アイアンドワーフと対峙せぬ
金属が地を叩く轟音が、空洞の桟橋に響き渡る。その沈痛で重苦しい響きは、重槌となって俺の脊梁を叩き、四肢の隅々にまで痺れるような鈍痛を伝播させる。足下では溶岩の唸りが、アイアンドワーフの足音と混ざり合い、逃げ場のない圧殺の網となって俺たちを縛り付けていた。
絶望感——。その粘着質で冷酷な感情は、地底から溢れ出した黒油のように足首から這い上がり、全身を凍りつかせる。脳裏に過ぎるのは八年前、オーレリアン連邦の辺境。風雪が荒れ狂い、腐肉が散乱する終着点。もしあの時、あの凍てついた雪原で野垂れ死んでいれば、これほど吐き気を催す窒息感に、死の戦慄に、再び直面せずに済んだのだろうか。
死は、生者が抱く最も根源的な本能の震えだ。どれほど強くなろうとも、骨の髄に刻まれたこの畏怖が消えることはない。
産声を上げ、最初に吸い込んだ空気が鉄の味を帯びていたその時から、俺たちは腐敗へのカウントダウンを始めている。一度死を経験したこの俺でさえ、感官が剥ぎ取られ、鼓動が止まるようなこの絶望に慣れることなど、決してあり得なかった。
「諦めるか?」
その思考は毒蛇のように脳内を這い回る。諦めれば、雪山から刻んできた足跡は砂に埋もれ、守るべき者たちに触れる権利も、過ぎ去った者たちへの落とし前も、すべては無に帰す。
俺は背後の二人を振り返った。クレイアとシルヴィアは岩壁に縋り、壊れた風箱のように、支離滅裂な呼吸を繰り返している。
「……ふざけるな」
俺は灼熱と極寒が混ざり合う大気を、火傷しそうな肺へと強引に押し込んだ。ハドレットを収め、槍尖を地に下ろす。金属が鋼鉄の床を削る耳障りな音が、不屈の宣言として響いた。暗紅色の複眼を点滅させる鋼鉄の軍勢を前に、俺は喉の乾きを突き破る怒号を上げた。
「提案だ——! 休戦しろ——!」
叫びは黒ずんだ要塞の壁にぶつかり、虚しく跳ね返る。
「戦争をしに来たんじゃない! 話し合いたいだけだ!」
返ってきたのは言葉ではなく、錆びた導線を電流が走るような、尖った機械の嘶きだった。
「検知……炭素基生命体ノ存在……」
「脅威ヲ確認……排除セヨ……!」
奴らにとって、俺の肺の鼓動も眼底の情熱も、ただの「有機物の変質」に伴う余計な振動に過ぎない。排除すべき「不純物」であり、正視する価値すらないのだ。
「……なら、仕方ないな」
俺は槍を握り直し、懇願を捨て、冷徹な決意を宿した。「ゴミのように掃除されるほど、俺たちは安っぽくないぞ。傲慢な野郎だ」
言葉が終わるより早く、俺は跳んだ。
黒い閃光と化した俺は、アイアンドワーフの密集陣へと突き刺さる。ハドレットの槍先が空気を切り裂き、耳障りな低音を響かせた。それは切断音ではない。ミクロの階層で分子間力が崩壊していく断末魔だ。
槍が触れた箇所から、合金の躯体は瞬時に軟化し、加熱された蝋のように「流動」を始める。切り口からは、粘着質な黒い「血」——廃油と金属のセラムが、糸を引きながら滴り落ちる。魔鉄の剣と同じ、その不気味な錆の臭いが立ち昇った。
一振りのごとに、鋼鉄の造形物は歪んだ創痕を残して崩れ落ちる。シルヴィアの放つ氷晶が動力核を粉砕し、クレイアの賛美歌が俺たちの残破した肉体を繋ぎ止める。
その時、頭上から大気を引き裂く飛来音が降り注いだ。
巨大な影が光を奪い、世界を暗転させる。破壊されたアイアンドワーフの残骸が、重力を無視して宙に舞い、中心へと収束、圧縮されていく。
凄まじい金属の軋みと共に、暗金色の輝きを纏ったブロンズドワーフが再構築された。奴は半空に静止し、吐き気を催すような暗紅色の微光を放っている。
それは炎ではない。内部の原子が高速で摩擦し、強制的に引き起こされた熱核反応の残光だ。奴の周囲の空気は極限の振動によってイオン化され、暗紅色の電弧が毒蛇のようにのたうっている。
奴は物理的な慣性を嘲笑う速度で、暗紅色の残像だけを残し、俺たちへと急降下を仕掛けてきた。




