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死して八年、デスナイトとして蘇る。――この食い荒らされた世を切り裂き、狂った因果に復讐を  作者: Tiny Abomination in a Jar


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新たな女王

生命の樹は炎の中で崩れ去った。焦げ黒の枝がパチパチと音を立て、折れた樹幹は轟音を上げて倒れ、その身に絡みついた暗紫色の汚染の触手が、焔の中で慘鳴を上げ、やがて一缕の黒煙と化して消え去った。


サヴィレックの姿が火の海の中央に佇み、不死の躯が纏う最後の焔が、まるで小さな太陽のように輝き、土の底に深く根を張った汚染の根源まで灰に焼き尽くした。火の舌が彼の鎧を舐め、血肉を焼き抜き、やがて最後の意識すらも焔に飲み込まれていった。


窒息を誘うような焦げ臭さが消え去ると、この沈黙の大将軍はついに大地を潤す春泥と化し、最後の瞬間まで守り抜いたこの土地と一体となった。


その炭化した黒き塊の中に、一星のかすかな金色の光が、漫天の風雪の中で執拗に輝いていた。俺は膝下まで積もる雪を踏みしめて近づき、まだ余温の残る灰の中からそれを拾い上げた。爪の垢ほどの大きさの種だった。琥珀色の光沢を纏い、質感は冷たく、指先で触れると、まるで眠れる心臓が緩やかに鼓動するように、かすかな生命の躍動を感じるのだった。


「これは…… 生命の樹の種だ」


アドリアンの声が背後から響いた。嗄れて疲れ切った調子だ。彼の白い法衣には血痕と煤けが付き、かつて整えられた銀の髪が額に乱れて貼りつき、その種を見る眼差しには、生き残った者の茫然たる感慨が満ちていた。


俺が振り返ると、アドリアンの肩越しに、予期せぬ二人の姿が目に入った。


クレアが風雪の果てに佇み、一身の素白のローブが寒風に翻り、顔色は凍りつきそうなほど蒼白で、いつも優しさに満ちた瞳には今、心配ぶりが滲み、俺の姿に視線を落とすと、その瞳に薄らと涙が浮かんでいた。ルルはウォルスの袖をしがみつき、少女の顔にはまだ恐怖が残るものの、それでも背筋を伸ばし、ウォルスの後ろについていた。


「おお、こんなに早く友達が出来たのか?」


俺は口角を引き上げ、軽い調子で言おうとして、足を運んだ。掌の種はまだかすかに温かさを残している。迎え上がったアドリアンにそれを渡すと、指先が触れた瞬間、老人の手が微かに震えているのを感じた。


「この土地のものは、本来あるべき場所に返すのが当然だ」


アドリアンはその種をおそるおそる受け取り、まるでアールヴ・ヘイムの未来すべてを捧げられたかのように、頭を下げてつぶやいた。


俺は彼の様子を見ず、立ち尽くすクレアの方を向いた。喉元に詰まった千言万語が、ついに二文字に凝縮された。


「ありがとう」


遠く聖都から駆けつけてくれたこと、聖都で俺たちの背中を守ってくれたこと、今、瞳に隠しきれない心配を見せてくれたこと ——。


その言葉が完全に口から出る前に、ほだれのような温かい影が猛り進んで俺の胸に抱きついた。クレアは飛びつくようにして、両腕で俺の腰を強く締め、顔を俺の胸甲にぶつけた。その力は、骨の奥まで溶け込もうとするほど強かった。彼女の身に纏うのは、聖都特有の乾いた線香の香りだ。淡い雪の匂いと混ざり合い、この焦土とは対照的な温かさが、冷たい鎧を透き通り、俺の麻痺した肌をそっと包み込んだ。


「あの…… クレアさん?」


俺は彼女の勢いで少し踉跄しながら、無意識に体勢を崩さないように支えた。喉が渇いた。


「…… 本当によかった」


彼女の声は胸甲に詰まって震え、微かな泣き声が尾音に混ざっていた。


「ここの戦況の話を聞いたの…… 聖霊殿の戦いの話も…… もう帰ってこないかもしれないと、怖かった……」


周囲の気温が一瞬にして氷点下まで下がった。


風雪がもたらす寒さではない。何か無形の圧力が空気を凍りつかせ、呼吸さえも困難にさせるのだ。俺の手は空中で凍りついた。上げようとも下ろそうともできず、ただぴくりと指先を縮めながら、まるで釘付けの杭のように立ち尽くしていた。


