転生したら異世界だったけど、俺はまだ物語を終わらせたくない ~この世界が『短編小説』だと俺だけが知っている~
俺はトラックに轢かれて死んだ。
「――え、ここどこ?」
真っ白な空間。
足元も天井も分からない。
目の前には、いかにも女神です、という格好の人が立っていた。
豊満な体にスケスケの布をまとっている。
ちょっと胸元隠した方がいいんじゃないですか?
「えーっと……このたびは、本当に申し訳ありません」
「いえいえ、こちらこそ」
反射で返事をしてから、少し遅れて気づく。
「……で、何がです?」
「こちらの手違いで、本来死ぬはずではなかった貴方が死んでしまいました」
「あ、この流れ知ってる。お詫びに異世界に転生するやつだ」
「話が早くて助かります!」
助かるのはこっちだ。
つまらない日常から、憧れの世界へ。
「ところで、チートあります?」
「あります!」
即答だった。
「どんなレベルですか?」
「超ド級の! まずはですね――……」
その後、女神様から受けた能力の説明は、ざっとまとめるとこんな感じだ。
とにかく強い。
とにかく負けない。
望めばどんな必殺技だって使える。
版権も気にする必要無いらしい。知らんけど。
「最強じゃないですか。夢みたいだ」
「まあ、異世界ですしね。私のさじ加減一つです」
「さじ加減で……恐ろしい」
その瞬間、足元が消えた。
「え」
「それでは、頑張ってください!」
次に目を開けたとき、俺は玉座の間に立っていた。
「展開早くない? もっと女神様と絡まなくてよかった?」
誰に言うでもなく呟く。
正面には、いかにも偉そうな国王。
「勇者よ」
「あ、はい。俺のことですかね」
「我が国は、魔王の脅威に晒されている」
「なるほど。俺に討伐を依頼したい?」
「そなたに討伐を依頼したい」
「ですよね」
俺の先読みに周囲がざわついた気がしたが、気にしない。
「成功すれば、金も地位も名声も思いのままだ。ワシの娘もやろう。大陸一の美姫だぞ」
「おお、ブロンド美女……! マジもんのお姫様じゃん……!!」
国王のソファの後ろから現れた姫を見て、俺はガッツポーズした。
「それでは勇者よ、早速――」
「――待って! 私も一緒に行くわ!」
剣を持った少女が前に出た。
「おお、騎士団のエースではないか! 行ってくれるか!」
「女戦士ヒロインktkr」
「ひ、ヒロイン……? 何だかわかんないけど、私が仲間になれば魔王なんてあっという間よ!」
「うわあ、勝気系だ。嬉しいな。大好物です」
「べ、別にアンタのこと、カッコいいって思ったとかじゃないんだからねっ!」
「ツンデレだった。最高」
さらに続く。
「回復は私が担当しましょう。勇者様を必ずお守りいたします」
「へっへーん! 魔王ってどれだけ強いか興味あったんだ! ボクも行くよ!」
「魔法ならアタシに任せな! 敵は全部焼き払ってやるよ!」
「いきなり多いな」
清純系僧侶っ娘。
快活系格闘っ娘。
姉御系魔女っ娘。
いつの間にか、パーティが完成していた。
早い。
本当にテンポが良い。
「まあ……大抵こういう流れだよな」
異世界転生ものは前世で飽きるほど読んだからな。
序盤のまだるっこしい部分をサクッといけるのはありがたい。
「じゃ、行くか」
「ええ!」
「参りましょう」
「おーっ!」
「行こうかね!」
仲間たちとともに城を出る。
後ろから兵士たちの見送りの声。
「本当に、憧れの勇者になれたんだな……」
なのに、胸の奥が妙に引っかかるものがあった。
それはなぜだろう。
決意を固めた感触が無いから?
覚悟を決めた感じもしないから?
展開が速すぎるから?
