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死して八年、俺は孤魂野鬼(ここんやき)として蘇る――この食い荒らされた世を切り裂く   作者: Tiny Abomination in a Jar


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聖都の影、禁忌の薔薇

野の雪を背に、ミンが辿り着いたのは人類の希望と謳われる聖都アレクサンドリア。  しかし、その光り輝く城門の裏側に広がっていたのは、荒野よりも救いのない「絶望」でした。


 そこで再会した、八年前の恩人であるシスター・クレア。  聖潔な修道服に身を包みながらも、熟れきった果実のような芳醇な色香を漂わせる彼女との再会は、孤独な孤魂の心に何をもたらすのか。


 そして、聖都の闇に蠢く「収容所」の正体とは――。  静かに、しかし確実に加速していく物語をお楽しみください。

風雪が【永劫の聖都】アレクサンドリアの巨壁に遮られた時、俺の肩にある断刀からは、ようやく完全に氷霜が消え去っていた。


 厚重な城門は暗金色の合金で鋳造され、複雑な神紋が刻まれている。銀甲を纏った二人の守衛が長槍を手に立ち、その甲冑の紋章が薄明かりの中で冷たく光る。それは【オーレリアン連邦】と聖都教会が共有する标识であり、この地における「神権と王権の共生」の象徴だった。


 俺はフードを脱ぎ、血の気のない蒼白な顔を晒した。瞳の奥の氷焔ひえんを、二点の微光へと収束させる。隣ではエルフの少女が俺の背後に身を隠し、赤く凍えた尖った耳を震わせていた。人間の孤児は彼女の衣の裾をきつく握りしめ、額の傷跡はまだ癒えていない。


「止まれ。荒野からか? 入城文書はあるか」


 守衛の視線が、俺の錆びついた重甲と背中に透ける蓮の刺青をなぞり、不快げに眉をひそめた。俺は何も言わず、懐から擦り切れた銅の記章を取り出した。八年前、屍の山で老兵から譲り受けたものだ。守衛はそれを忌々しそうに受け取り、震える子供たちを蔑むように一瞥すると、手を振った。


「入れ。外区ガイクにいろよ。中層へは近づくな、さもなくば流民として叩き出す」


 門をくぐった瞬間、劣悪な麦酒と腐敗した食物、そして煙の入り混じった悪臭が鼻を突いた。これが聖都の外区だ。荒野の虚無とは違い、ここには低い土屋根が密集し、屋根を覆う腐った茅葺きの隙間から寒風が吹き込み、絶え間ない咳と子供の泣き声が漏れ聞こえてくる。壁際に蹲る窮民たちは、路上の残飯を漁るか、空から落ちる雪の欠片を麻木した瞳で見上げている。そこには希望などなく、ただ絶望に磨り潰された虚無だけがあった。


「おじちゃん、ここが……聖都なの?」


 人間の少年の声には、隠しきれない失望が混じっていた。「人類の希望」と謳われる場所が、荒野よりもマシな場所だと思っていたのだろう。


 その隣で、エルフの少女も顔を上げた。十歳ほどの彼女は、衣こそボロボロで顔色も悪いが、エルフ族特有の精緻な美しさを隠しきれていなかった。長くカールした睫毛、小さく通った鼻筋、そして柔らかく鮮明な唇のライン。数年もすれば、傾国の美女となるだろう。彼女の視線は俺に向けられ、そこには深い依存と、言いようのない羞恥が混じっていた。荒野でのあの生死を共にした守護が、この子の心に特別な情念を芽生えさせたのかもしれない。


 俺は答えず、断刀を強く握り直した。  外区の至る所にある「収容所」と書かれた看板。灰色の法衣を纏った男たちの目は、流民の子供たちを眺める時、まるで「商品」を品定めする商人のようにぎらついていた。


