✿花魁心中てふなん〜遊女の友情〜❀
♡この度♡この❀花魁心中短編小説✿
2025/11/5(水)のランキング❣❣
34位[日間]歴史〔文芸〕- すべて
5位[日間]歴史〔文芸〕- 短編
2025/11/11(火)のランキング❣❣
13位[週間]歴史〔文芸〕- 短編
2025/11/20(木)のランキング❣❣
54位[月間]歴史〔文芸〕- 短編
沢山ランクインさせて頂きました❣❣
♡(∩´∀`)∩嬉しぃワーイ♡
とても励みになります♡感謝致します♡
♡ありがとうございますm(_ _)m♡
百花繚乱に咲き乱るるは大江戸の艶処ーー。
喋々喃々と麗しく花を散らし春を売るは花魁達ーー。
綺麗な花には毒がありんしてーー、
花弁散らし喜ぶは男達だけでありんす。
華やかな艶の陰に御歯黒溝の如く濁った闇がござりんす。
此処は夢か現か極楽か地獄か愛憎渦巻く混沌の苦界……。
艶やかな美しい鰭を纏いし金魚達はーー、
硝子の金魚鉢の中でしか生きられぬーー。
遠く遠く星になった夜鷹達は籠の鳥かーー。
夜の蝶は蝶結びに帯を結び指を切るーー。
✿。*゜+❀.。*✿。*゜+❀.。*✿。*゜+❀
ーーしゃんなり♫ ーーしゃんなり♫
豪華絢爛に花魁道中が通りゃんせーー。
三枚歯の塗り下駄に外八文字で練り歩くーー、
其れは正しく一夜の夢の如しでありんしたーー。
ーー『びいろど屋の手風花魁!!』
ーー『身請けが決まったらしいねぇ』
ーー『あの気位の高い花魁がかぇ?』
ーー『何でも瑞南花魁の代わりだそうだょ』
ーー『今日の花魁道中だってそぅだ』
ーー『本当は瑞南花魁が歩く筈だった』
ーー『瑞南花魁は病らしい』
ーー『もぅ長くは無いってょ』
外野から口々に噂話が飛び交う此処は吉原だからねぇ。
噂も炎上も絶えぬ。絶えぬ。そうさ。全部。ホントさァ。
全部聞こえてるンだょォ。大きな声で喋りやがッてさァ。
ーーあゝ。ーーあゝ。ーー足が痛ぃ。
……三枚歯の塗り下駄がかったるぃたらありャしねぇ。
……外八文字で練り歩くのも一苦労。
ーーこんな事。お喃の代わりでもなきゃぁ。
ーー引き受けたりしないさねぇ……。
……お喃ってのは、瑞南花魁のことさ。
……まだ禿だった頃の幼名さ。
……あゝ。……懐かしぃ。
……お喃と共に禿ン頃に。
……姐さんの花魁道中を歩ぃたねぇ。
……手前を歩く禿の禿達を見て思ぃ出す。
ーーあの頃は、ょかったなァ……。
ーーまだ穢を知らずに居られた……。
ーーお喃と二人で姐さんは厳しかったけど。
ーー二人で引込禿として仲良ぅ修行を積んだもんだ。
……アタシの幼名が、お蝶だったから。
……お喃と二人。……喋々喃々と。
……密やかに小さな手を互いに耳に当て囁き合えば、
……喋々喃々……てふなん……と。
……そぅ。姐さんはアタシらの事を纏めて呼んだ。
ーー厳しぃ修行の合間に姐さんがくれた。
ーー練り飴を二人で共に練って半分こして食べた。
ーー甘くって滑らかで幸福な味がした。
ーーお喃とアタシには似たところに黒子があって、
ーーお喃は左手の契りの節に黒子があって、
ーーアタシは右手の契りの節に黒子があってねぇ。
ーー良く二人で契りの節を合わせて指を結んで、
ーー指切りをした。ーー変わらぬ友情を誓いあって、
ーー其の友情は遊女になった今でも色褪せぬ。
ーー小指を切るのは愛の誓いの証。
ーーお喃とアタシの友愛の証。
ーー遊女となりて此の身は穢ども。
ーー心は穢れず互いのものだと。
ーーそぅ。契りを交わしたンだ。
……大切なアタシの知音の友。
……此の頃とんと具合が悪ぅなッて、
……部屋に籠りッきりだ。
……太客の狸爺から身請け話があッた。
……お喃は受けると言ッた。
……本心ぢゃァなぃ。……店の為だろぅ。
……お喃の具合が悪ぃと知ったら。
……ぁの。狸爺。アタシを代わりに寄越せと言ッた。
……そンな。狸爺にアタシの大切な知音の友を、
……お喃をやるわけにはいかねぇょォ。
……アタシが代わりにいくのも癪だァ。
……其れに、お喃の命が長くなぃなら。
……こんなとこで生きていたってしょぅがなぃ。
……お喃と離れ離れになるくらいならァ。
ーーだから此れは二人で決めた事……。
