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二つ名転生  作者: 薪村 尚也
3章 北方小事
101/111

3-EX2 当代一の剣客は

昼か………。ついに、始まるのか………。迷うなよケンシン………。(フルア・オービレ)

ペンドラゴン王国

王都

この街は王城を中心にすえ、四層のエリアに分かれている。

一層目を王城、王と王族が住まう場所。元々は平野であった場所に土を盛り一段高く作られている。

二層目に貴族たちが住まう場所。貴族たちはさらに宗家と分家に分かれ、その血がより濃ければ濃いほど内部に近づく。また王城で働く貴族より身分の低い人間は、ここに特例で作られた集合住宅で生活する。

三層目には平民たちが住んでおり、最も広く最も人が多いエリア。街並みが整理されている場所とそうで無い場所の差が激しい。良くも悪くも商業が盛んである。

そして四層、具体的には壁。古くは外からの蛮族たちの攻撃を防ぎ、今は貴族たちが管理する貿易の関所になっている。過去の名残で高くそびえ、内部には志願兵や、転生し『(キング)』のギフトによって兵士となっている転生兵が在住。未だ戦争が続いている王国では欠かせない人材たちだ。


そんな王都で時代に名を残す、大騒動が行われようとしていた。



第二層、貴族街

その一角を担う大家の庭。

この家の家主は王国の中でも一・二を争う貴族の宗家、そのため庭は桁外れに広い。

まず池があり、その池に架かる橋があり、池には島が有り、更にその島自体にも平屋の建物が何軒も建てられほどの大きさ。

池の縁には苔をむした岩が並べられ、周りには草がその緑色を輝かせ、更には池から流れ出す川まで作られている。

見る者が見ればこの庭を「日本庭園」と呼ぶだろう。

そんな見事な庭に似合う、和装をした者が数十人、残念ながらその顔のほとんどは和装が似合いづらい外人顔だが、その人間たちに囲まれて中央で向かう合う二人は、紛れも無く日本人顔と呼ばれる顔つきをしていた。


一人は若草色の着物を着ており、短く切りそろえられた黒髪と大きな目が特徴的。どうにも嬉しさを押さえられないと言った表情で、屈伸運動を繰り返す。

彼の名は、ソウシン・タケダと言う。

相対するもう一人は藍色の着物を着こみ、前者よりも背が高く切れ目。長めの黒髪を後ろで一本に結び、地面に姿勢よく正座を行い、静かにその時を待っている。

彼の名は、ケンシン・タケダである。


対照的な二人だが、共通するのは両者ともに「刀」を腰に差している事。

そして共通する苗字で察せれるが、彼らは同じ父親の血を引いていると言う事だ。

最も母親は違うので、腹違いの兄弟ではあるが、それでも彼らは兄弟だ。


そんな、同じ血を分けた彼らが「真刀」を差してまで対峙する事には訳がある。

今日ここで、世代最強の剣客と、この家の次の当主、を決するのだ。



今日のために、下草は見事に整えられ、その刈られた短い葉をわずかに風に揺らしている。

彼らの履物が草履だとしても、足を取られることは無いだろう。

周りを固めるのは人間の体格は総じて良い。いや、この集団の平均はこちらの世界でも、かなり高水準だった。

それもそのはず、彼らは王国軍の上層部の人間たち。

帝国や龍国の様に「力こそ全て!」と言うほど強硬では無いが、軍と言う力を行使する部門で、上に立つ者が下の者よりも弱いのはそれなりにみっともない。

特にここに居る人間は、王国を永らく支え続ける貴族の中でも、特に軍部に根を張る血筋の者。伝統的に幼少期から厳しい教育と訓練を受け、その肉体を鍛え続けている。

一般的に肉体とは、人によって多少の個人差はあれど、鍛えればその時間と質がそのまま表面に出るもので、そのため鍛え続けている彼らの体格が良いのはある意味当然なのだ。

そんな、総じて威圧感のある彼らから、遠巻きながら囲まれている二人だが、その目にはお互いしか映っていないのか、見つめ合ってからお互い視線を外さず、既に3分が経とうとしていた。


