短編①社訓は『乙女ゲームにリアリティを』です。
初期短編
うちは最近新しく立ち上げられたゲーム会社です。主に「乙女ゲーム」の制作をしています。
ちなみに、我が社のモットーは「リアリティ」です。
乙女ゲームの会社ですが、企画と制作には男性も関わっています。やはりリアリティが大切ですから。
そんな我が社の次回作は「アイドル育成ゲーム」です。
主人公の女の子が、男性をイケメンアイドルに育てるアレです。
『マネージャーのあなたが自分好みに彼を育てる。恋を選ぶか仕事を選ぶか、すべてはこの三年に掛かっている――?』
三年は長いですか?
でも、そのくらいかかると思いますよ。
発売されたゲームの評判は最悪だった。
人見知りで不登校の男の子たち。肥満、音痴、運痴、オタク、勉強嫌いの普通の高校生を、三年でアイドルにするゲームだったからである。
『無茶言うな!』
『素材はいいからなんて嘘ばっかり!』
『イケメンになるのは三年後かよ!』
『ここまでひどいと、逆にリアリティがない』
などというクレームが殺到したが、会社は揺るがなかった。
「だいたいさ、乙女ゲームの男なんて現実にはいないんだよ」
とあるゲーム会社の会議室で、数人の男性がユーザーから寄せれた苦情に目を通していた。
「アイドルを目指すようなイケメンは、普通の女の子では満足しないでしょう。」
男性たちは皆、普通のサラリーマンのように見える。
「ああ、普通の子は遊ばれて捨てられるよね」
うちの高校でもいたなあ。と、おとなしそうな男が言う。
「いや、一生キープ状態で尽くさせるんじゃないか」
俺ならそうするな。と細身の男が言う。
「『本当の俺をわかってくれるのは、お前だけだ』っていうアレですね」
あれ、便利な台詞ですよね。とにこやかな男が言う。
『イケメンは普通女子を相手にしない。相手にするときは利用価値があるときだ』
だから今回の攻略対象は、主人公じゃなければいけない理由を付けた。
さまざまな要因で、周囲から引かれていた対象者たちを成長させ、うまく社会と適応させる。
そんなゲームである。
しかも、社交性や自尊心を上げすぎると主人公は捨てられる。
『俺には、お前では釣り合わない。じゃあな』で振られる。
ちなみにベストENDは、『育てたアイドルが売れっ子になり、アイドルの方ではなく事務所社長と結婚』となっている。
『商品に手を出してはいけません。』というリアリティを追求したENDである。
…そしてこの会社は、今日も、世の中の乙女ゲームユーザーからの批判も気にせず、社訓『乙女ゲームにリアリティを』を、反映したゲームを作り続けるのである。