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5.和知道の駅「和(なごみ)」(京都府船井郡京丹波町)-若いヒッチハイカーを乗せる

 茅葺き屋根の家の庭で出会った猫にバイバイと手を振って、おれは田んぼの中の道を通り、かやぶきの里の駐車場に戻った。時刻は三時半だったので、わりと近くにある和知町のなごみという道の駅へ行くことにした。

 今来た道を少し引き返し、さらに西の方へずっと由良川沿いに進むと道路は下り坂になり、川幅が急に広くなってきた。なぜだろうと思っていたら、しばらくしてダムが見えてきた。ダムの上はダム湖になっていて、下流は急に川幅が狭くなっていた。

 さらにしばらく下り坂を降りていくと、国道27号線に出た。このあたりは近くを山陰本線が通っている。さらに少し進むと由良川にかかる水色の鉄橋があり、その鉄橋を渡った右側に道の駅なごみがあった。このあたりは旧和知町で、道の駅の裏には由良川が流れ、その後ろのなだらかな山には棚田や民家があり、本当に心が和むような風景だ。


 道の駅の中に入ると、鮎の塩焼きが売ってあったので、三匹ほど買った。時期によっては鹿肉や猪肉の唐揚げもあるという。

 外に出てベンチに座り、買ったばかりの鮎の塩焼きを食べていると、長髪で髭を生やした若い男が近づいてきた。擦り切れたブルージーンズをはいていて、昔のフォーク歌手のような格好だ。かぐや姫の伊勢正三にちょっと似ている。

「こんにちは」とその男は挨拶し、おれの前に立った。おれは「こんにちは」と挨拶を返した。男は続けて尋ねた。

「あのう、このあとどちらの方へ行かれますか?」

「まだはっきり決めてないんですが、この近くのどっかの道の駅で車内泊しようと思っているですよ。どこかいいところありませんかね」

 おれは逆に尋ねてみた。すると男は待ってましたとばかりに答えた。

「それなら、味夢の里がいいですよ。一昨年できたばかりの新しい道の駅で施設も広くてきれいですし、高速のパーキングエリアも兼ねてるから設備も整っていて、人も車も多くて、夜でも寂しくないですよ」

「なるほど、それはよさそうですね。そこへ行ってみることにします」

「それじゃあ、ぼくもそこまで乗せていってくれないでしょうか」

 おれは承諾した。ヒッチハイクとは今どき珍しいなと思った。


 道の駅京丹波味夢の里は、来た道をまた少し引き返す方向にある。車に乗り込むと男は自己紹介をした。名前は森野君といって今二十六歳で、なんと東大を卒業しているという。

「卒業後に大学院で哲学を研究していたんですが、昔の哲学者の研究ばっかりで、いやになったんです。僕はもっと人生とか世界とかを自分で考えたいんです。それで修士でやめて、学習塾や予備校でアルバイトしてお金を貯めて、ヒッチハイクで日本中を旅してるんですよ」

 話を聞いて、おれはいろんな生き方があるもんだなと思った。

「でも今どきヒッチハイクといっても、なかなか乗せてもらえないんじゃないですか?」

「そうなんです。だから道の駅とか高速のサービスエリアとかで、乗せてくれそうな感じの人を探して、声をかけてるんです。そうすると意外とうまくいきますよ」

 おれはなるほどと思った。おれも乗せてくれそうな感じの人だったわけだ。


 一時間もしないうちに旧丹波町に入り、京都縦貫道の方へ少し行くと、道の駅京丹波味夢の里に着いた。隣には塩谷古墳公園があり、駐車場も結構広い。道の駅の裏側が高速のパーキングエリアになっている。建物は新しくて大きく、きれいだ。

「どうもありがとうございました。それじゃあ僕はパーキングエリアへ行って、京都方面へ乗せていってくれそうな人を探すことにします」

 森野君はそう言って、歩いて行った。おれはその後ろ姿を車の中から見送りながら、人生というものについて考えた。


 しばらくして、おれも車から出て道の駅の建物の中に入った。新しいだけあって、トイレもものすごくきれいだ。店内も明るく、フードコートもレストランもある。レストランは高そうだし、今日は昼食でちょっと贅沢をしてしまったので、夕食には店内で丹後名物ばら寿司というのを買って、車に戻って食べた。けっこう量もあって、うまい。

 夜になっても人や車が多く、建物の周囲は明るかったので、おれはベンチに座ってスマホを見た。管理人のばあさんの妹ミツコさんからメールが来ていた。日本各地の知り合いの連絡先が書いてあった。おれはお礼の返事を書いた。

 それからマキさんのブログをチェックすると、今日は但馬の方へ行き、明日は山陰を目指すという。森野君は無事にヒッチハイクできたのだろうか。みんなそれぞれがんばっている。おれも明日の予定を考えることにした。

 



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