表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憑き甘く  作者: ネイブ
1学期
3/34

歓迎の宴


 僕は寮からから出て指定されていた門から少し離れた所で人が大体集まるのを待った。

 そして時間になりあの門の前で立っていた女性の先生が何事か声をかけ出発してから、こっそり列の最後尾に着き少々前の人と距離を置いて歩き出した。これから入学の宴なるものが行われるらしい。いやもうなんでも良いけどね、唯、早く終わらせて欲しい。と僕は上級生たちから突き刺さる視線を感じながら早く終われと念じながら俯いていた。


 名簿のチェックをしていた先生に着いて建物の内部に入った僕ら新入生は、とても広い食堂兼講堂の様な所へ行き9列あった長机の真ん中3列に座らされた。僕は勿論一番後ろの列で誰とも視線を合わさないように下を向いていた。


近い!右に知らない人が居る!前には運良く人が居ない事には少々ほっとしが。左側は通路なので我慢するだけしてみて無理だと思ったら直ぐに逃げだそう、と僕は絶望しながら思った。


「諸君静粛に。これより宴を始めよう!」


 この広い空間全てに響き渡る深みのある声が響き、ざわついていた食堂が一気に静まり返った。


 大勢いる中で話す人間と云うのは、色んな素質が必要だと僕は思う。ちゃんと声が出せるかとか、堂々と振る舞える胆力が在るかとか、そう云う事も必要だけど、そんな事よりも広い空間で大人数の前でしゃべってちゃんと聞こえる声質とか、話し方の方が必要だし、重要だと思うのだ。だって声が出せなかったり小心者だったりしてもカンぺがあったら『大人数に大きな声で何かを云う』ぐらいはできるかもしれないじゃないか。でも『大人数要る中で全員に何かを伝える』には、唯大きい声を出せばよいってもんじゃないし、声が通れば良いってもんでもないと思うんだ。だから僕は前に会ったあの老人はやっぱり凄い人なんだなぁと素直に感嘆した。


 彼はこの国立魔術体術戦術……以下略、エカドティアナ学園の学園長であり国のお抱え魔導師でもある気の良いお爺さんだ。


「先ずは新入生諸君、我が学園へようこそ。わしがこの学園の学園長をしておるギリモアンドイド・フォルシティミ・デュアンク・コサガルードと云うものじゃ。君達の上級生はギリモア学園長と呼んでくれておるのう。みながこれからこの学園で良く学び良く遊び、たくさんの友を作って充実した学園生活を送る事を祈っておるよ。未来ある諸君に幸多からんことを!」

『幸多からんことを!!』


 学園長は銀のゴブレットを掲げて乾杯の合図をし、それに合わせてみんなで杯を掲げて中の聖水を飲んだ。こう云うちゃんとした儀式の時、聖水は全て飲み干してしまわないといけない為、数秒皆が無言で杯を傾けていた。

 この『銀のゴブレットで聖水を飲み干す事』の謂れには諸説あるけれど、大抵は悪魔なんかを発見するためらしい。この地上に在らざるモノ達は聖水を嫌がる、というものだ。良くお話の中に出てくる定番だ。……最も、実際には力の強い悪魔には通じないのでそこまで意味のある事ではないが。


 長机の上には貴金属でできた食器が置いてあり席の前にも細かな彫り物のされてある取り皿が置いてあったが料理はなかった。手持無沙汰な僕はゴブレットを置いてテーブルクロスだとか食器だとかをぼんやり見ていた。すると僕らを引率していた先生が立ちあがり一礼をしてから紙を広げて読み始めた。


「新入生、在校生の皆さん。これからこの学園の注意事項を述べます。良く聞いておきなさい。新入生は元より在校生の皆さんも、新年度から気を引き締めて頑張って下さい。わたくしはフェリモ・アユーラ。礼節の講師をしております」


 それから彼女は授業の始業時間や食堂の利用時間、授業に遅刻した場合や体調不良で休む時の対応等をざっと読み、在校生に目を走らせてから最後に「廊下は走らない様に!」と云って挨拶を終えた。