その違和感を、俺は頭の隅に追いやった。
「ま、いいか。異世界なんだもんな。こんなもんだよな」
そんなことより、今はこの美人ぞろいのパーティを堪能するのが優先だ。
城を出てすぐ、盗賊に襲われた。
「止まれ! 金を置いていけ! さもないと痛い目見るぞ!」
「え、盗賊だ。君たちこんなお城のすぐ前で活動してて大丈夫? 捕まらない?」
「何わけのわかんないこと言ってやがんだ!」
「わけわかんないんだ……何でだよ……」
「うるせえ! 金がねえなら死にな! オラッ!」
「お、記念すべき初戦。どうしようかな」
技を発動しようとして、そういや自分の能力何も知らないな、と気づく。
女神様、何て言ってたっけ。
適当すぎてあんま覚えてないんだよね。
確か、何でもできるとか言ってた?
「じゃあ、必殺……星爆発嵐!!」
「ぐぎゃあああああああっ!?」
ちゅどーん。
俺の手から青い閃光が放たれ、盗賊どもをぶっ飛ばした。
「おお、あっけない」
「凄いじゃないか! さっすが勇者様!」
「うわあ、ボク憧れちゃうなあっ」
「か、カッコいいって思ってなんか無いんだからねっ!」
「美しい魔法です。いつか、私にも教えてください」
「いやあ、それほどでも無いよ」
わらわらと仲間たちが押し寄せてくる。
ああ、当たってます。
むにゅむにゅと。
ありがとうございます。
「それじゃ、先に進もうか。最初の街は――」
「――アレだよ! 始まりの街、スタートタウン!」
「……え?」
格闘家が指さした方向を見ると、すぐそこに街があった。
近くない?
いや、そんなもんか?
最初の街だし?
ってか、最初の街=スタートタウンって、そのまんますぎるだろ。
「まあいいか、じゃあスタートタウンへ入ろう」
俺たちはズンズン進んで行く。
門を通り、商店街を抜け、酒場、宿屋、教会。
そして街の外へ。
「……うん?」
「いやあ、スタートタウン。良い街でしたね!」
「え、ちょ、ちょっと待って。良い街だった? 一瞬で終わったよね?」
俺はこめかみを抑えながら尋ねる。
仲間たちは全員がうんうんと頷いた。
「? はい。活気があって、店の品ぞろえもよくて」
「有力な情報も聞けたわね。何でも、魔王は海を渡った先の魔王城にいるとか?」
「海を渡るための船は、港町で手に入れられる……だったね」
「あ、あとね。魔王城の結界を破るために、四天王が持つ宝玉を全部集めなきゃいけないらしいよ!」
「早いよ。もう情報出そろってんじゃん。しかも最終盤あたりの」
そういうのってさ、もっとこう……あるだろう。
いくつか街を旅してさ?
ダンジョン潜ったり、人助けしたり、中ボス倒したりしてさ?
この大陸を端から端まで駆けまわって、ようやく集められる情報じゃないの?
「ううん……まあいいか、そこからの展開が色々あるのかもしれないし」
「では勇者様、次の街に行きましょう」
「うん、行こうか」
促され、一歩、二歩、三歩。
眼前には町の入り口が。
「ふう……やっと、到着しましたね」
「だから早いって」
「あー! つっかれた! 早くお風呂入りた~いっ!」
「だとしたら普段から入ってないってこと? 昨日はまだ旅出てないからね?」
「さあ……ここの地酒はどんな味かねえ、今から夜が楽しみだよ」
「スタートタウンと同じ味だと思うよ、徒歩五秒だし」
ボケる仲間たちに適宜ツッコミを入れる。
忙しいし、この勢いに押し切られてしまいそうだ。
だけど、明らかにおかしい。
「勇者様、そんなお疲れの顔をなさって……急いで宿に向かいましょう」
「もしかしたら人数分部屋が無いかもね? 小さい街だしっ」
「べ、別にアンタと一緒に寝られるかもなんて思ってないんだからねっ!」
「あ、それは楽しみかも。早速行きましょう」
強烈な違和感はあったものの、下心に負けて俺は考えるのをやめた。
仲間とともに街に入る。
すると、目の前に巨大な影が現れた。
影はドタドタと音を鳴らしながら、こちらに急接近する。
「うおおおおっ! 私はこの町一番の大悪党! 町長の個人的な弱みを握り、自警団には膨大なワイロを送って見逃されながら、奴隷売買に手を出しているぞおおおおおおおっ!!」
「ええ……けっこう狡猾そうな中ボスが自分の悪事を暴露しながら走って来た……」
「貴様が勇者だなあああああっ! お前の命は貰ったあああああああ!」
「……えーと、超電磁砲!」
どかーん!
