送り火の巫女という存在
キノコの魔物達は、あの後直ぐに逃げてくれたから、大丈夫になった訳なんだけど。
周囲一帯が焦げ臭いわ。
キノコの魔物を燃やした場所は当然、足元の草花も一緒に真っ黒焦げになってるし、外れた所も燃えちゃって、所々ハゲみたいになってる。
うん・・・私は悪くない。
襲ってきたキノコ達が悪いんだ。
そういうことでヨロシクお願いします。
んで、キノコの魔物が燃え尽きた後に、ちっさな火がまだ燃え続けている。
よく燃えるキノコだな。
てか、ほっといたら火事になるよね?きっと。
土をかけたら消せるかな。
手が汚れるのは嫌なんだけど、火の後処理はちゃんとしとかないと、後が怖い。
火事になったら大惨事になること間違いないし。
そうなったら後味が悪い。
この火を消しに行ったのが、後悔でもあるし、今の自分の事を理解する切っ掛けになるんだけど、当時の私は無知だったな。
初っぱな人間じゃ無かっただけ、ダメージが少なくて結果的に良かったかもだけど。
直ぐに消えそうな火だけど、ちゃんと消しとかないとな。
そう思ってキノコの魔物の燃えた後に残ってる火に土をかけようと近くまで行った時。
徐々に弱まっていた火が、突然、左目に飛び込んできた。
突然の事で、尻餅を着いてしまって、痛いと思うか思わないかのタイミングで、景色が一変した。
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え?は!?え!?
視界がやたらと低い。
転んだからって、いきなり草よりも視界が低くなる訳ないじゃないか。
今、私が見てる景色っていうのが、草、草、草。
多分、そこら辺に生えてた雑草と変わりがない様に思えるけど、マジででかいわ。
アンデッドの次は、小人なのか?
流石にこのサイズだと、少し向こうにある街道にも辿り着けないかもだよ?
というか、身体が動かないね。
よくよく見れば、視界も動かない。
あれって、さっきのキノコの魔物だったよね?
こっち来てるんですけど。
やばいやばいやばい。
食われる。
どうにかして逃げなきゃ。
どうしたらいい?
声の人助けに来て。
っっっえ?
勝手に身体が動いてく、キノコの魔物の方へ、ぎこちない動きで。
違う、そっちじゃない、そっち行ったら危ない。
危ないとは思っても、勝手に動く身体はどうすることもできずに、キノコの魔物の足元に行った時、理解した。
多分微笑みを自分の方に向けたのだろう、どうしようもなく不細工で不格好な笑みだったけど、親が子供を見守る時に微笑むような、暖かい気持ちと安心感が伝わってきた。
へぇ~、あのキノコの魔物にも、こういう一面があったんだ。
見た目じゃ分かんないわ。
ということは、今の自分って、あのキノコの魔物と同族なのか。
ファンタジーな世界だから、呪いなのかな?
殺したら、同族になる呪いなんて物があっても変じゃないしね。
これだったら、殺さずに逃げといた方が、良かったかも。
まだ、あの姿の方が、色々と出来てた筈だし、自由に動けてた。
はぁ~~、どうやったら、戻れんだろ。
それから、時間が経って、季節は巡り、二回季節が繰り返した頃。
私のキノコの身体は、他の大人達と同じ位大きくなって、私が殺したキノコの魔物と同じ位まで成長していた。
未だに身体は勝手に動くけど、そういう種族なんだろうって事で、最初の数日で諦めた。
死ぬまでキノコの視点で生きてくだけだ。
そして、更に季節は巡り、季節が二週した頃、私がレリアースに来た季節になった。
日本でいう5月か6月位だね。
こっちはあんまり雨が降らないから、快適に過ごせる気持ちがいい季節。
この2年の間にも色々とあった。
次々と生まれてくる同族を狩りに来た人間や多種族から、身を潜めて隠れたり、逆に追い返したり。
乾期に水不足で徐々に萎びていく自分や仲間の身体を見て、次死ぬのは自分の番だと、晴れた空を睨んでみたり。
次々に問題が起きては、それを乗り越えて、全滅を逃れながらも、徐々に数を増やしていく、そんな生活だった。
そして運命の日がやってきた。
気がついたら、近くに一人の少女がやって来ていた。
深めにローブを被り、顔が見えないようにした、みすぼらしい格好の少女だ。
たまに同族を殺しに来る人間とは格好も違うし、敵意がない。
これは格好の獲物・・・
あれ?どっかで見たような・・・・・
てか、自分じゃん!?
どういうこと?
それから、二年前に起こった事件を繰り返す事になった。
最初は突然動き出した仲間達に怯えた様子だった少女。
同族達も久しぶりの水や大地以外の食事にありつけるからと、我先にと少女に群がろうとしたが、少女が放った炎によって、状況は一変した。
燃えていく仲間達。
身体に火が付き、悶え苦しむ姿を見て、勝手に動き出す身体。
どれだけダメだと、逃げろと念じてみても、伝わらない。
ただ、無計画に少女に向かっていくのを見ているしか出来ない。
当然、無防備に近づいていった自分にも少女の炎が当たり、燃えだす自分の身体。
熱い!熱い!熱い!
徐々に薄れゆく意識の中で、この数年の出来事の意味を漸く理解した。
ああ・・・そう言うことか・・・
これって、そう言うことだったんだ。
私が殺したキノコの魔物の記憶を見ていたんだ。
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気がつくと、私は元の身体に戻り、尻餅をついた格好のまま、涙を流していた。
暫くの間そうしていたけど、立ち上がり、次の小さくなった炎の記憶を見ていくことに決めた。
それが、殺した者の責任だと思ったからだ。
体感としては数十年、実際には数分で終わったんだけど、途中で記憶を飛ばして見る事に気がつかなかったら、数百年分のキノコの記憶を見るはめになっただろう。
責任とはいっても、全部見る必要ないじゃない?
だって・・・ずーーーーーーーーっと、同じ所から動かないキノコも居たわけよ。
何ヵ月も何ヵ月も。
毎回フルタイムで見てたら、此方の気が狂うわ。
ふぅ・・・・これで見れる分は全部かな?
途中、何個か火が消えて見れなかった分もあるけど、仕方ない。
けど、この満腹感というか、満たされた感じは気持ちいな。
好きな食べ物を、もう入らないって位、食べて満たされた気分だ。
気のせいかもしれないけど、左目の炎も、元気になった気がするし。
これが、今の自分の食べ物になるのかな、此方に来てから普通の食事は食べてないし、唯一口にしたものといえば、ライオネルさんが持っていた水筒のお茶だけだ。
一応その時は、味覚もあるし普通に骸骨側からもお茶を溢す事無く飲める事は確認していたから、普通の食事も可能だろうって事になったんだけど、理解と言うか感じるというか、今回の様に誰かを殺して出た火を吸収する事が食事だと分かってしまった。
かなり業の深い種族になったもんだわ・・・本当に。
食事の度に燃やさないといけないんだから。
最低限の食事で済ませれるなら、できるだけそうしよう。
ゲーム時代、中二病臭くて、カッコいいなんて思って、この種族のキャラクターを選んだけど、実際には本当に怖くて、どうしようもなく呪われた種族だったわ。
読んで頂きありがとう。
ブックマーク等々宜しくおねがいします