようだ。割と簡単に馬具の取り付けが終わった。
ご褒美に春菊に飼い葉を与えているとサクラとツバメがやってきた。……あとなぜかさっきの医者がついてきた。
「なんで?」
聞いているとまだ話し合いは解決していなかったらしい。
「いいですかうちはお兄ちゃんを入院させるお金なんてないんです!あきらめてください!」
「君が今持っている賞金はなんだね!私は医者の義務としてこの重傷者を逃がすわけにはいかん!」
「ギャーー!!」
そう言って医者が掴みかかった先はなぜかその重傷者。
いいのか?悲鳴上げてるけどいいのか?
「ははは、やはりやせ我慢していたようだね!さあ今からでも遅くない!病院へ戻ろうじゃないか!」
「加齢臭のするおじさんに掴みかかられるなんて真似されたら悲鳴を上げるのはあたり前じゃないですか!いいから離してください!お兄ちゃん頑張って引き離して!」
「なっなんだと!今の言葉は傷ついたぞ!代償として入院日数を増やしてやろう!」
「入院日数を増やすなんてついに正体を現しましたね!さあ行きましょうアキラさん!お兄ちゃん!さっさとおさらばです!」
そう言うとサクラは馬車に乗り込む、俺もつられて一緒に乗り込むが、御者役のツバメは?
窓から見るとまだ捕まっているようだが…あっ倒した、そのまま少し引きずった後、引き離し御者台に乗り込み馬車を動かす。
肩で息をしているところを見るとかなりの死闘だったようだ。
後ろから“カムバーーック!!”と聞こえるが聞こえないふりをするのが賢明だろう。
「良かったのか?」
「いいんですよあの人は。せっかく腕はいいんですがお金が好きすぎて中央で問題起こしてこの街に飛ばされるような人ですから」
それは医者としてどうなんだろう?
聞いていくと“腕は”確からしい、あくまで“腕は”だが。
馬車を飛ばして街の門まで来ると、マーチス君とすれ違った。
彼はこれから王都に向かうと言っていたが馬でも使うのか?と思っているといきなり走り出した。
うわっすっげえ馬車と並走してるよこの子。
「どうもっす!」
「すげえな馬車と並走できるって」
話かけてきたので、素直に感心したことを伝えると、
「そうすか?勇者のパーティーではできる人多いっすよ?」
“やっぱ選ばれる人って違うな”って思いました。ちなみに勇者たちがいないのは『怪腕』護送のために1日止まってから街を出るかららしい。そしてパーティーの中で一番足の速いマーチス君は先に王都に情報を伝えるんだとか。
少し話した後、進む方向が違うのでマーチス君とは少し先で別れました。
俺達に合わせていたのか分かれたとたんさっきの倍くらいのスピードで走ってた。
感心したばかりだがまた感心させられたよ。
勇者はツバメの200倍くらい強い設定です。
1章は毎日更新!
そして次で1章本編は終わりとなります。




