1-13 『怪腕』の物語
これで終わりか(グローブ)
『怪腕』のグローブことグローブ・リリーフは王国の上級貴族の家の次男坊として生まれた。
もしかしたら彼の不幸は生まれ落ちた時から始まっていたのかもしれない。グローブが生まれた時、彼を取り上げた助産婦は悲鳴を上げた、父親は顔を歪め、母親をこれは自分の子供ではないと泣きながら断言した。
彼は変形した腕をもって生まれた、ただ変形しているだけではなくそれはおとぎ話に出てくる悪魔のような形をしていた。
どす黒いとすらいえる色と鋭くとがった指、握力も普通の赤子どころか成人男性に匹敵するほどの力を持っていた。
彼が生まれた場所が貧民街なら親に大切に育てられたかもしれない、もしくは捨てられその生を早々に終わらせていたのかもしれない。
しかし彼は生き残った、残念なことにそれは幸運などではなかったが。
彼の事は直ちに緘口令が敷かれ生まれた子供は生まれた時から死んでいたことにされた。
貴族としてのメンツの問題として彼はこの世からいなくなった、が、しかしながら父親は彼を哀れんだのか実際は家の地下牢で育つことになった。誰の目にも止まらないように。
◆
彼の幼少期の世界は地下牢の4m×6mの小さな部屋だけだった、正しくはその先にある通路も含まれるが。毎日やってくる使用人によって与えられる食事は子供の食事量としては少なすぎた(どこかで死んでくれないかという願望もあったのだろうが)がそれでも生まれながら丈夫だったのか彼はすくすくと育った。
使用人以外では彼の元に現れるのはたまに現れては少し見てはすぐに引き返していく父親、母親は見るのも嫌なのか結局一度も現れずにいた。そして彼にとって天敵と言える存在、2歳上の兄と3歳下の弟である。二人は子供特有の残酷さで彼を虐めて遊んだ、持ってきた棒で突き、汚水をかけ、虫の死骸を食べ物に混ぜ、とにかく子供が行う悪逆非道を全て行った。
彼はなぜ自分がこんな目にあっているかを考えて、結局自分と彼らで違うのは腕くらいしか思いつかなかった。兄弟たちの腕は自分と比べて美しかった。
彼は兄弟の前で自分の腕を折った。
その後彼の前に兄弟は現れなくなった。
虐めは無くなったが自分は結局仲間には入れてもらえなかった、そのことを彼は悲しんだ。
◆
彼がいつものように床の砂粒で遊んでいると上から大きな物音が聞こえた。
何かが倒れる音なのか、それとも誰かが倒れる音なのか、彼にはさっぱり分からなかったがその音は少し経つと収まった。しばらくすると今まで見たことのない男たちが4人自分の前に現れた。
「なんだこのガキ?」
「オイ見ろよ、変な腕してやがる!」
「見世物小屋にでも売るか?」
「とにかく扉を開けるぞ」
そんな会話を聞いても彼にはさっぱり理解できなかったが、ただ生まれて初めて目の前の扉が開かれたことにただただ驚いていた。彼はそこが開くとは知らなかったから。
「ほれ出てこいガキ」
「おーこっちこいこい」
彼は外に出る
「なかなかでかいな……」
「まあ、大丈夫だろ」
そして彼は相手を殴った
「「「へっ?」」」
彼は兄と弟に教わった接し方で相手に接した、兄弟は笑いながら自分を痛めつけた、自分も笑うために感謝を伝えるために彼らを痛めつけよう、皮肉にもそれが一番長く接した相手との接し方だった。
◆
入ってきた男たちが動かなくなったので、彼は階段を上った。別に形が無くなるまでやっても良かったが好奇心の方が勝った。
彼は生まれてから眺める事しかできなかった階段を上った。
「あー」
上った先にあったのは燃えている館だった。
もう動くものはいないのか、ただ燃えている。
燃える屋敷をきれいだと思いながら大きな階段を上ると。そこに見覚えのある男が倒れていた。父親だった。切り殺されたのか大量に出血している、彼は父親を無視して進む。特に感情は抱かなかった。
母親も同じく倒れていたが彼は一度見たことが無かったので別に興味も起きなかった。
しかし同じく死んで倒れていた兄弟には大きく心を動かされた、兄は立ち向かったのか縦に真っ二つにされて死んでいた、弟は逃げ出したのか少し離れたところで家具に押しつぶされて死んでいた、二人の腕は死んでなお美しかった。
そして彼は手を伸ばして………
◆
兄から一つ、弟から一つ、念願の物を手に入れた彼はさっそくそれを身に着けることにした。
自分の腕が取り外せないのは折った時に知っていたので服を着せるようにした、中身はそいだ。
不格好ながらも身に着けたそれを彼は嬉しそうに撫で意気揚々と外に繰り出した。家が崩れるのは知らなかったがここには興味はもう無かったから。
◆
それから数年後、彼はスラムにいた。
言葉は自然と覚え、腕っぷしの強さからある組織で用心棒の真似事をしていた。奇妙な腕をしためっぽう強い男がいると話題だった。
組織のボスはしたたかで常に2の手3の手を考える男だった、そのことから組織は順調に頭角を現していった。彼はボスの生き方をまねることにした。
しかしながら出る杭は打たれる、ある日自分のいない時間に組織は襲撃を受けた。相手は商売敵、生き馬の目を抜く世界で珍しくボスが油断した瞬間を狙った犯行だった。
自分の巣を壊されたことに怒った彼は商売敵をたった一人で壊滅させ、彼は組織の次のボスを任せられた。そして彼は大いに話題になった、今までの比ではないくらいに。