助けを求めるように振り返ると、シルヴィアの嫌悪そうな眼差しが刺さってきた。彼女は腕を組んで少し離れた場所に立ち、狼耳がぐっと垂れ下がり、尻尾が逆立つように羽根立て、口角を鼻面まで引き上げていた。まるで領土に踏み込んだ敵を睨みつけるような眼差しだ。


「おおお、お見事だ」


ウォルスの声が適時に響いた。大人びた恨みっぽい調子で、ルルの方に体を寄せ、頭をゆらゆらと振った。


「お兄さん、恋人さんが出来たのかい?聖都で初めて会った時から、二人の関係が不自然だと思ったぜ」


「お前が何をわかってる、小僧め!」


俺は低く罵倒し、耳の根元が思わずあつくなった。


「ふざけるな」


俺がクレアを胸から引き離そうとする前に、二人の影がほぼ同時に一歩前に踏み出した。


マクベサの紫色の瞳には氷が宿り、周囲に纏う魔法の威圧がまるで無形の刃のように、一瞬にして俺の喉元を狙い、呼吸が一瞬止まった。シルヴィアもその後を追うように前に進み、狼耳がピンと立ち上がり、爪が指先から蠢き出した。ドルイドの野性の気配が、マクベサの魔法の威圧と交差し、空気を重く圧し潰すのだ。


「お前……」


マクベサの声は氷の刃のように冷たく、一字一句に審問の刃が宿っていた。


「うちの妹に手を出したのか?」


俺は呆然とし、口を開いて説明しようとしたが、シルヴィアが先を越して嗤い上げた。


「この呆けた様子を見れば、その娘の気持ちに気づいてもいないんだろう」


「グックッ!」


ラインハルトが傍らで激しく咳き込んだ。獅子のような鬃毛が風に乱れ、まるで鳥篭のようになっていた。彼は目を見開いて俺を見つめ、信じられないような表情を浮かべ、枝に積もった雪を震わせるほどの大きな声で叫んだ。


「ミンくん!一体どうやって三人の女に同時に心をかけさせたんだ!この腕前、最強だと認める!」


一体何のことだかさっぱりだ。


俺は呆れたようにため息をつき、胸に寄り添う温かい体の感触を感じた。その温かさは暖流のように四肢百骸に巡り、連日の戦闘で痺れ切った身体の疲労を和らげていた。俺はそっと手を上げ、少し躊躇した後、やさしくクレアの肩にそれを置いた。まるで壊れやすい宝物を扱うように、その動作は極めて柔らかかった。


「クレアさん…… もういいかな?」


俺の声は思わず柔らかくなった。


「風が強いから、体を冷やさないように」


クレアの体が一瞬硬直し、それからゆっくりと腕を離した。だが頭を下げたまま俺の目を見ることができず、頬は熟したリンゴのように真っ赤に染まり、耳の根元まで紅潮が広がっていた。彼女は後ろに半歩下がり、風に乱れた髪をかき集め、蚊の鳴くような小さな声で言った。


「ご、ごめんなさい…… 興奮しちゃって……」


シルヴィアは鼻で嗤い、顔を他に向けた。狼耳がそっと震え、毛についた雪片を落とし、尻尾が小さく揺れ始めた。まるで一安心したようで、また少し不服そうな様子だった。


ラインハルトは傍らで舌打ちをし、荒い手のひらで俺の肩を叩き、腕が痺れるほどの力強さで叫んだ。「ミン兄弟!この腕前は本物だ!教えてくれ!どうやって女の子にこんなに気にかけられるんだ?」


「ふん、お前の本心なんて、誰もが知ってるよ」


ウォルスとルルは少し離れた折れた柱の傍らで、頭を寄せ合ってひそひそ話し、手で何かを指し示しながら、時折俺とクレアをこっそりと盗み見ていた。狡賢い笑みが口角に浮かんでいて、俺は頭が痛くなり、この二人の小鬼の頭をつかんで敲きたくなった。


