魔法
一話にしては長くなってしまいました。沈黙の王国とあるように国づくり系ではありますが、国づくりが始まるのは少し後からになります。わかりやすく剣と魔法のハイファンタジーです。
強さとは孤独の別名である。かつて世界を振るわせたものはもう二度とただの人に戻ることはできない。向けられる視線には尊敬よりも畏怖の念が勝り、間には見えずとも明らかな壁がある。それでも・・・いや、だからこそ彼は人々を集めた―――自分と同じ世界の理を逸脱したものたちを。それはやがて王国となった。どの国よりも強く、穏やかな風の吹く国になった。
「おいマスタ。今日もダンジョンに行くのか?」
冒険者ギルドの壁に貼られた依頼書を見ていた私に男が話しかけてきた。名はアドルフ。髪は散切りで体躯が良い。
「いや今日は君が進めてくれた依頼を受ける予定だ。しかし、試したい剣術もあるし、ダンジョン内の生態調査もしたい・・願わくば毎日でも行きたいところなのだが」
「お前、ほんとに剣士か?生態調査する剣士なんて聞いたことないぞ」
「だからいいんじゃないか。未知というのは必ずしもそれをする価値がないというわけではない。可能性を秘めた素晴らしいものだ」
「はは!またマスタが難しいこと言ってやがる。今日はどうしたんだ?」
そう陽気に話しかけてきたのはロビンだ。
「いやなに、今日もダンジョンに潜るといっていてな。さすがに休んだほうがいいんじゃないかと思って」
「そうなのか?まあ本人が好きでやってるならそれでいいんじゃないか?」
「その通りだロビン。休息など理を追い求めるものにとっては邪魔なものさ」
「そうだ!そうだ!」
「はぁ・・・お前、頭は良いくせに変なところで脳筋というか馬鹿というか。まあいいさ、冒険者なら自分の行動に責任を持つべきだ」
「変にマスタを気にするんだなロビン。こいつはお前よりも全然強いから安心しろよ」
「いやなんだか危なっかしくてな・・・って俺が弱いみたいな言い方やめろ。マスタが強いだけだろ。お前もこの前の鍛錬でぼこぼこに伸されたくせに」
「そ、それはまあ、お互いさまってことで」
「お前と同じは嫌だ」
「はぁ?なんでだよ~!アドルフ!」
「お前が馬鹿だからだ」
「ハッハッハ、いつみても仲がいいなお前たちは」
「よくない!」
「仲良く談笑でもしてればいい。私はダンジョンに行ってくるよ」
ギルドの扉を手で押そうとしたところでまたアドルフから声がかかる。
「くれぐれも気を付けてくれ。最近、依頼主や冒険者に成りすました奴に殺されるって事件が何件も起こってるんだ」
「大丈夫、知っているさ」
「いや心配だ。このポーションと、この装備と、それからこれもやる」
「・・・なぜお前はそこまでしてくれるのだ。こんなかわいげもない奴に」
「お前はもう―――このギルドの一員なんだから、もっと自分を大事にしろ。お前に俺が言えることはこれだけだ」
「ふふ、らしくないことを言うものじゃないぞアドルフ」
「うるさい」
「しかしその言葉しかと受け止めておこう。それではまた」
「ああ、しっかりやってこいよ」
このギルドに来るまで私は一人だった。だから一人でいることには慣れていて、平気なはずだったんだが、時々どういうことか心が、体がぎゅっと締め付けられているような甘く、優しく命をわしづかみにされているような感覚に落ちる。決して広いとは言えずとも浅いとも言えない交友関係にどこか救われている自分がいた。
扉がばたんと閉まる。
「あいつがいなければアドルフさんが今もエースだったのに、不憫なものだ」
「あれ程の知識があるのなら剣士よりも魔術師のほうが向いているのに、なぜこんなギルドに・・・」
「おいお前ら、冒険者は人にあれこれ言うもんじゃないぜ」
アドルフがそういうと私に関する会話は消えていった。
「あなたが依頼者ですか。どうぞよろしくお願いします」
一見ただの老人のように見えるが、どこか妙な人だった。
依頼者というにしてはどうにも服装がみすぼらしい。いやみすぼらしいというより軽装だ。普段なら装飾品の一つや二つつけているのだが。
「これはご丁寧にどうも。今回の依頼は依頼書にも書いたとおり、隣町まで私を護衛してほしいのです。他で二人ほど冒険者を雇っていますので、どうぞよろしくお願いします」
