7 北の街1
少しタイトルを変えました。引き続きよろしくお願いします。
街に着いてすぐ、俺とプレディは思い思いの洋服店へと向かっていた。俺は学生服の代わりのため、プレディは王女だとバレないための変装仕立てをするのである。
俺は適当にこの世界に馴染みそうな衣服をかき集め、清算を済ませようとした。そこでようやく今の自分には全く手持ちがないことに気づいた。
どうする、今から戻ってプレディにせがむか……? いや、それは流石に男がすたるというものだ。
無駄を覚悟で学生ズボンのポケットを弄ってみると、なんと僅かであるがこの世界の通貨らしき物が出てきた。それと同時になにやら紙製の免許証らしき物も。どうやら、この世界に入り込んだ時点で、そういうことにはある程度順応できてているようだ。
それなら最初から服装もこの世界のものにしておいてくれよ! と少ししてから俺は思うのであった。
会計を済ませ洋服店を出ると、入り口で待っていたのだろうユピシーが飛び出した。
「わぁ、とっても似合っていますショーイチ様。まるで勇者の格好みたいですよ!」
そうとも、皮ブーツにコート、それに巨大なディバイダーを仕舞うためのホルスター。自分でも勇者らしく振舞ってみるつもりだったのだ。これで俺も勇者の端くれかな。
「ふふ、ダメですよショーイチ様。勇者になるにはちゃんとした勇者の免許が必要なんですから」
免許? 免許と言われて俺は心当たりのあるものを学生ズボンのポケットから取り出した。
「これのことか?」
「え。――――え!? どどどどどど、どうしてこれを!?」
しまった、見せるべきじゃなかったか!?
尋常ではない驚き方をするユピシーに俺も内心ヒヤヒヤする。
「ショーイチ様は勇者だったのですか!?」
「あ、ああ、実はな」
かなり目線をそらしながら俺は答えた。
ヤバい、後に引けなくなった。
「ああ! 私ったら勇者である自分があなたを引っ張っていこうだなんて出過ぎた真似を考えていました! これからはあなたについていきます、ショーイチ様」
なんだか、更に増して重くなってないか!? しかも勇者じゃなくてもついてくる気だったろお前は!!
「――おい、ショーイチ。こっちも終わったわよ」
声のする方を見てみると、いかにも庶民らしい、かと言って元の美貌が失われることのないプレディの姿があった。アクセントなのか顔を隠すためか被っているカウボーイハットが本人のワイルドさを表している。お嬢さん、今から馬にでもまたがるおつもりですか?
「――まさか、でもま、そういう趣味はあるけどね。それより、何その格好。勇者のつもり?」
おい、やめろ。事を荒立てようとするな。
「失礼ですね、ショーイチ様は本物の勇者なのですよっ!」
予想通りユピシーはプレディに対抗してしまう。
「何、本当なの?」
俺は力なく勇者の免許証を見せる。
「……ふ、ふーん。勇者だったんだあなた。でも全然役に立たない勇者だし、免許証なんて飾りじゃないの」
あーはっはっは、とプレディは王女には思えないような高笑いをする。……勇者ってそんなに地位の高い職だったんだ。
「もう一生ついていきます、ショーイチ様」
対してユピシーは俺の胸に顔を埋めていた。
……このままではこの街で骨を埋めることになりそうだ。
「うわっ、ショーイチどうしたんだい! まるで勇者の格好じゃないか。もしかして君も勇者に憧れていたのかい。仕方ないなぁ、それなら僕が推薦状を書いてあげようか? 何しろ僕は研修所の教官とも親交が深く――――」
この後ジャックもめちゃくちゃ驚いた。
それからというもの、俺はユピシーと、ジャックはプレディとペアになり、街の中を歩き回った。
街が盛んなこともあってかなり色々なことができた。二人で街の端から端まで歩いてみたり、大ハズレの食べ物を掴まされて笑いあったり、ちょっとしたゲームで一儲けしたり。まぁ、散々なこともあったけど、充実していた。
もしかすると、こんなに楽しかったのは久しぶりだったのかもしれない。
「剣だ剣!!」
剣を作るぞ!!
