バラックザール·ゴビの掃討
北から吹き下ろす風は、ゴビ特有の砕石と紅柳の残骸を巻き込み、錆びたヤスリのように頬を削っていく。蹄が赤褐色の土を踏みしめ、鉱物の粒を砕く軋んだ音さえ、風に揉まれて霧散した。俺は先頭で馬を駆り、坂を登る。両脇にはシルヴィアとクレア。三騎の蹄の音だけが空虚な荒野に単調なリズムを刻み、世界の広大さを際立たせていた。
シルヴィアは漆黒の三度笠を深く被り、冷徹な顎のラインだけを覗かせている。銀髪は紐で首の後ろに束ねられ、砂塵ひとつ寄せ付けない。黒い狩装束はしなやかな肢体に張り付き、腰に差した短刀の柄が馬の揺れに合わせて鞍を叩く。一方、クレアの笠は澄んだ青と白の入り混じった色合いで、縁には繊細な銀の刺繍が施されていた。風に揺れる笠の薄衣が彼女の頬をかすめる。薄灰色の騎乗服から覗く肌は雪のように白く、手綱を握る指先はしなやかだが、旅の疲れを感じさせない確かな力強さがあった。
足元の赤褐色の地表は、干結した血塊のような硬い粒で覆われ、砕けた黒石が混じっている。蹄が通るたびに浅い窪みが穿たれ、弾けた砂塵が笠の縁に付着しては風に払われた。三人は言葉を交わさず、ただ黙々と勾配を上がる。不意に、シルヴィアが手綱を引いた。黒い笠の下で狼の耳が微かに動き、彼女は斜め前方の砂溝を指差した。声は低いが、鋭く冷たい。
「動きがある。」
俺とクレアは即座に馬を止めた。砂溝の中には数人の逞しい影が潜んでいた。砂泥に汚れた青灰色の皮甲を纏い、粗末な戦斧と投槍を握っている。乱れた髪の間から突き出た尖った耳——オークの遊撃兵だ。独り身の旅人を狙っていたのだろうが、まさか俺たちにぶつかるとは思っていなかったらしく、溝の中で顔を覗かせながらうごめいている。
「……これだけ?」
俺は手綱を引き、真っ先に下馬した。戦靴が鉱物の粒を踏みしめ、硬い音を立てる。シルヴィアが続く。黒い笠が揺れると同時に短刀が引き抜かれ、夕映えの橙を反射して冷たく閃いた。クレアは馬上、十字架を握りしめ祈りを捧げる。身体が軽くなるのを感じる。力の増幅だ。
オークたちが奇声を上げて飛び出してきた。戦斧が風を切り、投槍がこちらを襲う。獣の脂のような生臭い体臭が鼻を突く。俺は半身で投槍をかわし、背の短刀を抜き放つと先頭の一匹に肉薄した。皮甲に刃が食い込み、「カチャリ」と砕ける感触。刃はそのまま急所を貫き、オークは呻き声を漏らして砂地に沈んだ。
シルヴィアの動きは風よりも速かった。豹のようなしなやかさで短刀を振るい、一撃ごとにオークの急所を抉る。黒い笠の縁に血飛沫が飛ぶが、風がそれを即座に拭い去った。瞬く間に二匹が転がる。彼女が刀を収める時、指先には一滴の血も残っていなかった。
クレアは少し離れた場所から支援に徹していた。青白の笠の薄衣が揺れる。パーティに支援職がいる余裕は絶大だ。膝をつき悲鳴を上げる残りのオークに向け、俺は歩み寄り、無造作にその首を断った。
すべては一瞬の出来事だった。砂溝の傍らには死体が転がり、赤褐色の土に染み込んだ血は風に煽られてすぐに乾き、暗い痕跡だけを残した。
シルヴィアが刀の背で皮甲を突き、黒い笠の下で不快そうに眉をひそめた。「装備からして散兵ね。ただの端くれでしょうけど……妙だわ。最近、ドワーフたちは銀滴の谷へ頻繁に向かっているはず。なぜ警備の目を盗んでこんな雑魚が紛れ込んでいるの?」
クレアは笠に付着した砂を払い、屈み込んでオークの腰にある粗末な木札を調べた。歪な紋様が刻まれている。「臨時の混成部隊のようね。組織立ったものではないけれど、まだ周囲に潜んでいるかもしれない。用心しましょう。」
俺は足元に転がる戦斧を蹴り飛ばした。安物の鉄塊が転がる。 「時間を食うな。死体は砂溝に放り込んでおけ。余計な獲物を呼び寄せたくない。日が落ちる前に中腹の休憩所まで行くぞ。」
シルヴィアが短く応じ、オークの死体を無造作に掴んで溝へ投げ捨てた。クレアもまた、その華奢な動作に似合わぬ手際で後を追う。片付けを終えた三人は再び馬に跨った。笠に積もった砂など、誰も気に留めない。この程度の障害は、この荒野の旅においては些細な挿話に過ぎないのだ。
再び歩みを進めると、馬蹄が鉱物と擦れる音が響き渡る。風は相変わらず烈しいが、先ほどよりは幾分和らいだように感じられた。地平線の落日はさらに深く沈み、橙の残光と湛藍の天幕が、残酷なほど鮮やかな境界線を描き出している。青白と漆黒、二つの笠が赤褐色の斜面を征き、背後には日月同輝の冷光と暖光が、三人三馬の影を長く、長く引き伸ばす。影は地表で複雑に絡み合い、バラックザールの方向へと伸びていった。
遠くの「几」の字の湾が、淡い水光を放っている。凌汛の残骸である氷の破片がその光を反射し、空気中の鉄臭さはさらに色濃くなった。江潮の湿った湿気と混ざり合い、俺たちに告げている。——ドワーフの主城は、もうすぐそこだ。




