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 始めます。しばらくは1日1回更新します。

 A.D.2015 4/1






 その瞬間から、世界は止まる。


 俺は渉一しょういち。普通の高校生であり、一般人だ。


 勉強も運動も友人関係も、まぁそれなりできている。取り立てて紹介できるような秀でた能力はないわけだが、一つだけ普通の人とは違うことをしている。


 それは小説投稿サイト、「作家になろう」に自作小説を投稿すること。

 毎日同じことを繰り返すのに飽き飽きしていた俺は自然とペンを執っていた。なぜならそう、俺という人間が「生きていた証」が欲しかったから。普通のことなら誰だってできる。普通のことは誰の目にも止まらない。だから俺は、普通じゃないことがしたかった。何もしないまま終わるのは嫌だった。このまま朽ちていくのだけはごめん被る、と。


 だから俺はペンを握り、人々の心に残るような物語を作ると心に決めた。

 そういう考え自体は、案外誰でもすることかもしれないが、成し遂げる人間は極めて少ない。

 それは、基本を大切にせず、結果だけを求めている連中が余りにも多いからだ。結局普通を通らなければ普通以上には届かない。そのために俺は今日までコツコツと普通のこと普通にやり続けてきた。なんたって俺は歴史に名を残す人物になるのだから、その辺のことはちゃんと弁えているつもりだ。




 そんな俺の大いなる計画も今日で一つの節目を迎える。今は学校から帰り、丁度家に着いたところだ。

 俺は自室の椅子に腰を下ろすと、すぐにパソコンを立ち上げた。

 約半年前から始めた、渾身の長編作品。それが昨日ようやく一つの物語として完結したのだ。

 作品の反響を確認すべく国内有数の大規模投稿サイト「作家になろう」にアクセスした。

 手早く自作小説の小説情報欄を確認し、アクセス記録をクリックした。

 結果を目にして愕然とした。


 あらかじめ言っておくと、俺はこの小説に自信があった。誰もが目を惹く魅力的なキャラクター、重厚なストーリー、緻密な伏線、演出などなど。どれをとっても最高、最良、小説大賞間違い無しのはずだった。


 なのに、

「これは……何故なんだ……?」

 総アクセス数、3。

 昨日投稿して今日丁度一日が経ったわけだが、たったの3。割合で言うと、8時間あたりに1人。

 要するにたった3人(正確には約3人)にしか俺の小説は見られていないということだ。


 そう言えば俺には同級生に一人の小説投稿仲間がいる。小説を投稿し合う仲というのは思うよりも有るものではなく、そのくくりでは唯一の友人とも言えた。

 仮に、この3人の内の一人が今まで見続けてくれた友人だとすれば、身内抜きの読者が2人しか居なかったということである。


 真相を確かめるべく、すぐさま俺はメールを作成する。


『To 友:お前、俺の作品見た?』そのまま、俺は友人宛に送信した。


 それから1分も経たない内に返信が来た。内容は、

『From 友:見たよ、面白かった(笑)』


 (笑)って何だよ! バカにしてるのか!?

 しかしこれで実質アクセス数が2なのは確実だった。


 そんなバカなことがあるかよ……俺が2年をかけて生み出した超傑作だぞ!? ……信じられん。

 自室で年甲斐もなく、声を上げる。

 特に反応はない、窓の外も、部屋の中も、いつもと同じように世界は俺を無視する。




 ……どうもこうもない、俺の作品は誰からも見てもらえなかっただけのことだ。

 本当のところを言うと、俺の小説は中盤に差し掛かった時点で読者数の伸びが芳しくなかった。

 辛い現実を目の当たりにしても、余裕を失わないほどには、俺は冷めていた。それは自分でもわからない内に心のどこかで諦めていたからなのかもしれない。


 とはいえ、これで俺は今の全てを出し切ってしまったのだ。次の執筆はいつになることか、そもそもこの衝撃的な結果を目の当たりにして再起することができるのか、その辺は今の自分にはわからなかった。


 俺はパソコンの隣に鎮座する小型冷蔵庫から炭酸飲料を取り出し、一思いに口へ運ぶ。

 しかし、炭酸のシュワシュワした刺激には高校生になった今でも慣れず、結局ちびちび飲む羽目になるのだった。


 なんとなく日間ランキングを巡回しつつ、俺は心頭滅却に努める。

 やはり、トップは異世界ファンタジー、次いで悪役令嬢等。ランキング圏外の自分としては羨ましい限りである。

 すると、視界の端にチカチカと気になる光源が一つ。部屋の天井を見上げてみると、蛍光灯が明滅していた。


 電気が切れかかってやがる。面倒だけど後で変えとかなきゃいかんな……。

 蛍光灯の不規則な点滅が、俺の陰鬱な気持ちを更に悪化させる。

 というか、落ち込むどころか、単に目に悪い。絶対悪い。

 いつも真っ暗の部屋でゲームをするくらいには自分の目を大切にしている俺は、あまりにも鬱陶しい光源を消した。


 気がつけば、外はもう夕方だった。

 窓の外からは春の柔らかい陽の光が薄暗い部屋に差し込んでいる。




 悔しい。悔しくて仕方がない。




 言葉で冷静を装ってもダメだ。俺の頭の中は虚しさでいっぱいだった。

 なんせ、自分の2年間の結晶が世界に何の変化も与えなかったのだ。悔しすぎて涙が出てきた。


 相変わらず俺は椅子にどっかりと座り込み、背もたれに身を委ねる。次いで頭も自然と天上に向く。


 ——誰か教えてくれよ、俺に足りないものってやつを。それさえすればきっと今の自分を越えられるんだろう?——


 夏でもないのに冷んやりとした空気が俺の身体を包んだ気がした。






 その瞬間、何もない天井に穴が開いた。


 それは穴というか、なんというか、一瞬のことだったのでうまく言い表せないが、一言で言うと「次元を突き破ってきた穴」のようだった。


 まさか屋根から貫通したのか!? やばい、親に何て説明しようか、なんてちっぽけな思いが頭をよぎるが、実際はそれよりも何が起こるかわからない不安の方が勝っていた。

 よく見れば、穴の向こうに点のようなものが見える。そして点は段々とこちらへ近づいて来ているような気もする。


 何か、漠然とした何かが落ちてくる。

 白い……布? 白いワンピース?

 ようやくそれが白地の服を着た人の背中・・・・だと、認識した時は既に手遅れだった。

 落下スピードも加わり瞬く間にこちらとの距離を詰め、勢いよく顔の上に直撃する。




 俺は首の骨が折れて死んだ。

 死因、顔面騎乗(時速数十キロ)。人によってはご褒美か……?

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