二人の冒険者から手が差し出される。どうもといって手を握った。
「それでは出発いしましょうか」
依頼主を乗せた馬車がゆっくりと動き始める。私は外の見回りではなく、馬車に乗って一番近くで依頼主を守る役割だ。
よくしゃべる方だった。町まで中間を通り過ぎたこともあってか幾分か私の気も緩んでいた。
「なんでもアドルフのご友人であるとか、日ごろからアドルフにはよくしてもらっています」
「それはそれは、アドルフの友人がこんなにも聡明な方がご友人とは彼もうれしいでしょう。いやなに、アドルフの友人ですからどんな屈強な方がくるのやとひやひやしておりましたが」
「確かに私はあのギルドにいる他の冒険者とは少し毛色が違うでしょう。接しやすいならよかったです」
「アドルフからよくマスタさんの話を聞きますよ。それはそれは聡明で、聡明で―――聡明すぎて困っていると」
「えっ」
腹部にびりっと電気が流れたように感じた。目をやるとそこには深々と銀に光るナイフが赤い血をすすっている。
「な!?なんのつもりですか!」
さすがの私でもこれは痛かった。おそらくそれは怪我を負ったことに対する痛みなんかではなく、自身が聡明であるがゆえに、瞬間的にアドルフの思惑に気が付いてしまったことがいけなかった。
「弟子から依頼がありまして、生意気なガキがいると」
奴はナイフから手を放し、私のあごに掌底を突きあげる。
「師は弟子を可愛がるものでしょう?」
そこから怒涛の猛攻が始まった。狭い馬車の中では剣は振るえず、己の体の身が自由を得る。
犯人を疑う余地が欲しかった。なんど考えを繰り返してもそれはアドルフが犯人であるという目を覆いたくなるような事実をただ強固にするだけだった。
両脇のドアが開き、護衛たちが剣を持って迫ってくる。用意周到じゃないか。
私は依頼主との間にポンっと閃光弾を投げて馬車から離脱する隙を生む。後ろの窓を破って外に出た。
「へへ、言ってた通り閃光弾を使ってきましたね」
あまり効果はないようだ。アドルフから私の戦い方はばれているか・・・
「おとなしく殺されてくれるとうれしいのだがね。変に殺すと服が血でだめになるからなぁ、まったく困ったものだ」
三人が私をぐるりと取り囲む。なるほど。なるほどな。脳は逐一この状況と打開策を提示するが私はそれを見る気はあまりなかった。ただなぜアドルフが裏切ったのかという疑問と裏切られたことの絶望感で私の心がいっぱいになっていたからだろう。
でも私はこんなところで死ぬ気はもうとなかった。スルリと剣を抜き、正面で構える。依頼主のじいさんは手練れだが他は並みだ。
「うれしいねぇ」
なにがうれしいんだ。
「友人に裏切られて、殴られ切られ、うれしい?君はマゾヒストか何かなのかい?」
「馬鹿を言うな。この局面を乗り切れば私はまた一つ上に行ける」
自然に軽口をたたく。
「はっはぁ!狂っているな」
・・・そうだな。私はいつもそうだった。いつだって心の傷を放っておいて、魔術だったり剣術だったり何かほかのことを追求することに夢中になっていた。もちろん私にとって未知を既知に変えることや研究することはやっていて心地よかったし、それは生きざまだとも思えた。しかし何割か、おそらくほんの一部ではあるが心の傷を見ないように殻に閉じこもっていたともいえる。
いつからだろう?両親が死んだ時からだろうか?魔術が使えないとわかった時からだろうか?いや、周りと自分が違うんだと孤独を感じたときだ。その時から私は殻に閉じこもり、この美しくも残酷でもある世界を、さも見ている気になっていた。それは客観的に一歩引いたところから自分の生活を除いているような感覚。熱も寒さもない、空っぽの狂気だけがそこにあった。
私はどうしたいのだろうか。今自身が置かれている状況も裏切られたという事実も私にとってはいまいちピンときていない。
私は一度はこの世界に絶望し、もう傷を負わないように距離を取り、それでもいつの日かに見た希望を捨て去ることができずに、この世界から、他人から離れていってしまうことはできない。そんなジレンマの中で微妙な距離感を保ってきたのだろう。その時、私の中でたまっていた鬱憤が爆発した。勝手じゃないか。理不尽じゃないか。今ここで死ねということか?・・・ふざけるな。もう私の意思は誰にも邪魔させない。
