七不思議
あんまりスラスラ書けないなあ。
駄文乱筆お許しください。
飛鳥木高校の七不思議。
一。どれだけ上っても目的の階まで行けない階段。
二。一人でに開閉される門。
三。血に染まる池。
四。遠吠えをする、校長室の狼の剥製。
五。ピアノを演奏する骨格模型。
六。校庭を走り回る幽霊。
七。開かずの間。
「初耳ね。この学校に七不思議があるなんて」
ぶっちゃけ、私は鷹垣の話が信じられなかった。というか、信じなかった。
鷹垣が私の興味を引こうとした、冗談だと思った。
一年なら分かるけど、私らもう二年生だよ? しかもその手の話題には尋常じゃないくらいのアンテナを張っている。それなのに、今になって発覚するなんて有り得ない。
「俺も昨日、初めて知って驚いたんだよ」
「は?」
「ほら。学校の裏サイトってあるだろ?」
「……ああ。《フラバツ》か」
鷹垣の言う通り、我が校には学校が運営する正式ホームページとは別に、在校生だからOBだかが運営する非公式な裏サイトが存在する。サイト名、《フライングバードツリー》。通称、《フラバツ》。まあ、《飛鳥木》だからまんま和訳なんだが、みんな『ひねりもセンスもねえなあ』とか思っているのだが、利用者も多く、一日にかなりの情報が飛び交っている。我が校の最新情報はあそこで展開されている。今晩辺り、あの転校生のことが話題になるかもしれない。
《フラバツ》は一日見ないだけでかなり掲示板が書き換えられる。
しかし、私は昨日ちゃんと見ていた。
「ちなみに、いつ見た?」
「風呂上がりだから、九時半くらいかな?」
その後は、ネットにアップされた最新の恐怖映像や都市伝説を調べたと思う。断じて、素敵な恋の見つけ方みたいな普通の女子が見るようなものは見ていない。
私の言葉を聞いて、鷹垣は不細工に、得意気な笑みを浮かべた。
「この怪談は、十一時に書かれたんだ」
つまり、二時間のラグがあったのか。
「常連やってるチャットやってたんだけどさ、それまでは全く別の話題で盛り上がってたんだぜ? なのに急に《アルファ》ってハンドルのがさ、変な書き込みしてさ」
《アルファ》。
ギリシャ文字の最初の文字。
「ちなみに、どんな話題で盛り上がってたの?」
「え?」
「だから、その《アルファ》が妙な書き込みをするまで、どんな話題で盛り上がってたの?」
別に何が気になった訳でもない。いや、少し気になっただけだ。
軽い気持ちで聞いた私に対し、鷹垣は少し動揺していた。
「あ、いやさ、どんな話題って言われてもさ……」
動揺って言うか、しどろもどろって言うか……。むしろ挙動不審?
「どうした訳?」
「そ、そんなことより、話戻すんだけどさ」
「…………」
どうやら、私には言えない話題らしい。
どうしよう。
話を中断させて聞き出すべきか。それとも、チャットの話を聞き続けるべきか。
うーん。
気分が不快になる気がしたので、後者を選んだ。
「あれ? 一瞬、近くから悪寒を感じたような……」
「気のせい気のせい」
そうでもないけどな。
「それで? そのアルファだかベータだかは、どんな書き込みをしたの?」
「あ、ああ。確か、『知ってるかい? 飛鳥木高校の七不思議』」
何の前振りもなくその話題に入ったなら、間違いなくKYだ。こんな死語を使う方がKYかもしれないけど。
「そいでさっきの七つが書き込まれたんだ」
「で?」
「で?って」
「それからどうしたの?」
「それからって……。それだけだけど」
「それだけ?」
「それだけ」
いやいや。それだけな訳ないでしょうが。
「その七不思議のことを聞いて、アンタや他の連中はどうした訳?」
すると、鷹垣は決まりの悪い顔をして、
「……みんな全く触れずに、元の話題に戻ったんだ」
は?
全く? 全くだって? そんな馬鹿な。ネットでそんな面白そうかつ、馬鹿馬鹿しい話が突然上がって、誰も触れなかった?
