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 これでプロローグは終わりです。もう少しだけお付き合いください。

 俺は気がつくと、パソコンの前で椅子に座った状態に戻っていた。


「――うわぁ、生き返った!!」

 恐らく人生で二度と口にしない言葉だろうと思う。


「どうやら、無事元の世界に帰れたようじゃの」

 俺に追いついてナロウも部屋までやってきたらしい。しかも、幽霊や映像データみたいな物ではなくちゃんとこの世界に足をつけている。と言っても俺の首を物理的にへし折ったんだから当然か。

 ナロウは俺の部屋の中を普通にペタペタと裸足で歩き回り、部屋のいろいろな物に興味津々のようである。


 夕焼けがナロウの顔を照らし燦然と輝く。小学四年生とは思えないほどの艶めかしさに、俺はつい見惚れてしまっていた。

 何となくの気恥ずかしさからナロウから顔をそらす。


 しかし、生き返ったのも束の間、俺の目の前には信じられない光景が広がっていた。

「お……俺のパソコンが台無しに!!」


 さっきのナロウによる落下の衝撃だろうか、うっかり口を開けたままの炭酸飲料は見事にノートパソコンの上に転がり中身をぶちまけていた。飛びつくようにキーを叩くが反応はない、液晶画面もブラックアウト。俺の相棒(約2年の付き合い)は既に鉄くずと化していた。




「なんじゃ、うるさいやつじゃのう。このくらいどうにでもなる」


 その悲鳴に驚いたナロウは、俺の前に立つなりパソコンに手をかざした。すると、まるでテレビを逆再生したかのように、広がった飲料が一滴残らずペットボトルへと戻っていった。


 一瞬の出来事、俺は口を開けて呆然とするしかない。

 時間を……巻き戻しているのか……? だったら、俺を生き返らせたのも同じ方法で。


 ナロウはさあな、と知らん振りするばかりである。明確な答えは簡単には教えてくれないらしい。


「それで、生き返らせてくれたのはありがたいけど、具体的に何をしてくれるんだ?」

「勘違いするな、実際にするのはそなたじゃ。私がするのはただのサポートでしかない。

――そなたにはこの『作家になろう』の作品、即ち異世界へと行ってもらう」


「作品? 異世界? 何を言ってるんだ」

 俺の無理解を見るや否、ナロウはため息をつく。わからんもんはわからんのだから仕方ないだろう。


「いいか? 物事には神が憑くように、物体には魂が宿るように、物語には一つの世界が伴う。それは、この『作家になろう』の物語も例外ではない」


 何となく言わんとすることはわかったような気がする。

「……つまり、『作家になろう』の作品の存在から生まれたこことは異なる世界、異世界に行け、と、そういうことか?」


「そうじゃ」

 ナロウは満足気に首を縦に振って見せた。

 なるほど、言いたいことはわかった。しかし

「異世界に行け――――ってなんだよ!」


「――私が異世界に送り届けてやると言えば、納得するか?」

 即答。


“異世界に送り届けてやる”非現実すぎて頭が痛くなるような錯覚を覚えるが、時間を巻き戻して見せたこの少女にかかればそれもまた朝飯前なのだろうか。


「信じられんか? そなたの命を蘇らせ、パソコンを蘇らせた私を。まったくバチ当たりなやつじゃの」

 命もパソコンも殺したのはお前だろ。


「これよりそなたに行うのは、『異世界クロスオーバー』。現実となろう作品を行き来させる、私固有の能力じゃ」

 ナロウは続ける。


 異世界クロスオーバー……ね。


 しかしまぁ、俺がやるべきことは何となくわかった気がする。こいつはアイデアに行き詰まっていた俺に曲がりなりにも手を差し伸べてくれたのだ。この機会に異世界とやらに行ってみるのも悪くない。




「それと、一度殺めた詫びと言ってはなんじゃが、これをやるから許せ。もしもの時には役に立つ」

 ナロウが念じるような仕草をとると、どこからともなく光る物体が現れた。ナロウはそれを手に取ると、いきなり俺に向けて投げつけてきた。

 光が収まり物体の正体が現れる。それは俺の身長とほぼ同じ刃物らしきものだった。見た目に似合わず重さは軽い。


「……なんだこれ?」

 なんだこのでっかい物差しは、と言わんばかりの真っ白な長方形に近い刃物。材質的には果物ナイフの刃を大きくしただけのようにも見えるが、触れて見るとそうとも言えない質感だった。


「それは《ナロート・ディバイダー》。一撃でなろう作品の主人公を殺すことができる剣じゃ」


「――な、なんだって!?」

 作品の主人公を殺す!? き、危険過ぎる……! だが、これを使えば人気作品の主人公たちを排除できる……!?

「しかしこんなもの俺に与えてどうする気なんだ」


「さあな、使い方くらい自分で考えたらどうじゃ」

 神様少女はそれ以上何も言おうとはしなかった。

 俺は少し構えをとって剣、ディバイダーを振り回してみるがピンとこない。


「……要するに、俺の物差しで主人公の格を計れってか」

「上手いことを言ったつもりか? 逆に白けるぞ」


 そりゃどうも。


「それはせめてもの私からの気持ちじゃ。本来なら渡すつもりなどなかったが、そこは神である私のプライドが許さん。

 おい良かったな、神が人に詫びを入れることなんて滅多にないぞ? 誇りに思ってくれ」


 本当にそうなんだろうか? こんなドジな神なら事故なんてしょっちゅう起こしてそうな気がして俺は素直に喜べなかった。






「――さて、準備は整ったな。さぁ、選べ。そなたの行く世界じゃ、自分で決めろ」


 ……は?

「ちょ、ちょっと待てよ、まだ心の準備が……!」


「思春期の女子みたいなことを言うでない。そなたが選択を渋るのであれば私が行き先を決めてやろう。くれぐれもいい作品に当たることを祈っておるぞ」

 ナロウは念じるように目をつむり何らかの儀式的な行為をとり始めていた。


「ちょ、ちょっと待て!!」

 その様子があまりにも不吉に感じた俺は思わず後ずさる。このままではまた命を落としかねないことになるのではないか、と。


「ほう、どうやら決める必要はなくなったみたいじゃの。そなたが選ぶはその世界か。良いのだな」

「何を言っている!? ……あっ」

 パソコンを背に後ずさっていた俺の指先が微かにモニター画面に触れていた。示していたのは日間ランキング1位の連載作品、題名には「黄金剣世オーロ・ソードワールド」と記されている。




「——渉一よ、そなたに課せた使命はこの作家になろうに投稿された広大な作品を渡り歩くことじゃ。そなたに授けたその剣とともに新たなる世界を切り開くことじゃな」


 ナロウは俺に向かって片手を向ける。


 同時に俺の視界は不自然に歪み始めた。

 意識が途切れるとかじゃない。はっきりと意識が無くなっていくのがわかる。湖の底へ俺の意識は落ちていく。




 ああ、この時から、もう二度と安穏で退屈で、何より普通の日々は戻ってこないのだと、そう予感した。






 ――安心しろ、私も見守っている――


 そんな意味の言葉が、最後に微かに聞こえたような気がした。


 以上、プロローグでした! 次回から第1話スタートです、それではまた明日。

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