探偵の名助手。
「あの誰ですか?えっとここ…どこですか?」
いかにも間抜けな質問だと分かっていたけれど、本当に分からない。
床も壁も天井も真っ黒に塗りたくられ、見当たる家具は大きなアンティーク調の事務机一つだけだ。そして、机の上に腰掛けて微笑む青年の顔に微塵も見覚えがなかった。
「おや、いらっしゃいませ。ここは『脳の壁』。ある商品を販売するおみせです。」
青年の靴が床の上で小気味の良いコツコツという音を立てた。どうやら塗料のしたは木製のようだ。
腕時計に目をやると針は深夜2時を指していた。
そうだ。俺はひさびさのブルーサファイアを寝酒として、ソファーベットに朝まで体を預けたはずだ。
ちいさなビルの三階。くたびれてヒビだらけの階段を上った先の事務所は書類と本にうもれている。残ったスペースに置かれたソファーはほとんど俺の寝室がわりになっている。こんな気取った場所ではない。
「事態が飲み込めましたでしょうか?」
狐のような皮肉的なニュアンスを秘めた笑みを浮かべて正装の青年は俺を見つめた。
「えーと、ここは?なんで俺はここにいるんだ?」
「ふむ、とりあえず判定はCですかね」
青年はさらに訳の分からないことを言い、アンケート用紙のようなものにペンを走らせる。
そして俺の方へと呆れと嘲笑を綯い交ぜにした微妙な表情を向けた。
「ここは、どこだっていっている。俺は事務所にいたはずだ」
声を荒らげて三度目の同じ質問を繰り返すと、俺の怒気を感じ取ったのか青年が慌てていった。
「怒らないで下さい。すみません、おふざけが過ぎました。いいでしょ。説明致します。ここはあなたが世に躍進するためにやってきた場所です。今は夢、幻、世迷い言の類と思って頂ければ結構です。しかし、夢から覚めればこの場所が真実であったことを確信してくださることでしょう。今までと違う夢のような世界に出会えたことを…」
「宗教か?それとも薬か?、悪いが両方とも興味はないぞ」
「いえ違います。あなたさまはきく所によれば探偵をなさっているとか」
青年は片目を瞑り、人形のように大きな眼差しでこちらに向けている。漫画だったらドン!みたいな擬音が入りそうなドヤ顔だ。ちょっとムカつく。だがそれだけだ。
「ふーん、よくしってるな。で?」
うっ…な…なぜそれを!?、とでも言うと思ったか?俺が探偵なのはちょっと調べればわかることだ。
「ほう、動じませんね。肝が据わっているというのはプラスポイントです、あなたの評価を少しだけ修正しましょう」
「それはどうも」
「でも、あなたは名探偵にはなれない。適性がない!ていうか華がない!!!あと年行き過ぎてる!頭皮が危ない!!!」
「髪は関係ないだろ!というか適正とか…、会ったばかりのお前にそんなふざけたこと言われる筋合いは無い!」
俺の様子を気にすることなく、青年は胸ポケットから小型の録音機を取り出した。
「…これはあなたが関わった二件の大事件の内の一つ。銀船荘殺人事件の時のあなたの音声記録です。」
カチっという音のあと、すぐさま聞こえてきたのは少しこもった低い声。俺の声だった。
『ええっと、皆さん集まっていただけたでしょうか?…あ、ああ、いえ自首ではありません。僕が…いや、僕は犯人じゃありませんよ刑事さん。犯人がわかったんで…、あ、え…はい、トイレはご自由に。それでは…え、いや犯人分かったなら先に刑事に教えろって、それじゃ犯人を追い詰められな…いや、自暴自棄になった犯人はたしかに危ないですけど…いえ、違います。僕がやったんじゃないんです。これ証拠なんですけど…。はい…すいませんでした。真っ先に提出するべきでした…本当にすいません。ええ』
「うああああああ!!!なんでこれが!?」
