3-EX1 暗殺者の過去、現在、そして・・・・
C国の抱える山脈の一つ。
年中霧が覆いつくすその山頂に、秘密裏に作られた施設があった。
それは今のC国という国の体制が出来る遥か前、大陸を統一せんとする権力者がぶつかり合っていた時代から存在する、ある目的で子供を養成する施設。
遠い過去から存在するそれに名前は無く、どの時代のどの国にも属さず、ただ「施設」とだけ呼ばれていた。
其処は身寄りのない子供を用途に合わせた機械に改造し、そして機械を出荷するだけの施設だった。
ヨウ・ユエンがその「施設」にたどり着いたのは5歳の時である。
ヨウ・ユエンは他ならぬ両親の手で売り飛ばされた。
ヨウは両親についてあまり覚えていない。
別離の時。
ボロボロと泣きながら別れを惜しみ、しかしヨウが伸ばした手を掴むことなく、頭を下げたまま、彼らは最後までこちらを見ることは無かった。
そのせいで顔は思い出せない。
ただ、最後に父が呟いた言葉、『これで……! これで………生きられる! 生きられるんだ!』と言う自己肯定の言葉だけが耳に残り。
その言葉で、5歳にしては聡かったヨウは、自分が捨てられたことを理解した。
両親に売り飛ばされたヨウを手に入れた人買いは次に別の人買いにヨウを売った、その人買いは別の人買いに売り、そしてまた別の人買いに売られ………。そうして2か月ほど国を回ったのち、最終的に流れ着いた場所が「施設」だった。
「施設」に向かうトラックにはやはり売り払われ流れ着いた子供たちが20人ほど、その大半が泣いていた。
両親と離れ離れになったすぐ後に連れてこられた子供もおり、2か月離れたヨウは既に両親との再会を諦めた事もあって、周りの子供たちをなだめる役に回った。
「施設」に集められた子供たちは、最初の半年を泣いて過ごすことになる。だが次の半年、子供たちは泣かなくなる。
泣くことなど、ここでは無意味なのだと理解するからだ。
更に一年経つと、子供たちは泣くという行為自体を忘れる事なる。
無く暇も無くなるほどに「改造」は苛烈を極めるからだ。
その「改造」とは、一言で言ってしまえば戦闘訓練に過ぎない。
体術を始め、ナイフ、拳銃、毒、etc……。
人殺しの術を何でも詰め込まれた。
しかし、そのような性質の無いようなのでぬるい訓練では意味がない。結果、限りなく実戦に近い訓練となり死者は当然のように毎日出た。
だが、子供たちはそれこそ毎日の様に送られてきた。
子供の数は増え、減り、増え、減り、を繰り返したが最終的には200人前後で落ち着くことが多かった。
そしてヨウと共に最初に「施設」にやって来た20人は、2年間、つまりヨウが7歳になるまでに彼を除き全滅していた。
◆
更に数年の年月が経つと子供たちの中でも派閥が形成されはじめる。
ヨウはその中でも特に大きな派閥でリーダーを成す事になった。
理由はひとえにその実力から。
ヨウは「施設」の歴史の中でも100年に一人クラスの逸材であった。
頭が良く機転が利き、体術の授業でも白星を重ね続け、最も実力の近い者ですら彼の足元にも及ばなかったことで、その子供は彼の傘下に加わり、派閥がより大きくなった。
そしてヨウが「施設」に入ってから7年。
最初の仕事が下され、彼は山を下りる事になった。
仕事の内容は、ある要人の暗殺補佐。
数人でチームを作り、「施設」出身の大人の仕事の補助を行う指令。
彼と彼が選抜したチームの実力を考えれば難しいものではなかった。
………彼らが誠実であれば。
「悪いなヨウ。サヨナラだ。俺の天下に君は邪魔だ」
その言葉で目を覚ますと、彼は身動きが取れない事に気が付いた。
布を使った簡易な拘束着だが、きつく締められ全く動けない。
状況を整理し、“そう言えば、仕事前に水を口に含んだ………”その思考が定まる前に彼は水に落ちた。
排水でも流れているのか酷い臭いだった。
しかし匂いよりもマズいのは拘束されている事。
当然ながら水の中では呼吸が出来ない。
もがけばもがくほど拘束はきつく彼を締め付け、そして最後の息を吐ききったところで、彼の記憶はまた途絶えた。
………………
………
…
生きていたのは幸運だった。
雨季と重なり増水した川の水が、予定よりも早く引いた。
ただそれだけだったが、運よく生き残った。
河川敷で目を覚ました事で、彼は自分が捨てられた場所が川であったことを知った。
