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1-夢の継続

ずっとこういう時間だけが流れていればよかった。

ほんの小さな戯言かもしれない、ほんの小さな夢という儚い言葉なのかもしれない。

時間という呪縛から逃れられないことだって人間誰でも知っている。

みんなで遊び、みんなで色々無茶をやったりそれだけで私は…いや、私達は幸せだったんだ。

でも、禁断の感情を抱いてしまった私は…この楽しい時間という物を壊してしまった。


笑顔が消えていく


大好きなあの人の笑顔さえ消えていく


手にとってわかっていたあの気持ちも一緒に風となり私の元から消えていく。

好きだとか嫌いだとかそんなあやふやな気持ちじゃなく…

ただ、単純にみんなの気持ちが消えていったんだ。もう誰が誰で顔すらも忘れて徐々に自分の気持ちさえもがあの空へ奪われてしまった。

悲しかった…当然の気持ちなのかもしれない、消えてしまったものは決して戻ってはこない。

空が憎いなんて思ってなどいない。一番憎かったのは…私

何もできなかった自分、知っていてその禁断の感情を抱いてしまった自分が何より許せなかったんだ。

知らなければ良かったという後悔…

自分だけ不幸だなんて…思いたくても思いたくなった。

この世界は幸せと不幸が天秤に翳されているとしたら、私だけが幸せを願い続けるのなら世界の人間は不幸に見舞われるかもしれない。

そんな自分勝手な幸せなんて願いたくも無かった。

私の知らない人間が傷ついていく、私の幸せのせいで人間は悲しみ、憎しみで心に大きな傷を残してしまう。

そんな罪悪感が私に植え付けられてズキズキと心が痛んでします時がある。

世界中の人間の気持ちなんてわからないはずなのに…どうしてだろう、わからないはずなのに痛かった。



支えあった時、助け合った時、一緒に泣いてくれたあの日…


もう二度と戻れない世界だとしても私はこう心に決めたんだ。




もし

もう一度、君と出会えるなら

また向かい合い、お互いが好きでいられるように

ずっとあなたの傍で自分なりにあなたを愛してもいいですか?



それが私の儚い夢の物語。

そして、あなたの儚い夢の物語でもあるように…








1〜夢の継続〜


またあの夢を見てしまった。

白い雪が風で舞い上がり僕の目の前には人形みたいな服で僕を見続ける少女の姿。

何度も同じ質問をされる夢、そしてその質問に返す答えは疑問系のまま。

何も変わらない夢、一つ変わるとしたら朝起きる時間のみ。

そんな生活が2年も経ってしまった、同じ夢ばかりの生活は飽きることはなかった。

楽しいわけでもない。

ただ単に、『そこに』彼女がいる…それだけがなぜか嬉しかったのかもしれない。知らない女性でも心が和んでいた自分の気持ち。

最初はそれなりに驚いた時もあった。それが段々と慣れていき、いつしかずっと会っていたとまで思うようになっていた。

僕はそんな毎朝が好きだった。

ゆっくりとベットが起き、いつも通り学校へ行く準備を始める。

ちなみに今日は始業式。遅刻するとヤバイ…と思うわけだが今僕がいる場所は学校の隣に建っている寮にお世話になっている。

これはこれで遅刻する心配も無いが、門限が厳しいため複雑な感じだ。

少し早めに支度し玄関を開けるとそこに知っている人物が立っていた。


「おはよ、透」


「おはよー、凛」


彼の名前は風見かざみ りん。僕の一個上だが彼はわざと留年し僕と同じ2年生である。

留年した理由…それは面白くないから、だそうだ。

あ、自分の紹介をするのを忘れていたね。僕は坂崎さかざき とおる。凛と同じ?高校2年生。それでは話の続きといこう。

そんな理由で留年はどうかと思うが僕は反対しなかった。だって、反対してもこいつはやってくれる…有言実行するタイプなのだ。

そして、秦とよくつるんでいる人物…そっちのほうが実はヤバいのだ。

あまり前のことを振り返りたくない思い出ばかりだがその話はあとにしよう。

僕と秦は学校までの短い道のりの間だが世間話をしながら歩き続ける。

ふと、僕は気付いた。


「そういえば桜子?」


「いつも通りだ」


いつも通り…今日は始業式なんだが大丈夫だろうか?

