表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死して八年、俺は孤魂野鬼(ここんやき)として蘇る――この食い荒らされた世を切り裂く   作者: Tiny Abomination in a Jar


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/13

影の処刑、あるいは沈黙の告発

夜幕は墨のように、聖都の罪悪を静かに覆い隠している。俺は腰を低くし、足尖で王立療養院の中央庭園にある矮牆わいしょうを蹴って、隣の屋根へと跳躍した。瓦が脚の下で「ギシッ」と微かな音を立てるが、夜風に混じる喧騒がそれを完璧に掻き消していく。




 屋根の上で、俺は月光に照らされる中層区の街角を凝視した。そこには松明を掲げた兵士たちが、厳整な列を成して要道を固めていた。




「くそっ、あいつはまだ上がってこねえのか? 下で迷ってんじゃねえだろうな」  不機嫌そうな、しわがれた声が響く。




「焦るな。閣下が仰った通り、あの地下室を突破したのなら、必ず屠殺者のいる通路に辿り着く。俺たちはここで網を張って待っていればいい。自ら罠にかかりに来るのをな」  もう一人の、冷静で確信に満ちた声が続く。 「だが、万が一あいつが鍵を見つけられなかったらどうする?」




「見つからなきゃそれでいい。そのまま地下でのたれ死んでくれれば、俺たちの手間が省ける。……ただ、閣下はあの野郎が少し『邪門(不気味)』だと仰っていた。油断はするな」




 兵士たちの会話を聞き、俺の中で全ての脈絡が繋がった。  敵は俺のルートを予読し、あえて屠殺者のエリアに伏兵を置いていたのだ。俺が鍵を持ってそこから現れるのを、奴らは確信して待っていた。


 ……恥ずかしながら、その時の俺は鍵を見つけられなかった。というよりも、あの乱戦の中で金属が落ちる音を聞き取れなかったのだ。だが奴らは夢にも思うまい。俺が偶然にも昇降井戸を見つけ、療養院の庭園という奴らの「真後ろ」に這い上がってきたことなど。




 ……鍵ね。俺もう一度さっきの死闘を思い返した。  まるで運命に導かれるように別の道を選んだのだ。その偶然が、結果として敵の包囲網を無力化させた。




「……面白い。なら、驚かせてやるとしよう」




 俺は断刀を握り込み、幽藍の火光を瞳に沈めた。三十二人の処刑を始める。




 まずは屋根の監視兵、四人。  死角から音もなく舞い降り、一人目の口を塞ぎながら断刀をうなじに突き立てる。刀身の冷気が噴き出す血を凍らせ、音を殺す。そのまま影を渡るように残りの三人の喉を裂き、屋根の上を「死の静寂」で満たした。




 次に、外周を巡回する十六人の巡回隊だ。  左側の八人が建物の影に入った瞬間、最後尾の二人を闇に引きずり込む。断刀が同時に二人の首をなぎ払い、松明が地面に落ちる前にその腕を掴んで受け止める。先頭の者が異変を感じて振り返った時には、俺はもう奴の目の前にいた。驚愕が声になる前に、刃が眉間を貫く。  右側の八人も同様だ。俺の速度は奴らが振り返る速度を遥かに超えている。ある者は壁に叩きつけられ、ある者は路地の奥で物言わぬ肉塊へと変わった。




 残るは、地下出口を扇形に囲む射撃陣八人と、中央の長官を含む四人。




 俺は暗闇から小石を拾い、出口の反対側へ放り投げた。「コツン」という音が響いた瞬間、銃口と矢先が一斉にそちらを向く。  その隙だ。俺は爆発的な踏み込みで、真横から突撃した。




「敵襲ッ! 左だ――っ!」  叫びが終わる前に、最前列の火銃兵二人の身体が斜めにずり落ちた。一太刀で両断したのだ。  火銃が轟然と火を噴き、火薬の刺激臭と石炭酸の薬剤臭が入り混じり、視界を白く染める。その硝煙の中を、俺は死神の如く突き進む。弓を引き絞る指を切り飛ばし、銃床で抗う者の喉笛をえぐり取る。




「化け物め、死ねぇ!」  長官が剣を抜くが、俺はその剣筋を受け流すと同時に、奴の右腕を肘下から斬り飛ばした。 「ぎあああああッ!!」  絶叫が夜の静寂を切り裂く。一分と経たぬうちに、立っているのは俺と、失禁して崩れ落ちた若い火銃兵だけとなった。




 俺は血濡れの断刀を引きずり、のたうち回る長官の髪を掴んで壁際へと引きずっていった。隣にはガタガタと震える火銃兵。




「下水道で見たぞ。腐肉で育てられた、あの純白の蛆虫を」  二人の顔から血の気が引く。 「……お前たちの肉を削ぎ落として、俺もあの虫を養ってみようと思うんだが、どうだ? 安心しろ。俺の問いに正直に答えない限り、そう簡単には死なせん。蛆虫がお前たちの血肉で蠢き、繁殖していく様を、一分一秒でも長く味わわせてやる」




 俺はまず若い兵士に問い、次に長官を蹴り飛ばして同じことを聞いた。




「子供たちはどこへ運ばれた? 二人の答えが少しでも食い違ってみろ。その瞬間から、どちらかの『餌付け』を始める」




 恐怖が限界を超え、若い兵士が喚いた。 「しゃ、喋ります! 中層区にある暗娼街……『銀の孔雀亭』です! あそこの秘密の部屋へ運べと……閣下が、あれは最優等な素材だから高く売れると……っ!」




 俺は冷たい目で長官を見た。奴は激痛に顔を歪めながらも、否定しなかった。  事実を確定させた瞬間、俺の瞳から最後の手加減が消えた。  無実の子供を「素材」として売る。この腐れ切った雑魚どもに、生かしておく価値はない。  断刀が二筋の寒光を描き、絶叫すら許さずに二人の首を断ち切った。




 俺は断刀を握り直し、夜の闇に沈む「銀の孔雀亭」へと向かった。  救いだけに行くのではない。ただ、俺の「注文」を汚した奴らに、代金を支払わせに行くだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