拘束着は水でふやけ隙間が出来ていたため、何とか振りほどくことが出来た。
ヨウは振りほどいた拘束着を地面に敷きその上で横になり、なぜ自分が捨てられたのかを思考する。
最後に聞こえた声は、彼の傘下に入った彼に最も近かった者。
つまり、裏切り。
あの声の通り、そのまま自分が邪魔だったのだろう。
「(そして報告では自分は死んだことになると言う事か)」
“ハハハ”と乾いた笑いが浮かんだ。
そして、ヨウは7年ぶりに涙を流した。
自分に追従する彼らを、数少ない友だと思っていたことをヨウ自身、初めて知った。
◆
その後の10年、ヨウの足跡をたどることは出来ない。
ただ、ヨウが姿をくらました時点から山を降りた「施設」の人間が帰還せず次々と失踪。
「組織」は長い歴史の中で、人材的に最も苦しい時代になった。
そして失踪した人間の中には、あの時彼を川に捨てた小隊たちも含まれていた。
◆
そしてヨウ・ユエンが再び裏の世界では比較的明るい場所に浮上した時。彼はある裏市場の管理者になっていた。
そこはC国の裏社会にて比較的大きな市場、彼の人生の絶頂と言える瞬間だった。
彼が死んだのは。
ヨウの仕切っている市場は決して都会と言えるようなものではなかったが、それでも裏社会の中ではそれなりに需要のある取引がされていた。
グルメ達の腹を満たすための食材(違法)、骨で出来たネックレス(全く趣味が良いとは思えない)、どこかの少数民族の呪いの品と言い張る得体のしれない道具(恐らく毛を血で固めた物)、奴隷(性的なものが大半)、その他諸々……。
まあこの程度の謳い文句では世界中に数百、イヤC国内だけでも100を超える数あるだろうし、もし闇市のような物も含めるならその数は数えることが出来るものではない。
だがこの市場の凄い所、あるいは恐ろしい所は、先ほど挙げた物はすべて『ホモ・サピエンス』で出来ていると言う事だ。
当たり前だがそうなると市場は一気に狭まる。ヨウが知りうる中で同じ規模で行っている市場は2つほど。
まあ、市場がある以上、どんな時代にも変態変人は居るという証明になっただろう。あと、そう言う奴は大概は裏に通じていると言う事も。
だがヨウがそんな憂鬱な仕事をこなし始めて7年の月日が流れると転機が訪れた、彼の仕切っていた市場は先に記した通り都会とは決して言い難い場所である。
そんな場所だからだろうか? その近くの水源でなにか歴史を変える新物質が見つかったらしい。
その新物質についてヨウは詳しくは聞かなかったが、燃える氷と言われるメタンハイドレートの如く、素晴らしいエネルギー資源とのことだった。
ヨウは思った「(もしその新成分が話に聞くようなものだとするなら、何かしらの工場を作るために国はこの付近の土地を買う。それは紛れもなく莫大な利益を生むだろう)」と。
そしてすぐさま行動を開始した。
まずは近隣の土地を買い取り交渉を行った。
だがここは田舎。その日暮らしを行う者が大半の田舎である。
札束をチラリと見せると大した時間も経たず、水源の周りはほとんどがヨウの物になった。
何なら水源その物もヨウの所有物になった。
そしてその日。
その日は雨が降っていた。
夕方、一本の電話が鳴った。
電話の相手は国の役人だった。
内容はまさしくヨウの予想通り、水源の所有権について明日の夕方そちらに向かうとの事だった。
国の役人が頭を下げにやってくるという前日、莫大な金が手に入ると言う前日だった。
ヨウが「人の払った税金で食ってる奴等だ、せいぜい吹っ掛けてやろう」と思って帰宅すると、家の前で雨が降る中、傘もささずに立っている、サングラスで顔を隠した黒スーツの男女二人組が彼の前に現れた。
「単刀直入に言う。水源を渡せ」
彼等はヨウにそう言った。
一語一句間違いはない、紛れもなくそう言ったのだ。
それは交渉でも何でもない、命令口調。
ヨウは「それが交渉する側の立場の言葉か!」とキレて断ると。
「ならば死ね」
その瞬間、ヨウの視界が空転した。
くるくると回る世界を見ながら意識が遠くなっていく…………。
◆
次の瞬間、ヨウは見たことも無い街に立っていた。
時間帯は夜、閑散とした大通り、人が建物の二階からこちらを見ていた。
頭が付いて行かず、呆然としたが、すぐに路地に入り姿を隠した。
彼はあまり人に見られるのは好きではない。
路地に入り、そこで襲ってきたチンピラを締め上げて現状を理解した。