僕は少し心配する。昔っから大の遅刻魔、まともに登校時間内に来た回数なんて数えれるほどしかないのだ。

すると、後ろのほうから走ってくる足音が聞こえてくる。

それは何なのか、大体の予想は透にはついていた。


「あいつのことだ、また走って俺に…ぐは!」


綺麗に舞う凛の姿はどれほど美しかっただろうか。そのまま勢いよく壁に頭をぶつける。

まさに予想通り…後ろから透の想像していたものが立っていた。

黒く長い髪…ポニーテールと呼ぶ髪型なのだろうか。それは風で舞い上がったように揺れていた。

少し小柄な女子生徒。僕達と同じ学校の制服姿の生徒が腕を組み立っていた。


「凛、また私を起こしてくれなかった…」


少し涙声のように小さく呟く。

彼女は凛と同じ部屋に住んでいる美輪みわ 桜子さくらこだ。

小柄な割には性格は凶暴とでも言っておこう。ちなみに得意技はドロップキックらしい。


「なぁ桜子…もっと兄に対する敬いというものはないのか?」


頭を摩りながらむくりと立ち上がる。

よく数十メートル飛ばされ壁に頭をぶつけたのにも関わらず無傷という快挙を成してしまった凛だった。


「起こしてくれなかったお兄ちゃんが悪い…」


ちなみにお兄ちゃんと呼んでいる件についてだが血が繋がっているわけではない。

昔から桜子は凛のことをお兄ちゃんと思っていてそれからずっと凛はお兄ちゃん役を務めている。


「…そうか、だったらもう少し目覚まし時計6個で起きる努力をするんだ」


目覚まし6個で目を覚まさないのか桜子は…。

桜子は寝起きが悪過ぎる。それは昔も今も変わらないらしい。


「おはよう、桜子」


「透もおはよう」


少しだけ間が空く。


「お兄ちゃんには何も挨拶しないのか?」


「黙れ糞兄貴」


「…それが兄に対する言葉か?」


「昨日のアニメはどうだった?」


「何の事だ…」


「やたらと大音量で隣の私の部屋まで聞こえたぞ」


「何かの聞き間違いじゃないのか?」


「凛の隣の部屋は私しかいないぞ?」


「つまり、俺だと言いたいのか?」


「最初っからそう言ってるだろ、キモオタが」


「こんなに桜子から屈辱を受けたのは初めてだぁぁぁあぁ!!」


凛はこの場を脱兎するかのように走り去ってしまった。

なんというか、哀れだと思える瞬間だった。

たしかに凛はアニメとかは見るほうだが大音量でアニメを見ているとなるとさすがに僕まで気が引ける…。

まだ凛の絶叫はこっちまで届いている。よほどショックだったのだろうか…


「凛ももう少しどうにかしてほしいね」


そう僕は桜子に言った。


「あれはあれで私は楽しいよ」


「まぁそうだけど…ま、いっか」


僕と桜子は笑いながら自分の教室へ行く。

さて、今日はクラス変えというのもありクラスのみんなは落ち着きがない様子だ。

辺りをチラチラと見る人、去年同じクラスだった友達と喋っている人、中にはずっと椅子に座り続ける人…ってあれは…。

綺麗な長い髪、髪色が黒なだけに余計に綺麗見える。

僕はそこに座っている女性に話掛けた。


「同じクラスだったんだね、榊原さん」


「あぁ、坂崎君じゃないか。同じクラスだったんだね」


彼女の名前は榊原さかきばら 紗九夜さくや

なんとも難しい名前だけあって覚えるのは簡単だった。去年同じクラスで委員長を務めていた女性だ。


「うん、これから一年よろしくね」


僕はほっとした。何しろ知らない人達ばかりだったらどうしようと内心では不安だらけだった。

それに比べ榊原さんはいつもと変わらず難しい本に目をやっている。

ちなみに今読んでいる本のタイトルは『宇宙の真理と理論』

高校生から見れば何とも言え無い程の本である。一目瞭然で難しい本だと思い知らされる。


「そういえば、凛先輩は?」


読んでいた本を机の中に入れ目線を僕のほうに向ける。


「何処のクラスに行ったのか聞いてなかったしわからないや」


「そうか、凛先輩と同じクラスになれば面白いことをやってくれると思ったんだが…」


「面白いことをやった結果が先生に物凄く怒られたじゃん…」


「あれはあれで中々楽しめたぞ?」


榊原は大きな口を開けケラケラと笑う。

僕もそれにつられて苦笑いで返す。思い出したくも無いが嫌でもあれは思い出に強く残っている。