「こんな感じであなたはけっきょく個別で刑事に犯人を話すことになって、探偵らしいところを見せられず仕舞い。さらにはそれ以降警官恐怖症になって警察の前だとまともに喋れなくなりましたね。そのおかげで、二年後の地蔵坂の悪魔事件では人員不足のため正式に協力を求められたのにも関わらず、ビクビク捜査されていたとか…警官恐怖症の探偵とかキャラ立ては悪くないんですが…、いかんせん腰が低すぎてちょっとかっこわるすぎますね…」
あまりにも恥ずかしい記憶であった。証拠品をハンカチで手に取りなるほどとポケットに突っ込んで持ち去ったり、勝手に現場を漁ったり、ある意味傍若無人のようにに振る舞える器はなかったのだ。おかげでいまも警察を前にするとつい下手にでてしまう。なんともなさけない。
「だって仕方ないだろう!見つけ出した証拠品には触らずに、警察に電話して鑑識を待っていたり、やっぱり犯人が分かったら先に警察に知らせて令状取ったり!挙句の果てに犯人の寝込みを襲って安全に確保したり、あんなの全然名探偵じゃない!!名探偵ってもっとスマートなはずだ…」
「それでもこれは良い名助手ですよ!常識に則り行動する、名探偵と怯える一般人をつなぐ大事なポジションを担える素養です」
「名探偵助手…?」
「そう、あなたの銀船荘事件も地蔵坂の悪魔事件もあなたが悪かったんじゃない!ただ名探偵の器がなかったのです!」
青年ははっきりと言い切った。それは馬鹿にしているような表情でも、侮蔑でもない。とても真剣な顔でそういった。
「変人奇人の名探偵にくらべ、名助手は常識人なところがおおい。ボケ、ツッコミ、言うなればツッコミ側、助手とは読者側の目線の人間なんですよ。感情移入のしづらく、とらえどころのない、なぜかもったいぶる、やたらと目立ちたがり、そんな理解しがたい名探偵になろうとしても人間は性質を突然変えられない!名探偵にはなれない。名探偵とは既に名探偵であるものなのです。この世に生まれるか、まだ生まれていないか。それだけなのですよ。白人が黒人にはなれないように、もともとそうある人間として生まれるものなのです。しかし、黒人だって大統領にはなれます!掴めサクセス!あなたはずばり名助手に向いているのです!!!」
青年はなぜか両手の人差し指を俺に突き立てて、軽快に流暢にまくし立てた。背中も剃ってなんだかラッパーみたいなポーズにまたもやドヤ顔をキメている。
だが、衝撃的だった。
「い、いきなり適当なこと言いやがっていい加減にしないと…」
「警察を呼ぶぞ、ですか?」
「てめえ!!」
「適当にいっているわけではないのです。あなたの経歴や唐突にこうした状況に置かれたときのあなた自身の対応から判断しました…。あなた最初に『ここはどこだ?あなたはだれだ?』と聞きましたね?そこが既にマイナスポイントなのです!」
「はあ?つまり何が言いたいんだ?」
「それ!そのリアクション。まるで真実を求めるのを他人任せにしているようなリアクションですよ!!」
びしっと指をふたたび突き立てる。
今度こそ うっ、と言いかけた。たしかにそうだ。まるで探偵に回答を乞う衆愚のような反応ではないか。
「これだけで判断しているわけではありませんが。まあ真の探偵。名探偵ならば、大胆不敵に微笑み『なるほど、ね』とでも言いながらこの場所を推理していることでしょう…」
「…なんてこった…、俺は…子供のころにみた名探偵に憧れ…心に決めてここまできたのに…いつの間にか半人前の探偵で満足しちまっていたのか…」
ミステリー小説を読んでいても犯人を推理するところまでいかない。俺は、なぜだ、そ、そうなのか!?と虚構の中の名探偵が暴露する真実に驚愕していることばかりだ。
そういうことだったのか。名助手向きだったのだ。
「ええ、それも仕事のない、しょぼい、臭い、万年貧乏のしみったれた探偵です」
「ああ…人の為に真実を求めようって夢を忘れちまって…。来る日も来る日も猫の捜索、家出少女の行方探し、浮気調査ばかり…。密室殺人、不可能犯罪、小説に出てくるような探偵が必要とされるような大事件なんてほとんど関わることすらできなかった…それでもいいさ…って…」