ヨウは死んだ。
正確な理由は分からない。
「(あの一瞬で俺クラスの達人を殺せる者がいるとは飛んでも無い奴がいたものだ)」とヨウは武に少なからず関わった人間として感心した。
あの二人組についてヨウは何も分からない。
接触自体が短すぎた所為でもあるが、全身を黒スーツで固めた彼らには個性と言う物が無かった。
それに憶測を行ったとしてもそれは既に過ぎた事、終わった事である。
ヨウは二人組について忘れる事にした。
だがヨウは唯一覚えていた事があった。
正確には思い出したことだが。
こちらの世界に来て数日後、眠ると夢で思い出したのだ。
目を。
その視線はヨウを捕らえているはずなのに。ヨウを見ていない。
サングラス越しに覗いた、その無関心。
そこで彼は飛び起きた、それと同時に襲ってくる寒気と恐怖。
ヨウは真の意味で恐怖を知った。
裏切りに遭い、人との接点を嫌ったヨウに突きつけられた、空白の感情。
大した接点ではなかったが、それでもありありと感じられる大きな力を。
夢に見るたびに思い出し、こちら側の世界にいるはずが無いのに、暗闇の中にあの二人組を見た気がした。
だからヨウ・ユエンは姿を変える事にした。
◆
それからは早かった。
まず首を隠すほどあった髪と、口元を覆う髭を、全て剃り落とし人相を変えた。
それから肩書も無い状態から個人の暗殺者として名を上げ続け、『飛針』の二つ名を得る。ココまでは僅か1年の出来事だった。
そしてちょうど良い事に、テティスの街を守っていた人間が謎の失踪。
滑り込むようにその地位に就くと、新たに『ハクテン』の名を騙った。
また前世からの経験を生かし、地域により深く根を下ろすために発展していなかった貿易業を主とする会社『北方商事』を起こした。
そして『飛来針』『避雷針』の二つ名を得て更に力を付け……。
『傲慢』レオン・ハザードとの戦いに敗北した。
◇
「(生きてい……る………だと………)」
“ポツリ”と顔に雫が当たり、ヨウ・ユエンは目を覚ました。
目覚めた彼を支配するのは自身の生存に対する困惑である。
彼の意識が飛んだのは、ちょうど空中に放り出される直前。
レオンの拳がまだ下腹を圧迫していた時である。
その瞬間、彼は二度目の死を理解し許容したはずだった。
あの勢いならどうあがこうと逃げる事は出来ず、一撃を耐えたとしても空中に放り出されそのまま落下。約40m下の地面に墜落し死亡するはずだった。
………だが生きている。
訳が分からないが、ヨウは我が身に起こった幸運を噛み締め、首を回す。
そこは何も覆われない空が見えた。
つまり
「(どこかの屋上………なるほど、落下距離が短くて死なずに済んだのか………)」
自身の幸運の正体を理解したヨウは、全身が痛む中起き上がり。
降りだした雨から逃げるように、屋上の出口を探した。
◇
本来なら3分もかからないであろう道のりだったが、終始沸き上がる血反吐ととっくに動かない体と戦いながら、ヨウは1時間以上の時間をかけて建物から脱出した。
幸いな事が続き、その建物は無人であった。
出入口の先は裏路地だったため、何か後ろめたい職業の人間が使っていた建物だったのだろう。
外に出ると、戦闘から何時間経ったのか不明だが辺りは既に薄暗く、そして時間と共に強さを増していく雨。
「この雨なら逃げきる事は可能か………。表に出たら何か情報を………」
そう呟きながら足を引きずるように一歩一歩歩いていく。
そして、もう少しで表通りと言うところで、ヨウの前に誰かが立ちふさがった。
雷撃で無理やり行った治療で片目が使えない事と雨で視界が悪い事が重なり顔は見えないが、立ちふさがる影は二人組だった。
シルエットで見たところ、この雨の中傘をさしていない。
「ハァイ! ヨウ・ユエン。グッドニュースとバッドニュース二つあるけどどっちから聞きたいかい?」
その誰かは出合い頭に笑いながらそう言う。
いきなり建前上隠したはずの名前で呼ばれ一瞬固まる。
満身創痍のヨウはそのテンションに付き合う元気はないため、沈黙で返した。
その沈黙を大して待たずに、誰かは口早に続ける。
「ん~……答えが無いな~! なら勝手に言っちゃうYO! まずはバットニュースから!」
「いえー」
誰かのテンションの高さに対して、もう一人の人物の覇気のない……というか呆れたような声が追従する。
