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死して八年、デスナイトとして蘇る。――この食い荒らされた世を切り裂き、狂った因果に復讐を  作者: Tiny Abomination in a Jar


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焼かれた月光の街

通路の出口を踏み出した瞬間、灼熱の風が俺たちの顔を切り裂いた。上空は赤く染まり、黒い煙が天を覆い尽くしている。かつて月光のように輝いた街ルナシルは、今や炎と血の海に変わっていた。燃え盛る建物の崩落音、感染者の哀れな咆哮、鋼鉄と魔法が擦れ合う轟音——ありとあらゆる悪音が空気を震わせ、地獄絵図が眼前に広がった。




俺の側には、シルヴィアとサヴィレックが立っている。シルヴィアの翡翠色の瞳は大きく見開かれ、唇を咬み締めて身を震わせている。彼女が育った街がこうした惨状になっていることを、まだ心から受け入れられないのだろう。




サヴィレックは今や俺の召使いだ。幽藍の瞳に宿る復讐の炎が彼を駆り立て、無言で敵を倒し続ける戦闘機械となった。六本の玄鉄鎖が体に沿って緩やかに蠢き、反魔法の残響が周身に薄く籠っている。




「……ルナシル……」




シルヴィアが低く呟き、声は風に揉まれて細く消えた。




目の前で、華やかな貴族服をまとった変異体が、平民の屍をかみちがう。それは中層貴族の変わり身だ——カーチャの大地の血に依存し、最終的に汚染に飲まれた犠牲者だ。触手が襟元から這い出し、かつての優雅はどこにも見当たらず、ただの喰人怪物になっている。




「中層貴族は大半が感染した。上層は身を守るため、アールヴ・ヘイムの城門を閉ざしたんだろう」




俺は剣を鞘から抜き、氷霜を刃に纏わせる。冷たい氷気が周囲の熱気を一瞬切り裂き、瓦礫の上に白い霜が薄く付いた。




城門の方向を見ると、高い城壁の上は人影がない。空っぽの堀や無人の矢倉が、この街の放棄を物語っている。ルナシルが廃墟と化すのは、もう時間の問題だ。




「ドルイド教団が抵抗している!」




シルヴィアが指を差す。遠くの広場から、緑の魔法光が炎の中でも際立って輝いている。ツタや蔓が感染者を締め付け、木の葉が鋭い刃のように敵を削り取っているが、その数は圧倒的に少なく、感染者の波に押されて徐々に後退している。ドルイドたちの悲鳴が、炎の轟音に埋もれながらも、確かに俺たちの耳に届く。




「アドリアンは、私の住まいでウォルスヴィスを守っているはず」




シルヴィアが拳を握り、声に必死の力を込める。




「絶対に、あの子を守っている……!」




ウォルスヴィス——シルヴィアの妹、幼い精霊王女。シルヴィアがこの街に残した、唯一の絆だ。




「行こう。俺が正面を開ける。サヴィレック、『沈黙』を展開しろ」




俺は命令を下す。サヴィレックは沈黙で頷き、体から淡い青い光が広がった。『反魔法の領域』が敷かれる瞬間、周囲の汚染魔力が一瞬無力化され、感染者の動きも鈍った。




三人は炎の街へと突き進んだ。燃え落ちた屋根瓦が足元で軋む、感染者の咆哮が耳元に響く。俺の氷霜の剣は変異体の肉体を凍らせて切り裂き、紫の汚染液が氷片と共に飛び散る。シルヴィアは影に潜り、細長い尖刺で感染者の琵琶骨を一突きし、無言で敵を倒す。妹を救う執念が、彼女の動きを一層速く、確かにしている。




サヴィレックは六本の鎖を活物のように操り、感染者を掴んで石壁に叩きつける。骨砕きの音が響き渡り、彼の幽藍の瞳には一切の感情がなく、ただ復讐の命令を執行する。かつて『嘆きの壁』と呼ばれた男は、今や俺たちの最強の盾となっている。

中層貴族の変異体たちが群れで襲い来る。かつての同僚の姿を見て、シルヴィアの声に怒りが混ざる:「貴様たち……!」




サヴィレックが鎖を横一文字に振り回し、貴族変異体たちを一掃する。『沈黙』の領域内では、彼らの汚染魔力が無効化され、脆い肉体が鎖によって砕け散る。




途中、一人のドルイドが俺たちに声をかけてきた。体に無数の傷があり、息が荒いが、眼神には決意が宿っている。



「シルヴィア様……!アドリアン様が、お住まいの周りに蔓の壁を作って防衛しています!だが、感染者が増え続けて……撑えきれません!」




「分かった。ありがとう」




シルヴィアが頭を下げ、翡翠色の瞳に感謝と決意が宿る。ドルイドは頷き、再び戦いに返っていく。彼の背後には、信念を抱く多くのドルイドたちが続いている。




俺たちは更に進む。炎の中を、死者の骸の上を、妹を救うために一歩も退かない。

やがて、シルヴィアの住まいが炎の向こうに見えた。その周りには太い蔓が壁を作り、感染者をしっかり隔てている。蔓の上には毒棘が生え、汚染液が一滴滴り落ちて地面を浸食している。蔓の中から、大きな木の精霊の光が漏れている——それはアドリアンの守り魔法だ。