「これが外区。聖都の、最底辺の場所よ」


 温和な女の声がした。初春の雪解けのような温かみ。  俺は即座に振り返り、断刀に幽藍の光を走らせる。だが、視界に入ったのは白い修道服を着た女性だった。


 シスター・クレア。  八年前、屍の山で俺を見つけ、死んだ老兵たちの目を閉じてくれた従軍牧師。  彼女はあの頃よりずっと成熟していた。透き通るような肌は歳月を経て芳醇な豊かさを湛え、修道服の布地は体に吸い付き、玲瓏れいろうたる曲線を描き出している。まるで熟れきった水蜜桃だ。軽く触れれば、甘い蜜が溢れ出してしまいそうなほどに。


 松のように挽かれた深い茶色の髪、温かい水に浸された黒曜石のような瞳。彼女の唇は自然な桃色で、微笑むたびに浅い梨窪えくぼが浮かぶ。聖潔な修道女でありながら、その佇まいには抗いがたい誘惑が漂っていた。


ミン……久しぶりね」


 彼女の声は温かく、俺の瞳の氷焔を見ても怯えることはなかった。 「あなたの体、まだあの時のままなの?」


 俺は刀を下ろした。 「なぜ、ここにいる」 「救済所の手伝いに来ているの。……ついてきて。ここは話をする場所じゃないわ」


 彼女は腰を落とし、子供たちに麦餅を差し出した。**蹲るその動作ひとつでさえ、貴族特有の優雅さを失わず、同時にその豊かな体つきを強調している。**エルフの少女が麦餅を受け取る時、彼女の指先が俺の袖に触れ、頬を赤らめて俯いた。


 案内されたのは、清潔な救済所。  火鉢の光がクレアの白い肌を暖色に染め、その眉目をより情熱的に見せる。彼女は耳元の髪をかき上げた。その仕草には無意識の色香が宿っている。


「八年前、私はここに残り、修道女になったの」


 彼女の過往を知っている。貴族の家柄と婚約を捨て、神に身を捧げることで自由を掴み取った女性。


「閔、あなたの背中の蓮……綻びがひどくなっているわ」


 彼女は少し身を乗り出した。**その拍子に薔薇と聖水の甘い香りが漂い、はだけた襟元から覗く白い肌が、磁石のように俺の視線を吸い寄せる。**彼女の瞳は聖潔だが、その体つきはあまりに扇情的だった。


「聖都は太平じゃない。特にあの『収容所』には近づかないで。あそこには、おぞましい汚れが潜んでいるわ」


 俺は黙って頷いた。  その夜、クレアに用意された木屋で炭火を焚く。  眠りにつく子供たちの傍らで、俺は戸口に寄りかかり、断刀を抱いて外の闇を凝視していた。  人類の希望と謳われるこの都は、荒野よりも昏い闇を抱えている。一縷の孤魂となった俺は、この影の中で、自らの道を斬り拓かねばならない。

第二話をお読みいただき、ありがとうございました。


 聖都の外区、そのあまりの格差と腐敗。  玉碗で瓊漿けいしょうを啜る者たちがいる一方で、泥水を啜る民がいる。まさに「朱門には酒肉臭く、路には凍死の骨あり」を体現したような街です。


 今回、ようやくヒロインの一人であるクレアが登場しました。  彼女の「聖母のような慈愛」と「抗いがたい大人の色香」のギャップを、閔の冷徹な視線を通して感じていただけたなら嬉しいです。  また、助けられたエルフの少女が閔に向ける、幼いながらも熱い「情念」の行方も気になるところです。


 次回、聖都の闇がいよいよ牙を剥きます。  閔の断刀が再び幽藍の光を放つ時、何が斬られるのか……。


 もしこの世界観やキャラクターを気に入っていただけましたら、  **【ブックマーク登録】や【下の☆☆☆☆☆】**で応援をよろしくお願いします!  評価をいただけることが、この物語を完結させるための最大の原動力になります。


 それでは、また次の更新でお会いしましょう。

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