「どうしたんだ、黙りこくって。死ぬのが怖いか?泣き言なら聞いてやらんでもないぞ」
「死ぬのが怖いかどうかはどうでもいい。私は今、たまらなく生きたくなった。このクソみたいな世界をだ」
「そうか。頑張ってもがいてみろ、小僧」
「その小僧一人に三人がかりじゃ勝てない現実を受け止めるんだな。あ、もうボケてるからわからないか?ジジイ」
「こ、こいつ・・・!」
「アドルフにもつかいっぱしりにさせされてるようだし、ほんとに師匠かも怪しいな」
「いわせておけば!もう二度と口がきけないようにしてやる!」
現状、腹を刺され、その他にもダメージを負っている状態で三人を相手取ることはできない。しかし、それは剣術の話だ。魔術ならそれができる。
私は「魔術が使えない」といわれたが、正確には「魔術を使うことはできるが使えば死ぬ」、だ。
研究の中で私の症状が魔力異常摂取症であるとわかった。これは自分の保有できる魔力量以上に体外から魔力を吸収したり、体内で創ってしまい常に魔力暴走の状態になってしまう病である。魔力暴走が起こってしまうと体内の器そのものが壊れてしまう恐れもある。そのため現代では、魔力神経をコアではなく体外に向けて魔力を吸収しても即座に循環し、体外に放出するよう治療を受ける必要があるのだ。どうやら私はまだ記憶がはっきりとしない幼少期にその治療を受けていた。
じゃあ結局、魔術を使えないじゃないかって?確かに、魔術の最先端である魔塔でもこの病に対して現段階で有効な対策は見つかっていない。しかし、私は思いついてしまったのだ。体内のコアに魔法陣を転写する。これだ。有り余る魔力を直接、魔術として運用することができる。ともすればこれは大発見のように思えるが、重大な欠点がある。それは魔法陣に使われている魔力と体内の魔力が同期せず、反発して身体を破壊してしまうことだ。けれども、魔力異常摂取症という異端はこの問題すらも凌駕してしまう可能性を秘めている。元来、回復魔術は高位の神官でも破損したごく一部を直したり、毒を浄化したりという程度。だが、ありえない量の魔力を注ぎ込んでやればどうなるか?切られた腕はたちどころに生え、胴に穴が開いたってもう一度見ればふさがっている。もはや人間の領域を超えた化け物になれるのだ・・・理論上は。私にとっての問題はそれがとても困難であること。この私を持ってしてもだ。その魔法陣は陣というよりかは球体でコアを取り囲む形にしなければならないし、魔法陣の数は12だ。ダブルキャスティングでもトリプルキャスティングでもない、もはや何キャスティングなのやら。まだある、それを初級魔術も使ったことがない奴がほんの十数秒で行わなければ魔力暴走に飲まれて死ぬ。
これは狂気じみた一人の男の賭けである。死ぬか、力を手に入れるか。私を生かしてくれたのはなにでもなく魔術だ。幼いときに、母が回復魔術を使ってくれた。きらきらと星が手からあふれ出して、周りは夜空のようで、私はその光景を今でも忘れることはできなかった。
・・・私はもう目をそらさない。自分の可能性に。自分が置かれている現状に。楽しいとか、苦しいとか、押さえつけてもあふれてくるどうしようもない感情に。
「さっきから考え事か?わしも暇ではないのでね」
そういって同時に私に三人が迫る。時間を稼がなければならない。
私はもう一度閃光弾を後ろに向かって投げる。
「その手は見飽きたぞ!」
やはり後ろ二人は洞察力に欠けるな。それは閃光弾ではなく爆弾だ。
これで距離が取れた、あとは・・・
「ガキンッ!」
「お前が死んでくれれば楽なんだが」
「こっちのセリフだ。年寄りはもっといたわるものじゃぞ?」
空いた左手に六角を持ち、突き刺そうとするがそれは同じ左手に止められ。蹴りを繰り出そうとするが、距離を詰められてしまった。脇に刺さったナイフのせいでスピードもパワーも平時より一段階劣る。
何が年寄りなんだ。バリバリ現役じゃないか。
もう少し距離が欲しい、じゃないと発動中に胴に穴が開くか首が吹っ飛ぶか、もしくはその両方かもな。
俺は老人に向かって―――剣を投げた。
「どうした?!自暴自棄になったか!」
違うよ。安い挑発に乗ったお前なら避けずに剣で払うだろう?