マクベサの魔法の威圧がようやく緩やかになった。彼女は風に乱れた銀の髪を整え、紫色の瞳の冷たさが少し和らぎ、アドリアンの方に歩み寄った。二人はしばらく小声で会話し、アドリアンは何度も頷き、生命の樹の種を握る手が一層強くなった。その後、マクベサは足を運び、聖霊殿の廃墟の奥深くに佇む、荒れ果てながらも威厳を残す至高の玉座に向かって歩み出した。


彼女の足取りは速くはないが、一歩一歩が着実で力強かった。銀のローブが風雪の中で翻り、裾が雪を掻き分け、はっきりとした痕跡を残していった。紫色の瞳が周囲の断壁残垣を眺め、生き残ったエルフや獣人フーリの戦士たちを見渡し、荒涼とした大地を見下ろした。その眼差しには少しの躊躇もなく、王者としての決断と厳粛さだけが宿っていた。


至高の玉座の前に立ち止まると、マクベサは緩やかに身を転じ、眼差しが鋭くなり、声高らかに叫んだ。


「諸君!一言だけ聞いてくれ!」


彼女の声は大きくはないが、奇妙な貫通力を持っていた。淡い魔法の力を纏い、風雪の咆哮やラインハルトの叫び声を押し返し、一人一人の耳にはっきりと届いた。


「アールヴ・ヘイムの戦いは、今日をもって終わりだ!」


マクベサは手を上げ、背後の焼け落ちたルナヒルの方を指し、厳粛な調子で言った。


「父皇は永生を執着し、我が一族の寿命を延ばすために道を踏み外した。これは事実

だ。しかし彼は手段を誤り、妖女の甘言に惑わされ、汚染の地脈を利用し、民を犠牲にして、儚い永生を妄執した。そして最終的に、この惨劇を引き起こしたのだ!」


彼女の視線が場にいる全員を見渡し、エルフたちの悲しみや茫然とした表情、獣人の戦士たちの傷跡を見つめ、やがて雪に覆われた廃墟に視線を落とした。


「見てくれ!アールヴ・ヘイムを見ろ!ルナヒルを見ろ!かつての栄えある都市は、今や断壁残垣に過ぎない。かつての笑い声は、今や静寂と悲鳴だけに変わった!これは父皇が犯した過ちであり、我々が背負わなければならない代償なのだ!」


「だが!」


マクベサの話が一転し、声が急に高まり、人心を奮い立たせる力強さが宿っていた。


「今、エルフ王は亡くなり、罪深き女カーシャも処刑された。すべての罪悪と狂気は、この雪に埋められたのだ!」


彼女は背筋を伸ばし、銀の髪が月光の下で冷たく輝き、紫色の瞳には熾烈な炎が燃えていた。


「我は、マクベサ・エヴィヘル!エルフ王の長女、冠位の大魔導師!ここに宣言する!今日をもって、我はアールヴ・ヘイムの王位を継ぎ、この戦火に焼かれた土地を統べる!」


風雪がその瞬間、静まり返ったようだ。

生き残ったエルフたちは呆然と彼女を見つめ、瞳の茫然たる光が次第に消え去り、希望の輝きが湧き上がってきた。


「我は諸君に約束する!」


マクベサの声が聖霊殿の廃墟に響き渡り、銀滴谷の隅々まで届いた。


「我は諸君と共に廃墟を片付け、故郷を再建する!我は大地の傷を癒し、汚染された地脈を浄化する!我はアールヴ・ヘイムの栄光を、この土地に再び咲かせる!」


マクベサの視線が歓声を上げるエルフの群れから離れ、最前列に立つラインハルトの方に向けられ、紫色の瞳の冷たさが少し和らぎ、誠実な気持ちが込められた。


「ここに、我はラインハルト陛下、そして遠くから駆けつけてくれた獣人フーリの勇士たちに、心から感謝の意を表す!」


彼女は頭を少し下げ、声が魔法の力を纏って場中に響き渡った。


「もし貴方たちが義勇を奮い起こし、部族の勇士たちを率いてこの焦土に踏み込み、狂王の執念と汚染と戦うために我々と肩を並べていなければ、アールヴ・ヘイムの今日は、さらなる地獄に陥っていただろう!この恩義、アールヴ・ヘイムは永遠に忘れない!」