そうあれは夏休み前のことである。僕、凛、榊原、北我で学校の屋上で花火をやった。ちなみに北我という人物は前に話した凛とよくつるんでいる先輩だ。

花火と言っても線香花火やそんなレベルではない。打ち上げ花火だ、しかも大型の奴である。

その音を聞きつけた警備員に僕達全員捕まり生徒指導部で拷問を受けた程。初めての生徒指導部というわけではない。

前科というものがあったせいで1限目から3限目まで怒られたぐらいだ。

そのあとも色々とやったおかげで生徒指導部から要注意人物とまで呼ばれているらしい。

丁度良くHRのチャイムが鳴る。


「またね、榊原さん」


「ん」


お互い軽く手を振り坂崎は自分の席へと戻る。

ガラガラー

教室の扉から現れて来たのは何とも若い教師だった。去年はいなかったっけ…


「今日から君たちの担任になる西條さいじょう 結城ゆうきです。まだ新米教師ですが一年間よろしく!」


最近の時代の若者みたいな挨拶だ。

それにしてもあの髪型はどうにかならないものか…

まるで今さっきシャワー浴びてきましたって感じに髪が濡れている。その水滴は顔にまで爛れ落ちている。

なんともまぁ…変わった教師がウチのクラスに来たようだ。


「さっそくで悪いですが今日から君たちの友達になる転校生を紹介しますね〜」


一気にクラスがざわめく。

新学期早々転校生?凛がいたら間違えなく叫んでいることだろう。

美少女だの謎の転校生など言っているに違いない。凛がこの場にいなかったことが幸いだ。


「入ってきなさい愛沙さん」


一斉にクラスの全員は扉のほうに目を向ける。

そこから現れたのは小さい人形のような白い肌、ブルーの瞳に緑色の髪が光って見えた。

クラスのテンションが一気に上がる(男子だけ)。その反対に女子はため息を漏らしていた。

僕の脳裏にこんな言葉が浮かんだ。


謎の転校生=謎の美少女


たしか、凛の部屋で読んだ漫画にそういうシーンがあったっけ?

そして、次の展開は「あー!○○君ひさしぶり!」という感じになりクラス全員の男子から睨まれるという始末。

まぁ、大体こんな感じだ。

あの様子じゃまず大人しそうだし大丈夫か。


「では、愛沙さん。自己紹介お願いします」


「初めまして、愛沙・ランドールって言います!まだこの街に来て短いですがよろしくです!」


クラス全体の空気が一瞬だが凍った。

無理もないだろう。あの愛沙という女子見る限り大人しそうな感じだ。それが逆の性格である。

無邪気というか、お転婆に近い。

期待した男子よ、世界はそんなに甘くない。


「では、席だが…お、後ろから二番目の席空いてるな」


その席は…僕の真後ろだ。

一言男子に言っておこう。僕はこんな展開を望んでいない。だから、そう冷たいというか怒りを込めた目線で僕のほうを向かないでくれ。


「近くの者は愛沙に色々教えるように!では、HRを終わりにする」


それを最後に西條は職員室に戻って行った。

教えるようにって…そもそも話題というものがないじゃないか…

ツンツン…

何かが背中を突付いているみたいだ。最初の標的は僕ですか…

坂崎は後ろに目をやる。


「愛沙です、よろしくですー」


あぁ、なんとも可愛らしい子なんだろ。

ちゃんと上目使いで挨拶をしてくれるなんてこれは妹としてほしいぞ僕は…って何危ない想像してるんだ。

顔を赤くしながら愛沙に言葉をやる


「僕は坂崎 透。透でいいよ」


「透さんですね」


「うん、これから一年よろしくね」


愛沙は満面の笑みで僕を見つめた。

坂崎もそれに答えるように笑顔で返す。


「坂崎君、いきなりフレンドリーになるとは中々男らしいじゃないか」


いきなり現れたのは榊原だった。


「最初に話掛けたのは愛沙さんのほうだけどね」


苦笑いでそう答える。


「えーっと…」


愛沙は戸惑っている様子だった。


「私は榊原 紗九夜。そうだな…私のことは女王様と呼んでも構わないぞ」


「何の冗談だそれは…」


「冗談?私は本気だが…」


「はい!私のことは愛沙と呼んで下さい!」


本気にしてるよ愛沙…


何か濃いクラスメートに囲まれたな。




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