 先生が云った事は(最後の一言以外)別用紙でもう知っていたので聞き逃しても大丈夫そうだったが、一応ちゃんと聞いていた。別に先生が怖いからとかじゃないんだよ!人として人の話を聞くのが当然だって教わったからだ。だから別に怖がってるわけじゃ……すみません嘘です話聞いてる最中思わず背筋が伸びてしまうぐらいには恐ろしかったです。


「因みにこの宴は自由解散じゃが、終わりは深夜の刻1時までとしよう。では、これより宴を始める!大いに食べ、大いに語らおう!」


 そう学園長が云って手を2回叩くと目の前のお皿に料理が載った。おぉーと歓声が上がり僕も少々驚いた。流石国お抱えの魔導師。転移をこんなに大量にしかも精密に”詠唱短縮”でできるとは。まぁお皿にちゃんと魔術師き自体は彫ってあったんだろうけど。それでも並大抵の輩ができるものじゃない。


僕はサラダとスープとパンを取り分けた。家に居る時みたいに執拗に肉を食べろと云われないのは良い事かもしれない。と少し思った。しかも美味しい。温かみのある味がするし、執拗に香辛料が効いているわけでもない。これはポイントが高い。と僕は厨房の人達を心中で褒め称えた。美味しい料理を作る人は尊敬の対象である。


 僕の前後と左側には人が居なかったのだが、右側には人が居る。しかしかれは僕の反対隣りの人や斜め前の人達と話すのに夢中で僕の方には目もくれない。僕はさっと食べてさっと出ていこうと決めて家だと注意されるだろう速さで食べ始めた。そんなに行儀は悪くないとは思うが。

 ゴブレットを見ると柑橘系のジュースが入っていた。……隣の人は葡萄なのに。これ、人の好みまで読み取ってるのか?と少々慄きながらパンを流し込む。美味しい。テーブルに置くと何時の間にか注ぎ足されている。食事終了してもなみなみ入っていたらどうしよう。残せないのに……とちょっとびくびくしていると周りの囁き声が耳に入ってきた。


「なぁ、あそこに見えるのが王女様かな?見ろよあの綺麗な金髪!」

「そのお隣のヴェルフォンガ様も素敵よ!あの銀髪……うっとりしちゃう」

「あの赤髪……ジェロンドの王子も異国風ですげぇイケメンだなぁ」

「でもぉあたしはやっぱりガランデリア様が一番格好良いと思うのぉ」


 あぁ、そう云えば残念な事に王女様と公爵家の方々と同じ年代だったんだった。と僕はみんなが見ている方向を見た。隣の長机のほぼ中央にその一団は居た。解りやすいなぁ。


 僕は他の子よりも早熟だったらしく社交界デビューが早かったから、一応昔夜会に行った時に彼らの父母には出会った事が在るんだけど彼ら自身とは出会った事がない……と思う。あまりにもその後の記憶が……いやいや、思いだすな僕。思いだしたら負けだ。

 取り敢えず、正直夜会に居た人の記憶は薄いので居たかどうかわからないのだ。多分居なかったと思うが、居たとしても記憶に無いのなら初対面と変わらない。


 ともかく、他国の王子は元より王女様や公爵家の方々とも僕は会った事がない。しかしまぁ、みんなの視線の先と魔力量だとかから推察して大体誰が誰か特定はできた。そして僕は新たに決意する。

 よし、近付かない様にしよう。


 決意しつつお腹が膨れた僕はマナーに従ってナイフとフォークを置きゴブレットも中身をもう一度飲み干した。するともう注がれる事はなく、僕は大変満足した。やっぱり食事を終了する事がこの魔術を一旦解除する方法なんだ。

 すっきりした僕は“存在薄弱”の魔法をこっそり自分に掛けて広間から出た。早く寮に帰って寝てしまおう。そうしよう。


 こんな感じで、僕の学園生活は始まった。


学園長の名前は

名前+自分の魔術の派閥or門下+国から認定を受けた一代限りの公爵と同じ権限を持つ位+名字

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