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もどき神  作者: 左信吾
7/10

評価

 どこかの傍観者がこんなことを言っていた。

 あれは、休日の昼間に兄弟で街を歩いているところを偶然出逢い、これも何かの縁ということで一緒にハンバーガーを食していた時だったと思う。この時、初めて人間失格の弟を見たのだが、彼とは似ても似つかない可愛らしい少年だったことを覚えている。

『俺はな、正直に言うとお前って人間が理解できない節がある』

 新製品のキムチバーガーをうまそうに食べながら、そんな距離を作るようなことを言われた。

『いや。深い意味はないんだ。ありふれた意味はあるんだが』

 確か、あのバーガーは鷹垣が『死ぬほど辛かったよ! あんなん人間の食い物じゃないね!』とか言っていた気がするのだが、傍観者は汗一つ書かずにバクバクと貪っていた。ジュースも飲まずに。舌、大丈夫だろうか? と心配したものだ。

『何と言えば良いか分からないのだが』

 じゃあ言うなよ。

 だけど、いつもの傍観者らしからぬ発言だった。全てを知ったかぶっている、ほとんどのことを語ろうとする彼らしからぬ、失言だった。

 それに、私は強い、不快な違和感を覚えて。

『ありきたりな言葉でまとめると、真意が掴めない、本意が見えてこない、と言えるのだろうな。いや、それとも微妙に違うか。例えるなら、小麦粉とコカインくらい違う』

 どゆこと?

『俺にも良く分からん』

 珍しいね、そんなこと。

『そうか? まあ、そうなんだろうな。ある意味、俺らしくないが、極めて俺らしいとも言えるんじゃないか? お前もそう思わないか?』

 同意を求められた弟君は困った顔をしていたが、なんか可愛かった。人間失格があの顔を見たいがために振ったのではないかとさえ思った。

 もしや折角、ブラコン? 精神的ダメージが大きかったから、想像するのを止めておいた。

 結局、何が言いたい訳?

『何も言いたくねえんだよ』

 素の、荒ぽっい時の口調で、吐き捨てるように傍観者は呟いた。

『戯言だけどな』

 最後に苦笑しながらそう言い括ったのが、ひどく印象的だった。


 あの時、人間失格が何を言いたかったのか、今はなんとかなく分かる。

 お前は、自分に嘘をついている。自分を偽っている。それも、最悪に近い方向と形式で。

 そんなことを言いたかったのだろう。

 あの時私は、叱責され、罵倒され、非難され、糾弾されていたのだ。

 あの時、ちゃんと気づいていたら、こんな目には遭わなかっただろうか?

 否。

 どっち道、同じだったのだろうけど。





 何故今更あの人間失格のことを思い出したのか、自分でも分からない。

 これが走馬灯と呼ばれる現象だろうか。

 それにしては、人間失格のことだけを想起するというのも変な話だ。もしかして私、あいつのこと好きだった? いやいや、それはない。友達としては最高に便利で最高に面白い奴だが、異性としては論外だ。

 となると、肝心なのは話の内容のようだ。どうやら、私はあんなことを言われてショックを覚えたらしい。本当に今更ながら、そんなことに気付いた。

 でも今はそんなことより、もっと重大な問題が発生した。いや、している。

「足痛い……」

 そう。階段の登り過ぎで足が疲労困憊状態なのである。この状況から脱することが出来ても、筋肉痛になることは必至だ。しかし相も変わらず、この二本の足は私の言うことを聞いてくれない。止まらない。

「もう限界……」

 その虫が囁くような小さな弱音を待っていたかのように、階段の上の方に淡い光が見えてきた。

 そして、扉が見えてきた。

 私はそれを見て、心から安堵した。しかし一瞬で、それは恐怖に変わった。


 何故なら、飛鳥木高校に、このような間取りの階段は存在していないからだ。


 階段から見て正面に扉が配置してある場所は、ない。だが、私の目の前には、その有り得ない光景が広がっている。

「開かずの間だ」

 直観的に、私には理解できた。

 七不思議の七番目、開かずの間。

 概要は知らないが、その名前と『七番目』という配置から、おおよそは推測できる。

 きっとあれは、地獄だか異次元だかに通じているんだろう。そして入ったら最後、入ったら最期。戻ることはできない、みたいなパターンなんだろう。

 他の七不思議が珍しい内容な分、最後の七番目がスタンダードな方が、却って際立つというものだ。七不思議の考案者がこの場にいれば、私の推察をほめちぎっていたことだろう。って、何言ってんの私?

 どうやら混乱しているらしい。まあいいや。必死の祈りも通じないことは、さっき証明されたし。万策尽きるどころか、策が一つもないし。溺れる策がないなら、そのまま溺死するだけだ。

 来世何になるか今のうちから考えておくか。でも実際、あれって自分で決められるんだっけ?

 諸説あるよねー。人間失格なら知ってそうだけど。

 傑作傑作。

 いつだって困った時は、あいつ頼みだったのか。他力本願にも程があるぞ。

「ま、それも終わりってことで」

 人生にピリオド。

 扉と私の距離が、五段ほどになった。

 ぎぎぎぎぎぎぎ。

 引き摺るような音を立てて、扉が開き出す。その隙間から淡い月明かりが滲み出す。

 いよいよ、あの世からのお誘いらしい。鬼が出るか蛇が出るか、はたはま死神が出るか。それとも幽霊か、ただの暗闇に引きずり込まれるのか。できれば多くの手は勘弁してもらいたい。

 私の足が踊場に上がり、扉と向かい合った瞬間、扉がばっと開いた。

「!」

 その向こうにいた人物に、私は驚いた。この状況ではどんな人物が出てきても驚くしかないと思うが、それでも、目の前の人物相手には驚嘆するしかない。

 それは先程予想した鬼でも蛇でも死神でも幽霊でも多い手でもなく、頼りになる人間失格でもなければ、私がここに来るきっかけを作った元カレでもなく、気の利かない幼なじみでもなく、親友でもなく、勿論引きこもりでもない。

「な、何で……」

「『何でここにいるのか?』」

 私の台詞を先取りして、『彼』は不機嫌そうに嘆息する。

「その様子からすると、君は俺を知っているようだけど、俺は君の顔に覚えかない。どこかで逢ったっけ?」

「……一応、同級生」

 それを聞いて、『彼』は納得したように頷いた。

「ああ。なるほど。思い出した、左川さんだったよね?」

 誰だそれは。逆だ、逆。色んな意味で。

「いや、右海なんだけど」 

 まだ日付が変わっていないなら、本日二度目になる自己紹介になる。

「右海水菜、探偵部副部長……」

 そして、『彼』もそれに倣う。


「俺は、火元真紅」


 『彼』は、異端の転校生こと、火元真紅だった。意外と言えばこれほど意外で、予想外な人物もいない。

 そして、その態度はやはり、ひどく適当なものだった。

「まあ、一つよろしく」

 その紅い眼は、鈍く怪しく、魅惑的に光っている。まるで、さっきまでの私の苦渋を否定するように、

否定してくれるように。


 主人公登場。

 これから、どうなるかな?

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