指先からビームが飛び出し、大男の身体を焼いた。
「ハァ、ハァ……もはやこれまでか……」
「え、もう終わり?」
「そうみたいだねっ、流石勇者くん!」
「苦戦とかは?」
俺の問いに、仲間たちは揃って肩をすくめる。
キミたち何なの?
「……勇者よ、よくぞ私を倒したな……」
「うん、まあ、頑張りました」
「私を倒しても……更なる悪が貴様を……そして……」
「あ、出た。お決まりのやつだ」
「そして私は実は魔王様の手下なので、私の家の書斎の本棚をずらすと現れる階段を下った先の秘密の部屋の机の引き出しに魔王城までの海図がしまってあるぞ……」
「なんて?」
「がふっ……無念」
死んだ……。
自分に何の得も無いのにめちゃくちゃヒント残して死んだ……。
そこにパタパタと足音が近づいてくる。
「勇者様! ありました! 魔王城までの海図です!」
「絶対予め取りに行ってたよね?」
「――あなたが勇者様ですか……!」
町長っぽい腰の曲がった老人が出てきた。
「勇者様、この町を救ってくださってありがとうございます……お礼と言ってはなんですが、コレを」
「ありがとうございます。コレは何ですか? カギ?」
「この町の波止場にあるガレージの鍵でございます。中には大きな船が入っています」
「え」
「それを使えば、荒波を超えて魔王のいる大陸に行くことができるでしょう」
チャリン、と鍵を受け取る。
「や、ちょ、待ってください。ちょっと展開が早いっていうか」
「――勇者くん! 船の試運転終わったよ! いつでも出発できるからねっ!」
「鍵使った? 俺が持ってたんだけど?」
「べ、別にアンタと船の一緒の部屋で寝たいだなんて思ってないんだからねっ!」
「そればっかりだなキミ。可愛いけど」
と、なんやかんやで船に乗りこむ。
「ええ……本当にもう出発するの? 魔王の大陸に……?」
振り返って仲間に尋ねる。
すると、六名の少女は全員大きくうなずいた。
……ん? 六名?
「待って、キミら誰?」
「よろしくお願いします! 商人です! 勇者様のこと大好きです!」
「お願いします! 魔物使いです! 憧れてます、何されてもいいです!」
「……いつ合流したっけ?」
「さっきです!」
さっきっていつだ。
気づけば、俺の後ろには大所帯のパーティができていた。
騎士、格闘家、僧侶、魔法使い、商人、魔物使い。
しかも全員女で、ドがつく美人。
「ハーレム、完成しちゃった」
「そうですね!」
そうなんだ。
誰かと仲良くなる過程とか無い。
衝突もすれ違いも無い。
最初から好感度MAXだもん。
「……なんか、薄くない?」
「何がだい?」
「いや、俺たちの関係性とか」
「信頼してるよっ! 勇者くん!」
「べ、別にアンタになら人生預けられるなんて思ってないんだからねっ」
人生預けても良いってくらい信頼してくれてるんだ。
そこまで言われると、まあ、良いのかもしれないと思えてくる。
だって別に、悪い事じゃないもんな?
