表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もどき神  作者: 左信吾
3/10

元カレと幼なじみと親友と引きこもり

 

 私の元カレ、鷹垣統たかがき はじめについて語るのは正直、嫌だ。

 辛いのでもなく、言い辛いのでもなく、抵抗があるのでもなく、単に嫌なのだ。

 もう名前を口にするどころか、頭に浮かべるのも嫌だ。

 別れるきっかけは何だっただろうか。覚えていない。思い出したくないだけかもしれないけど。でも、あちらに落ち度があったはず。そう期待し、そう確信する。


 出逢いは中学だった。私がまだ、今ほど異端に興味を持っていなかった頃だ。最初は、イケメンの部類には入るかなーと思った以外は、特に彼を意識したことはなかった。タイプではなかったし。

 何故付き合うようになったかは覚えている。あいつの方から告白してきた、と言いたい所だが、残念ながら、屈辱ながら、コクったのは私の方だ。でも、惚れたのはあっち。

 具体的に何があったかと言えば、年上の不良に絡まれていた私と友達をあいつが助けてくれた。それで意識するようになって、気付いたら好きになったってパターン。

 中学一年のバレンタインにチョコにラブレターを添えて渡して、OKを貰った。

 あの時感じた天にも昇る喜びをさっさと忘れてしまいたい。

 我ながら、チョロい女だった。


 思い出すだけで恥ずかしい。気恥ずかしいのではなく、純粋に当時の自分の愚かしさが、恥ずかしい。 実はあの時の不良たちは鷹垣に頼まれて私たちに絡んできた、つまり、彼の自作自演だったと聞いたのは、別れた後。本人に問い詰めたら挙動不審になったので、真実を理解した。別れて正解だったと思った。綺麗に吹っ切れた。



 だから、部活関係で逢うのは諦めたが、それ以外の時は顔も見たくない。

 まあ私が何を言いたいのか、察しの良い人には分かってもらえるだろうし、察しの悪い人にもすぐに分かる。


「だからさあ、ヨリ戻そうよ、みっちゃん」


 ……そう。ここにいるのである。


「嫌だって何度も言ってんじゃん。てか、あだ名禁止」

「えー。みっちゃんだって、人間失格には使うだろ?」

「あれは一種の義務だから」

 どんな義務だとは思う。元カレもそう思ったのか一瞬だけ表情をひきつらせたが、すぐにいつものヘラヘラとした笑みを浮かべる。


「てかさあ、みっちゃんだって今フリーじゃん。俺もみっちゃんと別れて以来、お試しのデートにも行ってねえんだぜ?」

「へえ。この間、三組の鈴木と二人で歩いてなかった?」

「あれはただの友達だって。あれ? みっちゃんもしかして、妬いてる?」


 何故そうなる。自意識過剰だ。この人間失格が。おっと、それはまた別の人間だった。



 現在は放課後。場所は第三化学室こと探偵部部室。いるのは、私と鷹垣の二人だけ。

 早く誰か来い。

 

 いつもは一番始めからいるだろうが、マイ幼なじみ。 偶には来てくれ、人間失格。

 こんな時こそ助けてよ、親友。

 もはや部外者でも構わないよ、チョコ野郎。




 はあ。



 現実逃避の意味も込めて、我が探偵部メンバーの紹介でもしようか。



 まず、副部長の私。まあ、今更自己紹介するのも気恥ずかしいので、容姿の特徴だけ言葉の羅列に並べてみる。

 髪型はツインテールが多い。左右とも青の髪留めを使用。二重目蓋。肌は日本人らしい肌色。背丈や体重は平均くらいだと思う。スリーサイズは個人情報保護法により、秘匿させて頂く。あれ? 似た台詞を最近どこかで聞いたような……。

 気のせいかな? 



 んで、今私の目の前にいる部長、鷹垣統。世間的に言えば、イケメンの部類に入るが、性格は良くない。むしろ悪い。意地とか性根とかじゃなく、思考そのものが。

 残念なことに、男子としては背は低い。中学一年で第二次成長期が停止したらしく、現在は私より少し低い。



 人間失格こと折角仁善。彼の紹介こそ今更なので省略。我が部の背景バックと言われている彼だか、部室を昼休憩に使用する以外は、全く部活に干渉しない。そういう条件で部活に入って貰った訳だが、最初はこんなはずではなかった。

 正直に言えば、あの人間失格にも馬車馬のように働いて貰うつもりだったのだ。だが全く参加しないのでは巻き込みようも働かせようもないので、時々、名前だけ使わせて貰っている。例えば、初対面の大人から情報収集をする時は

「折角仁善が所属している探偵部の者です」

と言えば、大抵口を効いてくれる。あの傍観者は顔がとんでもなく広いのだ。却って警戒される場合もあるが、それでも役構わない。何のリアクションを生まない名前よりマシだ。



 次に、私の幼なじみ、横井幹太の紹介をしよう。あれの特徴を一つ挙げるとしたら、体型のことである。

 本人は気にしていないが、周りの第三者からしてみれば、全く気になるほどの、デブである。 幼稚園からの付き合いだが、その頃から丸まると、子豚のように太っていた。当時の姿は『子豚』と表現できたが、今はただの『豚』だ。見ていて不快なだけだ。

 彼の家族はほぼ全員太っている。父、母、姉、みんなシルエットが丸い。兄だけ唯一太くないが、それはスポーツをやっているから消化が追いついているだけだろう。やめたらすぐ太るはずだ。その証拠に、子供の頃のあだ名は『肉団子』。

 私なら投身したくなるような呼称である。幹太の兄も、これがきっかけで痩せることにしたらしい。

 横井幹太本人は痩せる気配もないし、痩せる気もないらしい。曰わく『色気より食い気』、『美味しい物が食べられないなんて耐えられない』、『ダイエットなんて成人になってから』とのこと。

