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もどき神  作者: 左信吾
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転校生

右海水菜。

その人生の大部分は平凡なものだったと言わざるを得ない。

水菜はそんな人生に退屈していた。死にたくなるほど。


彼女は平凡が、普通が、一般が嫌いだった。


彼女は、特別に、特例に、特異になりたかった。


否。

現在進行形で、なりたい。具体的にどうなりたいという要望はない。大雑把に言えば、漫画や小説の主人公になりたいのだ。ジャンルは問わないが、出来れば冒険活劇みたいなのが良い。

夢物語だとは、水菜自身も自覚している。しかし、この世には、やはり

『そういう人生』

を送っている人間もいると、水菜は思っている。確信はない。逢ったことはないし。テレビのドキュメンタリー番組で見るものも、何かが違う。

違い過ぎる。

あれはあれで素晴らしいのだけど、そう認めているし、面白いとも思うのだけど、水菜の求めるものではない。

だから高校に入ると同時に、適当な同志を募って、探偵クラブを作った。

が、当然のように成果は振るわない。平和な田舎町に、簡単には事件など起きない。部を開始してもうじき一年になるが、一番大きな依頼は、同級生の父親の浮気調査だった。しかも、本当に浮気していて、結果的に離婚になったのだから笑えない。

むしろ泣ける。

泣けてくる。




と、第三者視点はここまでで構わないでしょう。

皆さんはじめまして。

右海水菜みぎうみ みずなと申します。


花の女子高生(二年)をやっておりますが、彼氏はおりません。

それなりに交際を申し込まれることはあるのですが、いまいち魅力を感じないのです。先に述べた通り、普通は嫌なんです。

ただ、変人が好きな訳ではないんです。ワガママかもしれないけど、若いんだから、付き合う人は勝手に選んでも良いよね?


ちなみに、変人な男なら、三人知っている。一人知人以上友達以外で、もう一人が幼なじみで、最後の一人が元カレ。


はっきり言って、三人とも最後の奴も含めて、恋愛対象としては、論外だ。

あくまでも私の意見なので参考にしないでね? 最初の奴は、地味にモテるし。何故か。不思議なことに。かなりの変人だと学校公認なのに。二番目はまあ、それなり。幼なじみとしての長い付き合いからの偏見なのか、性格は悪いように思う。容量も悪い。後、ぱっとしない。

最後の奴に関して言うべきことは何もない。皆無だ。そのうち嫌々話すことになると思うので、それまで期待しないで待っていてください。


そんな三人と私と二人の女子、計六人で、『最高に面白い青春時代にしよう』をスローガンに発足されたのが、我らが飛鳥木高校探偵部。

私副部長、元カレ部長。

だから部長会議、気まずいのよね。あの時は、別れるとは思わなかったし、この高校の部長会議が副部長同席が原則だとは後で知ったし。いやー、物事の選択や決定はよく考えてからすべきだと、改めて思い知った。


主な部活内容はお悩み相談。話を聞くだけのことがほとんどだが、行動を起こす場合もある。

先の離婚調査みたいな依頼も偶にある。親を探ることなんて稀で、同級生の場合がほとんど。ぶっちゃけ、黒だった場合、後味が信じられないくらい悪い。他にもペットの捜索などの、リアル探偵みたいな依頼もある。現実的な話だ。おかげで、足音を殺しながら走る技術を習得した。


けど、私が求めるのは、推理小説に出てくるみたいな、デンジラスな依頼だ。でも孤島の別荘にも山奥のにも行ったことないし、脅迫状の調査を頼まれたこともない。警察や情報屋に知り合いもいない。殺人死体どころか、交通事故の現場さえ見たことない。


別に探偵でなくても良いのだ。助手でも全然良いし、ヒロインなら大歓迎。妥協して目撃者でも構わない。被害者はちょっと勘弁。犯人はまあ、無しで。

自分で起こせるアクションはできるだけやっているのに、私の世界は変わっていない。

飽き飽きしてくる。

嫌になってくる。

少し諦めてきた。



だから今日からやってくるという転校生にもあまり期待していなかった。意識していなかったとも言う。

だから。



火元真紅ひもと しんくだ」



朝のホームルームで紹介された彼を見た時、呼吸が止まった。

気をてらわれたと言う奴だ。

短く切りそろえられた黒い髪、格好良いと言うより綺麗な整った顔立ち、肩幅の割に妙に高い背丈、手はポケットに突っ込んでいる。制服を着崩していないのが却って不自然だった。

何より目を引くのは、正に目だった。目蓋は眠そうに半眼閉じていたが、目尻だけがやけに鋭かったのを私は見逃さなかった。瞳は光の加減なのか、赤みを帯びている。だが、そんな赤を否定するかのように、目には輝きが足りない。死人のような目とまでは言わないが、生者の物とも思えない。

はっきり言って、彼は普通ではなかった。一目で分かった。


こいつは異端だ。


それは第一印象などという生半可なものではなかった。未来永劫、この意見を撤回することはないと、確信できた。

確信できてしまった。


これは私が異端に憧れているから感じたことではない。私の人を見る目が特別優れている訳ではない。

その証拠に、クラスメイト全員の顔色が、いつもと違っていた。

イケメン登場という浮き足立った女子もいるが、素直に怯えている顔もある。引きつっている奴もいる。普段ヤンキー扱いされている男子が、無理をして無反応を装っているのが丸分かりだ。

私たちの視線を受けて、火元真紅は無反応で無表情だった。まるで、私たちからの印象など、どうでも良いようだった。いや、実際にどうでも良いのかもしれない。

「ふう」

短く面倒臭そうに溜め息を吐いて、こう続けた。

「まあ、一つよろしく」

やはりどうでも良さそうな態度で、適当な言葉だった。


面白そう。

いや絶対面白い。

それが火元真紅に対する、右海水菜の見解であり、感想だった。

次話も、できるだけ急いで書きます。

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