「それはあれ? 『この話無視しようぜ』的な流れはあったの?」
「……いや」
鷹垣は相変わらず決まりの悪い顔をして、首を振った。
「まるでそんな書き込みなかったみたいに、みんな無視したんだ」
「な、何で?」
「怖かった、んだと思う」
いつの間にか、決まりの悪い顔は、随分血の気の引いた顔に変わっていた。
同時に、後悔と困惑の影が見えだした。
俺は何でこの話をしてしまっているんだろう?
そんな声が聞こえてくるようだった。
思い出したくもないことを想起しているような、幻想だと否定したいことを認知しているような、そんな引きつった顔だった。
「何をネットの書き込みにビビってんだって思うよな? でも俺、マジであの時、怖かったんだ。あの《アルファ》ってハンドル見た瞬間、何かブルってなってさ。七不思議が書き込みされてる間だって、何も出来なかった。俺だけの話じゃないぜ。《アルファ》は三分くらい掛けて七不思議について書いたんだけど、その間、チャットの誰も何も書き込まなかった」
「…………」
「誰も、反応が返せなかった。誰か何か書いてもいいたろ? 疑うなり詳しく聞くなり馬鹿にするなり」
しかし、誰も何も書かなかった。チャットで使うのも妙な表現だけど、口出し出来なかった。
相手を気にせず意見を言えるのが、ネットワークの欠点でもあり、長所のはずだ。それが今回、生かされていない。
ネットの書き込みに何を怖がっている。
私はそう叱責すべきなのだろうが、何だろう? こうして鷹垣の話を聞いているだけで、七不思議を書き込んだ、《アルファ》という人物の得体の知れなさが、虫が肌を這うような不快感と共に、私にも伝わった。
鷹垣の演技だという線はない。彼にそんな演技力はない。
今朝の転校生に感じたそれとは違う。明らかに、何かが歪んでいる。何が? 分からない。一切が不明だ。
朝は異常で。
夕は不明か。
あの傍観者は、この話を聞いて何を言うだろう? 警戒の対象に認定するのか、一笑に伏すだろうか。昼休みに転校生をああ評価したことを考慮すると、前者のような気がする。
「《アルファ》は七不思議以外のことは何か言ってた?」
「えっと、確か……」
その時だった。
「……っ!」
背中が、ぞくりとした。
これは寒気とかそんな物じゃない。隙間風とかじゃない。ただの人の気配でもない。私はこれと同じ物を、生涯で一度だけ感じたことがある。
これは、殺気だ。
「っあ!!」
私は部室のドアに走った。反射的に。本能的に。ほとんど無意識に。
そしてそこには。
「わ! どうしたのさ、水菜。鬼が桃太郎見つけたような顔して」
「………」
そこには、私の幼なじみ、横井幹太がいた。私がどんな顔をしているかは知らないが、横井は鳩が豆鉄砲食らった顔をしている。
私は今、殺気どころか、寒気を感じている。
「だからどうしたって……ぐふ!」
なんだか腹が立ったので、横井の腹を殴った。でもスッキリしない。ついでに顔をビンタした。
ストレスを発散した私に対し、横井はただ涙目になっていた。
「な、何で殴った?」
「むかついたから」
それだけ。
「……あっそ」
さすが幼なじみ。私の理不尽な行為に慣れているので、全く不満も文句も言わない。……我ながら、最低だな。
呆れ顔で私から目線をずらした横井は鷹垣を発見、「はっ!!」と言って口に手を当てた。そして私と鷹垣を何度も見比べる。何だか妙な誤解をされた気がするが、わざわざ訂正するのも面倒だ。横井は勝手な憶測を他人に言い回る趣味はないし。
「そういえばさあ」
ふと思い出したように、横井は言った。
「二人って、あの転校生と知り合いだったりする?」
「は?」
あの転校生とは間違いなく、間違いようもなく、火元真紅のことだろう。他に転校生が来たという話は聞かない。私は鷹垣とは違うから、その手の話を聞き漏らすなど有り得ない。
だが、何故そんな質問をする? 私と彼には接点などないというのに。
「だってさあ」
質問の意味を理解できないでいる私と鷹垣に、横井は言う。
「さっき、この部室の前にいたぜ?」
………。
はい?
なかなか本題に入れない。けど、こんなもんか。マイペース万歳。