最悪な寝起き
ゆっくりと、暗闇から意識が浮上する。
カチ、カチ、という規則的な音を聞きながら寝返りをうつ。今日は学院の休日だから早く起きなくてもいい。
「眠い……」
授業はいつもいつも朝五時半に起き、朝の鍛錬から始まるのだ。八日ぶりの休日くらいゆっくり眠っていたい。
レオシュは目を閉じたまま寝返りをうつ。朝食だってこの睡魔には敵わないのだ。このまま昼まで寝ていたって誰にも文句は言われない。
「レオシュ」
朝食なんて俺はあまり食べない方だし食堂の人だって遅い時間に起きて来られてご飯くださいなんて言ったって迷惑だ。うん。
「起きてるんだろ? とっとと目を開けろ」
「……俺は寝ている……」
「嘘つくな!」
がっ、と掴まれた掛け布団が寝台の外に引きずられて行く。何をする。
「朝メシ食って脳を目覚めさせろ!」
「…………」
レオシュはゆっくり目を開き、自分の幸せな時間をあっさり強奪していった同室を睨む。
「ヴィレム、貴様……」
学院内ではそれなりに人気のある青年、ヴィレム・ロベルトゥス。金髪碧眼で顔立ちは整っているものの、性格に問題があるのではないかとレオシュは思っている。
「こちとら良かれと思って声かけてんだ。お前の妹さんが下で待ってるぞ」
妹。リーディア。
まだどこかぼんやりとしていたレオシュの頭がはっきりした。そこが二段重ねの寝台の下という事も忘れ飛び出そうとして、上の寝台の底板に頭を打ちつけた。それもかなり強めに。
「……ッ」
「オイ」
呆れたと言わんばかりの表情を浮かべてこちらを見るヴィレム。
「妹の名前聞いて飛び起きるのかよ……まじでシスコンだな」
「……家族が大切で何が悪い? それにそんなのは今更だろう」
開き直ってから今度こそ寝台を降り、クローゼットから自分の普段着を引っ張り出す。
寮の各部屋に備え付けのシャワールームに飛び込み、「入ってくるなよ!」と叫んで扉を閉める。
長髪を結い(ハイネイアス家では男でも髪を伸ばす)、シャツを脱ごうとして、ボタンが幾つか外れていることに気がついて背筋が凍る。ヴィレムの反応からしてわからなかったと思うが。
咄嗟に胸元に手をやる。きつく締め付けた晒しと、その下の薄い鉄板を確かめてほっと息をついた。
「レオシュ」
「なっ……いきなり話しかけるな!」
「悪い悪い」
悪びれもせずにヴィレムがシャワールームの外から話しかけてくる。
「俺、先に下降りてるからな? 早く来いよ」
「わかった」
部屋のドアが開いてヴィレムが出て行く音を聞きながら、レオシュは着替えを済ませる。シャツは当たり前のように第一ボタンまで留めて。
シャワールームを出てから机の上の時計を見れば、もうとっくに八時を過ぎていた。
「……リーディアに謝らないとな」
上着を羽織って、部屋の戸締りを確認してから外に出る。鍵を掛けてからレオシュは早足で階段に向かった。