「…いえいえ、こうして気が付けたのです。あなたにはまだ道はありますよ。ただし、多少の方向修正が必要ですが、ね」
「方向修正?転職でもしろってか」
青年は品の良い笑顔で、そうではない、と言った。もちろん名探偵助手、だと。
「先ほど宣告させていただきましたこと。実はこれ、世間の多くの探偵に当てはまるのです。」
「そうなのか!?」
「だいたいの探偵はミステリー小説や映画を観て名探偵を目指しますが、果たしてそんなに簡単になれるものでしょうか?言ったとおり、名探偵に必要なのは卓越した推理力、犯人に迫る胆力、トリック解明に必要とされる科学的、文化的、心理的知識、瞬間記憶力。普通の人間にはないものばかり。それを急に求めたって無理ってことですよ。第一、勉強したくても無理でしょう。範囲が広すぎる」
そうだ、名探偵とは超人であらねばならない。江戸川乱歩の明智小五郎のように。犯人を取り押さえるための力、謎に対する異常な執念、そして卓越した推理力。
「でもね、私は聞きたいのです。あなた本当に名探偵になりたかったのか?って、もしかして奇妙な事件に巻き込まれて、謎を探りながら真理にたどり着く。ここに関われればよかったんじゃないんですか?」
「たしかに。そうなのかもしれない。」
なぜか、俺は打ちひしがられたような気分になっていた。
「ご提供できますよ」
青年は両手を広げてこちらに歩き出した。芝居がかっているがいやみのない洗練された動きだ。
「お探しの名探偵、きっとここで見つかるはずです。ここは名探偵ショップ、世の謎を解き明かす智慧の頂き、奇人変人どれでも取り揃えております」
黙りこくった俺の方を見て、いかがされますか、と訪ねてきた。
青年の声は俺に届いてはいた。
「…買う。買って帰る」
俺の言葉に青年は満足そうにうなずいた。
「お客様は特に無個性、いえ没個性ですから」
「なんで悪い方に言い直したんだよ」
「…失礼、ですからお客様にはより特別な探偵をおすすめいたします」
「なるほど。派手な奴がいいってことだな」
「いくつか適当に見繕って見ました。いかがでしょう?」
そういって俺を机に座らせると、青年はカラフルなファイルを机に並べた。中身は履歴書のようなものが入っているようだ。
「ほう」
一枚目を手に取るとそこには精悍な顔つきをした長髪の男の写真が貼られていた。彼の性格、来歴、そして探偵としての特徴が事細かに書かれているようだ。なるほど、探偵の履歴書か。
「ふむ、ハーバード出身!?すごいなこいつ…。帰国子女探偵…どこからこんな人材集めてきたんだ、お前…こいついいかもしれないぞ。えーっと、身長185cm、特技柔道、性格、冷静沈着、頭脳明晰、正義感が強い…特筆事項…って英語しかしゃべれない!?無理だ!」
「違うんですよ。名探偵としては抜群の能力を誇るも、日本語がしゃべれないというそのもどかしさ、必死にメッセージを伝えようとするが故の滑稽さが各話の殺伐とした凄惨な殺人との温度差がコメディとしての完成度を高めます」
「帰国子女って日本人だろ…そのくせに日本語だめなのか…それはもうただの外人なんじゃ…。うーむ、ていうかコメディはちょっとなあ。名探偵モンクとか好きだけど、俺が目指してるのはハードめの感じなんだが」
「それでしたらこのハンターで名探偵の方はどうでしょう」
青年は青色のファイルを差し出す。
ハンター探偵、長妻重三。先ほどの帰国子女探偵より歳上で、髪も銀髪混じり。ハンターというよりは軍人みたいな男だ。
「すばらしい。この鋭い眼差し、間違いなく犯人を捕まえられそうだ…元自衛隊員、なるほどね。やはりこういう男は雰囲気が違う」
「ハードな探偵も似合う男です。銃もありますし、攻撃力は最高ですね」