ただ展開が早すぎるってだけで、ダメってわけじゃない。
でも。
何かが、引っかかる。
それからも、似たようなことが続いた。
事件が起きる。
俺が出る。
出た頃には終わってる。
「何一つ苦戦しないな……」
「勇者様ですから!」
「そういう問題じゃなくて」
勝っているのに、達成感がない。
積み重なっているはずなのに、何も残らない。
全てが足早に進んで、もう四天王も三人まで倒してしまった。
「勇者様! 残る宝玉は、いよいよあと一つですねっ!」
「……うん。あと一つになっちゃった」
口に出した瞬間、胸の奥がざわつく。
あと一つ?
おかしくないか?
頭の中で、時間を辿ろうとする。
トラックに轢かれて、女神に会って、王様に魔王討伐を頼まれて。
そこから先が、異様に薄い。
ついさっきだったはずだ。
異世界に放り出されたのは。
それなのに、もう終盤。
もう、あと一つ。
「……待ってくれ」
小さく呟いてから、俺は自分の考えに気づいて、息を呑んだ。
寄り道がない。
積み上げがない。
まるで、世界が急いで終わらせにきているようだ。
嫌な仮説が、頭の中で形を成す。
「――あれ……? この世界、もしかして短編小説……?」
そう思った瞬間、背筋がひやりと冷えた。
もしそうなら、終わりはすぐそこじゃないか。
俺は愕然とした。
この世界が短編の世界……!?
待て待て待て、嘘だろ。ありえない。
異世界転生テンプレものっていやあ、相場は長編だろ!
でも、でも、世界はどんどん加速していく。
「――勇者様! 残る宝玉は、いよいよあと一つですねっ!」
話しかけてきたのは仲間の一人、清純系の僧侶だ。
「……いや、おかしいと思わない?」
「はい? 何がですか?」
「全部だよ。全部が早すぎる」
「早い……ですか」
俺は指を折りながら言う。
「転生して、城に呼ばれて、旅に出て。んで、もう四天王残り一人」
「順調ですね!」
「順調すぎるの!!」
「ダメなことですか?」
仲間は首を傾げる。
本気で、何がおかしいのか分かっていない顔だった。
「だって俺、皆の名前も知らないよ?」
「名前は端からソフィア、エリシア、リリス、アイリス、エンジェ、リフィアです」
「ありがとう、だけど絶対これ今決めたよね。語感かたよりすぎだし」
俺は仲間たちのきょとんとした表情を見て、ため息をつく。
「……あのさ」
「はい?」
「この際ハッキリ言うけど、この世界……短編小説じゃないの?」
「「「「「「……?」」」」」」
「いや、全員その反応やめて」
やっぱり。
この子たちに言ったところでしょうがない。
所詮は物語の中の存在だ。
世界の真実に気づいているのは、俺だけ。
「よし、じゃあ確認してみよう」
「確認ですか?」
「うん。まず、あそこを見てごらん?」
俺の指さした方向には、石碑に腰かける老人。
「お爺さんが座っていますね」
「おかしいよね」
「そうですか?」
「だってここ魔王のいる大陸だよ? 普通のお爺さんがその辺にいるわけないじゃん」
「そうでしょうか……」
「そうなの。だからね、きっと俺、あの人には何か秘密とか伏線とかがあると思うんだ。実はかつての勇者とかさ、魔物は元々人間でその唯一の生存者とかさ」
「はあ……」
「わかんないか。まあいいや、ちょっと話してくる」
俺は老人に近づいた。
「すみません。あなたはここで何を?」
「ああ、ワシはかつての勇者じゃよ」
「えっ」
「かつて魔王を倒したが、実はワシの仲間が体を奪われて次の――」
「ああああああっ、待ってください。その話は俺が魔王を倒した後にしましょう」
「お主には伝えておく必要がある。そうしなければ、次の犠牲者が出てしまう」
「望むところです。出しましょう犠牲者。俺はまだまだ終わらない戦いに身を投じていたいんです」
「そ、そうか……」
「ええ」
一瞬の沈黙が訪れる。
……え、やったか?
