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「数がおかしい、ですか?」

「ああ、呪い師として少なくない土地を回ってきたんだが、ここまで異形が出てくる場所は無かったな。異形の数が多い土地というのは他にもあるが、ここは別格だ。」

「さすがはそれを売りにしているだけはありますね」

「どうなんだろうなぁ…?」


 村までの短い道中、手持無沙汰になったユーリがクルトに話しかけると、話題は自然に旅路の異様さへと移っていった。


 モユク村周辺は異形の出現率が非常に多く、村民はそれらを借り、加工して村の特産としている。村は完全に異形に対応した造りになっていて、外周には背の高い防壁。四方には周囲の森を見張る見張り台が立ち、腕の立つ狩人たちが交代で控えている。

 ユーリはその話を聞いた折、その村は戦争でもしているのかと呆れたものだった。


「しかし、これほど多ければ、噂の守備隊性にも頷けるというものだ」

「なるほど。呪い師としても予想できない状態だとするなら、私の見立ても外れるというものですね。異形除けを使い切ってしまったのも無理からぬということです」

「いや、あんたのは単なる油断だろう。これだけの荷を一人で扱うのだとしたら、それなり以上の準備をするのは当然の事だ。まだまだあんたも青かったってことさね」

「うぅ、反省します」


 クルトがしゅんとうなだれるのを視界の隅に収めてから、ユーリは周辺の林を見回してみる。土地自体に何か特徴があるようには思えない。何が異形の出現数増大に関連するのか、それを見極めてみるのも面白いかもしれない。この土地に来たもともとの目的とは異なるが、それは大した用ではないのだ。簡単な調査くらいなら半日で終わるし、村に着いて宿をとった後にこの一帯を歩いてみるのも一興だ。

 そう考え込んでいると、隣から声がかかる。


「そういえば、さっきの煙はなんだったんですか?効果絶大でしたね」

「ああ、あれはある異形の花を使ったものでな。呪い師ならたいてい誰でも持っている。俺のは線香の形にしているが、知り合いには煙草に混ぜて常時ふかしている奴もいたな」

「へー、それ売ってもらます?何度も言いますけど、異形除けなくなっちゃってるんですよ」

「無理だな。俺も道中かなり消費しちまったから、村からの帰りが心許ない。まあ、材料さえあれば村で代用品くらいは作ってやるから、それなら売っても良い」

「えーと、『旅は道連れ余は情け』と言いますよね?」

「まけてはやらん。だが、吹っかけたりもしないから安心しなよ。もともと呪い師ってのは世捨て人同然だからな。必要以上の金はいらんさ」

「助かります」


 クルトの目が満足げに細まる。こんなに表情がわかりやすくて商人として大丈夫なのかと心配になる。


「まあ、さっきの異形は人を害さない。ただ、荷の方は被害を受けるかもしれん。何を積んでいるんだ?」

「主に冬越用のものですね。でも、今回はモユクの特産の買取が一番の狙いです」

「なるほど。まだ若いのに、よくやるもんだ」

「そんなことないです。ユーリさんだってまだお若いじゃないですか。お幾つなんですか?」

「あー……」


その質問に、ユーリは気まずそうな声を上げる。クルトはその反応の意図をとっさにつかめず首を傾げる。


「その、分からないんだ」

「えっと、それはつまり…?」

「俺は子供のころに親父殿、つまり俺の呪いの師匠に拾われたそうなんだが、どうにもそこら辺の記憶が曖昧で、加えて親父殿に拾われた以前の記憶はまっさらなんだ。自分の生まれのことも分からん」

「あー…それは悪いことを聞いてしまいまして…」

「いや、別に。そこのところは自分の中でケリをつけているから構わんよ」

「そ、それはどうも。…えっと!モユクにはどういった用事で来られたんですか?やっぱり異形関連とか?」

「親父殿がぽっくり行ってしまってな。モユクは親父殿の故郷だそうだから、まあ、本人は嫌がるだろうが生まれ故郷に灰でも撒いてやろうかと、な」

「ううぅ…」


 クルトが意図せずして自爆していく。


 ユーリは首を逸らして空を見上げた。空の青さは左右から林に抑え込まれて窮屈そうに感じられる。

 自分の未来に似ていると、ユーリは思った。将来への展望が見えない。親父殿の死は思いの外大きな衝撃だった。親父殿は腕の良い呪い師だったが、それでも死ぬときはあっさり死んだ。自分も呪い師として死ぬ一生を、まっすぐに進んでいくのだろうか?