「無駄じゃ」
老人が自身の剣に私の剣が触れた瞬間、私の剣が爆ぜた。
「ぐっはああぁ、な、なんじゃあ!?」
もろに食らったようだ。これはアドルフにも見せていないからな。
魔術を使うことができなくても魔力を込めることくらいはできる。これも研究の中で発見したことだ。魔力を剣に注ぎ続けると、許容量を超えた魔力は行き場を失い、爆発という形で放出される。
「き、貴様何を!?」
後ろの二人も警戒してからかまだ詰めてはこない、老人は死んではいないが、かなりの傷だ。
これで発動条件はそろった。
集中しろ。体外に向けていた魔力をコアに・・・集める。
「ぐっふ!」
開幕から吐血する。魔力暴走の初期症状だ。
冷静に、魔法陣を生成する、三つ、四つ、
これが魔術、これが魔力、腹の奥底に熱い何かを、それが全身をめぐるのを感じる。
ああ、きれいだ。それはステンドグラスのように赤、青、黄色と様々な色が織り交じって一つの完成された作品といっても過言ではない。それが一つ、また一つと私を取り囲んでいく。理論の上に構築される魔法陣達、ゆっくり、じっとり観察したいところだが現状、そうも言ってられない。なんとか12個の魔法陣を生成し、あとは転写のみとなった。眼鏡から移る景色は霞がかっている。頭もうまく回らない。けれどもやるしかない。
私が転写をした、その時だった。
鈍く光る鋼が私の胴を後ろから貫いた。
「ぐはぁあ!!」
口から、胴から滝のように赤い血が流れる。その血と一緒に私の大事なものも今度こそ流れていってしまった気がする。
「死んでねえじゃねえか。師匠、仕事はきっちりやれって自分で言ってただろ。まったく」
「ア、アドルフ、貴様・・・!」
「よう、マスタ。俺のサプライズは気に入ってくれたか?そのまま死んでてくれればよかったんだが、そりゃお前相手ならてこずるか」
しまった!発動に集中しすぎたか
「ほらポーションだ」
アドルフが仲間三人にポーションを投げる。
「助かった。アドルフ、こやつ妙な技を使ってきおってな。しかし、お前が来なくても負けはしんかったぞ」
「わかっている、剣がない上にあの傷じゃ、師匠には勝てないだろう。念のためというやつだ」
「はっ!よほどあいつのことが憎いのか!」
「憎いとかじゃねえが、ただ俺があのギルドのトップになるには邪魔だっただけだ」
私は地面に倒れ、力なく上を見上げる。この出血量に加え、魔力暴走まで。もう私の意識は深い闇の中に入ろうかと、片足を突っ込んでいる。
「冒険者なら責任を負わないとな、マスタ。強者は弱者からどう思われているのか?お前はそれが考えられていなかった」
「強大な力は時にその場のバランスを崩す。もう少し、身の振りをわきまえるべきじゃったな」
なにがだ、お前らにどう思われているかなんてどうでもいい。ダンジョンにはどんな花が咲いているかとか、どんな生物がいるとかもっと大事なことはたくさんある。私は優先すべきものを間違えたのだろうか?いやしかし、自分の心からやりたいと、知りたいと思うことより大事にすべきことなどあるのだろうか?今一度、聞く。私の生き方は間違っていたのか?いいや、間違っていない。例え間違っていたって、それは私にとって最善の選択だったはず。つまり私がすることはそれを絶対的な正解にすることに他ならない。
そう心に誓ったとき、私の体から光があふれだした。母の腕の中に包まれているような、とっくに忘れたはずの感覚がほんのりとよみがえる。