「バッドニュースってのは、君の北方商事が終わったって事! もう完全に粉砕! 爆砕! 大喝采! 後ろ盾も死んじゃったしここから復帰は絶望的だね!」
「いえー」
本当にバットニュースを似合わないハイテンションで伝えられたヨウは完全にフリーズする。
「は?」
「あ、やっと声が聞けたに~! さてさて、世紀の一戦ともいえる戦いに負けちゃって、汗水たらして建てた会社も潰れちゃった、そんなあなたに伝えるグッドニュースとは!」
「いえー」
ヨウのフリーズなどお構いなしに喋り続ける二人……正しくは一人。
「スカウトで~す! 君をスカウトしに来ました~!」
「いえー」
「は?」
会社の崩壊からぶっ飛んだ話に、ヨウの思考は更に固まった。
◇
数十秒の硬直の後、ヨウの脳はようやくまともに機能しだした。
「スカウト………?」
「そう! スカウト!」
「いえー」
「スカウトって言うとアレか? 俺を引き抜くって言う事か?」
「イエ~ス! 我らが“Blank World”では現在来るべき日に向けて戦力を補充していま~す!」
「いえー………あっ、しまったここからの真面目な話は僕が」
そう言って思考停止気味に追従していた声が、ようやくまともな事を言ってこちらを向きなおった。
「ヨウ・ユエンさん。僕らは先ほど話に出た通り、戦力補充のためあなたに声をかけました。ココまではよろしいですか?」
「いい、簡単すぎる話だ。今は機能しない頭でもついていける……だが――」
「――何のためにでしょうか?」
「………当たりだ……」
「イエーイ! ピンポーン!」
「うるさいですよ」
質問を先に言い当てられ僅かに沈黙し首肯するヨウ。
割って入るハイテンションに釘を刺し、声の主は続ける。
「それは申し訳ないですが開かせません。秘匿事項で、詳しい話は組織に入ってからという事となっています」
「お前らは馬鹿か? そんな条件で入るヤツが居るのか?」
「ええ、こういう条件なので苦労してます。………まあ、だからあなたに声をかけている訳で」
「チッ……」
顔が見えない誰かがにやりと笑った気がして、思わず舌打ちをする。
「つまり、後の無い人間の弱みに付け込んでいるという訳か。ロクな組織じゃないな」
「まったくもってその通り。ですが、この北の地で何が行われるのか知りもせず、武器と薬を集めていたあなたの組織(北方商事)だって五十歩百歩でしょう」
「!」
その言葉でヨウの目が見開かれた。
武器と薬、それは秘匿されていた話だったはず。
知っているのは依頼人と売り手であるヨウだけである。
「なぜソレを知っている………イヤ、俺が寝ている間に漏れたのか?」
「いいえ。あなたの部下の指導は完璧ですよ。大量の武器が有ったことは外には一切漏れていません」
「ならなぜ」
「我々の組織は『ロベリア』と協力関係にあります」
「馬鹿な!」
思わず声を上げてしまった。
渇いた喉に大声は痛いが、そんな事どうでもいいと思えるほどの衝撃だった。
会話に上がった名前は、一種の禁忌、かつて土星に現れた“大罪人”の名前。
この名は名乗る事も名付ける事すらも、王国法にて禁止されており、その名前の人物が見つかった場合その人物は強制的に改名が行われ、意図して騙ったとされれば罪人として拘束されるほどである。
それは王国への反逆を意味することだから。
「『ロベリア』だと! ふざけるな、何の冗談だ!」
「冗談でこの“名”を騙る者は居ないでしょう。協力関係にあった僕ですらこの“名”を自称しだした事を昨日知ったばかりです」
「………ヤツは何を考えている………」
「不明です。ですが、この名は準備が整った事を意味するそうです。物理的な意味でも、彼の心情的な意味でも」
額から流れた冷や汗が数滴垂れ、石畳に染みが広がった。
仕方がない、ヨウにとってはスケールが余りに大きな話だ。
彼が行ってきた悪行は暗殺や裏取引程度、すなわち個人もしくは企業で行える範囲の事である。
だが王国への反逆とはつまりは―――
「大々的に革命でも起こすつもりか………」
「ええ、だから彼は『悪』なのでしょう?」
お互いの間で、無意識に避けられていた主要人物の名がついに上がった。
ヨウ・ユエンのハクテンとしての依頼人にして、目の前の組織の協力者。
そして王国の、最大にして絶対的な仇敵。
『悪』が。
◇
「そもそもあれだけの武器を集めて、なぜその考えに至らないのかが疑問ですね。ヨウさん、あなたは何と聞かされていたんですか?」