ラインハルトは呆然とした後、胸を張り、金色の鬃毛が月光の下で輝き、力強く胸を叩いて叫んだ。


「姫殿下!お客気なさらず!獣人フーリは盟友に背くことはない!」


彼の背後にいる獣人の戦士たちも荒々しい歓声を上げ、その声量は枝に積もった雪を震わせて落とした。


マクベサは頷いて礼をし、視線を再び場中に向け、声が急に沈み、現実に直面する誠実さが込められた。


「我は知っている。諸君の心の中には、一つの傷跡がある —— 神々の戦い以来、地脈が損なわれ、本源が枯渇したため、我々エルフはもはや、無限の寿命を持つ長生種ではなくなったのだ」


この言葉は静かな湖面に石を投げ込んだように、エルフの群れの中で低い騒ぎが起こり、誰かが頭を下げ、落胆した表情を浮かべた。


「だが我は諸君に言う!」


マクベサの声が急に高まり、断固とした力強さが宿っていた。


「そのために自憐自哀し、人生に意味がないなどと感じるな!」


彼女は手を上げて空を指し、冷たく輝く月を指し、力強く言った。


「この大地には、朝生まれて夕に死ぬ生き物もいる。一生がわずか一日だけの存在だ。それでも彼らは朝日に向かって羽根を広げ、朝露を啜り、夕日の下で舞い踊り、短い一生を熱く鮮やかに生き抜いている!」


「今、我々の寿命に終わりが訪れた。これは呪いではなく、我々に大切なものを惜しむことを教えてくれる契機なのだ!」


マクベサの視線が茫然としたり落胆したりしている一人一人の顔を見渡した。


「どうやって一日を生きるか、どうやって毎日の日の出と日の入りに意味を与えるか —— これは我々にとって重責であり、一人一人のエルフが直面し、考えなければならない必修の課題なのだ」


彼女は少し間を置き、声が緩やかになりながらも、心に響く力強さが宿っていた。


「この課題には正解も採点基準もない。おそらくこれは、君たちの未来がどこにあるのか、何をするのかを決めることはできないだろう。だが我は諸君に言う —— 生きるのも一日、死ぬのも一日だ。自怨自艾の中で時間を潰すよりも、限られた年月の中で、自分らしい輝きを放て!」


「我は諸君に望む —— 我の指導の下で、過去の執念と悲しみを捨て、廃墟を片付け、故郷を再建し、土地を耕し、生活を謳歌してほしい。少なくとも、毎日を笑顔で過ごせるように!」


この言葉が落ちると、場中はしばらく沈黙が訪れた。


風が廃墟を吹き抜け、細かい雪片を巻き上げたが、もはや凍りつくような寒さは感じられなかった。


一人の若いドルイドの少女が、率先して頭を上げ、瞳の落胆が消え去り、希望の輝きが湧き上がり、力強く叫んだ。


「姫殿下の御旨に従う!」


一人がいれば二人、三人と続いた。


「御旨に従う!」


「毎日を笑顔で過ごそう!」


「アールヴ・ヘイム万歳!」


歓声が再び湧き起こり、前よりも一層熱烈で真実味に満ちていた。鎖から解放されたような安堵感と、未来への無限の憧れが込められていた。


ラインハルトは血が騒ぐようになり、俺の肩を再び叩いて叫んだ。


「ミン君!俺の嫁さんは本物だ!」


「はあ、いつ承諾したんだ?」


「まあ、いずれだ!見てろ!」


シルヴィアは俺の隣に立ち、狼耳がそっと震え、瞳の複雑な感情がすべて認めと決意に変わった。彼女は至高の玉座に立つ姉を見上げ、口角に自然と淡い微笑みが浮かんだ。


クレアも安堵の笑顔を浮かべ、俺の方を振り返ると、瞳の心配が消え去り、優しさだけが残っていた。


俺は眼前の光景を見つめた。歓声を上げるエルフたち、玉座に立って輝くマクベサ、俺を盗み見ているのがバレてルルの背後に隠れたウォルス、アドリアンの掌にかすかに輝く生命の樹の種 ——。


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