 性格はそれなり。食べ物のことを除けば、大らかだし。小心者だけど、善人だ。

 また機械に強くで、探偵部では、『情報収集ネット担当』というポジションにいる。

 んで、オタク。趣向については落ち着きがなく、アニメも漫画もアイドルも鉄道も何でも好きになる。最近は、『花鳥風月』とかいうアイドルグループに夢中。一回で良いから、健康オタクになって欲しいものである。

 幼なじみからの、切なる願いだ。




 お次は小学校からの私の親友、後山クルミについて。

 彼女はまあ、美少女だ。親友の贔屓目を差し引いても、彼女は美人だと思う。大人びた顔立ち、高い背、長い足、きめ細かくて色白な肌、艶のある髪、ふくよかな胸。そこらのアイドルが色あせて見える、パーフェクトな容姿だと言われている。

 どこでも良いから、体のパーツを一つ交換して欲しい。

 おまけに、成績優秀、スポーツ万能。特待生ではないが、彼女は全体のバランスが全面的に高いのだ。 なので、一芸にしか秀でていないうちの特待生(折角みたいな例は数人しかいない)では、一つの部分では勝っても、総合得点だと勝てない。

 そんな人間は決まって性格が悪いと思うでしょう。

 ふふふ。

 そうです、性格超悪いんです。

 凡人の僻みを裏切らず、仲良くできない性格なんですよ。鷹垣とは別ベクトルで悪い。つうか単純に、口が悪い。毒舌で、辛辣なのだ。歳を重ねる度にその鋭さは増し、折角や鷹垣に引かれたことがある。

 その容姿のことも合わさって、評判は悪い。特に、女子から。嫉妬とも言いますね。

 私はよく親友を自称できると思う。いや、本人にしか言ったことないけど。そしたら泣くほど感謝されたけど。正直引いたけど。そして二度と他言すまいと誓ったし、彼女にも誓わせた。

 けど、休みの日に一緒に買い物や映画に行くので、案外、周囲は認知しているのかもしれないけど。

 高校生になって友達減ったし。あ、でも、クルミとの付き合いは小学校からなので、関係ないか。 となると、私は何故、友人関係が希薄になってしまったのだろう。

 高校生になってからの一番の変化と言えば、髪を切ったくらいだが(まあ、伸びて元に戻ったんだけどね)……。

 まさか、探偵部を作ったことだろう? まさかねえ。

 ともかく、私も親友も友達は少なめってことで。決して、親友が一人いれば満足とは言わないが。



 最後は、紹介の必要があるのかどうか分からないけど、牧場友季について。

 牧場は、幽霊部員だ。いや、幽霊生徒だ。不登校児だ。一年の夏休み前から来なくなった。理由は不明。

 自分の部屋に引きこもって、めったに外出しない。最初の頃こそ皆が心配していたが、今では彼女の両親さえも諦めている。

 たまに、折角とは連絡を取っている。色気沙汰は全くなく、折角が牧場の話し相手になっているだけって感じだ。

 あの傍観者は何気にお人好しだから。誰の相談にも乗る。誰の愚痴も聞いてくれる。誰の悪口も黙ってくれる。

 探偵部に入ったのも、私に利用された、みたいに言っているが、こちらの魂胆は最初からバレていたと思う。客観的に考えて、協力はしていないが、助力にはなっている。

 本人にな自覚がないようだが。 どんな主人公気質だ。あるいは、フラグ体質か? バトル漫画なら羨ましいが、彼の人生はコメディで終わると思うので、私の求めるそれとは違う。

 閑話休題。

 牧場の話だった。まあ、折角が彼女と話しているのは、カウンセリングみたいなもんなんだろう。彼女を見捨てていないのは、もう人間失格だけみたいだから。中学で仲の良かった私を含めて。

 ……。

 再び閑話休題。

 依然として、牧場友季は引きこもりで、不登校だ。そして、私は彼女を助けられなかった。誰も彼女を救わなかった。

 以上。




 最後に気の滅入ることを考えてしまった。憂鬱ー。

 何でこんなこと考えたんだっけ。


「ちょっとちょっと。みっちゃん話聞いてる?」

「……」

 そうだった。現実逃避だった。忘れていた。現実逃避しようとして、嫌なことを思い出してしまうというこのスパイラル。最悪だ。

「思うにさ、みっちゃんは俺の魅力をまだ分かってないんだと思うんだよ」

「…………」

「だからさー、やり直して俺をちゃんと理解して欲しい訳。そういう訳で付き合わない?」

「………………」

 余計に気が滅入る。憂鬱というか、ただの鬱になりそうだ。

「あ。そうだ。みっちゃんが好きそうな話聞いたんだけどさ」

 私からの反応がなくなったからか、鷹垣は話題を変えてきた。

 それにしても、私が好きそうな話? 悔しいが、そそられる。一体何の話だ?

 ま、まさか、あの転校生、火元真紅に関する情報か!! それはでかした! 感服する! あれ? 感服ってこんな使い方で良かったっけ? とか思ったのだけど。


「いや、ごめん。転校生がいたこと事態、初めて聞いた」


 拍子抜けとはこんな時の為にあるんだろう。さすがに呆れるしかなかった。

 どんだけ耳遅いんだよ。あの転校生は校内中で話題になっているというのに。これは話も期待できないな。

 そんな私の希望、間違えた、期待、でもなく、予想は、良い意味で裏切られた。いや、やはり悪い意味かもしれないが。

 鷹垣は自信有り気な顔で、こんなことを言った。




「この学校には、七不思議があるんだ」



「七不思議?」

 不覚にも、間抜けにオウム返ししてしまった。

 本題に入れない。いや、主人公が中々出てこないな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