「いやいや、猟銃で人を撃っちゃダメだって」
「展開の組立ですよ。名探偵がどうしても許せない犯人が現れる。トリックを暴きついに追い詰めるまでは良いが、名探偵は憎しみのあまり猟銃を向けてしまう…。引金が引き絞られて今にも弾丸が発射されそうなその瞬間、あなたが名探偵を止める…。精神的な脆さを見せ、それを補うように深まる二人の友情…熱い展開じゃないですか」
90年代の刑事ドラマを彷彿とさせる熱いシチュエーションだ。
「…悪くないな。髭も渋い、かっこいい。それに動物や植物の知識も豊富そうだ」
「ほら、キャラの立っている良い探偵でしょう。こんな決め台詞もありますよ。えーっとこほん、『決めゼリフは犯人はお前ダン!』」
「……撃っちゃってるじゃん!!」
「え?」
「え、じゃないよ!セリフの途中で銃撃音してるぞ!人を撃っちゃダメだって言ってるだろうが!!次!」
「ではこちらの美食探偵などは見ていただけましたか?」
そらで覚えているのだろう。俺にディティールを語りながらファイルを差し出すこの青年もなかなかの切れ者のようだ。
「美食探偵とは近年ブームになっている食事をテーマにも取り込める人気の商品です。どうでしょう。ネロ・ウルフみたいでかっこよく行ったり、井之頭五郎みたいに地味にキメても面白そうです。食堂とのタイアップも見込めますよ」
「五郎さんは探偵じゃないぞ。というか殺人のあった食堂に行きたくなるのか?ん、女性の写真も入ってるぞ。二人いるのか、さすがは流行りってやつだな」
「いかがです?ラブロマンスもいけますよ」
「あんまりそういうのはなあ」
顔立ちの整った妙齢の女の写真がこちらを見つめていた。たしかに美人だ。
身長もモデル並にあるようで、一番下にはいくら食べても太らない、と本人のアピールポイントなのだろう、わざわざマッキーの太い方で書き込まれている。
途中で太り出したら人気も下がるかもしれない、大事なところかもしれないな、と思った。
「おっと奥さんがいらっしゃるんですか?」
「いやいや、職場恋愛ってのはちょっとなー。こういうの人気あるの?」
「人気ありますとも!婚活問題も一気に解決!まあ好きな人は好きなパターンですね」
「そういうのが好きな人って…相当ダメなやつだな。ただ、うまいものが食べられるのは俺的にもポイント高いな」
「そうでしょうそうでしょう!ちなみに豆知識ですが美食探偵さん、大好物は罪の味」
「そいつが犯人だ!!次!!」
「お次はゴッドファーザー探偵といいまして…」
「即却下!!」
履歴書を見るまでもなかった。
「…それではこのデスペラード探偵でよろしいでしょうか」
「…うん。これだ。これがいい」
小一時間は経っただろうかと時計に目をやれば、長針は既に四時を過ぎていた。
俺にぴったりの名探偵が見つかったのは二時間後だった。
キャスター付きの事務椅子から立ち上がり、凝り固まった腰や肩を軽くほぐしていると青年がコーヒーを差し出してきた。
香ばしい匂いが鼻腔を刺激してくる。仕事終わりのコーヒーは格別なものだ。
「あのう、お支払いの方はいかがされますか?」
支払い?そうか忘れていた。これは買い物だった。
「これ、いくらくらいになるの」
「二件ですね」
「はは、どういう単位だよそれ」
「お客様が解決なされた事件、そのお二つの存在をいただきます」
「つまりは?」
途端に話が怪しくなってきた。
「わかりやすく言えば、二つともお客様には関係のなかったこと事件になります。これはお客様の記憶からも消えますからね。問題はないですよ」
「事件を解決したっていう経歴を求める方もいらっしゃいますからね。当店ではそうした経歴や事件そのものの記録も取り扱っております」
自分の中で恥はあった。しかし、同時にささやかな自信にもなっていた二つの事件を解決したという功績。それを手放すのにはあまりにも惜しい気がした。