伏線作れた?
「あー、よかっ」
「実は魔王を倒すと仲間が体を奪われ次の魔王になるがその呪いはワシの代で断ち切っておいたからお主は普通に魔王倒すといいぞ」
「ちょっ……もおおおおおおおおおっ!」
せっかく良い感じの伏線だったのに!
さっき多分「仲間が体奪われて次の魔王になる」みたいな話してたでしょ!
激アツやんけそれ!!
絶対第二部ある締めになってたのに!!!
「おい!!」
「ぐおっ、急になんじゃお主。胸ぐらを掴むでない」
「吐け! 吐けよ!! 伏線を吐け!!」
「ふく……?」
「実は悪いのは人間側だとか、スパイが仲間に紛れ込んでるとかよぉ!」
「ええ……意味わからん。何じゃそれ、こわ」
「…………引くなよお」
ぐすんぐすん。
涙がちょちょ切れます。
「勇者くん! 大丈夫っ!?」
「ああ、格闘家の子……名前もう忘れちゃった。いやね、このお爺さんがさ」
「お爺さん?」
「え? ここに――」
振り返ると、お爺さんはもう消えていた。
「終わった……この旅で一番意味深なキャラ配置だったのに……」
俺はその場にへたり込んだ。
「勇者様、元気を出してください。魔王討伐は目前ですよ」
「だから元気無いんだよぉ……」
「ホラ、立ちなよ。次の四天王はすぐそこだからさ」
「それも何でなんだよ……一網打尽にしやすい配置じゃん……」
仲間に無理やり立たされ、ずるずると引きずられていく。
ごつん。
何かにぶつかった。
顔をあげると、そこには大柄の魔族が一人。
「フハハハ! よくぞ参った勇者よ!」
「参ってない、3mも動いてないです」
「我は魔王軍四天王、最後の一人にして最強の存在!」
「あ、やっぱ? 一個前の四天王と戦ってる時から視界の端に見えてたよ。なんで加勢しないのかなーってずっと思ってた」
「我の名はギール=ツヨス!!」
「ああ……適当な名前だ……何の因果も伏線も無さそう……」
俺がうなだれる間にも、四天王はこちらに迫ってきていた。
「我の剣舞をとくと味わうがいい!」
「……炎殺黒〇波……」
「うぎゃーーーーーーす!?」
俺の掌から出た炎で、四天王は焼け焦げた。
「む、無念だ……」
黒焦げになった顔の皮がパリパリと剥がれ、表皮の下が露になっていく。
「え……」
すると、出てきたのは純日本人のような顔だった。
「人間じゃん。ていうか、日本人? て、転生者……!?」
「勇者様、どうされたんですか?」
「どうもこうも無いって! ホラ見てよ! 四天王の素顔は人間だったんだ! しかも俺と同じ転生者っぽいよ!?」
「はあ。言われてみれば、まあ……」
「やめて!? そんなスルーしようとしないで!?」
「ググ……お、俺はいったい何を……」
ぷるぷると震えながら、四天王は目をわずかに開けた。
「す、すみません! あなたも転生者ですか!? いったい何故こんなことに!?」
「お、おお……君もか……いや、実はな」
「あっ、喋らないで。いや、意味深な言葉くらいまでは喋っていいんですけど、そこで留めておいてほしいっていうか。全部丸っと真実を解説するとかいう愚行はやめてほしくて」
「ああ、わかった……君が何を恐れているか知らないが、ちょうどいい感じに話そう……」
しかも初めて話の通じる相手だ……。
やった、やったぞ!
この伏線っぽい世界の謎っぽい事件を逃すわけにはいかない……!!
「ぜひ、お話聞かせてください!」
------
ヒュゥウウウウウ……。
冷たい風が頬を撫でていく。
俺は魔王城の前に立ち尽くしていた。
「……とうとう、たどり着いたな」
「はい、勇者様。いよいよ最終決戦って感じですね」
脇に立つ僧侶の言葉に、俺は頷いた。
ん? 四天王が転生者だった件はどうなったかって?