そんな中、取り巻く彼らに最も近い人間が、沈黙に耐えかねたのか声を上げた。


「ふー………、いつになったら始まるのだ? ここに居る人間の役職上、このまま見合って夜まで待つわけにはいかんだろ」

「申し訳ありません叔父上。………ですが、本来の立会人である現当主の父上が戻るまで始める訳にはまいりません。ご容赦を」

「叔父上、叔父上。心配しなくても俺を含めてここに居るみんなが同じ気持ちですよ。早く知りたくてしょうがない。俺と兄上、剣客としてはどちらが上か」


当の本人たちはそう言って現当主である、彼らの父親との跡目争いで敗れた兄、叔父を諫めた。

だが、叔父は話を続ける。


「ソウシン、勘違いはいけん。周りはともかく、少なくとも俺はこの立ち合いに反対なのだぞ! 実力が拮抗しているからと言って、兄弟に真剣を持たせて斬り合いを命じるとは……。あの愚弟は呆ける年でもないのに、何を考えているのだ!」


叔父は“あり得ない”と言うように、イライラした口調で頭をガリガリ掻いた。

それに対して、ケンシンは目をつぶったまま答える。


「叔父上、そう言ってもこの方法は王国史では幾度となく選ばれた手段です。剣に生きる者として、恨みっこなしで終えるには、一種の適解であるはず。何より………」

「何より?」

「この戦いは、現当主ではなく、争う双方が了承しなければ行われません。そもそも命を賭けるのは次期当主候補ですからね」

「だ・か・ら! それがおかしいと言っているのだ! 真剣での斬り合いは一生もののケガを負うかもしれん、下手したら死ぬのだぞ! 何よりお前たちは兄弟なんだぞ! 次期当主の(そんなもの)なんぞのために命を捨てるのか!」


叔父は強い口調で、二人を諭す。

叔父が兄弟の父と当主の座を争ったのは20年以上昔の話である。しかし叔父にはやる気も才能も無かったため、正しくは“負けた”のではなく“引いた”と言うべきだ。

元々当主と言う役割にも剣客としての役割にも興味を示さない故、極めてまっとうな言い換えれば普通の精神をしていた故、この立ち合いには最初から反対していたし、こうして始まる直前まで反対している。

だが彼の考えとは反して、二人は笑った。


「叔父上、俺は次期当主の座なんぞ要らんよ。ただ兄上を超えたいだけさ」

「叔父上、俺も同じです。20年近く剣客として生きてきました、そして目の前に明確で、生涯最強の壁があります。なので超える。それだけです」

「ああ、なんだ兄上も俺が邪魔だったんですか!」

「兄上“も”と言うからにはお前もそう思っていると考えていいんだな」

「アハハハハ、まあ……はい。あ、でも尊敬の方が大きいです!!」

「フフフ、何の励ましにもならんな」


それは家柄から反して争いの場から離れて生きた叔父には理解できない、戦う者として生きた彼らの精神だった。

斬り合いの直前に斬り合う相手を談笑する、異常と言われる精神構造。

軍系派閥の貴族は、この800年でズルズルと人間の領域を離れていた。


「………………ッ! 勝手にしろ!」


そう言って叔父は背を向けると、囲いを掻き分け、遠くに見える屋敷に向かって歩いて行く。

二人はその背中を見つめ、少しだけ後悔を募らせる。

だが、叔父が掻き分けた囲いの隙間から見えた、ちょうどこちらに向かってくる叔父によく似た人間を目にすると、ケンシンを立ち上がり、ソウシンは目を輝かせた。


タケダ家現当主であり二人の父親。

レンシン・タケダの帰還である。



目力の強い鋭い眼が“ギロリ”と二人を捉える。

叔父が開いた囲いは既に散り、レンシンを向かい入れる。

彼に向けられる視線は様々。

兄弟を斬り合わせると言う非人道的な思考に対する、罵倒と非難。

そして国のために自分の子供すら差し出した忠誠への、畏敬と敬意。


この戦いが次期当主を決めるものである以上、彼はこの戦いが終わり次第タケダ家当主の座を降り、更に王国軍で持つ役職を罷免される。

いかに軍とは言え人が回す組織、人道的価値観が伴わない人間を上に据える事は出来ない。しかしその忠に対する奉公として王国が行うのは、年々更新される国の歴史書の片隅に彼の名を刻むのみ。