いや、その記憶がなくてもこれから手に入れていけばいいのではないか。
俺はこの名探偵とともに、探偵界で成り上がって行くんだ。大博打を打つ気分だが、成功は約束されているようなものだ。
なんていったってこっちには、名探偵がいる。
普段ならもっと躊躇しそうなものだったが、変に勢いの良い判断をできたのには眠気のせいもあったかもしれない。
俺は即決で名探偵を購入した。
名探偵とは二週間以内に運命的に出会い、パートナーとなるように計画されるらしい。非常に楽しみだ。
青年は、目が覚めたら取引も完全に成立しここでのことは忘れているから安心して欲しいといった。うまくいったら礼の電話くらいしたかったのだが残念だ。
青年に促されるまま、俺は床に寝転ぶ。そして目を閉じると、ゆっくりと睡魔がせり上がってくるのを感じた。妙な眠気だ。やさしくゆっくりと俺を包んでいくのに、氷のように絶対的な…。
(やられた。)
口の付けられていないの青年のコーヒーを確認することくらいが俺にできる精一杯の抵抗だった。
「油断大敵です。名探偵助手さん」
やさしい声が俺を夢の店から現実へと送り返した。
「というわけで犯人は彼です。」
スーツケースを持った男はそういった。俺はタイミングよく一枚の写真を取り出した。派手なキャミソールが全然似合っていない太った女はそれを見て絶句する。
「ピロちゃん…!」
そこに映っていたのは、カーテンの裏から天井裏に登る猫の姿。口にはドッグフードの袋がくわえられている。
俺がこのデスペラード探偵と出会ってから、既に六ヶ月が過ぎた。「聖母マリアの殺人事件」、「ビルバレー劇場連続消滅事件」、「黒い家の殺人事件」、「チェックメイト、女王撃墜密室事件」など数々の事件を短期間に立て続けに解決し、探偵として着実なキャリアを手に入れたはずの俺たちは、今、ドッグフードの窃盗犯を見つける仕事を終えていた。
この前は、失踪して監禁されていた朱美ちゃんを救出した。もちろん朱美ちゃんはロシアンブルーの猫だ。保健所に保護され危うく処分されるところだった。救えて良かった。
どうしてこうなった。なぜだ。最初はうまくいっていたのに今では依頼のメールもめったにこない。俺もデスペラード探偵も二人して借金して事務所をなんとか借りている状態である。デスペラード探偵のブランドのスーツは、今では洋服の青山の安物になっている。それをしっかりと着こなす彼も素晴らしいのだが、なんとなくこうやりきれないような哀れな気持ちでいっぱいだ。
どうしてこうなった。
デスペラード探偵と駅前で分かれると俺は3000円を握り締めて居酒屋に入った。
とりあえず安い酒、安くていっぱいあるおつまみ、お通しはいらない、と頼むと、店員は引きつったような顔を浮かべていた。
今日の金がなくなればもうしばらくは飲めない。今日は終電まで飲もうと俺は心に決めていた。
ん?
ついうとうとしてしまったようだ。帰らねば、タクシー代などないのだ。
そこで気が付くと、後ろにかけていた俺のコートがなくなっている。クソ、盗まれたか。イラついて椅子を蹴飛ばし店主に文句をつけようとする。しかし、そこでようやく俺は気がついた。
まったく違う場所にいる。
「ここは…どこだ?」
「まったく成長してませんねえ…」
どこかで聞いたことがあるような声がして、俺は振り向いた。
……はい、そうなんですよ。吸引力!最近のトレンドは犯罪を引き寄せる名探偵ですね。これなんかお安いですが、なかなかの犯罪吸引力ですね
ほう、となると、値段が上がれば上がるほど犯罪吸引力が高くなるのか。
チッチッチッ それがですねぇ 頻度が高すぎても安くなるんですよ
ああ、適度なレベルがいいもんな
一番人気はこれ、月から金まで犯罪吸引して土日祝は逆に犯罪を遠ざける、名探偵。オフの日には趣味に時間も割くことも出来るのです。
いいなそれ!買おう!いくらだ?