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死して八年、デスナイトとして蘇る。――この食い荒らされた世を切り裂き、狂った因果に復讐を  作者: Tiny Abomination in a Jar


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王の末路

聖霊殿の空気は凍りつき、血の臭いと雪の冷気が絡み合う。




玉座の前に立つのはダンカン・エヴィヘル――かつての精灵王、今は异化した狂王。肌に暗紫色の纹路が這い、眼窩には混沌の光が宿り、聖剣を握る手が痙攣している。対角線上、五人が静まりを守る。




白銀の巨躯が地を這う。シルヴィアは咆哮を咽み込み、暴風雪を肌に纏って死角に潜む。母エロウェンの死が她の骨髄に灼き付き、暗殺者の爪は今、王族の欺瞞を断ち切る刃となる。足元の雪が締まり、凡ての温度を吸い取る。




グリフォンの背に佇むマクベサは、紫の瞳で狂王を釘付ける。杖先が微かに震え、古い魔法陣が空に浮かぶ――それは守護の呪文でなく、父が汚した地脈を根絶やしにする破壊の式。魔力の波が静かに広がり、狂王の周囲の空間を歪める。




俺はその場に立ち、背中の「青い蓮」から死霊の冷気が漏れ出す。氷焔長剣の刃が白く輝き、周囲の雪粒を瞬間的に凍らせる。彼の目には戦意も怒りもない。ただ、掃除を待つ機械のよう。「終わらせるぞ」と言葉を吐き、風雪がそれを奪う。周囲の食屍鬼たちが低く嘶吼し、牙を剥く。




雷鳴が轟く。




精鋭中の精鋭、グラディエーターにも勝る五十の精霊たちがいた。その顔面は歪み、狂王と毒婦の呪縛に完全に堕ちている。彼らは恐れを知らぬ足取りで王の前に進み出た。最期の瞬間まで、己が心の王を死守するために。




最前線にあるのは沈黙のサヴィレック。重剣を地面につき、鋼の意志が殺気となって溢れる。魔法も神の加護も不要。ただ、多年の忠誠が王の狂気に化けた失望を、刃に宿している。彼の存在だけで、狂王の残党たちは足がすくむ。




地鳴りが響く。




サヴィレックが跳んだ。瞬きの一間に、その巨躯は敵陣のただ中にあった。三メートル二〇。四つの拳と二本の足。精霊の加護と魔法の祝福、そして死の洗礼を経たその肉体は、憤怒に突き動かされる修羅そのものだ。




彼は真空を操り、精霊たちを己の側へと引き寄せた。六本の鎖が独楽のように唸りを上げ、肉を裂く旋風と化す。




ラインハルトは一頭の雄獅子へと変貌を遂げた。魔力は、その牙、爪、筋肉、そして脈打つ血管の隅々にまで凝縮されている。サヴィレックに続き、彼は敵陣へと突っ込んだ。その咆哮は、呪文を紡ごうとした精霊たちの喉を物理的に叩き潰す。




獣王の威厳、そして絶対的な死の恐怖。




足元から凍てつく。シルヴィアが静かに歩み寄る。終わりなき氷雪が奴らの足首を縛り、体温を奪い、生への抵抗を削ぎ落としていく。冷気が命を喰らっていた。




私は腕を回した。私の視線が指し示す先へ、無数の怨霊が解き放たれる。 引き裂き、貪り、弾け、そしてまた蘇る。 そこへ紫の奥義、アークマイルの弾幕が降り注いだ。




かつて傲慢を極めた親衛隊は、人間らしい咆哮を上げることすら許されなかった。 聖霊殿の床を汚し、彼らはただの骸へと成り果てた。




死を弄ぶ汚物どもが。




ダンカンが聖剣を振り下ろす。黄金の光が炸裂し、大地が縦に裂けて暗紫色の地脈の気息が漏れ出す。マクベサの杖が一閃、光の束を虚空に転送。隙が生まれた刹那、シルヴィアが雪烟から躍り出す。




「ガァァァッ!」




白銀の利爪がダンカンの肩を抉り、淡金色の血が噴き出す。その血は地面に落ちる前に、俺の冷気で凍り、細かく砕け散る。狂王が吼え、声は獣の咆哮と混ざり合う。「肉体凡胎では、アールヴ・ヘイムの栄光を摧くことは叶わない!」




吼えが響く途中、サヴィレックの重剣がダンカンの盾を叩き割る。木が折れるような乾いた音が、殿内に反響する。王のプライドが、鉄と血で打ち砕かれた。




「栄光だと?」俺が前に進む。死霧が一気に広がり、ダンカンの視界を遮る。「そんなものは、もう雪の下に埋まった」




シルヴィアがダンカンの足首を咬みつき、体重で引き倒そうとする。ダンカンが聖剣で地面を叩き、衝撃波で她を弾き飛ばすが、マクベサの魔法陣が退路を封じ。光の壁が迫り、狂王の動きを阻む。サヴィレックは左足を踏み出し、重剣を頭上に掲げる。




