表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

彼女の日常

Let's walk hand in hand.

作者: ロッコ

私は今、23歳で

これからまだまだ色々あるのだろうけど

それでも、今のところ、我が人生に於いて一番の幸福は、小学校2年生の時だった。


あの時、大大大好きだった、同じマンションに住むコウ君と

放課後、二人っきりで(たまたま、他の子が用事でいなかったのだ)

ジャングルジムがある公園で、空が暗くなるまで遊んだ。

しかも、帰りは危ないからと手を繋いで帰ったのは

今でも時々夢に見るほど、私にとって幸福な時間だった。


いや、幸福感は他にも何度も味わっているが

恋愛に関して言うと、(小学2年生で恋愛というと、ちょっと違う気もするけど)

私の唯一のイベントだったと思う。


次の日、学校で見かけたコウ君は

前日二人っきりで遊んだことなどなかったのごとく

男の子友達とサッカーをして遊んでいた。


そんな態度に、がっかりしたり、悲しくなったりしたのも良い思い出で

23歳にもなると、どうしてあの頃コウ君がそういう態度だったのか何となく分かる。

異性より、同性とのふれあいに興味を持つ時期であったのだろう。

まぁ、それと

私の見目が、地味でイモ臭かったのも、一因だと言える。



それから小学校を卒業後は、中学、高校、大学と女子高(女子大)に進級した。

大学卒業後、調べてみたい事があり、別の大学院を受験し

春から共学の大学院に通っている。

もう何年も、男性がほとんどいない環境だったため

未だに自分と年が近い男性を見ると、ギョッとして身体が固まってしまう事がある。

(我ながら、情けない。トホホ)






そして今。

何故急に、小学2年生の時のコウ君のことを思い出したかというと

一ヶ月ちょっと前、チームでデータをまとめ終わり一段落ついたと言うことで

「お疲れ様」会を開いた。


疲れと、気のゆるみで

いつもよりも、多くお酒を飲んでしまい、したたかに酔っていた。

他のメンバーも似たり寄ったりで、笑いが絶えない、楽しい会になっていた。


11時頃に、会を閉めて帰宅する時の事。

私と、同じ方角が、もう一人同い年の水沢君だけだった。

彼はとても今時の子で、恰好も交友関係も積極的に楽しんでいる雰囲気があった。

そして、見目もよく。背が高く、肩幅のある、魅力的な体格をしていた。


だから、というのもおかしいけど、同じ方角だったからといって

私と二人っきりになるような状態は

進んでするようには見えなかった。

(なんせ、23歳のいまだに、地味でイモ臭かったのだから)


でも、水沢君は

メンバーの誘いを断り、私と肩を並べて帰ることにした。

控え目に言って、とっても吃驚した私は、隣で水沢君が話しかけていることに対し

「あぁ・・・・・・」とか

「ぅ、うーむ」とか

酷い受け答えをしていた、と思う。

(思い返すに、受け答えになっていない酷さに、落ち込んでしまう)


そして、さらに吃驚することに

バス停が近くなってきた頃

手を握られた。

大きな、とても大きな手で

一度も感じたことのない、質感と体温と大きさだった。

父親とも違う、不思議な感覚だった。

そのまま、バスが来ると、一旦は手を離し、乗車した。

バスの奥にある、二人がけの椅子に並んで座ると

再び、私の手を握った。


私の手は、緊張の為、少し汗ばんできていた。

汗ばんでいることも、緊張していることも、知られたくなかった私は

成るべくなら、手を繋ぐのを辞めたかった。


頭が混乱を来しているうちに、バスが発車した。

一つ目のバス停にバスが停まる頃、水沢君がウトウトと、船をこぎ始めた。


暫くして、私が降りるバス停が近づいてきたので

水沢君を揺り起こし、寝過ごさないように伝えた。

そして、そっと手を離し

「おやすみなさい」と挨拶をして

バスを降りた。


バス停から、家に向かう間、思ったのは

コウ君のことだった。

彼は今、どこで何をしているのだろう、と。



水沢君のことは、何が何だかよく分からなくなるので

思い出さないように、考えないようにして、週末を過ごした。

とはいえ、月曜日になり

次の研究の為に訪れた時

水沢君に会って、どうなるのか、とても緊張していた。


どうなるのだろう?

という不安と、反対の高揚した気持ちでゼミ室に向かった。


部屋に入ると、談笑する声が聞こえた。

挨拶をするとみんなが挨拶を返してくれた。

水沢君もそこにいたのだけど、こちらを見ることなく

手を繋いだことなど、なかったかのごとく、いつも通り

チームの一員としての態度で、私に対応していた。


この状況に、既視感を覚えた。

コウ君の時と同じだと、感じた。






それから、一月後。

私の中で、一つの答えを出した。


あの時、水沢君は徹夜明けで疲れていた。

あの時、水沢君は思いのほか酔っていた。

その為、水沢君は手を繋いだことを覚えていなかった、と。


コウ君のことは、大大大好きだった。

水沢君のことは、何とも思っていなかった。

でも、それでも。

私の中では、手を繋いだ思い出として、

コウ君との事も、水沢君との事も思い出すと、心がほっこりと温かくなる。


恋愛よりも、他の事を優先している私には

手を繋いだ事は、ちょっとしたご褒美として

幸せな宝として心の中にしまっている。




そんな、日常。




彼女で話が浮かべば、また書こう。


【お題提供】

空橙 http://sxo.noor.jp/ato/index.html

のお題を使わせていただいております。ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