 そのことに悲観はない。ただ、出生が分からず、過去を忘れ他のにも関わらず、未来だけはうっすらと見えているというのはいったいどういう訳なのだろうか?

 最近、ユーリはそんなことを考えていた。


「うぅ…ず、ずびばぜん。ゆーりさん…」

「いや、別に気にしてないよ」

「ほんどうにぼうじわけありまじぇん。や、やっばり、お代はけっこうじぇすがら…」

「いや、ちゃんと払うよ。それから泣くな」


 道中、クルトがユーリの触れてはいけない部分を狙い澄ましたかのごとく次々に掘り返していった。クルトは彼の不憫さに居たたまれなくなり、ユーリはそれを冷めながら観察していた。



 しばらくして二人はモユクの村に着いた。堅牢な砦のようにも見える村の外塀に感心しつつ、いくつかの審査を受けてから無事に村内に入った。ユーリとクルトはそこで別れるのだが、その前に今晩一緒に酒を酌み交わそうという約束をした。


「じゃ、じゃあユーリさん。…強く生きてくださいね」

「…はぁ、お前もな」


 クルトのあまりの恐縮ぶりに頭を抱えて一旦別れる。

 本人は気にしていないというのに、あれだけ他人に情が移るというのは商人という職業上致命的な性質なのではないか。商人というのは相手の腹の中を探り、自分の考えを偽る職業だと聞き及んでいる。クルトはそんな商人からすればカモでしかないだろう。

 少々心配になるが、ユーリとクルトはまだまだ他人という間柄である。彼の将来を憂うことはしても気に欠けることまではできないし、する必要もない。彼の素直な性格は好ましいものだが、それは手助けをする理由にはなりえない。

 第一、ユーリは呪い師だった。呪い師になる者のほとんどは学者気質の変人で、異形以外の事柄には関心を向けないものだ。親父殿も、三度の飯より異形の研究を地で行くような変わり者だった。そして、それが呪い師として正しい在り方なのだ。


「つまりは、俺は一匹狼がお似合いさ、ってね」


 肩をすくめて今晩の宿へと歩を進める。ユーリとしてはもうクルトに対する心配はしておらず、村周辺の異形の調査へと意識が向いていた。つまり、ユーリにとって今現在もっとも重要なのは自分自身の好奇心なのだ。


「それにしても…」


 そして、その好奇心は村の中の”あるもの”にも注がれる。村内に入ってから真っ先に目に入った。いや、きっと村内に入ればだれもがそれを視界に収めることだろう。村の中心に堂々とそびえたつモユクの村の中でかなりの異様さを放っている建物。

 灰色の外装はこれまで見たこともないほど滑らかで、レンガのような材質に見えるが、レンガではない。ブロックを積み上げて造られたものではない。まるで一本の木をくりぬくという方法で作られた建物のように見えるが、あれが木ではないことは明白だ。

 まるで図ったかのようにきれいな直方体の形をしていて、その素材はいまだ解明されていない。”異形の建造物”。


 村の中心には堅牢な外塀にも劣らない堅固な祭儀場がそびえ立っている。

 これはモユク村の目玉の一つで、村はこの建物を中心にした一帯を開拓して造られたらしい。


 この世のものとは思えないきれいな建物を横目で見る。


「一度でいいからあの中に入ってみたいものだな」


そう一言つぶやいて、ユーリは宿へ向かう足を急いだ。

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