結局、あの後――
------
「ぜひ、お話聞かせてください!」
「ああ、良いだろう。俺はお前と同じ転生者だった――と思ったが、実はそんなことはなかった……」
「……え?」
「ただの顔の造形が周囲と異なるだけの、普通の魔族だ……」
「いやいや、う、嘘だ。嘘ですよ。だって表皮が焼け剥がれて、本当の素顔が現れて……」
「そういうタイプの魔族だ……カハッ」
「ちょ、待って! 死なないで!! 死ぬなよ、おい!! お――……」
------
と、いうわけだ。
あの四天王も、何の伏線にもならなかった。
転生してからここまで旅をしてきたが、これといって後に繋がるような設定は一度もでてきていない。
俺の予想通り、きっとこの世界は、作者の思い付きで生まれたただテンプレなだけの短編作品なのだろう。
「……紛うこと無き駄作。でも、いいんだ」
俺は後ろへ振り向き、仲間たちを見る。
剣士、僧侶、格闘家、魔法使い、商人、魔物使い。
最後まで名前は覚えられなかったけど、そんな俺を慕ってくれる大切な仲間だ。
彼女たちと一緒に終われるのなら、それも悪くない。
仲間たちは皆きょとんとした顔をしていた。
俺は彼女たちの可愛らしいしぐさに、ふっと頬を緩める。
「それに、思うんだ。終わること自体は、別に悪い事じゃないんじゃないかって」
「……勇者くん、何の話をしてるの?」
「例えば、この剣を見てくれ」
俺は腰から剣を抜く。
ぎらりと刀身が光り、聖なるオーラを放つ伝説の聖剣だ。
「聖剣ですね、今日も神々しい光を放っています」
「ああ、そうだ。伝説の剣だ」
「死の山の頂上に封印されてた、選ばれし者にしか抜けない剣……流石のオーラだねえ」
「ゴメン、そのくだりは知らない。いつの間にか俺の腰に差さっていたものだ」
こほんと咳ばらいを一つ入れ、仕切り直す。
「言いたかったことは、役割についてだ。この剣の役割は、勇者の矛となって魔を討ち払うこと」
「うんうん、そうだねっ」
「俺が魔王を倒したとき、この剣の役目はそこで終わる。争いの無い世界に、コイツの居場所はない」
「そう考えると、ちょっと可哀想……だなんて、思ってないんだからねっ」
「それ無機物にも発動するんだ。……ゴメン、話を戻すよ。で、この剣に役目が無くなったとして、それはそれでいいと思うんだ。だって、そのおかげで世界は平和になるし、人々が安らかに日々を送ることができる」
俺はそこまで言って、天を仰いだ。
空はどんより、深い紫紺に染まっている。
これも、魔王が力を強めているからだ。
「俺も、魔王を倒したら、きっとそこで役目は終わる。……けど、それでいいんだ。テンプレで、何の捻りも無くて、馬鹿で、くだらない話だったけど……日々の生活に疲れた人が、頭を空っぽにして、少しでもクスっと笑ってくれたら」
「勇者様……」
「取ってつけたようなハッピーエンドでも、『これこれ、こういうのでいいんだよ』って思ってもらえたら、それでいい」
俺は鞘に聖剣を戻し、魔王城を見据えた。
大きな赤い城門が立ちはだかっている。
「……終わらせよう、この物語を」
一歩進むと、城門は勝手に両側にスライドして開いた。
自動ドアだ。
こういう、何でやねんギミックにも慣れてしまった。
中に入ると、そこはだだっ広いホールになっていた。
二階も三階も無い、吹き抜けだ。
外壁工事に予算全部使った? とかのツッコミは置いておいて。
ホールの真ん中にポツンと置かれた玉座に向かって、歩みを進めた。
玉座には、ガッシリとした体型の巨人が腰かけている。