顔の見えない人物は、当然起こる疑問をぶつけてきた。
あれだけの武器を集めておきながら、なぜ疑問が起きなかったかを。
騙されたヨウは苦虫を噛み締めるように答える。
「あの武器の輸出先は王国中央部の村々に分けて送るはずだった……。名目は組織の支部の自衛と聞いている」
「なるほど………。後で分けると聞いていたから、これ程集まるのはこの場で最後だと思ったと……」
「実際、中央の村同士なんて、ド真ん中に王都がある所為で一番近い場所でも100㎞は離れてる。送った後、もう一度集める事の方が不自然だ。王都に集める手もあるが、それでも検問を超える方法が見つからん」
「確かに一理ありますね。村々の距離は無視できるものではありませんし、王都の守りは………特に貴族派閥が行っている検問は相互監視で万全。地盤が固く、地下に抜け道を作る事すらできないと聞きますし、あなたの考えは間違っていない」
ヨウの答えに頷きながら同意をする誰か。
その声には納得の色が見えたので、少なくともヨウの立場を理解はしたようだ。
だが、その話に絡む者がいた。
「ね~! そろそろ小難しい話は終わりにしてよ!」
「はあ、分かりましたよアイル。………まあ確かにこの話はもういいでしょう。ヨウ・ユエン、どうです? 我々の組織に―――」
「―――アイル? ソイツは女か?」
「ええ、それが何か問題でも?」
「お、気づいちゃった? そう何を隠そうアタシは―――!」
アイルと呼ばれた彼女が、何か喋ろうとする瞬間。
ヨウ・ユエンの脳裏に走ったのは生前の記憶。
雨と、男女二人組と、
………死。
過去との嫌な因果に苦笑いを浮かべ、そしてそれに対して彼は………
「なら断る。そしてくたばれ」
「「は?」」
離別の言葉を吐いた。
恐怖に怯えるなどもうしたくなかったのか、それともトラウマを克服でも考えたのか。
だがそんな事を知るはずもない二人は、予想外の答えに固まった。
その瞬間、ヨウは手のひらから針を打ち出し、地面に突き刺した。
「雨で濡れた地面は、良く電気を通すだろうよ!」
声と共に雷電が走り、地面の水たまりを駆け抜けた。
そして雷電はその場にいた三人を飲み込み……………。
◇
「驚いた………。まさか最後の最後で自爆とは………」
「ゴホホッ! アッハッハ! スゲー痛い!」
一瞬の雷光が去り、その場に立っていたのは二人。
地に倒れ伏したのはヨウ・ユエンだけだった。
二人組は体から黒い煙が上がってこそいるものの、その体勢が崩れる事も無く立ち続けていた。
「アイルどうです? 息はありますか?」
「無い! ホントに死んでら! アッハッハ!」
倒れたヨウに駆け寄り、首元に手を当てると脈を図り、アイルと呼ばれた女は笑った。
そしてその場から離れるともう一人に向かって話しかける。
もう一人は歩き出していた。
「なあなあ、なんで? なんでこいつは自爆なんてしたんだろうな?」
「さあ………。どちらにしろこれで新戦力の獲得は失敗ですか。………まあ元々行き掛けの駄賃。テティスに寄る依頼があったから声をかけただけですし、計画には支障はありませんが………」
「あーでも後輩は欲しかったなー。アタシの後輩はいつ入るのかなー? チラチラ」
「そうですね………まあ、巡り合わせが良ければではないでしょうか?」
「ちぇー。ああ、でもまあ―――」
もう一人に付いて行っていたアイルは、そこで言葉を切り、振り返る。
「アタシの後を継いでくれたことには礼を言っとくか。ありがとヨウ・ユエン」
それだけ言って、彼女はまた歩き出した。
「感傷ですか。面識は無くても、同じ仕事をやっていた人間に」
「感謝だよ。なーんにも無いとはいえ生まれ故郷だし」
「そう言えば一緒に来る時は、随分悩んでいましたしね」
「まあ結果的に後任がすぐに決まって、悩んでたのが馬鹿らしくなったけどね!」
「怪物退治どうしますか? 定期的に戻ってやるなら送り迎えくらいはしますよ?」
「良いよ別に、何か最近は来なくなったらしいし!」
二人は歩いていく。
まだまだ強くなる雨の中、傘もささずに。
たとえそれが打算や計算だとしても、彼が護り手だったことは紛れもない事実で。
そして、彼ら二人だけがその語られぬ最後を知っていた。
ヨウが生き残るルートもあったけど、その場合強すぎて出せないので退場。
能力が強すぎて、人間には大体勝てる。
下手すれば勇者にも勝てる。