ーーお喃とアタシ二人でねぇ。
ーー今宵…共に心中しようと…そぅ。決めたンだ。
✿。*゜+❀.。*✿。*゜+❀.。*✿。*゜+❀
……今宵は、新月。……闇の深い夜でありんす。
ーーしゃんなり♫ ーーしゃんなり♫
豪華絢爛に花魁道中が通りゃんせーー。
三枚歯の塗り下駄に外八文字で練り歩くーー、
其れは正しく一夜の夢の如しでありんしたーー。
「…お蝶ちゃん…綺麗ぇ」
籠りっきりの部屋の窓から私は、お蝶ちゃんの花魁道中を見ていた。
ーー『びいろど屋の手風花魁!!』
ーー『身請けが決まったらしいねぇ』
ーー『あの気位の高い花魁がかぇ?』
ーー『何でも瑞南花魁の代わりだそうだょ』
ーー『今日の花魁道中だってそぅだ』
ーー『本当は瑞南花魁が歩く筈だった』
ーー『瑞南花魁は病らしい』
ーー『もぅ長くは無いってょ』
外から口々に噂話が飛び交う此処は吉原遊廓ですもんね。
噂も炎上も絶えぬ。絶えぬ。そぅ。全部。本当なの。
病のところを除いては、昼間に御匙に診てもろぅたの。
そぅしたら。病とばかり思っていたのに。
……病では無かったのょ。
……今宵、お蝶ちゃんに話さなきゃ。
私の代わりに…お蝶ちゃんは…
手風花魁として身請けを受けた。
私が瑞南花魁として身請けを受けたのは店の為。
……本意では決してないわ。……しょうがなく。
……だけど。貴女が身代わりになって思ったの。
……私の大切な知音の友を狸爺にやりたくないと。
ーーだって、私達は約束したのだもの。
ーー契りの節の黒子を重ねて、
ーー小指を結んで、指切りげんまん。
ーー遊女となって此の身がどんなに穢ても。
ーー心は穢れずお互いにお互いのものだと。
ーーそぅ。契りを交わしたんだもの。
ーー小指を切るのは愛の誓いの証なのよ。
ーーお蝶ちゃんと私の友愛の証なのよ。
ーーお蝶ちゃんと離れ離れになるくらいならぁ。
ーーだから此れは二人で決めた事なのです……。
ーーお蝶ちゃんと私の二人で、
ーー今宵…共に心中しようと…そぅ。決めたのです。
「…そぅ…決めたのょ」
お腹に手を当て、お喃は、そぅ。小さく呟いた。
✿。*゜+❀.。*✿。*゜+❀.。*✿。*゜+❀
「ーーお喃!」
草木も眠る丑三つ時。アタシは、お喃の部屋へ静かに走り。昏い部屋の中で籠りっきりでアタシを待っていてくれた。お喃の名を静かに呼び、ひしと抱き締めた……。
「ーーお蝶ちゃん!」
潤む声で、お喃がアタシの名を静かに呼び返し。
ひしと抱き締め返してくれた。
……あゝ。アタシは、もぅ。
……其れだけで、幸福なンだょ。
「…はぁ…やッとだ…やッと、狸爺が寝た」
アタシは、お喃を、ひしと抱き締めた儘に云う。
「ー此れで、やッと、お喃アンタと死ねるー」
お喃は、切れ長の綺麗な眦から一雫。
流星の如く泪を流し。アタシの耳元で囁いた。
「…お蝶ちゃん…私、病ぢゃ無かった」
お喃の言葉にアタシは、すっかり驚ぃた。
「ーお喃ー其れは、ホントかぃ!?」
アタシの目からは大粒の泪が、ボロボロと溢れ出た。
「あゝ。昼間に御匙が診てくれてねぇ…病では、無かったのだけれど…」其処で、お喃は何か云い淀む……。
「何だぃ!?何だッてンだぃ!?ハッキリお云いょォ!」
アタシが云い淀む。お喃に痺れを切らすと。
「…お蝶ちゃん…私、子が出来た……」
お喃は、泪ながらに、そぅ。云った。
✿。*゜+❀.。*✿。*゜+❀.。*✿。*゜+❀
「……えっ?」
大きな目を更に大きく見開いて、お蝶ちゃんが驚く。
無理もないわ。いきなり子が出来たと云われてもねぇ。
お蝶ちゃんは、細い手を私のお腹に置いて、長い睫毛を震わせて、泪ながらに云った……。
「…そぅ…そぅかぃ!…お喃…おめでとぅ」
そぅ云って、優しく微笑んでくれた……。
遊女の懐妊なんてねぇ。誰も歓びはしなぃ。だからさぁ。
おめでとぅ。お蝶ちゃんが、そぅ云って、
微笑んでくれただけで、私は、もぅ。
……其れだけで、幸福だょ。
お蝶ちゃんは、私のお腹を優しく撫でて云う。
「…お喃…お腹の子には、罪も穢れも無ぃょ……」
大きな目で、私を真っ直ぐ見詰めて、云う。
「…アタシと心中するかどうかは、お喃…」
泪に潤む少し掠れた声で、云う。