蔓の壁の前に、アドリアンが立っている。緑の衣装は血と汚れで染まり、白い髪が乱れて額に垂れているが、背筋は一センチも曲がらない。杖を握る手が震えても、魔力の流れは絶やさない。




「シルヴィア様……!」




アドリアンが声を上げ、力なく笑った。




蔓の壁が緩やかに開き、その中から小さな人影が飛び出してきた。




「お姉様——!」





金色の髪をした幼い精霊が、シルヴィアの胸に勢いよく飛び込む。瞳には恐怖が浮かんでいるが、強がって泣きじゃくることはなく、小さな腕でシルヴィアをぎゅっと抱きしめている。




「ウォルス……大丈夫?傷は?」




シルヴィアが妹の顔を撫で、声が抑制不住に震えている。




「アドリアン様が守ってくれた!大丈夫だよ、お姉様」




ウォルスヴィスが頷き、次に俺を見て目を輝かせた。




「ああ、お兄ちゃん、あなたもここにいたんだね!」




十歳ほどのこの少女は、数ヶ月前に誘拐されて物乞いにされていた姿とは判然と違い、上品な淑女の風格を持っている。金髪に琥珀色の瞳は、シルヴィアにそっくりで、ただ瞳から漏れる柔らかさが、姉とは対照的だ。




俺は頷き、愛情を込めて彼女の金髪をくしゃくしゃに揉んだ——死の冷気を纏った手でも、その髪の柔らかさは意外と伝わってくる。




「ウォルスか?男らしい名前だな。」




「失礼なことを言わないでくださいね、お兄さんの意地悪!」




ウォルスヴィスがふふっと笑い、小さな手で俺の腕を叩く。




「自己紹介させてくれ。ヴォルスヴィス・エヴィヘルだ。父上はもともと男の子に王位を継承させたかったので、この名前にしたんだ。だけど、私が生まれたから仕方ないね」




「聖都で別れた後、きちんとお礼を言えなくて本当にごめんなさい」




彼女は信心深い目で俺を見つめ、琥珀色の瞳が月光の残り香のように輝いた。




「無事に再会できて本当に嬉しいです。月の女神の導きに感謝しなくてはなりません」




「おい、手を引け!私の妹に無闇に触るなら、ここで始末してやるぞ!」




シルヴィアが顔を真っ赤にして怒鳴り、尖刺を俺の方向に向けた。




「まあまあ、お姉ちゃん、ヤキモチ焼いちゃってる?」




ウォルスヴィスが姉の腕を引っ張り、ぷんぷんしたシルヴィアの頬を撫でる。シルヴィアはさらに赤くなり、言い返せずに唇を噛み締めた。




俺はサヴィレックの側に立ち、街の方向を見据える。炎はまだ消えず、感染者の咆哮は遠くまで響いている。アールヴ・ヘイムの城門は、依然として冷たく閉ざされたままだ。サヴィレックの鎖が不意にヒョキッと鳴り、幽藍の瞳が上空に向いた——敵の気配を感知していたのだ。




「アドリアン。この街は、もう救えないのか?」俺が問う。




アドリアンが頭を下げ、杖先の緑き光が微かに揺らいだ。「地脈の汚染が、すでに街の土壌に浸透している。感染者は増え続け、ドルイド教団の力では、もはや抑えきれない……ルナシルは、もう廃墟となる運命だ」




炎の街ルナシルの上空に、星がかすかに見えた。その光は微弱だが、絶望の中で唯一の標識のように輝いている。




「シルヴィア。ここからは、どうする?」俺が問う。




シルヴィアがウォルスを抱きしめ、緩やかに立ち上がる。翡翠色の瞳から涙は消え、代わりに鋭い決意が宿っている。「カーチャを倒す。この汚染を、根源から断ち切る」彼女が声を上げ、その音は炎の中でもはっきりと響く。「アールヴ・ヘイムの城門が閉ざされていても、俺たちは王宮に潜入する。カーチャの陰謀を暴き、この国を救う——それが、私の使命だ」




アドリアンが杖を握り締め、毅然と頷く。「ドルイド教団は、シルヴィア様の側に立つ。たとえ、この国が敵になろうとも」




俺は『ヴェサリオの残酷』を振り上げ、氷霜が刃を覆い尽くす。「よし!それでは、王宮への突撃を、始めよう」

炎の中に、新たな決意が燃え上がった。ルナシルは廃墟となったが、俺たちの戦いは、まだ終わっていない。




ちょうどその時、上空から轟然としたグリフィンの鳴き声が響き渡り、黒い巨影が炎の光を遮った。柔らかくも威圧的な女声が、風を介して俺たちの耳に届く。

「妹たち、本当に久しぶりね!」

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