この戦いで予想される肉親との別れに対して余りに釣り合わない報酬。

強力な個が優先された大規模な戦争をやっていた昔ならいざ知らず、既に死んだ制度だったはずの戦いをレンシンが掘り出したのには訳がある。


ケンシンとソウシン。

二人は余りにも優秀過ぎたのだ。


『剣聖』の二つ名を継承し続けるタケダ家の嫡男として育てられたケンシンは、幼少期から剣に触れており、歴代でも稀にみる速さで試合での白星を重ねた。

15歳でその白星が300を超えたところで、その剣の腕を見込まれ、王から『fencer』のギフトを賜る。

そうするや否や、幼馴染達と勇者のパーティーに加わり、各地を回り悪人の討伐を幾度となく行い、実戦での経験を重ねていった。

そんな彼の次期当主、及び『剣聖』の継承への道は順調かに思えた。

しかしそれに待ったをかけたのは、ソウシンである。

ソウシンは早い話、天才であった。

ケンシンが勇者たちと共に王都を飛び出したのが5年前、その年に彼は初めて剣を握った。

剣の家系であるタケダ家の生まれでありながら、ソウシンが剣に触れなかったのは理由がある。

・彼が次男だった事。

・3つ上の兄が才人であり既に相当数の勝ち星を重ねていた事。

・彼は幼少期、喘息を患って剣を持つことが出来なかった事。

それらが重なり、彼を含めすべての人間が彼の才能に気づくことが無かったのだ。

しかし健康のため、貴族の教養、何よりタケダ家に生まれたことによる義務、等の色々理由の付いた剣を握った初日に、彼は師範代である又従弟に見事な勝利を収める。

そして剣を握って2年。彼はその頭角を現し、メキメキと腕を上げ、幼少のころから兄が積み上げた白星300と言う記録を瞬く間に抜いて見せた。

それから現在に至るまで、道場での試合で積み上げた白星は先日ついに800を超えた。それに対し黒星は10未満、それも全て剣を握って半年以内の事である。


「ケンシンは間違いなく才人だった、だが真の天才はソウシンである」と道場で噂が立ち上がるまで、そう時間はかからなかった。


ここで困ったのは父親である、レンシンである。

実績を積み重ねた兄か、突出した才を見せる弟か、果たして『剣聖』の二つ名は継承させる者はどちらが正しいのか? 

『剣聖』とはその剣の腕を当代一と認められてこそ、王都で活躍しているソウシンはともかく、地方を周り続けるケンシンの実力は正確には計れていない。

ならば、順当に兄であるケンシンに継がせれば良いものの、急成長を続けるソウシンを見ていたレンシンは、数年後の実力を考慮してその才能に賭けたくなる。

しかもソウシンの実力を見ていたのは彼だけではない、道場で鍛錬をしていた事でタケダ一門全員がその才を目撃してる以上、一門内では「『剣聖』の名を継ぐにふさわしい人材をソウシンだ」と主張する声も上がっていた。

