乙女ゲーム短編①『サポート役』なんて大嫌い!!
サポート役ってなんであんなに情報通なのか、という疑問を自分なりに消化した結果、明後日な方向の結論に達しました。
……報告を一つ。自分はこの度、『サポート役』に就任しました。
主人公に話し掛けられると、『攻略対象の個人情報』や、『攻略対象の主人公への評価』を教えてあげることが役割の『サポート役』。いわゆる、『情報通』の『お助けキャラ』という立場である。
……前々から疑問に思っていた。なぜ『情報通』のお助けキャラはあんなに親切なのか。また、詳しく攻略対象のことを知っているのか。
……それは、やはり理由があったのだ。
「……ごっめーん、山田。失敗しちゃった」
てへぺろ。とふざけたことを言いながら、このゲームの『主人公』鈴木ハナコが報告に来た。
「……お前、マジで死ね!!」
「だって、中村くんの攻略難しくってぇ」
「――ッ、お前に情報やるために、俺がどんな苦労してると思ってんだ!!上野先生も、橋下さんも、東山先輩も、西川先輩も、小南も、北見も、――全部失敗しやがってッ!!」
少し前に話題になった『Love Situation』というゲームがある。『主人公』の『鈴木ハナコ』が様々な業種、年齢の男性に出会い、関係を深めていくという、王道の乙女ゲームだ。
……自分は、その中の『山田』という名のクラスメイトである。
他のゲームの『サポート役』は、『親友』になっていることが多いが、このゲームでは『協力者』として主人公の恋を応援する、親切なクラスメイトとして描かれている。
「お前がしっかりしないから、俺が迷惑を被るんだろう!!」
「だって、しょうがないじゃない!!『友情』ラインを越えられないんだもん!!」
「死ぬ気で越えろよ!『親密度』ゲージが何のためにあると思ってるんだよ!!」
机を挟んで、俺と鈴木が睨み合う。一触即発の雰囲気が教室内に漂っていた。
教室に男女が二人きりの状況というのは、もう少し甘いものであっていいはずなのに、まったくそんな様子はなかった。
「あんたのせいで私の人生は台無しよ!」
「お前のせいで俺の人生は最悪だ!」
ガラッ
「ん?」
「あ?」
音のした方を見ると、教室の扉が開き、一人の男が入ってくるところだった。
「――見つけた」
同級生で、正統派王子系イケメンの攻略対象であり、現在の鈴木のターゲットでもある。
「……中村」
「――太郎、探した。……鈴木と何を話していたのかな?」
きらきらとした笑顔を俺に向けてくる。
ん?今、何て言ってた?『太郎』って、下の名前で呼んだ?
「……鈴木、お前……まさか」
「だから、『失敗した』って言ったじゃん」
「太郎、鈴木なんか放っておいて一緒に帰ろうぜ」
実は『Love Situation』には[BL版]が存在する。攻略対象は変わらず、主人公だけが入れ替わる。
ノーマル版は『鈴木ハナコ』が、BL版は『山田太郎』が主人公になる。
――サポート役は、なぜあんなに攻略対象の情報に詳しいのか。
それはサポート役も、攻略対象者のことが好きだからなのではないか。だから、あんなに興味を持って詳しく調べるのではないだろうか。
――だったら、『サポート役』は、実は主人公の『ライバル』ではないか!
………などとアホなゲーム会社が考えた結果、乙女ゲームに男のサポート役が誕生した。
「女の友情は脆い。男同士だからこそ、引き出せる情報がある」と制作会社は答えていたが、最初から続編が計画されていて、それの布石に違いない。
キャラ絵やスチルの使い回しができるし。
そういうわけで、BL版は追加ディスクをインストールすることで、ノーマル版の『友情エンド』後から始めることができる。
「友達以上に思えない」と『鈴木』が振られ、「友達だと思っていたけど違った」と『山田』が迫られる展開になる。
「太郎、好きだ。俺が隣にいてほしいのはお前なんだ」
「……腰に手を回すな。熱っぽく見つめられても、俺はノーマルだ」
「じゃあ、山田がんばれ!」
非情にも、鈴木は俺を置いて教室から出ていってしまった。ちょ、お前ふざけんな!このゲーム、BL版は年齢制限ついてんのに!
「二人っきりにすんな!!!なんのために、お前をサポートしてたと思ってる!」
すべては『BL』回避のために決まってる!!だから、わざわざ危険を冒して情報収集したのに!!
ピシャ
教室のドアが、無情にも閉まる音がした。
「閉めんな!バカ――!!」
「やっと、二人だけになれた。――もう、離さない」
中村が俺を引き寄せる。至近距離で見つめられ、息を呑む。
やばい、距離が近い。逃げられない。
「――サポート役なんてっ、乙女ゲームなんて――、大嫌いだ――――!!」
………………余談だが、「攻略失敗しても、イケメンに甘く囁かれる」とBL版はそこそこ売れたようだ。
だったらそれこそ、女のサポート役でいいじゃないかと俺は思う。女同士、『サポート役』兼『ライバル』でいいじゃないか。
一石二鳥を目指したゲーム会社に物申す。
………『サポート役』にも、幸せをください。
相変わらずのアホ設定ゲームでした。
読んでいただき、ありがとうございます。