砂塵に消えた血脈
空气中,寒芒一闪。その速さは捕捉しがたく、その寒気は尋常な氷雪を遥かに凌駕していた。いかなる既知の金属よりも刺し貫くような冷徹さを持ち、まるで空気そのものがこの冷気によって凍結・凝固し、微細な氷霧を立ち昇らせているかのようだった。
暴虐の限りを尽くしていたトロールの動きが、突如として静止した。一時停止ボタンを押されたかのように、石柱のごとき太く硬い鬣に覆われた腕が、宙で凍りついている。爪の間には地表の乾いた泥や石屑が挟まり、指先には、今しがた引き裂いたドワーフの肉体から得た粘着質な血痕がまだ残っていた。苦痛の表情はない。鈍重な神経突触は、「肢体の切断」という信号を、皺の寄った濁った脳へと送り届けることすら間に合っていなかったのだ。
それは呆然と前方を見つめ、喉からは漏れ出すような粘着質な喘鳴が漏れていた。古びたふいごが必死に息を継いでいるかのようで、濁った眼球にはただ茫然自失の色が浮かぶ。自身の身に一体何が起きたのか、まだ反応できずにいるようだった。
一瞬の空白の後、それはゆっくりと頭を垂れ、不器用に関節を回した。身体の奥底から込み上げる得体の知れない違和感を確かめるかのように。タコと傷跡に覆われた、うちわのように巨大な手が、自らの左胸——生命を維持する中枢である心臓の位置へと、力なく伸びる。
血は、流れていなかった。
粗野な指先が灰緑色の厚い皮に触れた瞬間、そこには予想していた温かい血の噴出も、筋肉が引き裂かれる感触もなかった。代わりに、一本の、筆直な髪の毛のような冷白い微光を放つ痕跡が、厚い皮膚の表面に浮かび上がった。それは分子結合を強制的に剥離され、極限の寒気によって肉体が解体された後に残された、心凍えるほど精密な「断層」であった。
指先が微かに触れると、その細い白線は、生理的に両側へと滑り、広がり始めた。最初は微かだった痕跡が、次第に明瞭になっていく。切り口は、乾いた油脂のような惨白色を呈し、血の気もなければ生命活動の兆しも一切ない。筋繊維は収縮も痙攣もせず、切断された血管の断面は、レーザーで精密に研磨された鏡面のように整然としていた。暗紅色の血液は流れることなく、静止した半透明の薄膜となって、無形の物理法則によって断たれた血管の中に封じ込められていた。一滴たりとも、滴り落ちることすら許されない。
液体が流れる音も、血肉が潰れる無様な様もない。そこにあるのは、物質が徹底的に解体され、生命が瞬時に剥がし取られた後の、純粋で、息の詰まるような荒廃だけだった。
トロールの濁りきった眼球に、初めて真の恐怖が映し出された。それは生命の本能に刻まれた「消滅」への極限の畏怖である。己が触れたのは単なる傷口などではなく、自分の肉体が少しずつ崩壊し、霧散しているという事実を、それはようやく悟ったのだ。それは猛然と顔を上げ、俺を凝視した。濁った瞳の中には、複雑な感情が渦巻いている——恐怖、不甘、踏みにじられた暴怒、そしてそれ以上に、信じがたいという驚愕が。これほど強固な己の肉体が、なぜ一本の微かな寒芒によって、こうも容易く撃ち砕かれたのか、理解できないようだった。
俺はそれに、さらなる反応や咆哮の隙を与えなかった。指先を僅かに震わせると、岩壁に深く突き刺さっていたハドレットが、瞬時に岩の束縛を脱し、耳を劈く風切り音と共に、放たれた矢のごとく飛来した。極限の氷焔を纏い、それはトロールの躯体を深く貫いた。氷焔は剣刃の周囲で狂ったように燃え盛り、三日月のごとき鋭い湾刀を成す。寒気が通り過ぎた箇所は、瞬時にトロールの肉体を凍てつかせ、崩壊しかけていた筋肉と血管は、ことごとく氷の礫へと凝固した。
俺は身を翻し、亡霊のごとく別のトロールの前に現れた。周囲には凍てつくような死の気配と氷焔の寒気が渦巻いている。ハドレットを自在に操り、一振りごとに致命的な寒芒を閃かせた。それはまるで大鎌を担いだ死神が、音もなく戦場の魂を刈り取っていくかのようだった。氷焔が触れるたび、トロールの肉体はあるものは瞬時に断たれて凝固し、あるものは徹底的に解体され崩れ去る。いかなる反撃の余地もなかった。
一歩ずつ、隧道の出口へと斬り進むにつれ、濃厚な血臭が氷焔の寒気と混じり合い、狭い空間に立ち込めた。鼻を突くその臭いは、吐き気を催すほどだ。かつては死をも恐れぬ勢いだったオークの大軍も、トロールが瞬時に屠られるその恐怖を目の当たりにし、もはや戦意を喪失していた。それまでの凶暴さは霧散し、皆が兜や鎧を投げ出し、四散して逃げ惑う。武器を拾う余裕すらなく、ただ無残な残骸と同胞の屍だけをその場に残して。
だがその時、俺の心臓が不意に跳ねた。記憶にあるはずの、見慣れた影が一つ足りない。クドの姿が、どこにもなかった。
一つの疑念が脳裏を掠める。まさか、今回のオークの襲撃は、バラザクの関門を破るためではなく、クデ個人を狙ったものだったのか? 彼が拉致されたのか、あるいは別の不測の事態に遭ったのか。
俺は焦燥に駆られ、速度を上げた。隧道の出口を飛び出し、視線を遥か遠方へと走らせる。そこには、逃走するオークを背に乗せた巨大な土狼の隊列が、広大な荒野を疾走していた。巻き上がる黄砂は、巨大な黄色の毒蛇のように荒野を這い、瞬く間に天際線の彼方へと消え、ただおぼろげな影となって霧散していった。
「くそっ!」俺は拳を強く握りしめた。爪が掌に深く食い込み、鮮血が滲む。今の俺たちの状態では、疾走する土狼の隊列を追うことなど叶わない。ただ、彼らが逃げ去るのを、クデの行方が黄砂の中に消えていくのを、見送ることしかできなかった。焦りと不甘に満ちた心は、ただ空しい嘆息へと変わり、俺は無理やり冷静さを取り戻して、バ拉克扎へと引き返した。
休息を取る間もなく、俺は即座にドワーフ評議会へと向かった。地底の深淵で遭遇したアイアンドワーフ、ブロンズドワーフ、そして地底の意志との対話、さらにはゴールドドワーフに関する一切を、ドワーフ議会の長老たちに余すところなく報告した。そして最後に、今回のオーク襲撃の中で起きた、クデ失踪という不可解な事態を告げた。
評議会の大ホールは、死のような静寂に包まれた。ただ、松明が燃えるパチパチという音だけが、空虚な空間に響いている。最高位の玉座に座る坩堝王オレリウス・クルーシブルは、眉を深くひそめ、無意識に玉座の扶手を指で叩いていた。その表情は重く、深い沈思に沈んでいる。火光に揺れる灰白の髭は微かに震え、その眼の奥には憂慮と疑惑が満ちていた。
その傍らに立つラクトンは、報告を聞き終えるなり、怒りに身体を震わせていた。太い腕を強く握りしめ、指節は白く浮き上がり、胸は激しく上下している。その顔には怒りと不甘、そして一人の父親としての、我が子を案じる痛切な想いが刻まれていた。