個人の強さが群を上回る世界特有の実力至上主義の弊害である。

双方が実力・名声共に申し分のない人材である以上、下手な決断をすればその時点で一門が割れかねない事態にタケダ家は陥った。

そして話を複雑化させたのは、話の当人同士が、共に『剣聖』の二つ名を求めなかった事である。

一つ前の世代で起きた事件で才能の重要性を知るケンシンは、継承名が才溢れる弟に渡ることもやむなしと考えた。

それに対し病床にて兄の実力と活躍をリアルタイムで聞き、強い憧れと尊敬を抱いていたソウシンは、その功績こそ『剣聖』にふさわしいと主張した。


実績の兄と才能の弟

過去つけた足跡と未来への賭け

才溢れる未来へ投資するべきだと主張する兄と、過去の実績こそ真実だと主張する弟


恐らく両者の意見には決定的な差は無い。

どちらも間違いなく正しい意見である。

そして………意見のぶつけ合いなど、戦場では役に立たない事もまた正しいのだ。


こうしてレンシンは決断した。

兄弟での真の意味での“真剣”勝負を。

『剣聖』を継ぎし彼らが生きるはずの世界でのルール、実力による決着を。

…………そして、戦いの果てに、そのどちらかが地に伏せようとも、血にまみれようとも。

その考えられる最悪、万が一の時には、自分一人が泥をかぶる事でこの事態を治めようとしたのだ。



ソウシンは両者が見える位置で足を止めた父親に話しかける。


「父上、今日はこの様な場を設けてくださり……」

「父ではない」

「え?」

「血肉を分けた兄弟を斬り合わせる親がいてよいものか。私はこの戦いを決断した時点でお前たちの父ではない」

「ですが………!」

「ソウシン、口を閉じろ。父の……レンシン・タケダの出した答えに泥を塗るつもりか」

「兄上………」


こちらを射抜くように見て父でないと主張するレンシンに、意見を返そうとした所を兄に押さえられるソウシン。

兄は、父親の痛みを想像していた。

叔父はああ言っていたが、子供を斬り合いなの平気で下せる決断ではない。その時点で、父は自身の心を潰したのだ。

それでも、それが計り知れないほどの苦渋の決断だと頭で理解するだけで、真にその苦しみを感じれるわけでは無い。

だからこそ、この戦いはどちらかの決定的な勝利が必要なのだ。


そして、ソウシンは聡い。

兄の言葉が頭に染み込むにつれ、父の苦渋の決断を前に言葉を失っていく。

だから


「ああ、もう!! どうしてナンでもカンでも刀でどうにかできないんだろうな!」


そんな言葉しか、吐き出せなかった。


二人が向き合った。

既に囲んでいた者たちは、十メートルも遠くに離れていた。戦いの余波が、自身を斬らないように。

レンシンの声が届く範囲にはもう兄弟しかいない。


「両者、どちらも対面の人物こそが『剣聖』にふさわしいと主張するが、この戦いで手を抜くことは許さん。私は貴様らほど才も績も無いが、本気かどうかの区別はつく。刀を正直だ」

「無論です」

「もちろんです」


そうして両者が刀を抜いた。

キラリと高い太陽を反射し、鋼は白く輝いた。

どちらもタケダ家が抱えた刀匠の作った名作、撫でるだけで毛を剃り落とし、当てるだけで紙が切れる。無論しかるべき技量があれば、人など真っ二つだ。


そんな刃物を向け合っているためその表情は硬い………だがなぜだ? それを見守る父には両者は何処か楽しそうに見えた。

それは、本人が先ほど主張した通り、その領域に達しうる才を持たなかった父親には分からない事。


「(いかん。この戦いで、父がどれほど心を潰したか分かっているのに………)」

「(ああ、だめだ。こんな事、考えてはいけないはずなのに………)」


「「(この斬り合いが楽しみだ)」」


刀に生き、刀に活かされた、兄弟には目の前の戦いは、どんな享楽のを超えるイベントなのだ。


そんな胸中に気づくことが出来ない父親は、右腕を上げる。


「では試合―――」


「いざ『剣聖』の高みへ」兄が静かに宣言した。


「では兄超えの偉業を!」弟が高揚する声で応えた。


「―――始め!!」


レンシンの腕が振り下ろされ、試合が始まった。



三十四代目『剣聖』決めるためにタケダ家の所有する庭で行われた、真昼の決闘


後に、()()()()()()()()()()()として知られる事になるこの戦いは、僅か三分足らずで決着した。

その戦いの勝者は―――

最初はバトルを書くつもりだったけど、長編になるなので辞めました。

今回は中編、次回は短編の予定。


なんでかやった事もないキャラ紹介

ケンシン・タケダ:21歳。アキラが勇者に助けられた時に居た和服の人。2-EX1で酒飲んでて殴らなかった方。この後の話の展開で悲劇が。

ソウシン・タケダ:17歳。もう少しで18歳。2-EX1以降に思いついたので設定が出てなかった人。設定が先行して名前は書いてる途中で決まったくらいだが、作品の裏テーマの一つ「アキラ基準の天才」でも天才枠に入るマジの天才。この後の話の展開で悲劇が。

レンシン・タケダ:45歳。目つきで強キャラ感を出しつつ、剣の才能はケンシンの半分くらいの人。ソウシンと同じく名前は書いてる途中で決まった。ちなみに目が鋭いとこがケンシンに、目力が強い所はソウシンに受け継がれた。この後の話の展開で悲劇が。

ケンシンたちの叔父:名前決めてない。




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