ダンカンの体がさらに异化し、背中から暗紫色の触手が伸び出す。触手が四方に乱舞し、殿内の柱を打ち砕く。俺の剣が触手を切り裂き、氷の塊が落ちる。シルヴィアが再び躍りかかり、利爪をダンカンの咽喉に突きつける。




ダンカンが肘でシルヴィアを打ち飛ばす。だがその隙に、サヴィレックの重剣が彼の肋骨に突き刺さる。「カ――」淡金色の血が狂王の口から溢れる。他は最後の力で聖剣を俺に振り下ろすが、俺が剣で受け止める。氷と黄金の光が衝突し、火花が散る。




マクベサが杖を掲げた。 瞬間、五人の全く同じマクベサが現れる。彼女たちは同じ動作を繰り返した。 その手に魔力が集う。刹那、魔力のみで構成された巨大な蒼白の巨剣が、彼女たちの手に現れた。




マクベサたちは一斉に巨剣を振るった。月華の如き斬撃が狂王へと飛ぶ。 瞬きの間に、彼女たちの手から巨剣が消え、狂王の傍らに出現した。 それぞれの剣が爆発し、そのエネルギーを狂王へと叩き込む。




遅れて届いたのは、硝子の砕けるような音。 そして、重い轟音だった。




シルヴィアが死角から復活し、利爪がダンカンの手首を深く抉る。聖剣が「ドー」と地面に落ち、音が空洞に響く。マクベサの魔法陣が収縮し、光の圧力でダンカンの体を抑える。




「ははは……役立たずの屑め。寝所ではあんなに威勢が良かったというのに。自分の娘と、その男たちが私ら母子をいたぶるのを黙って見ているつもり?」




毒婦はそう嘲笑いながら、膨らんだ腹を撫でた。その腹は、目に見える速さで異様に膨張していく。 「ああ……あの方よ! 我が主よ! 此れをあなたに捧げます!」




天空の紫は濁り、光を失った。




オギャア、オギャア。




赤子の泣き声だ。だが、それは遥か宇宙の深淵、あるいは時が始まる前より届く太古の産声。その音は肉を突き抜け、魂の深部を激しく震わせた。




くそっ、死んだはずの者も、死に損なった者も、一斉に這い上がってきた。 狂王はこの狂気の中で絶叫する。 「我が子よ……我が子よ!」 その背が異様に盛り上がり、無数の触手と、眼球の並ぶ肉塊が皮膚を突き破ってこちらを睨みつけた。




サヴィレックが再び狂王の目前に転移した。 「沈黙の領域」が展開され、聖霊殿のすべてを飲み込む。 一瞬。空間内の魔力が粘りつき、流れを止めた。流れることさえ許されない。




彼は我々一人ひとりに「否定の信仰」を授ける。 内側から湧き上がる狂気と恐怖を、冷徹な理性が縫い止めた。




「あの毒婦を殺せ!」




マクベサを乗せたグリフォンが、カーシャへと一直線に急降下する。 万千の同胞を殺した元凶を、巨大なエネルギー球がロックした。 刹那、無数のアルケインの矢が彼女へと降り注ぐ。




「ああ、呪ってやる! エヴィヘルの娘よ!」 カーシャが叫ぶ。 「貴様は兄弟で殺し合い、すべてに裏切られる! 最愛の者の手で死ぬがいい!」 「呪ってやる!!!」




彼女は嗤った。その直後、すべてを飲み込んだ。




俺が剣を引き抜き、再び突き出す。剣先がダンカンの胸を貫く。狂王の身体が痙攣し、眼窩の光が消える。彼が倒れると、淡金色の血が雪に滲み、瞬く間に凍る。殿内は死一般の静寂に戻る。食屍鬼の嘶吼が止み、風雪の音だけが続く。




マクベサがグリフォンから降り、シルヴィアは白狼の姿のままダンカンの屍体を一瞥、後退する。サヴィレックが重剣を抜き出し、雪で刃の血を拭う。三人と一頭の白狼が、俺の背後に佇む。




俺が緩やかに前に進み、氷焔剣の血を鞘で拭い去る。他の視線は、玉座の角落に蜷缩するカ夏に落ちた後、虚空に漂う。




冷たい声が風雪に乗って響く。




「……落とした片は、白茫々として……真に、潔い」




殿門から流入する雪が、屍体、武器、血痕を一つずつ覆う。聖霊殿は純白に染まり、凡ての罪と狂気を埋め尽くす。

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