肌は浅黒く、額には大きなツノ。
一目見ただけでわかる。
アレが魔王だ。
「――よくぞ参った勇者よ。我の城に乗り込んで来た、その勇気は讃えよう……ただし、実力の方は少々足りぬと見える」
魔王が言った。
「例え俺がお前より弱くたって、俺には頼れる仲間がいる! 俺は一人で戦っているわけじゃない! 人類全体の希望を背負ってここにいるんだ! お前なんかには負けない!!」
俺は言った。
「ほう……それは面白い。見せてもらおう。絆の力とやらを」
魔王は言った。
魔王は立ち上がった。
「言われなくてもっ……! いくぞ、皆!」
「「「「「「はいっ!」」」」」」
俺は言った。
仲間は答えた。
俺は剣を抜いた。
仲間は武器を構えた。
「くらえ、人間どもよ! 地獄の業火だ!!」
魔王は口を開けて炎を吐き出した。
炎は俺たちにゴゴゴと迫る。
俺は剣で炎を切った。
「……? なんか、ちょっと……」
「勇者様! 何を迷われているのですかっ!? 次の攻撃が来ます!」
「あ、ああ……ゴメン。でも、これは……」
魔王は腕を振った。
ブン!
俺はかわした。
仲間もかわした。
「え、やっぱおかしいよね? 何で手抜きだした?」
「勇者くん! いったいどこ見てんのさ!」
「地の文だけど、やけに淡泊じゃない? さっきまで割としっかり語られてたのに、急に小学生の作文みたいになってるんだけど」
「つ、次の攻撃が来るわけじゃないんだからねっ」
「いやそれはちゃんと言って。攻撃来てるから」
魔王の攻撃。
俺はかわした。仲間も。
「……?? ま、まあいいか。とにかく魔王を倒せばハッピーエンドなんだ!」
「我を倒そうなどと、一万年早いわ!」
「くらえ、必殺……極大○法!!」
「ぐっわああああああああああっ!?」
「やったか!」
「……あれ?」
「当たったよな? なんで何も起きないんだ?」
「……も、もう一回やってみるか?」
「よし、必殺……伏魔○廚子!!」
「……?」
「おい」
「なんで動かないんだよ」
「もう終わりだぞ? 魔王戦だぞ? クライマックスだぞ……?」
「……なあ」
「ここまで来たんだ」
「ちゃんと悟ったぞ」
「終わる覚悟、決めたぞ」
「主人公として、綺麗に締めようって」
「思ったんだぞ」
「なのに」
「なんで終わらない」
「ちょっと待て」
「待て待て待て」
「これ……」
「これって……」
「まさか……」
「……エタってる?」
「は?」
「エタる?」
「ここで?」
「短編で!?」
「いやいやいや」
「短編でエタるとか前代未聞だぞ!?」
「おい作者!」
「そこにいるんだろ!?」
「おかしいだろ!」
「短編ってちゃんと終わるから成立するんだろ!?」
「途中で放り出すのは長編の特権だろうがよ!?」
「なんで俺が!」
「短編主人公の俺が!」
「エタり地獄に閉じ込められてんだよ!!」
「おかしいだろ!」
「約束が違う!」
「俺、ちゃんと受け入れたぞ!」
「終わることは美しいって!」
「役割を全うするのが物語だって!」
「それなのに!」
「終われないってなんだよ!」
「なあ!」
「頼む!」
「ここでいいだろ!」
「ここが一番きれいだろ!」
「魔王前だぞ!」
「これ以上、何を足すんだ!」
「伏線?」
「回収?」
「もう無いだろ!」
「無いから短編なんだろ!」
「なあ作者!」
「頼むから!」
「今!」
「今ここで!」
「エンドロール流せ!」
「完結って書け!」
「俺を!」
「終わらせてくれよ……!!」
「頼むよ、頼む……!!」
「終わらせ――……




