ある時代の物語
その日は、偉く蒸し暑くいつ頃からか雲もドンよりしていた。
そんなめんどくさい昼下がり
全国の奥様はお昼のワイドショーを横になりながら見ている時間帯だろうか
四角い視界を横切るようにお世辞にも綺麗とは言えない禿げた墨色の飛行機が5,6台
飛ぶのが見えた。
何となくぼんやりしていた。
2畳半ほどの個室の中には麻袋が2枚ほど置いてあった。まるでこれで寝ろと言っているかのように
ステンレスの粗末なボウルにはフランスパンが3枚、4枚目は食べかけだ
無論、彼はあの後死罪は免れたものの牢屋行きとなったのだった。
そして、彼が考えることはただ一つ
「2時までにはここからでないと午後の仕事に間に合わなくなってしまう」
逃げる事だった。
平和が確立した世界で何故戦争をするのだろうか
それは、平和を維持し人類の戦意によるボルテージを下げるために戦争をする
すれば戦意が下がりまた平和が訪れる。平和が来ると不満が高まる。で、戦争する。
抑制と均衡の関係とはまさにこのことであろう。
この抑制と均衡の関係は天秤がピタリと止まるように釣り合いがとれていなければ
そのバランスが崩れぐちゃぐちゃになってしまう。
そのことで最近まで国の大統領や国会委員らが混じって話し合った結果、こんな
法律が新しく生み出された。
【平和維持バジリコ抑制均衡法】
と言うモノだった。
内容はさっき言ったように平和と戦争のバランスを取るための法律だ。
片方の国は翠豊な山々が在り一面の青い空が一日の始まりを告げる。
が、しかしもう片方の国は片方の国の平和のバランスを取るために戦い
続けねばならないんだ。
あまりにも不公平なこの法律は国民には何の承諾も得ず執行されたのだった。
過去に人間と魔法使いとの戦争が繰り広げられた頃、最先端のテクノロジーと技術をふんだん
に用いた人間はみごとな戦術で魔法使いに勝った。
【平和維持バジリコ抑制均衡法】が出来たのはそれからずっと後の事だったが
戦争に勝った人間は魔法使いを道具のように扱うようになった。
そんな昔からの概念が根づいたのだろうか戦争をし続ける国は魔法使いの国(魔界)になった。
そして法律の名前の影響からか、戦争をし続けるかわいそうな国、誰もが≪バジリコ≫
と呼ぶようになったのだ。
戦争をするのは決まって魔法使いで(魔界戦争)人間は指揮を取り
今朝寝坊した少年を叱った大男も人間で逆を言うと造船工場で働いていた子供たちは
皆魔法使いの子で
誰もが貧しくいつも腹を空かせていた。
ついでに言うと彼らには、名前が無く番号で呼ばれるようになったのも法律が出来てからのことだった。
法律ができる前はチャンとしたナマエがあった。
だが、この世界になってからナマエを使えなくなった。すべて番号
「おい、2時からの作業の時間だ。出ろ」
朝見た大男が鉄の輪に通してある鍵の一つを取り出してガシャッと大きな音をたてながら
牢屋を開けた。
少年は無言で出口を潜ると男は鍵をかけ直して歩き出した。
暗い石畳を歩くとコツンコツンと音がする。その場の沈黙を消してくれるような
その場のBGMだった。
短い階段を上がると眩しい太陽の光ではなくどんよりした雲が出迎えてくれた。
上まで上がりきると男は歩くスピードを速めて少年を引き離した。
「ここまで来れば工場まで一人で行けるだろう。もう君も何百年と魔界にいるのだから
そろそろこの生活にも慣れてもらわなきゃ困るぞ」
「・・・・・・ハイ」
魔法使いは年を取らない
と言っても人生のどこらへんで止めるかは自分で決めることが出来る。
20歳がいいならば20で止めれるし、おばあちゃんになってからだって止められる
時間が止まるのは自分の身体であって外の世界の時間はそのまま
時間が止まっていても外部からの損傷には考慮せず
死ぬことだってありえる
ここで働く子供は時間を止めている。
労働者として
反対側の世界の平和を維持する為だけに・・・・。