一旦ユピシーと別れ、俺はジャックと市場へとやってきた。
勇者(という設定)である俺が今更剣を作るというのも変な話だが、そこは俺、「自分に合わなかった剣は捨てるのが主義なのさ」などと訳の分からん理屈を立て、強引にジャックたちを納得させた。
見渡してみるとあちこちから鉄を打つ音で溢れかえっていた。鍛冶屋にしても一つではなく、一種類の武器で数店舗、更にそこから多岐に渡る武器の種類ごとに同数程度の店舗があるらしい。
俺が作ろうとしているのはロングソード(本当は大剣を作りたかったのだがディバイダーが邪魔で諦めた)なのだが、あまりメジャーな武器ではないらしく店舗数も限られているらしい。
特に一番繁盛しているところは客の切れ目もなくかなりの時間がかかりそうだった。
「――ショーイチ、こっちだ。鍛冶屋のことなら僕に任せてくれ、いい知り合いを紹介する」
ジャックに連れられて大通りを逸れて路地裏の方へ入っていく。街の薄暗い雰囲気に少々不安を覚えるも俺は素直についていった。
ぐるぐると、元来た道を忘れそうになるくらい歩き続けると一つの寂れた鍛冶屋があった。
「実はね、ここだけの話大通りにある鍛冶屋はみんな大したことないんだ。表の店の人たちは皆お金儲けばかりを考えてるからね。
それに買う方も買う方さ。大都市だから観光目的で剣を買う人も大勢いる。土産感覚で剣を作ってもらえるほど刀鍛冶は楽な仕事じゃないしね。だから本当に強い剣を望む人のために、こういう見えにくい場所に本物の店が置かれてるんだ」
ショーイチの求める剣もきっと見つかるさ、と笑顔で言われる。
すまん、俺はどちらかと言うと土産感覚で買う人間だ。
「ありがとうな、おかげで助かった。そっちはお転婆姫の方を任せる」
「君こそ、小さな奥さんをしっかりね」
「お前まで、それを言うのか!!」
ジャックは苦笑しながら大通りへ戻る道へ消えていった。
あれ? 俺、戻れなくね?
ま、まぁそれは後の事だと自分に言い聞かせ、俺は鍛冶屋の扉を叩いた。
中に入ると、気だるそうな20代くらいの女性が受け付けに座っていた。他に人の気配はない。
「……あぁ、いらっしゃい。注文どうぞ」
女は俺に目も向けず頬杖をつきながら本を読んでいる。
「何? 注文するなら早くしてよ」
店主らしき女は苛立ちまじりに催促する。
「あ――あぁ、えっと! ……ロングソード一本」
「――そ。ま、ウチはそれしか作ってないんだけど」
だったら聞くなよ!!
「Gの6番、開けてみて」
何のことかと思い、後ろを振り向いてみると文字ごとに分けられた木製の棚があった。女に言われたままの棚を開けてみると、一本のロングソードが仕舞われていた。
俺は残りの金を全て使い切り、そのロングソードを受け取った。特に何の変哲も無い銀色に輝く剣だった。
「それ、傑作だから。大事にしなよ黄金剣」
「傑作? どうしてそんなものを俺に……?」
なんだ気になるのか、とぼやき、女商人は気だるそうに語り出した。
「簡単なことだよ、大抵の客はこだわりなのか何だか知らんがいろいろと細かい注文をつけるんだ。私はそういう奴らがだいっっっきらいなんだ。言われなくてもこっちは最高の剣を用意してやるってのに」
なんだか、だいぶ鬱憤が溜まっているらしかった。裏通りだし、普段から暇を持て余しているのだろうか。
「お前だけだよ、ロングソード一本なんて注文した奴は」
何も考えてなかったのが吉と出るとは。
「そういや、ジャックとか言うのは特に注文が多い奴だったな。あいつには最強の剣だと偽ってとびきり弱いのをプレゼントしてやったっけな」
――――ええええ?!
「冗談だ」
結局最後まで女は本から目を離さず、そのまま黙った。俺は一礼だけするとそのまま鍛冶屋を後にした。いい人なのかそうでないのかは分からずじまいである。
しかし、黄金剣……どこかで聞いたことのあるような。
まぁ、そのうち思い出すだろう。
念願の剣と共に俺は新たな一歩を踏み出す。
その後、迷路のような裏通りから、俺は2時間かけて大通りまで戻るのだった。