「な、なんだぁ!?マスタ、お前何をした!」
「いかん!今ここで仕留めるぞ!」
老人は私の首めがけて剣を振り下ろす。焦っていたとはいえ、その太刀筋、姿勢、速さ、十分に私の首を斬る威力を有していた。なのに刃は私の首の半分にも届かなかった。どころかたちまち切られた箇所は再生し、刃を飲み込んでいく。
「ひっ!ここ、これは一体!?」
そうか成功したか、私は魔力暴走を抑え、回復魔法に転用することに成功した。その時、敵を目前として、私の体を感動という熱が駆け巡った。私の仮説はあっていたのだ。それがどれほど、どれほど喜ばしいことか。心拍は早くなり、手はかすかにふるえている。自分の許容量を超える感情の波が押し寄せる。その波にのまれながらも私は夜明けを見た。深い闇にずっと沈んでいた私の魔術がようやく日の目を浴びられるのだ。もはや敵は眼中になく、いくらか感情の波に身を任せ、ただこの事実にうっとりとしていた。
「お前!何をしたんだ!答えろ!」
「幸い、まだ動けんようじゃ。ここでやらねばわしらがやられるぞ!」
四人の敵による猛攻、刃が私の体を襲う。しかし、たちどころに傷は回復し、何もなかったような顔をしている。
「こいつ・・・!?切っても切っても傷が埋まっていく」
「おいアドルフ!こいつはただの剣士じゃなかったのか!」
「そのはずだ!魔術は使えない!」
私のこころから波が引いていく、最後に残ったのは魔術をもっと使ってみたいという、純粋な欲求だった。それに私の心が支配されていく。
もう私の体の傷は一つ残らず消えている。手始めにと駆け出し、護衛として雇っていた二人の首を掴む。
「何をする!」
「は、放せぇ!」
もうこいつらの声に傾ける耳なんか持っていない。
手から光が漏れたかと思うと、護衛二人が炎に包まれる。その炎の強さは並みのものではなく、油をかけられたようにボウっと、ただその音だけを残して二人は消し炭になった。
「やはり魔術を使えるじゃないか!アドルフ!だましたのか!?」
「そんなんじゃない!あいつは使えないはずだ!!なんせあいつは・・・」
いいね。身体強化も使ってみようか。
足に力を込め、前傾姿勢になる。老人とアドルフの間を銀閃が駆けたかと思うと、老人の首は宙を舞っていた。
次に私がアドルフの目に収まるときには、老人はもう物言わぬ肉塊となった。
「マ、マスタ、魔術を使えたのか?なんで俺に言ってくれなかったんだ?」
次は何を試そう。
「俺たちは友達だろ?これは一種の試験みたいなもので・・・そう!お前がギルドのエースとしてふさわしいのか試していたんだ!」
そうだなぁ。氷属性、使ってみたかったんだよなぁ。
手を前に出し、丸太のように太く、でかい氷柱を出す。
「ギルドのトップの座はお前にやる!俺は二番目でいい!なんだったらこの町を出ていって違うギルドにい・・・」
発射。
奴の首と膝の間に大きな穴が開いた、胴があった場所には後ろの森が見えた。
ころころと奴の首が目の前に転がってくる。
このときようやく正気に戻った。命を狙われていたのだ、殺されても文句は言えまい。しかし私はかつての友人を、たとえ薄氷の上をともに歩くような友人でも、私は無垢な子供のように、一切の善悪もなく、楽しんで殺してしまった。
自身の持つ、強大な力に一瞬、押しつぶされそうになる。・・・まずはギルドに報告に行こう。
今になってあの老人が言っていた「身の振りをわきまえろ」という言葉が私の足取りを重くさせた。