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憑き甘く  作者: ネイブ
1学期
4/34

入学入部


 学園生活が始まってから、僕は順調に人に紛れられている……と云うより遠巻きにされている。


 どうやら髪の毛がボサボサで不潔に見えるらしく『真黒毛虫』と呼ばれて遠巻きにされて居る様だ。別にちゃんと毎日お風呂に入っている。櫛削ってないだけでどうしてそこまで云われないといけないのか不思議だが、まぁ近寄って来ないんならそれに越したことはない。

 未だペアを組んでやる授業とかはないが、今後出て来ないとは限らない。出てきたらどうしよう。頼むから女の子とだけはよしてくれ。


 授業はまだ3日目なのであまり授業と云うような授業には入っていない。僕らは宴の次の日、つまり2日目にまた門の前に集まって1時間ほど礼節のアユーラ先生の案内のもと学校を歩き回った。勿論僕は最後尾で女の子とは(いささ)か離れて説明を聞いていた。幸い先生の声は天井の高いこの校舎内でも籠る事無く離れていた僕の耳に届いたので離れていても問題なかった。

 校舎は広すぎてすぐには何処に何があるのか把握できないので取り敢えずこれから1月は案内の紙が手放せないだろうなぁ。僕は今日渡された手元にある地図を見ながら覚える努力をやめた。生活していればその内覚えるだろう。


 それからの授業は先生の紹介や授業内容の説明や使用教材について、などオリエンテーション的な内容ばかりだった。僕は講義の際は取り敢えず一番端のあまり目立たなさそうな所に座って聞いていた。


 周りは寮生だとかなんだとかでもうグループが出来ているようだった。僕は話しかけられそうになったら少し身を引いたり隠れたりしながら難を逃れてた。話さないから周りは僕の名前が解らず『真黒毛虫』が定着してしまったようだが別にそれで構わないから話しかけてきて欲しくない……でも、ちょっとだけ、誰かと話してみたいような、そんな感じにもなってくる。次に誰かに話しかけられたら返事を返してみよう、と歴史の授業のオリエンテーション中に思った。


 2日目は順調に話しかけられる事無く、そして3日目の今日初めて「やぁ」と云われた。

一応「……どうも」と返せた。いや、もしかしたら僕へじゃなかったかもしれないけど、でも僕だったら無視するの失礼だしでも「やぁ☆」なんて云えない僕の苦渋の決断だった。若干頭も下げたし、小声だけど一応云ったし、大丈夫と信じている。


 話は変わるけど、この学校には部活動があった。まぁ主には運動系だけど、他にも料理とか色々だ。僕はできるだけ人が居なくて、入るんなら薬草系の物が良かったので取り敢えず色々回ってみた。


 そこの君『人嫌いの真黒毛虫がどうして部活動に入ろうとしているんだ』って不思議に思った?そんなの、校則の中に【部活動には積極的に参加されたし。参加しない場合はその理由を明確に学校側へ伝えるべし】って云うのがあるからだよ。つまりね、体が弱いだとか、参加すると瞑想の時間が取れないって云う宗教上の理由だとか、そういうちゃんとした理由がないといけないんだよ。僕は校則とか、決まり事を破るのは嫌なのだ。……ちょっと憧れるけど。でも、先生に目を付けられるような事をしてはいけない。と云うわけで、僕は何か入れそうな部活動を探しに行くことにした。


 先ずは園芸部。……女の子だらけだったので速攻で逃げた。

 布を織ったり薬草で染物をする織染部(おりぞめぶ)。……女の子以下略。


 その後、やけになって魔法陣学部だとか魔術研究同好会だとかちょっと関係ないとこも行ったけどとりあえず人が5人以上いた。そして直ぐに僕は回れ右をした。人が多すぎる!なんなんだよ!これで駄目だったらもう部活入るのはやめようかな、と思いつつ『魔薬作成部』とあまり良い響きじゃないプレートのかかっているドアをノックした。ノックした。ノックした。もう一回ノックして、僕は取り敢えずドアノブを回してみた。開いた。