いつの間にか彼は『怪腕』と呼ばれるようになった。
◆
そこからは早かった、ボスの真似事をしているうちに組織は大きくなった、組織が大きくなれば取引も大きくなる、しかし彼は慎重に事を進めた前のボスはそのせいで滅んだのだから。
そして組織は王国中央では比類なき大型組織になっていた、北や東にも同じ規模の組織はあるが王国では自分たちが一番の組織だと自負できた。しかしこのころになっても油断なく組織を動かした。そう油断は無かった……
◆
万全を期したはずだった、策に策を重ねたはずだった、しかし組織は滅んだ、たった一人の男の手によって。
「では君達は僕の手駒になってもらおう」
そう言ってかざされた手から誰も逃げることはできなかった、『怪腕』を除いて
頭をめぐる命令を力ずくで押さえつけ『怪腕』は逃走した
「あっ逃げた、まあいいか。あはは逃げろ逃げろ『怪腕』のグローブ。組織を捨ててさっさと逃げろあははあははあっはっはっは!」
『怪腕』は知った歴史は間違いではなかったと、
『怪腕』は逃げた自分とは格が違うと、
『怪腕』は……
◆
そして今『怪腕』は捕まった
「あんなガキに負けてしまうとは、俺も鈍ったな」
慎重派の男『怪腕』はどこに行ったのか、自分で自分を情けなく思いながら。
膝蹴りを入れた時なぜ追撃しなかったのか、最後の攻防でなぜ真正面から受けたのか、それよりもなぜ自分はあの青年を襲ったのか。
あの時は逃げるのが正解だったはずだ、勇者が来ていたとしても逃げるだけなら何とかなったはずだ。なのになぜ……
『怪腕』が答えを出すより先に答えはやってきた。
◇
呼びに来たのはまだ小さな少年で小学校低学年に見える美少年だった。
「では、ご案内いたします」
それだけ言うと彼はクルリと後ろを向けて歩き出した。
「えっと今から行く場所はどこなのかな?」
「この町の役所です。地下牢があるので」
会話終了
いやいやあきらめるな!
「えっとお名前は?」
「それは必要なことですか」
気まずくなって適当な質問をしたらぎろりと擬音が付きそうな目で睨まれた
うんあきらめよう!そう思った矢先に
「クルトです。苗字はありません」
と話してくれた。ツンデレさんなのかな?
良しこのままドンドン行こう!
「好きな食べ物は?」
「パスタが好きです」
「趣味はある?」
「人間観察ですかね」
「特技は?」
「体を動かすことはかなり得意です」
「最近気になってることは?」
「ただの案内役に馴れ馴れしく話しかける人はホモなのかと気になっています」
「違うよ!ちゃんと女の子が好きだよ!」
えらい誤解されてんな!
まあ滅多にいないレベルの美少年だし、そっち方面の人なら喜びそうだ。
もしかしてこの子何回か危ない目に合ってるのかな?だからそういう発想になるのかな?
「着きました、僕はこの後別の仕事があるのでここから先は別の案内役にお願いします」
話をそらされている間に役所の玄関に着いた。
つーかここまでだったら説明されたら普通にこれたと思うんだけどな。
この子なんなのかな?そう思っていると颯爽とした足取りで行ってしまった。謎の美少年クルト君。
◇
中に入ると勇者のパーティー(仮)の少年がいた。
「君は……」
「お、来たっすね。では早速案内するっすよ」
ニコニコと笑いながら歩く彼に俺は一言言っておきたかった事を言ったおく。
「とりあえずありがとう」
「へっ?なんの事っすか?」
「いや俺が『怪腕』に襲われそうになってた時に針か何か投げてくれたのは君だろう?あれがあったおかげで助かった」
「えっ、ええー、なっなんの事すっかねー?」
焦りながら出来てない口笛を吹こうとする彼はなかなか見ていて面白かった。
気づいてはいけないことだったようだ。まあ密偵みたいなのがバレたらおしまいだもんな。
「ところで君は勇者のなんなんだ?」
「おや?知らないんすか勇者のパーティー?」
「いや最近こっちに来たばっかでね常識に疎いんだよ、ごめんね。」
「別に大丈夫っすよ。ええーと勇者のパーティーってのは勇者を助けるためにギフトを貰った奴の集まりっすね」
「ほうどんな人がいるんだ?」
「えっと俺のほかに今回来てるメンバーは『magician』のセリス姐に、『fencer』のケンシン兄ちゃん、『fighter』のフルア兄っすね」
「じゃあ君は?」
「俺は『thief』っすよ、『thief』のマーチスっす」
ニコニコ答えてくれるなこの子、情報漏洩とか大丈夫なのか?それともそもそも公開されてる情報なのかな?
「お兄さん、突っ立てないで行くっすよ。ここから階段なんで足元気をつけてっす」
「ああ、悪い」
いつの間にか立ち止まっていたようだ。
考え事をすると動きが止まるのは悪い癖だな。
俺達はあまり掃除されていない階段を下っていく、明かりが少ないので暗いな。
何枚か頑丈そうな扉をくぐり、そこにたどり着いた。
「さあ御対面っすよ、アニキたちがいるとは言え気を付けてっす」
「サンキュー」
さあようやく御対面だ。
遅れてしまって申し訳ありません!
あとこの話を分割したせいで前回予告した五大世界の残りの話はさらに伸びることになりました。
1章は毎日更新します。




