短編②乙女ゲームを作ろう
企画会議
某ゲームの裏側
とあるゲーム会社の会議室で、新しい乙女ゲームの企画会議が行われていた。
いくつかの案が提出され、説明が行われている。
今は、『藤色の君を抱きしめて』という作品の企画説明なのだが…。
「まず、主人公が全寮制の高校に入学する必要がどこにある?」
他の企画を聞いていた時に比べ、部長の佐々木の声が低い。
発表者の田中は気付いていないのか、説明を補う。
「両親が死に、施設で暮らしていた『安藤樹里』が、親切な人のおかげで高校へ……」
「…アンドウジュリ……?ああ、『あしながおじさん』か……。」
孤児であるジュディが、親切な紳士のおかげで大学に進学する、という有名な児童文学をパロディにしたのか?
「主人公の通う『私立藤野見高校』には立派な藤棚があり、伝説があります」
「伝説?……その下で愛を告白すると、二人は一生離れないとかいう…」
「いえ、よく幽霊を見る場所で、見た者が行方不明になるという落武者伝説です」
……「乙女ゲー」の企画会議だよなあ、これ。
「えーと、藤の花言葉は…
『あなたを歓迎します』
『恋に酔う』
『君を決して離さない』
です」
おかしい、ひとつひとつは「乙女キーワード」であるはずなのに。……なんか、怖い。
「で、そこには『佐藤』という理事長がいて、日本に『藤』が付く姓が多すぎるから減らそう、という危険思想を持っていました」
「まて、どこかで聞いたことがあるぞ」
俺も知っている。確か、「リアルな…追いかけっこ」みたいなタイトルで、映画化もしていたはずだ。
「理事長はてっとりばやく『藤の付く姓』を減らすため、『藤野見高校』を作ります。
そして、学校を『藤の付く姓』を持つ子供たちを集めて売る、人身売買組織の『商品養成所』にします」
……田中、その話をどうやって「乙女ゲー」にするんだ。佐々木部長がすごい形相でお前を見てるぞ。
「……そのゲームは、どんな終わり方をするんだ」
……地獄から響いてくるような、素敵な声ですね、佐々木部長。……眼鏡が反射して、怖いです。……あなたの美声も整った顔立ちも、台無しです。
「理事長を告発し、自分を影で助けてくれていた担任教師と結婚します」
「……もういい。次、山本!」
「!!」
げっ!俺!?
……田中、覚えてろ……。
色々あって、商品が完成しました。
「藤色の君を抱きしめて」
……ホラー要素は、無いはずです。