忘れられない家族
俺は鎧を脱ぎ、粗末な平服に着替えた。 部屋に入ると、二人のガキが驚愕した顔で俺を見ていた。俺の若さに驚いたのだろう。十六歳の顔。まだ髭も薄いが、その目はとうに死線を越えた者の冷たさを宿している。
「一晩寝て、腹は決まったか」 俺は椅子を引き、二人の前に座った。
「はっきり言っておく。俺は善人じゃない。死体を積み上げてここまで来た男だ。ガキ二人を連れて歩くほどの余裕も、慈悲も持ち合わせていない」
俺は視線をルルに落とした。 「ルル、お前は銀雫の谷へ送る。精灵の主城、アールヴ・ヘイムに近い霧の薄明森の中にある場所だ。あそこには俺の知り合いの貴族がいる。お前はその才能を磨け。魔法は、お前が誰かに踏みにじられないための唯一の牙になる」
ルルが拉格の袖をぎゅっと握りしめた。
「お前は」俺はラグを見た。「コーシーに預ける。見習い衛兵として叩き込まれろ。一年経てば軍へ送られる。そこから先は地獄だ。だが、お前には魔法よりも確かな忍耐と堅実さがある。軍隊なら、お前のような奴が最後に生き残る」
俺は立ち上がり、背中の重い剣を確かめた。 「感傷に浸る時間はない。行くぞ」
……
レグニッツの看守所。 霧が立ち込めている。コーシーは俺から受け取った金袋を放り投げ、隣に立つラグを一瞥した。
「本来なら、お前を鉄格子の向こうにぶち込むはずだったんだがな。あいつに命令されちゃあ、俺の首がかかってる」 コーシーは欠伸を噛み殺し、ラグに問うた。 「お前、昨夜逃げるチャンスはあったはずだ。なぜ逃げなかった?」
「逃げようと思った」ラグは霧の中に消えていく俺たちの背中を見つめていた。「でも、僕が消えたらルルが泣く。あいつの泣き声を聞くと、昔の自分を思い出して、足が動かなくなるんだ」
……
街道。泥濘が靴を汚す。 俺の後ろを、ルルが必死についてくる。
「兄貴は好きか?」俺は前を向いたまま聞いた。
「大好き」
「なぜだ。」
「お兄ちゃんは、いつも一番いいものを私にくれたから。それに、私に泥棒をさせなかった。私はいつか、天空の城に行くんだって。魔法の都で、立派な勉強をするんだって。お兄ちゃんは言ってた。あそこに行くような子が、牢屋に入ったことがあるなんて知られたらダメだって」
ルルは涙を拭い、俺の背中を追う。
俺は答えなかった。天空の城。その言葉がこの泥だらけの街道には酷く不釣り合いだった。
……
看守所の冷たい壁が、少年の沈黙を吸い込んでいた。
「一度離れれば、もう一生会えないかもしれないぞ。忘れられるのが怖くないのか」
ラグは両手で顔を覆ったまま、震える声で言った。
「……忘れられたって、いい。それでいいんだ」
「なら、お前はどうだ。お前は忘れられるのか?」
少年は答えなかった。彼は顔を覆ったまま、最初、低く笑い始めた。その笑いは自嘲のようでもあり、壊れた機械のようでもあった。笑い声は次第に大きくなり、やがてそれは制御不能な嗚咽へと変わった。 少年は笑いながら、泣いていた。 暗い看守所の壁に、一匹の捨てられた獣が内臓を引き裂かれたような、無様な泣き声が響き渡った。
……
俺はラグをコーシーに託し、ルルを連れて歩き出した。 肩に担いだルルは、もう泣いていなかった。
俺の心に、また一つ、処理しきれない霧が溜まっていくのを感じた。
「クソが」 俺は誰にともなく毒づき、冷たい風の中へと足を踏み出した。




