别れと再始まり
戴冠式の喧騒はまだ完全に消え去ってはいないが、銀滴の谷の駅には離別の静寂が漂っていた。円月は高天に掛かり、昨夜よりも暖かみを欠いた清輝を放っている。夜風が生命の樹の苗木の香りを運び、不快な湿り気を伴って人々の肩を撫でていった。
朝の光が差し込むが、そこに温もりはない。
アドリアンが改札口に立っていた。ウォルソンとルルは既に旅支度を終えている。ウォルソンは銀縁の白い衣を纏い、腰の袋には月光石の欠片を詰め込んでいた。ルルはドレスの裾を腰に押し込み、クレアが縫った人形を抱きしめている。その青い瞳は涙を堪え、強情なまでに前を見据えていた。
「お兄ちゃん、私とルルは魔法の都へ行くわ」
ウォルソンが口を開いた。声は寒気の中で頼りなく響く。金色の髪が乱れ、数筋が頬に張り付いていた。
「強くなりたいの。貴方の後ろで、鉄の臭いに怯えているだけの子供のままではいたくない」
ルルも頷き、ウォルソンの袖をぎゅっと掴む。
「ルルも強くなって、お姉ちゃんとお兄さん……そして、レグを守るんだから!」
未だ世界に磨り潰されていない二人の小さな影を見つめ、私の胸の奥に温水のような微かな熱が宿った。私はルルの細い髪を撫で、ウォルソンの肩を叩く。その肩は驚くほど薄く、今にも折れそうだった。
「いいだろう。魔法の都でしっかり学ぶんだ。強くなったら、また会おう」
言い終える間もなく、シルヴィア・エヴィヘルが歩み寄った。彼女は今、人間の姿であり、黒い猟装がその爆発的な肢体を冷酷に引き立てている。銀髪から漂うミントの香りが、この場の唯一の安らぎだった。
「ミン」
彼女の声は、氷がグラスを打つような冷たさを帯びている。
「故郷は安定した。姉上が守ってくれる。だが、私の旅はまだ終わっていない。貴方について行きたい」
私は虚を突かれた。戦火の残骸からここまで歩んできた日々が、彼女との間に生理的な慣性を生んでいた。
「わかった。一緒に行こう」
視線を隣のクレアに向ける。銀灰色の長袍に包まれた彼女は、陽光の下で磁器のように白く輝いていた。その鎖骨は微かに露出し、成熟した女性特有の気怠さを漂わせているが、瞳には迷いが滲んでいた。
「クレア、あなたはどうする? 聖都に戻るか、それとも俺と泥濘を歩くか」
クレアは沈黙し、袖の紋様を指先でなぞった。やがて顔を上げたその瞳には、穏やかな、しかし拒絶しがたい決意が宿っていた。
「聖都に未練はありません。貴方の隣で、この世界の景色を……もっと見ていたい」
その眼差しには気品ある色香と、少女のような恥じらいが混じっていた。私は軽く頷き、空気を変えようと努めた。
「よし、行き先はドワーフの街だ」
「何をしに?」
シルヴィアが眉を寄せた。
私は背中のヴェサリオの残酷を取り出した。刃は無残に毀れ、噛み砕かれた爪のようにボロボロだ。無数の骨と鎧を断ち切った疲弊が、鉄の中にこびりついている。
「エルフ王の剣と、こいつを打ち直したい。ドワーフの職人に、この血生臭い二つの鉄塊を一つに溶かし合わせてもらう」
飛空艇が轟音と共に着岸し、重い気流が早朝の安らぎを粉砕した。
その時、ウォルソンが私の袖を掴んだ。頬を不自然に赤らめ、その眼差しは刃のように鋭い。アドリアンは察してルルを連れて下がり、私たちに僅かな空間を残した。
「ミンくん、話があるの」
彼女の声は細いが、鋼のような意志が籠もっていた。
「初めて助けてくれたあの時から、私は貴方のことが好きなの」
私は硬直した。鉄錆と離別の湿り気が漂うこの空気の中で、その告白はあまりに唐突で荒唐無稽だった。彼女はまだ十二歳だ。
「ガキが。好きなんて言葉、意味がわかるのか?」
ウォルソンは眉を吊り上げ、腰に手を当てて私を睨みつけた。
「お兄ちゃんこそ、子供のふりをして!」
彼女の声が響く。
「貴方の隣にはお姉様も、クレアさんもいる。……貴方は本当に、彼女たちへの感情と、私への感情の違いを分かっているの?」
その問いは、麻痺していた私の脳に重い一撃を与えた。私は口を突き出したが、十二歳の子供を論破する言葉が見つからなかった。
ウォルスは私の動揺を見て、狡猾な笑みを浮かべた。彼女は手を離し、大きく振る。
「さよなら、お兄ちゃん! 魔法の都から戻って、もっと強くなって、もっと素敵な女性になったら……絶対に私を好きにさせてみせるから!」
ルルも元気に手を振り、再会を約束する。
飛空艇に乗り込む二人を見送った。ウォルソンは何度も振り返り、陽光の中で黄金色の輝きを放っていた。その姿が廊下の向こうへ消えた時、私は胸に「孤独」という名の生理的な痙攣が走るのを感じた。
感動的な別れになるはずだった。
だが、シルヴィアが狼の耳と尻尾を剥き出しにし、六月の空気に血を凍らせるような冷気が満ちたことで、それは瓦解した。
「シルヴィアさん?」
「貴様……本当に私の妹に手を出したのか!」
「違うと言ってるだろう!」
クレアが静かに歩み寄り、私の肩に手を置いた。その柔らかな掌の重みは、殺意に近い。彼女は微笑みながら囁いた。
「すごいわね、十二歳の子供にまで。……貴方を一人で行かせるべきではなかったわ。貴族のような変執的な趣味に染まっていたなんて」
頭が割れるように痛み出した。
「妹として大切に思っていると言ったら、信じてくれるかい?」
私は深呼吸し、殺気立つ二人の視線を浴びながら叫んだ。
「出発だ! 目標――ドワーフの街!」
太陽は依然として高くかかっており、陽光が俺たちに降り注ぎ、進むべき道を照らしている。前途は多難だ。崩壊した荒野において、別れは終わりではなく、新しい始まりだ。これからの道には、親しい友人たちの付き添いと祝福がある。たとえ血の繋がりはなくても、彼女たちは俺の宝物であり、家族だ。前途に何があろうとも、俺たちは共に進んでいく。これが死霊の身体を温める唯一の熱量だった。