 僕は恐る恐る中へ入っていた。勿論一言断ってからだが。中に人が居るのは魔力の気配から解っていたので奥のソファーの所へ行くと昨日の宴会場に居た小人族の老人がすやすやと眠っていた。

 僕が数度揺さぶると漸く目を覚ました様だった。


「おんや?ひょっとするとひょっとして、入部希望かね」

「あ、えっと、見に、来ました」


 実は人がいっぱいいるとか云う落ちは笑えないから、取り敢えず来てみたと云う旨を伝える。僕は顧問の先生と思しき人に今活動している人が何人くらいいるのか尋ねると先生は首を横に振った。


「去年皆卒業してなぁ……今は誰もおらんぞ。お陰で別の部の顧問を任されてしまったよ」

「入部します」

「……ほんとかね?」

「入部させてください」


 人が居ない!僕、もしかしてやっと人生の運が向いて来たのかもしれない!と内心小躍りしていると先生は呆気に取られた様にぽかんと僕を数秒見つめてから(僕はその間下を向いて目を合わせない様にしていた)わたわたと奥の部屋に引っ込んだ。僕はぐぅるりと部屋を見渡す。


 物がごちゃごちゃと乱立していて解りにくいが、中々広い部屋だ。場所は2階にあって外はすぐ森だから採取にも行きやすそうだが、そのお陰で少々暗い。西日が強くなりそうな場所だ、と僕は窓から空を見て思った。


「やぁやぁ、それじゃあ君、これに、これこれ、サインしておくれ」


 先生は上機嫌で僕にそう云いながら紙を渡してきた。これもどうやら魔力を込めるタイプの物の様だった。僕は名前を書いてから魔力を少々入れて先生に渡した。それから先生に機器の使い方を教えてもらったりちょっと雑談をしたりしてまったりしつつ、僕は入学3日目から『魔薬作成部』の唯一の部員になった。


 物の持ち込みを許可されたので僕は紅茶セットを次の日――つまり今日――から持参していた。寮には寮にちゃんと良い物があったので実家から持ってきていた僕用の茶器が不要になっていたのだが、活用できて良かった。


 先生から他の任された部活の方に行かないといけないのでこっちにはあまり顔を出せない(人数比率から云ってあっちを優先しなければならないようだ)と申し訳なさそうに云われたが、僕としては問題ないので気にしないで欲しいと云っておいた。



 初日である今日はポピュラーに腹痛に効く薬を作成することにした。これは直ぐにできるし簡単だから機器の使い方を試すのにも良いだろう。


 あぁ、やっぱり物作りは良い。余計な事を何も考えないで済むから心が安らぐ。勿論周囲への警戒(人が突然来るとかね)は怠っていないが、此処は校舎の中でも端っこの方にある為あまり人が来ないらしい。上の階は大体空き教室になっていると昨日先生が云っていた。選択授業などで使うそうだが部活中には関係ないのでこの時間は安心・安全だ。


 僕は作った薬を液状の物と粒子状の物と丸薬にする物とに分け専用の機械に掛けた。

 これって確か最新式の物だと思うんだけど、なんで廃部寸前の部にこんな物が……と思いつつ機器に魔力を流して作動させる。液状の物はこのままで丸薬にする物はまた別の物と混ぜ合わせてから機械にかける。粒子状にする物はその間更に細かくするべく別の機械に振りいれる。


 僕は出来上がるまで用意しておいたティーポットにお茶を淹れながら、今度大清掃を行おう、と決意した。何が何処になるのか訳が解らない。


 僕はこう見えて、整理整頓は好きなのだ。物があるべきところにあるのを見るのは気分がいいし、利便性を追求するのも楽しい。芸術品なんかはあっても良いんじゃないか程度にしか思ってないので正直そういったものが無いこの部屋はすぐに好きになった。必要な物しかない部屋は合理的で気持ちが良い。

 お陰で僕の部屋には物が無さ過ぎて掃除のし甲斐が無いと使用人には不満を云われたものだ。

 僕しか部員はいないのだし好きにして構わないだろう。あぁ、明日が楽しみだ。


 あぁ、このまま何事もなく時よ過ぎ去れ!


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