「…アンタが、決めなァ…」
私は、私のお腹を優しく撫でる。お蝶ちゃんの細い手に己の手を重ねて、お蝶ちゃんに告げる。
「…産みとぅ無ぃ…」ーーーーと。
「…お喃…」
……お蝶ちゃんが、大きな目を泪で潤ませて、長い睫毛を震わせて、小さな声で勞るように私の名を小さく呼んだ。
「…此処は、郭だょ…私も…お蝶ちゃん、だって、郭育ちだから…わかるでしょぅ…こんなとこに産んだって、しょぅがなぃもの…」泪に濡れる声で云えば、お蝶ちゃんは、私以上に泪に濡れる声で云う……。
「…わかった…なら、こぅしよう…心中して、死に損なって、もし、向こう側に行けたらさァ…そしたら、その時は、何処か遠くで、二人で、其の子を産ンで、育てょォ……」
そぅ。云って、泪が流れる儘に咲った。
「ーぅんー」私は、小さく頷いた。
小さく頷く私に、お蝶ちゃんが、ほっそりと長い小指を差し出す。契りの節に黒子の有る。右手の小指。
私は其の右手の小指に己の左手の小指を結ぶ。契りの節に黒子の有る左手の小指を互いの契りの節の黒子を合わせ。指切りをする。指切りげんまん。御約束。幼少の砌の如く。
「ー指切りげんまん。約束だー」
潤む少し掠れた声で、お蝶ちゃんが云う。
変わらぬ遊女の友情を契りの節に契ってーーーー、
✿。*゜+❀.。*✿。*゜+❀.。*✿。*゜+❀
新月の冥闇の中を、お喃とアタシは、走ったーー。
ーー乱れた髪で、乱れた帯で、……裸足の儘に。
御歯黒溝に面した羅生門河岸迄、走ったーー。
ーー結び繋いだ指と手を決して離さずに……。
ーー淀む御歯黒溝に此の世の淀みを見て、
「…あゝ…空も、御歯黒溝だねェ……」
アタシが独り言の様に呟けば、お喃は云う。
「…今宵は…新月だからねぇ……」……と。
「…ホントに、いいのかぃ…」
アタシは、今一度。お喃に訊く。
お喃は、一度。己の腹を優しく撫でて、
「ーあゝー私は、お蝶ちゃん貴女と共に死にたぃんだょ」
……そぅ。云って、泪が溢れ出る儘に咲った。
「ーお喃アンタは、ホントに綺麗だねェー」
アタシが、お喃の綺麗な泪を指で拭い。
色白な左頬を右手で優しく撫ぜて云えば、
「ーお蝶ちゃん貴女こそ綺麗ょー今宵の花魁道中は、姐さんの花魁道中より綺麗だった」
アタシの流れる泪を細く白い繊細な指で掬い。
アタシの右頬を左手で優しく撫ぜて、お喃は云う。
「…そンな事、云ったら姐さんに怒られちまうょォ…」
「…禿の頃は、良く二人で、姐さんに怒られたねぇ…」
「…ホントだねェ…此れから身投げて心中したら…」
「…もっと…怒られるねぇ」
そンな事を二人で、話しながら……。
契りの節の黒子を合わせて、小指を結び。
アタシ達は、約束を交わす。契りを結ぶ。
「ーねぇ。お喃アタシとずっと。友達で居ておくれー」
「ーあゝー私は、ずっと。お蝶ちゃんと友達だょ」
「「ー指切りげんまん。御約束ー」」
声を合わせて、囁き合って、其れから、アタシ達は、
ーードブン!!ーーと。
……御歯黒溝に身を投げた。
……暗く淀む。御歯黒溝の中で、
……心中が男と女だけのものだと思ったら。大間違ぃだ。
……アタシ達は、指を結び、手を繋ぎ。
……抱き締め合って、深く、深く、深く、
……御歯黒溝の底へと沈んで逝った。
……此の世の堀は、越えられぬだろぅ。
……越えられぬのならば、共に逝こぅ。
……彼の世の向こう側へと。共に…………。
✿。*゜+❀.。*✿。*゜+❀.。*✿。*゜+❀
翌朝ーー、御歯黒溝から二体の屍体が上がった。
……だが其れは、いずれも男と女の屍体であった。
……夜鷹と其れを相手にした男のものであろぅ。
吉原の妓楼びいろど屋の遣手婆は、血眼になって、
身請けの前に忽然と消えた。手風花魁と。
共に消えた瑞南花魁を虱潰しに汎ゆるところを探し回ったが、ついぞ二人を見つけ出すことは出来無かった。
ーー其れ以来、お蝶と、お喃。
……此の二人を見たものは、居ない。
ーー喋々喃々と。今宵も綺羅びやかな吉原から。
ーー淀む御歯黒溝を越えて、向こう側へと。
ーー二匹の美しぃ蝶が仲良ぅ、てふなん、と舞ってゆく。
✿花魁心中てふなん〜遊女の友情〜❀
(*´˘`*)๗御約束๒(´˘`*)




