子供は幼いが、盲目ではない
雪はまだ降り続いていた。しかし、その白さはもはや何も隠しはしない。
俺は重厚な魔力抑制の枷を嵌められ、慣れ親しんだ漆黒の鎧を剥ぎ取られた。露わになったのは、修羅の如き戦いには似つかわしくない、青さの残る青年の素顔と、新旧の傷跡が複雑に絡み合う痩せた身体だった。
囚車が軋んだ音を立て、中層から下層、さらに城外へと向かってゆっくりと動き出す。
街の至る所に設置された拡声魔法のラッパからは、朗々とした声が響き渡っていた。 「——昨夜、ヴァレリウス家およびシュベール家において発生したテロ事件について報告する。**ヴァレリウス家らは王国の制衡を乱し、民を苦しめる悪行を働いた。聖王陛下は、これら秩序を乱す不逞の輩を厳正に処断された。**陛下は自ら『罪己詔』を発布し、監督不届きを深く謝罪されている……」
市民たちはどよめいた。 「陛下は慈悲深くも、下層民の今年の税と一部のローンを免除されるとお決めになった! また、処刑された者たちに代わり、新たな伯爵と子爵が任命された。彼らは清廉潔白な者たちであり、中下層からの人材登用を広く歓迎するとのことだ!」
なんと滑稽な劇だろうか。 主役を殺し、罪を死人に着せ、民には金を与えて口を封じる。 俺が命を懸けて暴いた手帳の真実も、聖王の「制衡」という名の華麗な演説に覆い隠され、また見えなくなっていく。結局、何も変わらないのか? この街は、また昨日と同じように、白々しい雪の下で腐っていくのか?
囚車が軋んだ音を立て、中層から下層、さらに城外へと向かってゆっくりと動き出す。街のラッパからは、聖王の「制衡」を謳う白々しい罪己詔が、鳴り止むことなく響いていた。
囚車が下層の広場に差し掛かった時だった。 罵声や石が飛んでくるのを覚悟して、俺は俯いていた。だが、静寂が俺を包んだ。
「——おじちゃん!」
一人の子供が、制止する兵士の腕を潜り抜けて叫んだ。あの時、隠れ庭の檻から逃がした少年だった。 「……いや、お兄ちゃん! 僕、見てたよ! お兄ちゃんがあいつらをやっつけるのを!」
少年の声は、冷たい空気をつん裂いた。 「僕、忘れないよ! 僕も、お兄ちゃんみたいになる! お兄ちゃんみたいに強くて……正義の味方になるんだ!」
それを合図に、周囲の子供たちが次々と声を上げ始めた。 「僕も!」「私も忘れない!」
子供は幼い。だが、盲目ではない。 彼らは地獄を見た。そして、その地獄を真っ二つに切り裂いた俺の背中を見た。 政治がどうあろうと、税がどうなろうと、彼らにとっての真実は、あの夜、血を流して戦った俺の姿だけだった。
群衆の端に、クレイアの姿が見えた。彼女は羞恥に顔を歪め、消え入りそうな声で俺に「……ありがとう」と告げた。その瞳には、自分の無力さと、俺をこんな境遇に追い込んでしまったことへの深い後悔が滲んでいた。
俺は鼻で笑い、静かに首を振った。 「……お前も、楽な立場じゃなかったんだろ?」
その一言が、彼女の堰を切った。クレイアは顔を覆い、子供のように何度も、何度も「ごめんなさい」と泣きじゃくりながら謝り続けた。
「……よせ。間違ったことをしたのはお前じゃない。何をお前が謝ることがある」
俺は彼女を真っ直ぐに見据えた。 「それよりも、クレイア。お前が謝る暇があるなら、俺に代わってあの子たちの面倒を見てやれ」
空は次第に晴れ渡り、雪も小降りになっていた。 陽光が雲の間から降り注ぎ、晒された俺を暖める。
囚車の揺れに合わせて、俺の影が石畳の上に長く、長く伸びていく。 その影は、たった一人のものではなかった。 俺の後ろには、数えきれないほどの子供たちの視線が、意志が、そして未来が、真っ直ぐに立ち並んでいるのを、俺は確かに感じていた。
……クレイア。ほら、やっぱりお前が謝る必要なんてないんだ
俺は心の中で、泣きじゃくる彼女の背中に語りかけた。
悪いな。またお前を悲しませちまって。俺が現れるたびに、お前には悪いことばかりが起きる気がするよ。ごめんな、その涙を拭ってやることもできなくて。そんなことより、守ってやってくれ。この純粋な夢を。二度と、あいつらに踏みにじられないように——
陽光が差し込み、俺の長い影は子供たちの未来へと繋がっていく。俺は前を向いた。たとえこの先が暗い牢獄であろうとも、撒かれた種はもう、誰にも殺せはしない。




